二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 遅れてすいません……


118 話 開幕! キャノンボール・ファスト

幸いな事にキャノンボール・ファスト当日は雲一つ無く、晴れやかな青空が広がる見事な快晴でありその効果もあって観客席には一般客やIS産業関係者、そして各国政府関係者が駆けつけ、開場して早くも立ち見席すら埋め尽くされる程の満員と化していた

 

「……流石にこれだけ多くの人の前に立つのは経験が無いが……想像よりも緊張するものだな」

 

 大まかな準備を済ませた合間に抜け出し、満員の会場を見渡していた慎吾はそのあまりの人数に若干、気圧されたように呟く。だがしかし、その顔には確かに余裕が残されており、口元には薄い笑みすら浮かんでいた

 

「ふふっ、これだけの人数が今日、行われる私達のレースを楽しみにしているんだ。ならば、なおのこと無様な姿は見せられないな……」

 

 小さく笑ってそう言うと、慎吾は準備を再開する為にビットへと静かに戻っていく

 

「(楽しみに……と、シャルロットやラウラのような強力な代表候補生達を相手に言えるような実力は悔しい事に私は持ち合わせてはいないが……決してお前をがっかりさせたりするような戦いはしない)」

 

 ビットへと戻る道で偶然すれ違った一夏に軽く笑みを浮かべてエールを送りながら慎吾はそう強く心中で決意する

 

「……見ていてくれよ、光太郎」

 

 最後に声に出して自身が特別指定席のチケットを送った相手、実の弟同然に面倒を見ている少年。光太郎の名と、座席番号を思い出しながら光太郎が座っている筈の観客席部分を見ながら慎吾はその場を後にした

 

 

「あの……すみません……少しいいでしょうか?」

 

「えっ……?」

 

 自身が密かに恋い焦がれている一夏から貰ったチケットの座席番号とマップを頼りに自身の席を探していた五反田(ごたんだ)(らん)は突如として、そんなどこかあとげない、それでいて困ったような少年の声をかけられて思わずマップから顔をあげ、声をかけられた方角へと振り向いた

 

「少し困った事がありまして……Fの46の座席はこの辺りでしょうか……? 僕、お母さんと来ていたんですけれど、お手洗いから戻ってきたら自分の席が分からなくなってしまいまして……」

 

 見ればそこにいたのは、不安気な表情をした首に巻いた白いスカーフが特徴的な一人の少年であり、自身より高いくらいの背から蘭は一瞬、話しかけてきた少年が自身より年上かと判断したが、少年の幼さが強い顔、そして何より少年が迷子防止の為に着ている服の胸元に付けている名前と年齢が書かれた名札ですぐに少年が自身より年下、小学生だと言うことが分かった

 

「えっと……光太郎くん? 私は五反田蘭って言うんだけど……Fの46 なら私の席の隣だから……良かったら一緒に行く?」

 

「はいっ! 蘭さん、ありがとうございます!」

 

 少年、光太郎が年下だと分かった事で蘭は幾分か気を使った柔らかい口調で、自身のチケットを見ながら話しかけると光太郎は一瞬にして曇っていた表情を、まさしく花が咲いたように柔らかな笑顔を浮かべて頷べると、蘭の隣を並び、まるでこれから遊園地に向かおうとする子供のようにスキップでも踏みそうな勢いで楽しげに歩き始めた

 

 

『さて大混戦のレースも終盤、現在一位はイギリスの代表候補生サラ・ウェルキン……お、おおっと! ここで一機が後続を突き放して一気にトップに迫ってきた! あの特徴的な青い機体は……ヒカリ! ISヒカリに搭乗する芹沢光だ! 激しい激戦でシールドエネルギーに余裕が残されていない彼女が満を持してここで最後の勝負を仕掛けるつもりだ!』

 

「……流石だな、ヒカリ」

 

