二人目の男子はIS学園No.1(最強とは言ってない) 作:塩ようかん
「それで? 聞いてはおくが、何か弁解の言葉はあるか大谷?」
タイラントとの戦いに決着が付けて一夏から
肩を借りて帰投、待っていたかのように準備をしていたマリの元で適切な治療を受けて睡眠を取って丸一日体を休め、どうにか傷が塞がり、慎吾が起き上がって座れる程に回復した日の翌日の昼過ぎ、自主的に病室のベッドの上で正座をした慎吾は千冬から二人きりで『愛』がたっぷりと込められた説教を受けていた
「……ありません。事実、私は勝手な判断で病室から抜け出し、気付いて制止してくださった織斑先生を無視して無理矢理、今回の作戦に参加したのです。結果的には撃破出来たとは言え、これを弁解するような余地は私にはありません。……唯一、あるとすればその事に関する謝罪だけです」
千冬から静かな圧が込められた視線で睨まれてはいたが、慎吾はそれに臆した様子は無く。迷いの無く既に覚悟と決意を秘めた表情でそう千冬に答え、座ったまま深々と頭を下げた
「……顔を上げろ大谷。はぁ……前も言っただろう。『お前はまだまだ一人の小僧に過ぎないから、困ったら我々を頼れ』とな」
「…………」
慎吾に下げていた顔を上げさせると、千冬は呆れているように頭を抱え、深くため息を付きながら説教を続ける。その裏には『ここで言ったところで、有事にはまた破るだろうな』と言う一種の諦めの心情が見えていた
「……まぁ、矢鱈に身内に甘いお前の事だ、あいつらの身に危機が迫った時にも、大人しく守るとは思って私も無かったが……それを踏まえても今回は少し無茶をし過ぎだっ……!」
「……! 深く反省しています……改めて申し訳ありません織斑先生」
言葉の終わりにお仕置きがわりに、慎吾が怪我を負ってる事でしっかりと加減はしているものの、それでも心と体に響くような出席簿での一撃を慎吾の頭に叩き込み、叩かれた慎吾は再び謝罪の言葉を告げると千冬に向かって頭を下げて謝罪し、結局その後もたっぷり一時間、慎吾は千冬からの注意勧告にも似た説教を受けることになった
◇
「はは……なるほどな。それで織斑先生からたっぷりお叱りの言葉を受けていたのか……おっと、もうゾフィーの腕のパーツは外してくれて構わない。元通り倉庫のUシリーズNo.2の腕パーツに返しておいてくれ」
パーツ、人材共に豊富なMー78社、本社の技術室。そこでタイラントとの激闘で破損したゾフィー。そして自機であるヒカリ。二機のISの修理を研究員に指示を出しつつ同時に行いながら、慎吾の話を聞いていた光は作業の手を止めて小さく笑う。
その体には当然のごとく慎吾同様に戦いで負った傷が残っており少々動きがぎこちなく、服装も病室から抜け出して来たのかパジャマの上から白衣と言う珍妙な姿ではあったが、それは今回のタイラントとの激闘で二度も『失策』となる手を打ってしまい、仲間達を危機に晒してしまった。と考えている光なりの責任の取り方であり。それを自分が止めた所で光は納得しないだろうし、そもそも変な所で頑固な彼女は話を聞いてはくれないだろうと理解している慎吾は、光に呼ばれてマリにどうにか許可を貰って病院の隣にあるM78社へと赴いた時から、光を止めるような言葉を言うことは無かった
「まぁ……俺もお前と似たようなものさ。作戦終了後、即座に治療室に入れられてそのまま入院となった翌日から、ISの修理に当たりたい。と、マリさんを説得したら怒りを通り越して呆れられてしまったし、ケンさんまで苦笑いしてたよ……ふぅ……」
そこで一休みに入った光は作業場を放れると、慎吾が腰掛けていた来客用のテーブルと共に設置された椅子。慎吾の隣に自然な動きで腰掛けると深くため息を付いた
「疲れているようだな光……体は大丈夫か? 君ならば自分のペース管理は分かっていると思うが、何なら君も私も病み上がりなのは事実なんだ。私としてはゾフィーの修理はもう少しゆっくりしてくれても構わないんだが……」
そんな様子を見て、体の疲労に気が付いた慎吾は少し心配するように光に訊ね、同時に妥協案を提供する
「気持ちは嬉しいが、そんな訳にもいかないさ。これは俺の責任でもあるからな……。それに今日は後、一時間作業をしたら病院に戻る予定だし……最近になって入った優秀なメンバーが手伝ってくれているから大丈夫だ」
しかし、光は慎吾の出した案を静かに首を降ると苦笑し、少し申し訳なさそうに断った
「そうか……それなら良いんだが……」
慎吾も、その答えはある程度予測していたのか、それ以上踏み込むことは無く、あっさりと引き下がり
「…………!?」
ふと修理中の自身のISゾフィー。その作業に当たっている二人の研究員に気が付いた瞬間、慎吾は驚愕に目を見開いた
「あぁ、そうそう。その二人がさっき俺が言った優秀な新人……『
先月。と言う数字で慎吾はふと記憶の片隅に止めていた1つの出来事を思い出した。
そう言えば、丁度、その頃、ケンの家の養子であり、光太郎の義理の兄である
「しかし……早田も諸星も、お前古くからの仲間だけあって、本当に驚くほど優秀だな……将来、本気でここで働いて欲しいと思うくらいだよ……」
光は心底感心している様子で二人を語るが、呆然としている慎吾の耳には既にその言葉は全く届いてはいなかった
◇某国、某諸島の無人島に作られた個人研究所◇
「くそっ! くそっ! くそっ! あの、忌々しい代表候補生共がっ!!」
額に青筋を浮かばせ肩を怒りに震わせても尚、怒りが収まらぬ様子で中年の研究員の男はたった今まで自身が脇目も降らずに見ていたモニターを苛立ちのまま掴むと床に向かって投げ捨てた
「よくも……よくも私の最高傑作! まさにパーフェクトスペックは機体タイラントを! 約束された私の夢を……っ!!」
そのモニターに写し出されているのは、男がこっそりと各国共同開発の際に仕込んだメモリーチップから経由で自身の端末へと送られる。タイラントからの映像やタイラントのエネルギー残量などのデータ。現在、そこに表示されている目盛りは全てがゼロへと変わり、映像はブラックアウト。男がデスボーンを発動させた影響でタイラントがシールドエネルギーