二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 遅れてすいません……。と、それと我らがゾフィー隊長の初勝利を知って大歓喜してました。因縁の相手であるバードンを打ち倒すとは……これはこの先も活躍が期待できますかね?


120話 混乱の会場

「きゃあああっっ!!」

 

「に、逃げろおおっっ!!」

 

「皆さん落ち着いて! 落ち着いて避難してください!!」

 

 先程のまでのキャノンボール・ファストの試合での狂乱は一転、突然の侵入者とそれに撃ち抜かれた二機のISを見た瞬間、観客席は大会主催側のスタッフでさえ手の付けようの無いパニックに包まれ、右往左往して乱れる人混みに阻まれ、まともに避難する事すら困難な状況と化していた

 

「蘭さん、大丈夫ですか? 私の歩調についてゆけてますか?」

 

 

「あっ、は、はい……私は何とか……」

 

 そんな中、人混みが作り出す波のようなうねりの中を帆船のような驚くほど軽やかな動きでマリが先頭をきり、蘭の手をとって確実に通路を前へ前へと進んでゆく

 

「あっ、光太郎くんも大丈夫?」

 

 そんな風にまた一人、マリの案内に従って迫り来る人をやり過ごしながら蘭は自身がマリに変わってはぐれないようにもう片手で手を握っていた背後の光太郎の方へと視線を向ける

 

「…………」

 

 しかし、何故か光太郎は蘭のその言葉に答える事は無く。大人しく手を引かれて歩いているものの、その視界は正面を見ておらず、何かを決意したような表情でどこか一点をじっと見つめていた

 

「光太郎くん……?」

 

 そんな光太郎の様子に違和感を始めた時だった

 

「母さん、蘭さん……ごめんなさい!」

 

 突如として光太郎は、そう二人に謝罪しながら蘭の手を振り払うと、一人、人混みに向かって走り出していった

 

「ちょ、ちょっと……!?」

 

 慌てて制止しようとする蘭の声も聞かず、光太郎は器用に走りながら迫る人を軽やかにステップを踏んで次々とかわしながら先程まで蘭達が並んで見ていた席よりより上段の、それこそ会場全体が見渡せそうな客席通路へとつき進んでゆく

 

「皆さん! どうか落ち着い……! どうしたんだ君? お母さんとはぐれたのか?」

 

 と、小学生とは思えぬその軽やかな動きに蘭が思わず呑まれたその瞬間、光太郎は混乱して右往左往する観客達をメガホン片手に必死で落ち着かせようと呼び掛けている会場スタッフの前で足を止める

 

「ごめんなさい、少し『コレ』借りさせてください!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 そんな光太郎を心配したのか観客達に呼び掛けるのを止め、視線を向けてきたスタッフに光太郎は頭を下げて謝罪するとその手からメガホンを引ったくるとそのままの勢いで軽く床を蹴って空中を跳びあがると客席手すり部分に着地し、メガホンを口元に近付けると口をすぼめて息を大きく吸い込み

 

 

「会場の皆さん!! いまあの侵入者はレースに参加していた7人の選手の方々が必死で食い止めてくれています!! どうか信じて落ち着いて避難してください!!」

 

 

 と、この混乱とどよめきに満ちた会場内でも殆どかき消される事が無いような大声でそう叫んだ。いくらメガホンを用いていると言ってもそれは子供の光太郎から発せられたにしては度を遥かに越えた『異様』とも言えるレベルのものであった、

 

 下手な大人など足元にも及ばないような圧倒的声量、それでいて何故か威厳と迫力が感じられる光太郎の声に圧倒されたのか混乱にみちた会場内は水を打ったように一瞬、静まりかえり、やがて誰からともなく無駄口を叩かずに速やかに避難を始め、それに続いて慌てて会場スタッフが出口への誘導を始める

 

「……はい、お返しします。急に奪ったりすいませんでした」

 

「あ、あぁ……」

 

 それを確認すると、光太郎はそう一言だけ告げるとメガホンを拝借した若い男性スタッフにメガホンを返却してから頭を下げると、急な事態に困惑したままの男性スタッフに背中を向けてマリと蘭の元へと帰っていた

 

「凄い子供もいるもんだな……とっ、俺も負けてられないな」

 

 そんな光太郎の背中を暫し見守っていたが、直ぐに自身のやるべき仕事を思いだし、男性スタッフ『ダイゴ』は観客の避難誘導を再開し始めるのであった

 

 

 その一方で

 

「あの……マリさん……本当に……本当に失礼ですけど……光太郎君って一体何者なんですか!?」

 

 背丈は大きいが根は素直で驚くほど純粋。偶然の出会いからそう光太郎と言う人間を判断していた蘭は突如として見せた光太郎の変貌に思わず若干食いより気味でマリに尋ねる

 

「うふふふ……」

 

 しかし、マリはそれに答える事は無く。ただただ蘭と戻ってくる光太郎に優しく微笑みかけるだけであった

 

 

 

 

「……一夏、私がこいつの相手をする。その間にシャルロットとラウラの事を頼む」

 

 襲撃者と正面から対面したまま慎吾は短く、一夏にそう告げる

 

 本来なら慎吾は実の妹同然に想っている二人の危機に一刻も早く駆けつけるつもりであった。だがしかし、目の前で殺気を放つ襲撃者に対してそれは不可能だと言うことを慎吾の直感が告げていた

 

「分かりました!」

 

 その声を聞いた瞬間、一夏が弾かれたように襲撃者の奇襲を受けてコースアウトした末に壁に激突したラウラとシャルロットの元へと急行する

 

「…………」

 

 と、そんな無防備な一夏を狙って襲撃者のBTライフルの攻撃が降り注ぐ。が

 

「聞こえなかったか? お前の相手は私だ!」

 

 その攻撃はゾフィーの両腕から凪ぎ払うように放たれたZ光線が弾き、一夏に迫る攻撃を全て文字通り粉々に『撃ち砕いた』

 

「……面白い」

 

 それを見た襲撃者は不適な笑みを浮かべると瞬時にBTライフルの銃口を一夏から慎吾へと向け、狙いをつける

 

「行くぞっ……!」

 

 それが合図であったかのように慎吾はゾフィーを残像が残る程に急加速させ一気に襲撃者へと詰め寄る。

 

 

 そして二つの影が交差した次の瞬間、二つの音が響き渡った


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