二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 今回は一先ず、ゴーレムⅢ戦の後処理回+本の少しのαとなっています。次回からの本格的にオリジナルストーリーを始めさせていただきます


146話 簪の想いと慎吾の答え そして……『扉は開かれた』

「ふぅ……やはり窮屈で好きになれそうには無いな、取り調べと言うものは。まぁ……最も取り調べが好きだと言い出すのも、それはそれでまた問題なんだろうが」

 

 誰に言うまでもなく一人そんな事を言いながら、廊下を歩いていた慎吾は一旦、足を止め伸びをしてかたまってしまった背筋を解すと、我ながら不謹慎な冗談だと苦笑しながら再び歩き出す。昨日のゴーレムⅢの襲撃を受けたことにより、慎吾を含めた専用機持ち全員は学園から生徒指導室でつい先程まで、取り調べを受けていたのだ。朝方から午前、午後の分に分けてたっぷりとかけて行った入念な取り調べのおかげで既に太陽は高く天に上り、時刻はとっくに真昼になっていた

 

「そう言えば一夏はやけに慌ただしかったが……大丈夫だったのだろうか?」

 

 長時間拘束された反動か、普段ではあまり見ないほどリラックスした様子でのんびりと歩みを進めながら慎吾が次に考えたのは、取り調べが終わるなり尻に火がついたかの如く、猛烈な勢いで走り出し、そのままの勢いで学園を後にして出かけて行った一夏の事だった

 

 走る一夏の表情から隠せない程に焦りが滲み出ていた為、話しかける事を躊躇った慎吾ではあったが、短く慎吾に挨拶をしながら通り過ぎる際に一夏が口にしていた『全力で走らなきゃ間にない』、『二時には着かないと』と言う断片的な言葉から事前に決めた待ち合わせに遅れそうのだと察していた慎吾はせめてもと心中で一夏が待ち合わせに間に合うように祈った

 

「おっと、そろそろ食堂か……うん?」

 

 そんな風に時折、窓から外の景色を眺めながらゆっくりと歩みを進めていた慎吾ではあったが、やがて目的地である食堂が視界に入りこむと、その足を若干ではあるが早めて向かおうとし、ふと、食堂の入り口近くで一人、両頬を両手で覆い立ち尽くしている簪の姿を見つけた。と、更に、よく見てみれば手で隠しきれない部分から覗くかんの肌の色はうっすらと赤く染まっており、目はぽうっとして何処か虚空を見つめていた

 

「やぁ簪、こんな所で奇遇だな」

 

 それに気が付いた慎吾は出来うる限り驚かせないよう、緩やかに視界に入りつつ、ゆっくりとそう簪に話しかけた

 

「……!? しっ、慎吾さん……!?」

 

 が、簪は余程何かに意識を奪われていたらしく、慎吾から声をかけられた瞬間、体をびくりと動かすと、慌てた様子で手を数度わたつかせ、ずれてしまった眼鏡を直しながら慎吾に向き直った

 

「あぁ、すまない簪。そんなつもりは無かったんだが……驚かせてしまったようだな」

 

「い、いえ……そんなことは……私がぼうっとしていただけですし……」

 

 そんな様子を見て、慎吾はもう少し慎重に声をかけるべきだったかと反省しつつ、すかさず簪にそう言って頭を下げて謝罪した。が、素早く簪がそれを制すると今度は簪自身が慎吾に頭を下げた

 

「ふふ……私からやっておいて何だが、ここで二人とも頭を下げていても仕方あるまい。簪、君も昼食がまだなら一緒にどうだろう? 出来ればそこでゆっくり聞かせてほしいんだ」

 

 意図せずして自身と簪がとった何処かコミカルな行動に慎吾は思わず笑みをこぼしつつ、そう言って片手で食堂を指しつつ簪に、そう誘いかける

 

「何かとても良い事があったんだろう? 君のその瞳を見てれば分かるさ」

 

 何故ならまだ、うっすらと朱が残る簪の顔。その瞳の奥から以前とは明らかに異なり、確かに存在している『希望』の光の色を見た慎吾はその理由を簪自身の口から聞いてみたくてたまらなかったのだ

 

 

「なるほど、よかった……。本当によかったな簪。わだかまりが解けて会長と真に分かり合う事が出来たんだな、君は」

 

 それから暫くして食堂の端辺りの目立たぬ席で、同席している簪の口から全てを聞き終えた慎吾は、既に空になった食器を横に下げ、そう心底嬉しそうに微笑むと簪に向かってそう言った

