二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
勘の鋭い方ならば今までのヒントで既に協力者の正体に気が付かれるかも知れません
「しかし……本当に俺も参加して良かったのか? 俺は慎吾と違って君達とはあまり長い付き合いでは無いのだが……」
「僕も……皆さんとは二回くらいしか顔を合わせた事しか……」
あれから時間が過ぎて夕方5時、一夏の誕生日パーティ会場と化した織斑家で私服姿の光と光太郎は若干、居心地が良く無さそうな様子でそう言った
「あら、そもそも一夏くんから許可は貰っているし、光ちゃんは私の友達で、光太郎くんは今回の事件のヒーローの一人でしょ? 誘われておかしい理由は無いわよ」
「うん、楯無会長の言葉に乗るわけでは無いが……私もここは深く考えず呼ばれた事に感謝して素直に楽しんだ方がいいと思うぞ?」
二人の言葉に楯無は飄々としたいつもの調子でそう答え、腹部の傷がゾフィーのお陰か浅く、既に殆んど塞がっていた為に参加出来た慎吾も同意するようにそう言った
「ええ、ここまで人数が増えれば何人増えようと同じだし……光さんも光太郎くんも楽しんでいってください」
そう一夏は苦笑しながら、やや広いとは言ってもあくまで一般住宅レベルでしか無い織斑家のリビングに集結した面々を見渡す。
主役の一夏は当然としてそこに慎吾やいつものメンバーを含めた7人。そこに一夏の男友達である五反田弾に、慎吾とは初顔合わせになる
「皆さん、ちらし寿司が出来上がりましたよ。どうか温かいうちに召し上がってください」
と、一夏が何気無く集まった人数を数えていると厨房から先程まで一夏から許可を貰って調理に励んでいた女性。十五人目の参加者であり光太郎の保護者役としてきていたマリが持参した大きな寿司桶を抱えて姿を表す
「しかし……マリさん、初めて来る家とは思えない程に厨房に立つ姿が馴染んでいるな」
「本職が北斗と光太郎の二人を育てあげてる主婦だからな……自然と貫禄がついているのだろう……」
「あっ……! ぼ、僕も行きますっ!」
そんなマリを見て光と慎吾は顔を見合わせて苦笑すると、すかさずマリの手伝いに向かい、その後に一歩遅れて光太郎。さらに一歩遅れて自分も何かしようと一夏も動き、四人はさながら一つの兄弟のように並んでマリの元への歩きだすのであった
◇
「……ところで慎吾、今回の一連の事件。お前はどう判断する?」
夕食後、後片付けを終えて息抜き変わりにリビングの端辺り、小さなテーブルを囲んで慎吾と光の両者が将棋を打っていた時、ふと光がそう真剣な表情で慎吾に向かって問いかけた
「そうだな……相手の……亡国機業の情報が少なすぎて私からは大した事は分からない。だな、今回は。精々、分かったのは今回の闘争の中で私達が交戦したゼフィルスの同乗者は『本気を出してない』。しかし、それでも私達は録なダメージを与える事が出来なかった。……ただ、それくらいだ」
光の問いかけに慎吾は、手にした将棋の駒を握りしめたま、僅かに考えを纏める為に僅かに沈黙すると静かにそう告げた
「そうか……お前もか……」
そんな慎吾の返答を光もおおよそ予測していたのか、光は憂いを込めた表情でため息をつくと、ぽつりぽつりと半ば愚痴にも似た事を語り始めた
「何の情報も掴めない上に、明らかに手加減をしている敵に逃げられ、おまけにレース直後に最低限の補修だけでの戦闘だったからヒカリもダメージでボロボロ。はぁ……まさに骨折り損と言う奴だな……」
「まぁまぁ、光ちゃんの気持ちは私にも分かるけど……今だけはその事については置いておいて、楽しんでもいいんじゃない?」
「……会長」
と、光が今日の一連の戦いを振り替えって大きく溜め息を付くと、いつの間に移動していたのか光の背後から楯無が軽く肩を叩いて光をそう励ました
「そう……ですね……。私達がここで悩んでいても事態が動くわけでもあるまいし……」
「張りつめるだけじゃなく、息抜きも重要……って言うことだな……」
楯無の言葉で慎吾と光は幾分か緊張が解れたらしく、共に固めていた拳をゆっくりと開くと険しかった目を緩め、再び盤面へと視線を移す
「ふぅ……ありがとう楯無会長。おかげで幾分か落ち着きを取り戻す事が出来たようだ。危うく折角の勝負も楽しめなくなる所だったよ」
慎吾は胸の中に立ち込めていたもやもやを一気に吐き出すかのように一息つくと、そう楯無に礼を言う。その言葉が真実である事を示すかのように、自然と微笑みを浮かべる余裕すら慎吾には出来ていた
「俺からも礼を言わせてくれ楯無会長。本当に助けられたよ」
「あら、ふふ……流石にそう素直にお礼を言われると流石に照れちゃうわね」
続いて光からも礼を言われると楯無は懐から扇子を取り出して開くと、扇子で口元を隠しながらごく自然な動きで優雅に笑った
