二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「うっ……!ああぁっ……!!」
ISの装甲をも貫いて刃が生身の体に突き刺さり、苦悶の悲鳴と共に赤い血液が飛散して飛び散り、その一滴がセシリアのブルー・ティアーズに付着した
「えっ…………?」
自身の機体に付着した血液を見たことでようやく硬直から解放されたセシリアは一瞬、呆けたような声を上げる
とは行っても、セシリア自身の体には戦闘による鈍いダメージはあちこちにあるものの、決してそれは刺されたような痛みでは無い。ではこれは誰の血なのかそこまで思考が戻された所で
セシリアの目には自身を庇う盾のような形でゼフィルスの前に立ちふさがり、ゾフィーの装甲ごと腹部を貫かれ、力無く腕を足らした慎吾の姿が目に入った
「慎吾さん!? ど、どうして……!?」
それを理解した瞬間、セシリアの顔から瞬時に血の気が引いて青ざめ慎吾の名を叫んだ
「がっ……だ……大丈夫かセシリア……?」
しかし、そんな状況にも関わらずセシリアの声に反応して今にも止まりそうな程に弱々しくか細い動きで振り返った慎吾が発したのはセシリアを気遣う言葉であり、無理をして力強く見せようとしている声は掠れ痛々しいものであった
「セシリア……君の抱える事情は私には分からないが……今の君が本来の戦い方を忘れてしまっている事だけは理解できる……」
貫かれた腹部から出血は止まらず、ゾフィーの装甲を伝ってぽたり、ぽたりと血の雫が足先から零れ落ち、宙を落ちていく中、慎吾は激痛で失いそうになる意識の中、懸命にセシリアに向かって語りかける。たとえここで自身が倒れる前に、一対一でゼフィルスと戦う事になるであろうセシリアにはどうやってであれ伝えなければならない事が慎吾にはあったのだ
「セシリア……どうか初めてあの私と戦った時、第三アリーナで見せてくれた気高い自身に満ちた君を……そのの精神を思い出してくれ……そうすれば君は必ず……!」
「死に損ないが……何時までもうっとおしいぞ……!」
「ぐわ…………っ!」
だが、しかし、その言葉を言い終える前にゼフィルスの近距離での連続射撃がゾフィーに襲いかかり、慎吾は悲鳴と共に落下して足下にあったビルの屋上へと向かって墜落し、鈍い音と共にコンクリートの土煙を上げて屋上にクレーターを作った
「慎吾さん…………!」
ハイパーセンサーで捉えた土煙の中、ビルの屋上で倒れたままピクリとも動かない慎吾を案じてセシリアは叫ぶ。ゾフィーの胸元のカラータイマーが非常に弱々しくはあるが点っていた為に保護機能が慎吾を守っていてくれる事は理解出来るがそれでも安堵は出来ない。だからこそ
最速で最短で決着を付けなければならない
「行きますわよ……ブルー・ティアーズ……」
そう心に決めた瞬間、セシリアは自分でも驚く程に心が落ち着き、澄みきっている事に気が付いた。ゼフィルスの動きでさえスローモーションの如く緩やかに軌道が良く見え、自然と微笑みすら浮かべていた
そして、セシリアの心の中で蒼い雫が一滴、水面に落ちて波紋を作り、それと同時にセシリアは指を折り曲げ、片手で小さくピストルを作った
「バーン」
「!?」
セシリアが理解した上で放ったそう発した瞬間、エムを『背後から』四本のビームが貫き、このエ戦いの中でムが初めて動揺を見せ、体勢を崩した
BTエネルギー高稼働時にのみ使える
「見事だセシリア……それでこそ……それこそ君らしい……」
起き上がる体力も尽き、仰向けの状態で倒れたままの状態ながらも、しっかりと真下からその光景を見ていた慎吾は満足そうにそう呟くと、慎吾は体の促すまま自身の意識を手放していくのであった
◇
『たぁーっ! やあっ!! はあっ!!』
