二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 どうにか更新しました。そして今回、ついに作品の所謂ラスボスとなるキャラクターを本格的に登場させ、次回からオリジナルの話を始まらせていただきます


145話 戻る日常……? 

「ううっ……はぁはぁ……維持可能時間は残り15秒……残エネルギー5%……正しくギリギリだったな……」

 

 アリーナの大地に立ち、最早ただのガラクタの塊と化したゴーレムⅢの残骸を見下ろしながら、慎吾は荒い息を吐き出しつつゾフィーを第二形態のゾフィースピリットから通常状態に戻しつつ、文字通り底を付くまで紙一重だったシールドエネルギーの残量を改めて見直すと、今更ながら冷や汗が出てくるのと同時に、ただ立つ事にすら精神を集中させる必要があるほどの凄まじい疲労を慎吾は感じていた

 

「ふぅ……フレームは勿論として、コアは激突した際に破壊されたのが見えてはいたが……こちらも、やはり粉々か……。う……」

 

 その近くには同じく疲れきった様子の光が立っており、ヒカリのスキャンでゴーレムⅢが何の間違いが起ころうとも決して再起などありえぬガラクタの山と化した

事を確認すると、そこで限界が来たのか展開していたヒカリが解除されると、光はアリーナの大地に膝をついて崩れた

 

「光……!? だ、大丈夫……うぐ……」

 

 目の前で崩れ落ちた光の身を案じて咄嗟に慎吾は近付こうとしたが、やはり慎吾も蓄積された疲労とダメージにより満足に体を動かせる状態では無かったらしく、勇んで一歩を踏み出した途端にゴーレムⅢに握り締められた右足が激しく痛み、慎吾は思わずバランスを崩して、そのままばたりのアリーナの大地にうつ伏せの形で倒れると、同時にゾフィーも解除され、待機状態のブレスレットへと戻ってしまった

 

「ふっ……どうやら……互いに立っている事すら厳しい程に疲労困憊なのは明確だな……」

 

 そうしている間にも、光はもはや片膝立ちをしている体力も無くなって来たらしくズルズルと背後へ姿勢を崩していき、仰向けになると、アリーナの天を仰ぎながら弱々しく苦笑しながらそう言った

 

「そうだな光……私は、今しばらくだけ……このままここで休ませて……貰うとするよ……」

 

 それに慎吾は途切れ途切れに鳴り出した意識で何とかそう答えると、起き上がる事を断念し体の言う事に身を任せて、体の力を抜く

 

「おにーちゃん! 助けに来たぞっ!!」

 

「お兄ちゃん! 光さん! 大丈夫!?」

 

「お兄様!? 今すぐ、そちらに行きますわっ!!」

 

 慎吾が完全に眠りの世界へと落ちる寸前、遠くからそんな風に、慌てた様子の妹達の声が聞こえた気がした

 

 

「は、はは……すまんな、ラウラ。普段なら、この程度は一人でしてるんだが……どうにも肩が動かなくてな」

 

「気にすることはないぞ、おにーちゃん! 妹として当然の行動だ!!」

 

 時間はあれから進んで夜、それぞれがゴーレムⅢとの戦闘で負傷しながらも一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロットに含めて慎吾と光と八人が集まった一夏の部屋で、部屋の隅へと移動すると床に腰掛け、上着とシャツも脱ぎ捨て、上半身裸の状態となった慎吾は筋肉から長年鍛え抜いた事が語らずとも一目分かるような背中をラウラに見せ、負傷により自身の腕が届かない場所へと処方された湿布を張って貰っていた

 

 今回のゴーレムⅢとの慎吾が負った負傷は実に打撲が全身に渡って計二十五箇所。それに加えて左肩と腕にひび、ゴーレムⅢに捕まれた右足首、更に頸椎も運動に支障が無い程度ではあるが捻挫しており、決して動けなくなった訳では無いが今の慎吾は通常時より大きく動きに制限がかけられていたのだ

 

「……最初に『湿布張ってあげようか?』って、言い出したのは僕なのに……」

 

