二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 遅れてすみません、かの人の登場に手間取って更新するのに大変苦労してしまいました……


135話 老士、登場

「(慎吾、相談だ。この状況、果たしてどうする?)」

 

「(私も今、丁度それを考えている所だが……弱ったな……これは)」

 

 注文を受けて運ばれてきた、業火野菜炒めを口にしながら光と慎吾は眼前の一夏と箒に聞こえないように意識しながら密かに二人で会話を交わす。その表情は両者ともに曇っており、状況が思わしくない事は明らかだった

 

 思い返せば自身が写真を見せ、その写真を見た瞬間どういう訳なのかは不明だが一夏と箒が圧されてしまった事で妙な空気になった時、タイミング良く弾の祖父であり、店主の厳が(恐らく当人としては良かれと思って)母屋にいる蘭を呼んだ事から全ては始まったのだろう。と、慎吾は半ば上の空で食事をしながら記憶を思い返していた

 

 厳に呼ばれた蘭は、よもや想い人である一夏がいるとは自宅食堂を訪れているとは想像もしていなかったのだろう。多少、人目を意識はしていたがリラックスした普段着のまま食堂を訪れてしまい、丁度、一つのテーブルに並んで座る一夏と箒、ついでにその対面に並んで座る慎吾と光に気が付き、食堂中にに広がるような悲鳴をあげると耳まで真っ赤にして母屋目掛けて逃げるように走り出していってしまった

 

 そして現在、蘭にとってのお出かけ用と思わしきかわいらしく、まだ真新しい服装の上に使い込まれた様子の年期の入ったエプロンと言うどこか矛盾している服装に着替えた蘭が食堂に戻ってきて店の仕事を始めた。のだが……

 

「…………」

 

「(こっちは……相変わらず……だな)」

 

 現在進行形で否応なしに感じる程に一夏と箒に向けられている熱い視線に、慎吾は思わず小さく苦笑しながらそう心中で呟いた

 

 視線の相手は言うまでも無く先程、慎吾達が注文を配膳するなりカウンターの向こうに引っ込んでしまった蘭であり、その時から隠せない程の焦りと動揺が込められた蘭からの熱い視線は二人に降り注いでいたのだが、箒は慎吾達も同じテーブルにいるとは言え、一夏と物理的に非常に距離が近い同テーブルの隣席にいると言う事で緊張しているのか気付く余裕が無いらしく、一夏はと言うと蘭の態度の変化には疑問に感じたらしく軽く首をひねっていたが、現在、旨そうに自身がフライの盛り合わせ定食と共に注文した焼き魚の鮭を食べている一夏は慎吾が身内贔屓で見ても切実ささえ感じる蘭の視線に気付いているとは思えなかった

 

「(いくら私が一夏や箒達との方が付き合いが長いとは言え、蘭が一夏向けている恋愛感情は間違いなく本物。どちらか一方だけに味方するなど私には出来ない……が、このまま放置してる訳にも……)」

 

 否応なしに突如として困難極まる選択を強いられた慎吾は無意識に食事の手を止め、箒と蘭、両者ともが傷付かず解決する策を必死に練りださんと考え込み始めた

 

「た、食べさせてやろうと言ったんだ! 私が!」

 

「え? お、おう!」

 

 だからこそだろう。慎吾はここに来て一夏と箒の会話を聞き逃してしまうと言う痛恨のミスを犯し、完全に制止のタイミングを見失ったのは

 

「(箒!? 君がそんな大胆な行動をするとは……! よもやここが多くの人目に晒される食堂で更に同じテーブルに私達がいる事を忘れてはいないか!?)」

 

「(いや……横目で俺達二人や周りを見ている以上、意識はしているのは間違い無い。これは学園生活ではあり得ぬシチュエーションに酔っている……ようなものなのかもしれないな……)」

 

 そう、慎吾が僅かに意識を反らした瞬間、一夏と箒は大胆にも人目もはばからず目の前でさながら恋人のように箸でお互いのおかずを少しずつ食べさせあっており、そんな光景を目にした慎吾は必死で声を押さえつけながら驚愕の声をあげ、光もひきつった顔でそう答えた

