二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「一夏……繰り返して言うが何故、そんな大切な話をすぐに皆に話さなかったんだ?」
「それは……その……すいません……楽しい雰囲気に水を差したくなくて……」
腕を組み、珍しく非難するような口調で言う慎吾に押され、一夏は思わず額に汗を浮かべた
休日が開けた月曜日、その夕食の席で一夏の口から語られた、先日の一夏の誕生日祝いの最中、皆の飲み物を買い出しに出掛けていた一夏に降りかかった亡国機業による襲撃により、その場に駆けつけ一夏を助けたラウラを除いた全員は大きく動揺し、その中でも特に慎吾の反応が大きく、鋭い視線と説教をするような口調で先程から一夏の行動に注意を促していた
「なるほど一夏、『水を差したく無い』と言うその気持ちは私にも理解できる。しかし一夏……それで君にもし万が一の事があったら、それこそ水を差すどころでは無い事態になるぞ?」
「そ、それは確かに……そうですね。今回は俺が悪かったのかもしれません……改めてすいません」
慎吾の口調は何時もより若干厳しい物ではあったが、それはあくまで一夏を想った優しさから来るものであり、それを理解しているのか慎吾の言葉を聞き終えると一夏は静かに頭を下げた
「うん、分かってくれたのなら何よりだ。それと……私も謝らせてくれ。すまなかったな、説教のような真似をしてしまって」
それを見ると慎吾はつり上がり気味だった顔を緩めて、笑顔を浮かべながらそう言うと今度は自身が一夏に向かって謝罪してみせた
「それはそうとお兄様、お体の具合はいかがですか? 本日の教室移動の際、少しだけ歩き方に違和感があるように思えましたので……私、お兄様の妹として心配でして……」
と、そうして円満な形で一夏と慎吾の話し合いに決着が付いた所でセシリアがいそいそ一夏から対面の席に腰掛けている慎吾の方に身を乗りだし、実に自然な口調で慎吾を『兄』と呼びながらそう問い掛けてきた
「あ、あぁ……ごほん。……まだ腹部に少々痛みはあるが特に問題は無い。傷の回復も非常に良好だそうだ」
突如、不意打ち気味にセシリアに兄と呼ばれた事で少しだけ慎吾は動揺するように口がもつれたが、どうにか話の途中で一つ咳き込みをして呼吸を整える事で落ち着きを取り戻し、セシリアの問い掛けに答える事が出来た
「むぅ……セシリアまさかとは思うけど忘れては無いよね?」
「ここに、お前よりずっと先に、おにーちゃんの妹になった二人がいるんだぞ……?」
一方でそんなセシリアの態度が面白くないのかシャルロットとラウラは、あからさまに不満げな様子でそうセシリアに言う。ちなみに共に頬を膨らませながら喋るその仕草はほぼ同じと言うレベルでシンクロしており、その様子は、はたから見ればさながら顔の似ない姉妹のようにも見えた
「えぇ、シャルロットさん、ラウラさん、もちろん決してお二人を蔑ろになどしませんわよ?」
そんな二人の態度にもセシリアは全く怯んだ様子は見せず、気のせいか何時もより僅かばかり余裕がある態度で優雅に微笑を浮かべると、言葉を続ける
「今日からお二人とも、お兄様の……そして私の妹として快く歓迎いたしますわよ?」
「「んなっ!?」」
「!? ぐっ……げほっげほっ……!」
「ちょっ……あんた大丈夫!?」
さも当然のようにそう口にしたセシリアの発言に、慎吾の妹を名乗る身としてそれを見過ごせずシャルロットとラウラは立ち上がり、自身の予想の斜め上をぶち抜かれた事で慎吾は思わず口にしていた味噌汁を盛大にむせかえらせ、その慎吾を一番近くの席に座っていた鈴が慌てて未使用のおしぼりを差し出しながら介抱した
「ぼ、僕達を差し置いて、いきなりお兄ちゃんの妹だと主張したかと思ったら今度は、長女を名乗るなんて……そんなの認めるわけにはいかないよ!」
「そうだ! 私が次女に落ち着くまでに一体、どれほど協議したと思う! どうしても、おにーちゃんの妹を名乗りたいなら三女を名乗れ!」
「いえ、私こそが長女! 即ちお兄様を支え、妹達を見守る真なる妹なのです!」
本人達は至って真剣なのだろうが、次第にヒートアップしながら討論する、シャルロット、ラウラ、セシリアの三人ではあったが、語る内容はと言えば理解し共感する事に中々の努力を必要とするような主張であり、実質、三人の会話を中ほど聞いた辺りで箒は心底呆れ返ったような表情で三人を見ており、鈴は興味が失せたのか我関せずと言った様子でさっさと自身の食事を楽しみ始め、一夏はただただ勢いに圧倒されて何もすることが出来ず、呆然としていた
「……シャルロット、ラウラ、セシリア、君達三人が私の事を想ってくれるのは本当に嬉しい。兄として誇り高いばかりだ。だが、しかしな……」
一行に騒動に収まりが見られず、騒ぎと食堂内での注目を集めてゆく三人を見かね、元々は自身のせいで起こったような事態だからと覚悟を決めた慎吾が何とか説得しようと口を開く、まさにその瞬間だった
「はぁ……何を延々と馬鹿な事を大声で騒いでいるか、大馬鹿者どもめ」
「ひゃうっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
深い溜め息と共に、空気を鋭く切り裂く音が響いたかと思うと、華麗に三発の出席簿の一撃が周囲を見るのを忘れる程に集中して議論していた三人のそれぞれ額を的確に打ち付け、議論を強制的に中断させた
「織斑先生……」
「あっ……うっ、千冬姉!?」
「詳しい話は知らんし聞かんが、大谷。こいつら三人はそれぞれお前の妹を名乗り、お前はそれに答えているのだろう? それと……織斑先生。だ、織斑」
椅子にうずくまり痛みに悶絶する三人と、流石に出席簿での一撃の痛みだけは理解出来るのか三人に同情の視線を向ける箒と鈴を一瞬、見下ろしながら千冬は慎吾と正面から相対し、……ついでに不意を突かれたせいかうっかり失言をした一夏に返す刃の要領で出席簿の一撃を食らわせた
「話を戻すが……大谷、仮にも兄を名乗っている以上、妹達の面倒はお前がしっかりと見てやれ。それは長男長女に課せられた共通の義務だ」
「織斑先生……えぇ、それは勿論。私に出来る全力で為して行きます。今までも……これからもです」
そう語る言葉からは言葉に出さずとも千冬自身もそれを課しているのであろう。と、確信出来るような強い意志を感じとる事が出来、それを理解した慎吾はそれに答えるよう自身の想いの丈を正直に伝えた
「……そうか、ならば今はその言葉を信じよう。だが、また騒げばお前も昨日の市街地戦について、謹慎処分も検討させてもらう……かもな」
「はは……それは、何としても避けたい所ですね……」
「大丈夫、大谷くんならきっと出来ますよ! 私が保障します!」
慎吾の決意を聞いた千冬はそう言って不敵な笑みを浮かべ、それに対して慎吾は冷や汗を流しながら引きつった笑みを浮かべ、そんな慎吾を真耶が何故かしっかりと手を握ってフォローする
「い、てててて……角が……角が刺さった……」
そんな三人のすぐ下では運悪く出席簿の一撃が傷付かず、痕が残らない程度にクリティカルヒットした一夏が悶絶していたのだが、残念ながら千冬から受けたプレッシャーに手一杯な慎吾にはそれをフォロー出来る余裕は残されていなかった