「くぅ……ま、まさか……ここ一番でロイヤルストレートフラッシュが出されるとは……このセシリア、お兄様の妹として、一生の不覚ですわ……」

 

 一方で、そんな何処か微笑ましい様子の慎吾とラウラを見てシャルロットは不満げに頬を膨らませ、セシリアは悔しげに顔をしかめ、隠す余裕も無いのか盛大に歯噛みしていた。

 と、言うのも、この三人はつい先程まで部屋に集まった全員で参加した大富豪中に特に意識せずに慎吾が言った『そう言えば、寝る前に湿布を変えなくては』と、言う一言に自分が変えようかと言いかけた一夏を押し抜けて、慎吾が止める間もなく三人で一発勝負でポーカーを始め、それに見事にラウラが勝利を納め、こうして慎吾の背中に支給された医療用湿布を張る権利を得ていたのだ

 

 

「えっと……聞きたくないけど、この狭い部屋じゃ無視出来ないから、聞くけど……何、あれ?」

 

「何と言うか……あいつらの慎吾への態度は毎度、理解に苦しむな……」

 

「うん……まぁ、鈴、箒、お前達の気持ちも分かるが……人にはそれぞれ独自の世界があるんだよ……」

 

 一方で、そんな状況について行けない鈴、箒、光の三人は関わりあいを避けたいのか若干、遠巻きにその様子を観察しており、それは手洗いの為に席を外していた一夏が戻ってくるまで続くのであった

 

 

「そうかそうか……慎吾の奴が光の奴と組んでいたとは言え、あのイカれ女の作った対IS用IS……とか言ったか? ともかくそのガラクタのオモチャを倒したか。それも二機ともいっぺんに……ふっ……クックックッ……」

 

 薄暗い中、電灯すらつけずにそう『協力者』は一人、無造作に椅子に腰掛けながら、とりあえずではあるが自身の拠点としている廃アパートのうっすらと夕日が差し込む一室で感情を隠し切れないように左手で口元を覆うと、手のひらの中で含み笑いをした。その表情はどれ程平和のぬるま湯に浸かりきった人間だろうと、恐怖と共に命の危機を感じるであろう程に狂暴かつ殺気に満ち溢れており、実際に『協力者』が笑った瞬間、動物的本能で危機を感じ取ったのかアパート近くの電線に集まっていた複数のカラスは一斉に飛び立ち、一目散にアパートから離れていった

 

「なら、いい機会だ。準備は整っている。亡国機業の奴等を見てるのも飽きた事だし、そろそろ俺様も動くとするか……!」

 

 そう決めるが言うが否や、『協力者』はにやついた笑みを浮かべながら腰掛けていた椅子を勢いのまま背後へと蹴り飛ばして立ち上がり、小さく伸びをした。強靭な脚力で蹴り飛ばされた椅子はガラス張りの窓へと飛んで行くとそのまま派手な音を立ててガラスを砕く。その音が『協力者』にはゲームを始めるスタートの合図に聞こえた

 

「行くかIS学園に!! ガキだったあの頃から、少しはマシになったのか……試してやるぜ? 慎吾」

 

 高まるテンションのまま協力者は部屋のドアを文字通り蹴破って廊下へと躍り出ると、その勢いのまま廊下内で自身のISを展開させると、アパートの外壁の一部を軽々と破壊して空へと飛び立った

 

「そして待っていやがれ『ブリュンヒルデ』! この俺様が……! 『ベリアル』が直々に貴様をぶち殺してやるっ!!」

 

 常闇の黒よりも黒く、当人の心の内を表しているかのように歪み淀んだ赤、しかしながらソレの原型自体はどこかゾフィーやヒカリに似たISを身に纏った『協力者』ベリアルはおぞましいばかりの殺意を込めて叫ぶと、高笑いをしながら空の向こうへと飛んで行く。大分傾いていた太陽はすっかり地平線の向こう側へと落ち、ベリアルが飛ぶ空にはじわじわと宵闇が広がり始めていた


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