 

「あああああっ!」

 

 当然ながら、そんな光景を見てしまった蘭の衝撃は慎吾や光よりも大きかったらしく食堂中に響くようなショックの声をあげた

 

「(こ、これはいかん……! 心苦しいがここは一夏と箒を……)」

 

 その様子をしっかりと見ていた慎吾は慌てて二人を止めようとし

 

「…………っ!」

 

 その瞬間、慎吾は気付いてしまった。目の前の箒が一夏に見えぬように配慮しながらも、頬を染め何かを堪えるように拳を握りしめている事を

 

 そう、当然光の推測通りに熱に浮かされてやった行動だとしても箒がこんな大胆な行動をして羞恥を感じない訳が無い。この行動が無謀とは言えどれ程箒が勇気を振り絞って動いたのかを悟ってしまった慎吾はその瞬間に自然と発せようとしていた制止の声がかき消え、何も言えなくなってしまった

 

 それは光もまた同様だったらしく、結果として二人は何も動くことが出来ないまま一夏と箒を見守る事しか出来ず

 

「う…うえええええん!」

 

 そんな二人に追い討ちをかけていくように、その僅かな時間に事態は更に悪化の道を辿っていった。一夏本人は分かってはいないのだろうが、人目をはばからず互いに食事を食べさえ合う二人の姿は、恋人通しのようにしか見えず、一夏に恋心を抱いている蘭はついにらそんな光景を見続けている事が耐えられなくなったらしく悲痛な声で泣き叫びながら食堂からまさしく脱兎の勢いで出ていってしまった

 

「……! 蘭!?」

 

 そのあまりに唐突な出来事に数秒ほど硬直していた一夏ではあったが、蘭を放ってはおけないと慌てて席を立ち上がり蘭を追いかけるべく走り出そうとし

 

『待てーいっっ!!』

 

 しかし、その一夏の前に店内から屈強な五人の男が次々と集結して行くと通せん棒をするように立ちふさがる。良く見れば年齢も体型も様々な五人ではあったが、良く見ればその額には共通して青筋が浮かんでおり、どう贔屓目に見ても彼らが一夏に対して激怒しているのは一目瞭然であった

 

「(……このままでは一夏が……!! くっ……争いは避けられないのか!?)」

 

 それを見るなり、慎吾は椅子を蹴り飛ばすような勢いで立ち上がるのと同時に走りだし、一夏を庇うように五人の男達と一夏の間に割って入り、一歩遅れてその後に光も続く。しかし、それでも男達はまるで怯む様子も無く、憮然とした様子で立ちふさがり、賑やかだった食堂に一触即発の空気が流れた

 

「皆、待ってくれ」

 

 その瞬間だった、長い年を重ねたのであろう事を感じさせるしわがれた、しかしながらもそれ以上に理不尽そのものような絶対的な圧力を感じさせるような男性の声が響いたのは

 

「皆、ここは一旦荒ぶる心を静めて、私の話を聞いてくれんか?」

 

 店内が一瞬にして静まり返ると、声の主はそれまで誰一人として特段気にもかけられる事も無く自然に食堂に溶け込み、優雅に食事を楽しんでいたと思われるカウンター席から立ち上がると、滑るように騒動して騒動の中心となる、慎吾と男達の前にその姿を表した

 

「私は『キング』と名乗らせて貰っておるだけの、ただの老人。だがしかし、老人だからこそ老婆心に見てみぬふりをしてはいられなくなってな。こうして皆の前で話させて貰っているのだ」

 

 堂々と落ち着きに満ちた様子でそう語る、キングと名乗ったその老人は、一見すれば長い白髪と顎を覆い隠す程長い白髭、そして老人にしては立派な体格と穏やかな表情が特徴的な男性だった。だが

 

「(な、何なんだこの人は一体……!?)」

 

 一目見たとき、いやその声を聞いた時から箒は席から動く所が凍り付いてしまったよつに身動き一つ満足に取ることが叶わなかった。そう、何故ならば

 