まだ門下生が誰も来ていない早朝の道場、そこで小学生の慎吾は掛け声と共に指示通り、右拳、左拳、そして右足での蹴りを次々と空に放って行く。その動きには未熟さが隠しきれないものの、それでも拳や蹴りはしっかりと空気を切り裂いており、同体格の相手との試合ならば十二分に効果を発揮する程度の完成度を持っていた
『うん、なかなか様になってきたじゃないか慎吾。前よりずっと動きもキレも良くなってるぜ』
そんな慎吾を道場に備え付けられた椅子に座って見ていた指導者も満足そうに言った
『あっ……ありがとうございます!』
誉められた慎吾はと言うと慌てて訓練の手を止めて指導者に礼を言って頭を下げた
『……相変わらず、超がつくほどの真面目だな。アイツと……それからケンの奴の影響かそりゃあ? 若いうちは、もう少し年相応の子供らしくしててもいいと思うぞ?』
そんな慎吾の態度に指導者は苦笑しながら慎吾の事を想い、やんわりとそう忠告した
『ですが……私は早く父のような立派な人物になりたくて……』
『気持ちは分かるが……そいつは今、お前が必要以上に急いだ所で身に付くようなもんじゃあないぞ?……まぁ、いいか……その辺の所は今の武術に加えてオレがのちのち教えていってやる。覚悟しろよ?』
困ったようにそう答える慎吾に指導者は再び苦笑すると大きく溜め息を吐きながらも、そう言って慎吾を導き続ける事を誓い。慎吾も迷わず指導者のその言葉を信じ、それに答えて見せると決意した
そう、あの『事件』が起こるまでは
◇
「……て。……ください慎吾さん……っ!」
「う……うう……」
時間にすれば十年とほんの少しなのにも関わらず遠く、手が届かない程に遠くに感じる記憶の夢を視ていた慎吾は必死に呼び掛けてくる誰かの声で意識を取り戻し、うめきながらゆっくりと目を開いた
「ああ……よかった……目を覚まされましたわ……」
「慎吾さん! 体は大丈夫ですか!?」
慎吾が目を開いて見れば、セシリアが慎吾の上半身を助けおこし、白式を展開させた一夏と共に心配そうな表情で慎吾を見ていた
「あぁ……私は大丈夫のようだが……そうだ、ゼフィルスはどうした!?」
どうやらゾフィーの保護機能が上手く働いてくれたらしく、既に腹部の出血は止まっており多少の痛みはあるものの慎吾が起き上がる程度にまで体力は回復しており、それを確認すると慎吾はすかさず一夏にゼフィルスの行方を尋ねた
「……あいつは……俺と少し戦ったら、誰かの連絡を受けて退散して行きました……」
「そうか……」
どこか悔しげにそう語る一夏に慎吾は静かにそう一言だけ答える。優しい一夏の事だ疲弊したセシリアや傷付いた自分を置いて相手を追跡するなど端から選択に無かったのだろう。しかし、慎吾はそれを責める気などまるで無かったし、それこそが一夏が皆に好かれる美点だと理解していた。故に慎吾はそれ以上何も一夏に聞くことは無かったのだ
「あの……慎吾さん……ありがとうございました」
と、そこで黙っていたセシリアが何かを決意したような表情で口を開き、慎吾に礼を言った
「気にすることは無い……セシリア、君には元よりあれを物に出来る力を持っていたんだ……私はただ君の背中を押しただけに過ぎない。あれは間違いなく君自身の力で編み出したものだ」
「慎吾さん……いえ……例えそうだとしてもここでお礼を言わせてくださいな……それで……ですね……」
セシリアに柔らかく微笑みかけながら慎吾がそう返事を返した時、セシリアは何故かはにかみながら頬を染め
「慎吾さん……もし、許してくださるなら、これから貴方の事を……『お兄様』と、お呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……君もか」
セシリアの言葉に慎吾は思わず苦笑する。家族がいなくて寂しいと吐露した自分に一年と満たずにこう次から次へと妹が増えて行くのは嬉しくもあるが、慎吾にはある意味で一種の皮肉じみたものさえ感じているのであった