 開会式の後に始まった二年生のレースは余程白熱している事を示すように、実況者の声も明らかに興奮を隠しきれておれず、それと同時に会場そのものが震えているかのように錯覚するほどの盛大の歓声が響き、それはピットで次に行われる一年生専用機持ち組のレースの準備を行っている慎吾達の耳にもはっきりと聞こえ、慎吾は聞こえてきた友人の奮闘に思わず笑みを浮かべる。どうやら、二年生のレースは最後まで決着が分かりそうにはないようだ

 

 と、慎吾は聞こえてくる実況に耳を傾けるのはそこまでにして、ピット内にいるいつもの仲間達。そして、今日のレースでのライバル達であり、それぞれ自機をキャノンボール・ファストに向けてカスタムさせた一夏達の方へと向き直る

 

「さて……二年生のレースは大分白熱しているようだが……私達も決してこれに負けないような正々堂々ベストを尽くしたレースを繰り広げようじゃあないか……!」

 

『おお (ええ) !!』

 

 まるで開幕の合図を告げるかのように慎吾がそう熱く告げると六人は力強くそれに答えると、マーカ誘導に従ってビットから次々と飛び立ち、スタート位置へと移動して行き、自分以外の全員が出た事を確認するとビットで準備に協力してくれた生徒や教師陣に一礼すると、最後に慎吾も飛び立っていった   

 

 

「蘭さん、光太郎をここまで案内してくれて本当にありがとう。心からお礼を言います」

 

「あ、いえいえ……あたしは当たり前の事をしただけですし……」

 

 丁度その同時刻、蘭はレース開始前に光太郎をFの46の座席へと無事に送り届けた事で光太郎の母、マリから頭を下げて丁寧に礼を言われ、マリの真摯な態度に思わず恐縮しながら蘭はそう答えた

 

「(マリさんって……言われなきゃ光太郎くんのお母さんって分からない程に若くて綺麗だな……あ、綺麗って言えばマリさんと雰囲気は全然違うけどさっきのあの人も……)」

 

 その時、そこでマリを見て蘭はふと、光太郎と共にこの席へとたどり着く前にちょっとしたトラブルで偶然に出会い、少し会話を交わした豪華な赤色のスーツ姿と煌めく金髪、そして何よりまだ子供の光太郎や同性の自分が見とれてしまう程に美しい姿の女性の事を思いだし、それと同時にマリとその女性、と自身の間にあるスタイルの大きな格差に改めて気付き、思わず肩を落とした

 

「(まだ成長期だから大丈夫……だよね? きっと……たぶん……)」

 

 もし、仮にでも蘭が出会ったのが女性かマリかのどちらか片方であったのならばまだ蘭の精神は持ちこたえ、風が吹けば飛ぶような物は言え自信も持てただろう。しかし、何の因果か立て続けに否の打ち所が無いような見事な『大人の女』に出会った事で、蘭の自信は決して崩れてはいないものの、崩壊寸前のレベルにまで追い込まれていたのだ

 

「あの……蘭さん大丈夫ですか? もうすぐ一年生専用機持ちの皆さんのレースが始まりますけど……もし体調が悪いのなら……」

 

 と、そんな蘭を心配したのか光太郎が若干心配した様子で蘭に声をかけてきた

 

「ううん、大丈夫。気にしないで光太郎くん」

 

 そんな光太郎の純粋な優しさが沈みがちだった蘭の心に響き、蘭は出来うる限りそれに答えようと精一杯の笑顔でそう返事を返した

 

「(うん、今日は生で一夏さんのIS姿を見られるんだからこんな事、気にしてられないよね……!)」

 

 自分に言い聞かせるように蘭は心中でそう考えると視線をビットから次々と出てくる七機のISへと視線を向けるのであった




 いよいよ次回から本格的にレースの開幕とさせていただきます……原点には無い複数のイレギュラーが同物語に絡んでくるか、うまく表現をしようとどうにか模索しております……

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