「(単に言葉を発しただけでこの迫力と、今は微塵も見せてはいないが隠しても分かってしまう程の闘気……! よもや千冬さんと同等……いや……いや! そんな馬鹿な!?)」

 

 キングが意識せずとも放つ迫力。それは例えるならば見渡す限りの大海の如く、果てや底と言ったものが全く感じられないと言う一層、人智を越えたものにしか箒は感じられず、馬鹿げた考えだとは思いながらも箒はキングと名乗る老人が本当に人間であるのかさえ一瞬、疑ってしまっていた

 

「私は年寄りではあるが耳にはまだ自信があってな、失礼だとは承知の上だが、彼等の話していた会話の内容が全て聞こえていたのだ」

 

 一方で、キングはそんな箒の観察するような視線もまるで気にしてはいないように落ち着いた様子でそう語りながら説明を進めてゆく

 

「その上で私はこう断然する。今の彼女を真の意味で救えるのは織斑一夏君。君だけだ。とね」

 

「えっ……!? 何で俺の名前を……」

 

 突然、初対面の筈のキングに名を呼ばれた一夏は困惑と動揺を隠せない様子で思わずそう聞き返した。

 

「あのままでは時間が過ぎるにつれて心の傷口もまた大きくなってしまうだろう。彼女の事を思うのならば、急いだ方がいい」

 

「……! はい!」

 

 が、しかし、続けざまにそう言ったキングの言葉で一夏は慌てた様子で返事をすると、そのまま蘭を追いかけて外へと向かって走って出ていってしまった

 

「……さて、思ったより騒がしくさせてしまったな。私はここで失礼させて貰うよ」

 

 キングはそんな一夏の後ろ姿を静かに見送ると、そのまま懐から取り出した財布で手早く会計を済ませると、静かに席に残された自分の荷物を纏め始めた

 

「ま、待ってください!」

 

「な、何故あなたがここに……!?」

 

 そんなキングの元に漸く緊張による硬直から解放された慎吾と光が駆け寄り、立ち去ろうとしている所を呼び止めた。良く見れば二人とも共に顔に大粒の汗が吹き出ており、二人が激しく動揺と同時に緊張しているのが見てとれた

 

「何、特に深い意味は無い。偶然、ここに食事を取りに来ただけだ。お前達に出会えるような『予感』はしていたがね」

 

 キングはそんな二人を見ると優しく微笑み、落ち着いた口調でそう語りかける。それはあっという間に二人の緊張を解き、リラックスさせるような慈愛に満ちたものである、事実、慎吾と光から流れる汗はたちまち止まり、呼吸も穏やかな物へと戻っていた

 

「積もる話もあるだろうが生憎、今日はケンと先約があってな。改正したナイトブレスの修理マニュアルを渡しておくから、今日はここまで。と、させてくれ。何、近いうちに私達は、また会う事になるだろう。そんな予感がするのだ」

 

 二人が落ち着きを取り戻したのを確認するとキングはそう言うと、光に懐から取り出した一枚のチップを光に渡すと荷物を纏め深紫色の外装を纏うと緩やかに歩いて外へと出ていってしまい。再び、店内はしん、と静まり返った

 

「……慎吾、光、ぶしつけですまないが……あのキングと名乗った人は一体……? 只者では無いと言う事だけは嫌と言う程、理解できたのだが……」

 

 その静寂の中、勇気を出して箒は席から立ち上がり、二人に尋ねた

 

「あの人は……キング老士はM-78社の創立者の一人だ。そして、引退した現在も様々なアイディアを提供してくれている」

 

「……それ以上となると、残念ながら俺達も良くは分からない。ただ、俺達はあの人を尊敬を込めてこう呼んでる」

 

 箒の問いかけに、慎吾と光はため息を吐きながら順に答え、最後に息を合わせて一つの言葉を呟いた

 

「「万能の超人キング……そう、ウルトラマンキング。と」」

 

 しごく真面目な様子で語る二人の声は静まり返った店内に静かに響き渡って行った


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