二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 更新、遅れました。今年までにもう一本は更新するつもりです。


138話 新たなる『決意』、新たなる『技術』

「……やはり、根底ではダメージが蓄積していたか」

 

 マシンアームを用いて紅と銀色のゾフィーのアーマーを開きその内部パーツを見ると、慎吾は今まで経験した数々の激闘を思い返しながら誰に言うまでも無く、ぼそりとそう言葉を呟いた

 あれから、一夏に尋ねられる事でどうにかして自身が簪の手伝いに整備室まで訪れた事を思い出した本音を加えて機体調整を再開していたのだ

 

「無論それだけでは無いだろうが、大きな原因の一つはやはりT型との戦いのものだろう。毎日の整備を欠かしたつもりは無かったが…俺のヒカリもまだその影響が一部残っているくらいだ」

 

 その隣で慎吾のゾフィー整備をフォローを自身の愛機ヒカリの整備をしながら光もまた、苦い顔をしながらそう答えた

 

「それほどまでに険しい戦いだったのだな……今でも仲間達全員の力が無ければ勝利など出来ないとは思うが」

 

 Uーシリーズの新装備テスト中に唐突に慎吾自身が秘密裏に開発されたIS 『T型』通称タイラントから襲撃を受けた事から始まり、援軍に来た光。更にはタイラントにプログラミングされていた真の狙いが一夏を含めた七人の専用機持ちだったことが発覚してIS持ちだけでも九人も関わる事になったタイラントとの騒動と、後に自身が戦ったゼフィルスと比べても尚、規格外れなスペックを改めて思いだし慎吾は溜め息をついた

 

「だからこそ、だ慎吾。以前、俺達タッグを組んでも尚T型に押しきられた雪辱をこの大会で晴らす。そう、以前にも決めただろう?」

 

「あぁ、私とお前のコンビで二度も敗北する訳など行かないからな……!」

 

 確認するように言う光の言葉に慎吾は拳を握り締め、はっきりとした口調でそう答える

 

 もし、自身が師事を受けているケンに知られれば未熟と言われてしまうのかも知れないが、それでも慎吾は心中で長年の友と共に挑んでも敗北したタイラントとの戦いに悔しさと言うわだかまりを残していた。

 だからこそ慎吾、同じく光もまた、今回の大会における心構えは非常に高く並み居る強敵をも抑えて優勝するつもりでいたのだ

 

「(改めて思うけど慎吾さんと光さんって本当に仲が良いよなぁ……)」

 

「(仲が良すぎてー、イチャイチャしてるとか、付き合ってるだとかそー言う話が一切でないもんね~)」

 

「(例えるなら……別次元?)」

 

 そんな二人を横目で眺めながら、一夏、本音、簪の三人はこっそりと呟き、近くを通りかがった為にたまたまその呟き聞こえていた生徒の何人かは同意を示すように大きく頷いていたが、作業に集中していた為に慎吾も光もそれに気が付く事は無かった

 

 

 

「ととっ……! うわっ!」

 

「光!? 大丈夫か?」

 

 あれから時間は進み、機体調整を満足する形で終えた慎吾と光は今日のウルトラブレスレット開発を中断とし、他のアリーナと比べて空が解放されている事でほぼ制限の無い飛行が可能な第六アリーナで共に新しい空中戦での軌道法を模索していた。

 の、だが、やはり一朝一夕では画期的な方法など出てくる筈も無く、飛行しながら模索し続けた結果、僅かなミスでヒカリの機体バランスを大きく崩した光に慌てて、慎吾が駆け寄り心配そうに声をかけた

 

「あぁ、心配をかけて悪いな。問題はない。問題は無いが……」

 

 自力でぶれた飛行軌道を安定させながら、そう慎吾に言うと光は大きく溜め息をつき肩をすくめた

 

「何かが足りない……それは先程から分かっているが、どうにも先程からそれが掴めない。それが、どうにも歯痒くてかなわないんだ」

 

「光……今日は無理をせず休んで、少し頭を休めた方がいいんじゃあないか? 幸いにも時間にはまだ余裕はある、何も今日一日に根を詰める必要は無いだろう」

 

 そんな状態の光を気遣い、慎吾は落ち着いた口調でそう光に提案すると、そっと右腕を差し出した

 

「そう……だな。今日はここまでに……」

 

 少し考え込むように首をかしげながらも光は慎吾に堪えてその手を取ろうと自身の左手を伸ばし

 

「……うん?」

 

 直後、不思議そうな声をあげると光は慎吾に向かって伸ばしかけていた手を止め、訝しげな声をあげると再び首を傾げ始めた

 

「……? どうしたんだ光、何かあったか?」

 

「いや、あれなんだが……」

 

 光の突然の行動に違和感を感じた慎吾が尋ねると、光はゆっくりと人差し指で自身が見ていた視線の先、慎吾の背後、百メートル程下を先指した

 

