二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない)   作:塩ようかん

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 大幅、遅刻すいません……。次は出来るだけ早く……と、言いたい所なのですがちょっとした私情により更新は来月になります。度重なる投稿遅延でご迷惑をおかけますが、どうかこの作品に付き合ってくれると嬉しいです


116話 真耶と慎吾 2

「ウルトラコンバータ……残念だが、やはりこれは今回のキャノンボール・ファストには使用を控えるとしよう」

 

 その日、第六アリーナで行われたキャノンボール・ファストへ向けての自習中、ゾフィーのエネルギー分配調整の傍ら、一休みとばかりに大会での戦術を見直していた慎吾は一通り集中して考えた後に、逸機に息を吐き出すと大会でのウルトラコンバータ使用の断念を決意した

 

「あれ? 大谷くん、ウルトラコンバータは使わないんですか?」

 

 と、そうして集中して思考していた慎吾の耳に特徴的な柔らかく間延びしているようにも聞こえる優しげな声が聞こえてきた

 

「山田先生……すいません。少し集中していた為に挨拶が遅れてしまいました」

 

「いえいえ、私もたった今、通りすがりに大谷くんの言葉がたまたま聞こえてきたから話しかけただけですから気にしなくていいですよ?」

 

 話しかけられる事でようやく、自身の目の前にまで真耶が近付いて来ていた事に気が付いた慎吾は、よもや集中しすぎて話しかけられるいるのに無視してしまったか、と、内心で少しばかり慌てながら真耶にそう言って謝罪する。が、真耶は手を動かして自分がたった今、来たばかりの事をアピールすると穏やかに笑って慎吾を許す。と、そんな風に腕を動かした瞬間、真耶の豊満な胸が揺れる

 

「……こほん、そ、そうでしたか。だったら良かったのですが……」

 

 日頃から実父やケンから教わった精神の修行も決して怠る事無く続けているとは言えやはり慎吾も一夏達と変わらぬ男子。突如として目の前に現れたピンク色の光景に思わず一瞬、目を奪われてしまったが軽く咳き込むのと空中投影ディスプレイに視線を反らしてどうにか見ないようにする事でどうにか、それ以上、自分に信頼を向けてくれている教師の前で恥態を晒さないよう堪えた

 

「あの……それで、大谷くん。どうしてウルトラコンバータを使わないのか教えてくれませんか? あれをキャノンボール・ファストで使えばエネルギーの燃費が悪いゾフィーの大きな助けになりますよね?」

 

 どうやら慎吾の涙ぐましくも見える必死の抵抗はどうにか効果はあったらしく特に真耶は慎吾の態度の変化に気付いた様子は無く、微笑みを浮かべたままそう慎吾に問いかけ、慎吾はいつもと変わらぬその態度に多少の罪悪感を感じつつも安堵し、必死で平常心を取り戻しながら真耶の問いかけに答えるべく口を開いた

 

「……は、はい、私としてもキャノンボール・ファストの事を聞いた当初はそのつもりで、コンバータの力を頼りにエネルギー消費を気にせず武装も最低限にして速度特化にしたゾフィーで一気にゴール。と、言う策も考えたのですが……先日、全く予想だにしていなかったトラブルが起きたもので……」

 

「……例のT事件ですか?」

 

 その瞬間、一瞬で事を察した真耶が浮かべていた優しげな笑顔は元日本代表候補生であること今一度思い出させるような鋭い者へと変わり、確信を持った様子で慎吾にそう言った

 

「……! えぇ、あれだけの激闘を終えても幸いな事にこうしてゾフィーは復活できました。……しかし、ウルトラコンバータは詳しく調べるとシステムの根本部分にダメージを負っていたらしく、どうにもコンバータのエネルギー補給システムが稼働はするものの未だに不安定な所がありまして……修理をした光からも『通常形式の試合ならば動作に問題は無いが、キャノンボール・ファストのような特殊環境においても満全に動かせるかは保証出来ない』と、言われていまして……」

 