「あっ、慎吾さん光さんは将棋ですか? そうだ、一局終わったら僕にも四枚落ちで打たせてくれませんか?」
と、そこで鈴やシャルロット達と混ざって大人数で遊べるボードゲームに参加していた光太郎がボードゲームを終えて、慎吾達の元へと駆け寄ってきた
パーティの序盤こそ場違いのような自身の存在に戸惑っていた様子の光太郎ではあったが、今ではすっかり皆と打ち解けて、このようにプレイ可能人数の限界の為に慎吾達が光太郎に参加を譲ったボードゲームを心から楽しめていた
「……うん? あぁ、いかんいかん、俺とした事が忘れる所だったが楯無会長、光太郎に『アレ』を渡してくれないか?」
「あら……そうね、今の今まで渡す暇が無かったから、ここで渡した方がいいわね」
と、そこで光が光太郎の姿を見て何かを思い出したかのように楯無にそう言い、光の言葉に楯無は軽く頷くと手にしていた扇子を仕舞い、自身の懐を探ると、一枚の封筒を取り出した
「光太郎くん。君に『どうしてもお礼を言いたい』って、言う人からお手紙があるの。私と光ちゃんはアリーナでこの手紙を受け取ったのよ」
「僕に手紙……?」
不思議そうな顔をしながらも光太郎は素直に楯無の手から手紙を受け取ると、そっと封を開き、中に入っていた手紙を取り出すと、手紙に書かれていた内容を読み上げ始めた
「えーっと……『ありがとう。キミのおかげでレースを見に来ていた人たちを全員安全に避難させることが出来ました。大したものじゃないけどお礼にこのフリーパスチケットをプレゼントします。どうか家族やお友だちと一緒に楽しんでください』……差出人は……『君に助けられた警備員マドカ・ダイゴ』?」
と、手紙を読み終えた光太郎が封筒に書かれていた宛名を読んだ瞬間、開いた封筒の口から一枚の紙切れがこぼれ落ち、チケットらしき軽い紙切れは重力に従って、ひらひらと空中を舞いながらゆっくりと落ちていき
「これが……そのチケットか……?」
チケットが床に落ちる前に素早く慎吾が右手でキャッチして、改めてチケットを確認しながら呟く
「あら……もしかしてこれって『DE・BANDA・デバンランド』の一日フリーパスじゃない?」
そのチケットを見ると、楯無は珍しく驚いたようにそう言いながら慎吾からチケットを受け取って確認する
「デバンランド……? どこかで聞いたことがあるような……」
「えっ!! デバンランドのチケット!? 予約が二年先まで埋まってるってあの!? ちょっ……本当に!?」
チケットに書かれていた何処か聞き覚えがあるような施設の名前を慎吾が思い返そうとした瞬間、たまたまそれを聞いていた鈴が先程の楯無と同じく、いや、それ以上に驚愕した様子で叫んで我が目でチケットを見ようと駆け寄る
「さっきから一体何の騒ぎだおにーちゃん? もしや……敵襲か?」
「いや……流石にそれは無いと思うよ……」
その騒ぎを聞いてラウラとシャルロットも駆けつけ、再び織斑家のリビングは騒がしくなり始めた
◇
「よぉ……久しぶりだなスコール、それにオータム。はははっ、元気にしていたか?」
その日、久方ぶりに『協力者』はスコール達の前に姿を現し、そう最後に会ったとき変わらぬようなニヤニヤと人を小馬鹿にしているかのような笑顔を浮かべながら、言うなりまるで我が家のように堂々とした態度で椅子にもたれ掛かりくつろぎ始めた
「てめぇ……」
「あら、事前に来ると言ってくれれば前もってお茶とお茶菓子くらい用意したのに……」
自身の中でもトップクラスに気に食わない相手である協力者の尊大な振舞いが腹立たしくて仕方がないのか隠しきれない程の殺気を込めて協力者を睨み付けるオータム。一方でスコールはまるで協力者の態度を気にかけた様子は無く、まるで長年の友達が家を尋ねてきたかのように優しく微笑みかけながら、お茶の準備を始めた
「なぁに、……エムが『アイツ』とやりあったと聞いてな。興味本意で今日、アイツがどれだけ成長していたかエムの奴から話を聞いてやろうかと思ってきたんだが……エムの奴はどこだ? もし、この場にいるなら俺を即効でぶち殺そうとする筈だしな」
協力者はざっと室内を見渡し、目的のエムがいないことを理解すると相変わらずヘラヘラと『エムが自分を殺そうとする』のが心底面白い。と、でも言いたいかのように笑いながらそうスコールに尋ねた
「あぁ……あの子なら『彼』の所に向かったわよ。……お土産を持って独断でね」
協力者の問い掛けに答えながらスコールは最後に手の指を折り曲げ、銃を作って見せた
「くくっ……織斑の弟か……そいつはエムが帰ってきた時がますます楽しみになったなぁ……」
スコールの言葉に協力者は自身の黒い頭髪を揺らすと満足そうに笑う
エムが実際に一夏を殺害出来ようが出来まいが、そんなことは協力者には心底どうでも良いことであり
どちらに転んでも自身はたっぷりと楽しめそうだ。と、言う確信に近い予感だけが協力者の胸の中を包んでいたのであった