 見ればそこには、打鉄弐式を展開させて宙を駆る簪と同じく白式を展開させた一夏の姿があり、どうやら打鉄弐式の飛行テストを終えてピットへと帰還しようとしているように見えた

 

「あぁ、そう言えば二人は私達より先に整備室から出てテストに向かっていたが……まさか、二人に何かおかしな所があったのか?」

 

 ただならぬ光の口調から不穏な雰囲気を感じ取った慎吾は声をひそめ、慎重に光に尋ねる

 

「はっきり見た訳では無いから、気のせいかも知れないが……先程、二人が俺達の横を通りすぎた時、打鉄弐式の胸部ブースターのジェット炎が不自然にちらついているように見えたんだ」

 

「なに? 確かにそれは少し妙だな……」

 

 光の言葉を聞くと慎吾は仮面の下で訝しげに顔をしかめると、念を入れてゾフィーのプライベートチャネルを用いて簪と確認のため通信回線を開こうとし

 

 その瞬間、慎吾と光の見ている前で打鉄弐式の右脚部ブースターが音を立てて爆発した

 

「!! ……簪っ!!」

 

 それを見た瞬間、慎吾は迷うこと無くゾフィーの出せる最高速度でスタートダッシュを決めると、機体ごと大きく傾いて中央タワー外壁へと向かっていく簪の元へと向かい、僅かに遅れてすぐその後に光も続いた

 

「くっ……! どうする慎吾? この距離じゃあ今から俺達二人とも瞬時加速しても間に合わないぞ!!」

 

 加速を続けながら焦りを感じさせる口調で光は慎吾に問いただし、叫ぶ。

 

 当然の事ながら簪の危機に気がついたのは、離れた所にいた慎吾と光だけでは無く、既に一番近くにいた一夏が簪の元へと向かっている。が、こちらにも決して余裕があるとは言えず、このままでは例え一夏が救出に成功しても操縦者保護があるとは言え、無防備な体制で二人分の衝撃と重量で一夏が外壁に叩き付けられる事は避けられず。それで一夏が全く何も問題ないと言える保証はなく、そして何より慎吾と光の両方が目の前の仲間のピンチを放置出来るような事を良しとはしない人柄だった

 

 そう、そんな風に心底他人の事を想える二人だからこそ

 

「……! 光、私に一つアイディアが思い浮かんだが……可能か!?」

 

 この土壇場の状況で一つの策を編み出す事が可能だった

 

 

「簪ぃぃぃっ!!」

 

 突き刺すような強い声と共に一夏は瞬時加速によるスラスター最大出力を用いる事でどうにか、システムダウンを起こしてしまった打鉄弐式がタワー外壁に激突する寸前で簪の体を抱き留める形で救助に成功した

 

「ぐっ……!」

 

 が、しかし、その時点で、もはや一夏にはどうにも出来ない近距離にまでタワー外壁は迫っており、一夏はすぐにでも来るであろう衝撃を堪えるべく目を瞑り、歯を食い縛った。が

 

「…………あれ?」

 

 次の瞬間、一夏の耳に金属通しが擦れあうかのような摩擦音が聞こえただけで、外壁に叩き付けられた事で来るはずの衝撃はいつまでたっても体には全く伝わって来なかった

 

「ふぅ……どうにか間に合ったか。二人とも大丈夫か?」

 

「……慎吾さん?」

 

 と、そんな一夏に安堵のため息をつきながらそう安否を問う慎吾の声がかけられ、一夏はゆっくりと目を開いた

 

「うむ、無事そうで何よりだ一夏」

 

 一夏が目を開いて見れば何と、タワー外壁に対して慎吾が垂直に屹立し、大きく広げたゾフィーの両腕でしっかりと一夏と簪を抱えており、更に一夏がよく目を凝らして見てればその足下近くには数メートル程に渡って波状路が出来ていた

 

「ん……?」

 

 そこで一夏ははたと気付く。先程、打鉄弐式のブースターが爆発する直前に慎吾と光が訓練をしていたのを確かに一夏は目撃していた。だがしかし、慎吾が打鉄弐式の異変に気が付き、すかさず瞬時加速を使用したとしても間に合わず、ましてやこのように割り込んで二人を同時に救助するなど決して不可能だと言うことを。ならば、いかにして慎吾は間に合わせたのだろうか?

 

「どうした? 二人して黙り混んで何か問題でもあったか一夏? 簪?」

 

「い、いや、なんでも……ありがとうございます慎吾さん」

 

「い、いえっあのっ……なんでも……っ!! ありがとうございます……」

 

 だがしかし、一夏はそれを一時の杞憂としてそれ以上気にする事は無く慎吾に礼を言っただけで、あまりにも訳が分からなかった為に深く考える事は無かった。

 

 その腕の中で朱を通り越して最早、茹で蛸のように顔を真っ赤にさせた簪に気が付く事も無く


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