 そんな真耶の表情の変化に慎吾は一瞬、驚愕したが直ぐ千冬のように表にこそ出ては来なかったが真耶が慎吾や一夏達、代表候補生が先日、激しくIS『タイラント』と激突したT事件に関わっている事と、ISを用いた実技授業などで垣間見た真耶の実力と、その経歴を思い出すと動揺で僅かに途切れてしまった会話を再び繋げる

 

「うーん……確かに開発した芹沢さんがそう言うならコンバータの使用断念も仕方がありませんね……」

 

「はい、大まかな理由はそれなのですが……」

 

 他の誰でも無い開発者である芹沢からの忠告と言うことで慎吾がコンバータの使用を断念した事に納得仕掛かった真耶ではあるが、そこにさらに一言、自身の言葉を聞き取れるような範囲に人がいないことを確認すると小さな声で語り始めた

 

「本音を言えば私はこのキャノンボール・ファストを出来る限り一夏達専用機持ちの皆と同じ条件で戦い、その上で勝利してみたいのです。年上の立場上堪えようとは思ったのですが、どうにも優勝を狙って訓練に励む皆を見ていたら無意識に感情が込み上げてしまいまして……」

 

 当人は自覚しているのか、どこか恥ずかしそうにそう言う慎吾のその瞳に宿り、燃え上がるように熱く、そして目映く輝いているのは紛れもない闘志の色であった

 

「大谷くん……」

 

 普段は生徒の中でクラスのまとめ役を率先している慎吾が胸の奥底に隠し、決して積極的に見せようとはしない思春期の少年特有の青臭さが残る情熱を見せられた真耶は感極まったようにそう呟くと次の瞬間、慎吾の右腕を自身の両腕で包み込み、そっと胸元に引き寄せた

 

「……!? す、すいません山田先生、その……何と言うべきか……」

 

 驚愕の声と共に、たちまちのうちに慎吾の顔は真っ赤に染まり、必死で何かを真耶に伝えようと試みる

 

「大谷くん、誓って大谷くんが抱いてるその気持ちは決して間違ってなんかいません。だから……ええと……キャノンボール・ファスト頑張ってください。私は応援してますよ」

 

 そこで真耶は一瞬、何かを言おうとして躊躇うがすぐに慎吾を微笑み、優しくエールを送った

 

「……山田先生、その気持ちは大変ありがたいですし、大変嬉しいのですが……その……」

 

 そうして一人の生徒に過ぎない自分に決して傲ったりする事もなく、親身になって接してくれる真耶に深い感謝の想いを感じ、頭を下げてお礼の言葉を告げたいとすら考えていた慎吾ではあったが、しかし、それを行う前に自信の羞恥を堪えてもなお、どうしても伝えなければならない事が慎吾にはあったのだ

 

「……私の右腕が……山田先生の胸元に……」

 

「え…………?」

 

 顔をますます赤く染め、恥ずかしさで視線も上手く合わせられない様子で言う慎吾の指摘により、そこでようやく真耶はようやく気付く

 

 そう、本人としては単にサイズが会わなかったので開いておいたISスーツ。安心させようと胸元に引き寄せた時に丁度その開いた部分、所謂『胸の谷間』に慎吾の右腕を拘束した状態で突っ込ませていた事を

 

 目の前の慎吾が必死で目を瞑り、顔を赤らめながら突っ込んでしまっている右腕を抜き取ろうとしている事を

 

 そんな二人の様子を複数の生徒が訓練を止めて遠巻きにじっくりと好奇と羨望と、そして一部、大きく自身に足りない物を持つ真耶に対する嫉妬の視線で観察している事を

 

 

 そして、それら全てを見ていたらしい千冬が気配だけで野生動物達が逃げ出しそうな程の憤怒の形相で近づいてきている事を

 

「え、えええええぇぇぇっっ!?」

 

 立て続けにおきた事態に頭が処理容量を越えて真耶は立場を忘れて思わず叫んだ

 

 

「腕を……山田先生……どうか腕を解放してください……」

 

 そんな中、慎吾は掌に伝わる暖かくて、やたら柔らかく、埋めたくなるような感触をどうにか堪えながら必死で真耶にそう言い続けるのであった


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