 

「私は精々、君に助言をする程度の事しか出来なかったが……それでも、君の心の悩みが晴れた事を私は嬉しく思うよ。大したものだな一夏は」

 

「そ、そんなことは無いです……確かに私に一歩前に進む決断をさせてくれたのは……い、一夏ですけど……私にその進むべき道を示してくれたのは……間違いなく慎吾さんです……でっ、ですから……」

 

 簪の口から聞いた一夏の活躍を思い返し、改めて感心したように呟く慎吾に簪は若干、気恥ずかしそうにしながらしっかりとそう主張すると、更に勇気を振り絞り真っ直ぐに正面から向き合うと小さく深呼吸をし

 

「あっ……りがとうございます慎吾さん……! 慎吾さんは違うって言ったけど……あなたは私のヒーローの一人です……っ!」

 

 そんな、包み隠さない慎吾への感謝の気持ちが込められた言葉を一気に告げ、最後に小さく慎吾に向かって頭を下げた

 

「……は、はは……いや、すまないな簪。少し驚いてしまって……」

 

「あ……す、すいません……いきなり私……」

 

 予想だにしなかった大胆な簪の行動と言葉を聞いて慎吾は目を見開き、呆気に取られて数秒ほど沈黙していたが、やがて気恥ずかしそうに頭をかきながら緩んだ顔でそう言い、そこで振り絞った勇気が尽きたのか簪は再び頬を急激に赤く染めると、消え入りそうな小さな声でそう慎吾に謝罪した

 

「いや……謝る必要は無いよ簪。君が慕ってくれると言う気持ちは私にはとても喜ばしい事だ」

 

 慎吾はそれをゆっくりと首を数度横に降り、止めさせると簪の頭にそっと手を乗せる。その瞬間、簪の口からは小さく『あっ』と言う声が漏れ小さく体を震わせたが

抵抗は決してしようとはしなかった

 

「それでこそ……柄では無いと思うが、私が君のヒーローとしてふさわしい人間であろうと思うくらいにはね」

 

 慎吾は柔らかな微笑みを浮かべながら、そう言うと頭の上で数度手を動かし簪の髪が痛まぬよう、ゆっくりと頭を撫でた

 

「あっ……あっ、あのっ……! 慎吾さんっ!! 私……っ!」

 

 と、慎吾に頭を撫でられながら簪は突如として、若干声を震わせながらも再び慎吾に向かって声を張り上げる。そして

 

「私っ……あなたの事を……『兄さん』って呼んでもよろしいでしょうか……!?」

 

 次の瞬間、慎吾の手が頭に乗ったまま羞恥で顔を真っ赤に染め上げつつ簪はそのくせ何故か妙に力強く慎吾に宣言した

 

「そ、そうか……大丈夫だ、構わないよ簪。君が心底そう呼びたいと言うのならば私にそれを拒否する理由は無い。君の心の想うままに呼んでくれて構わないさ」

 

 突如としてそんな宣言をされた慎吾は一瞬怯んだものの、何処かである簪がそう言おうとせん事をある程度予感はしていたのか苦笑しながらもそれを受け入れ再び簪の頭を撫で始めた

 

「……兄さん……慎吾……兄さん……」

 

「あぁ、何だ? 簪……」

 

 自身の想いを確かめるように何度も慎吾の名を呟く簪に答え、慎吾は優しく微笑みながら簪の頭を撫でる。血は決して繋がらず。出会ってまだ間もない二人ではあったが、その光景は端から見れば確かに本当の兄妹のように見えていた

 

「え……簪ちゃん………?」

 

 尚、二人からは遠く離れた席ではあるが、本当に偶然その現場には楯無も訪れており、その現場を見てしまった後、慎吾と楯無との間には表現しようの無い微妙なわだかまりが生まれる事になるのであった

 

 

 だがしかし慎吾は、そして恐らくはこのIS学園で過ごす誰もが知る事は無かった

 

 未だかつて無い強大な悪意が学園に迫りつつある事を。慎吾の身に決して避けることは出来ない恐るべき試練が降りかかる事を

 

『慎吾、U シリーズに関わる緊急事態だ。この知らせを見たら直ぐにM-78社に直行してくれ』

 

 そして、その予兆となるケンからの知らせが今この最中、慎吾の携帯端末に来ていた事を


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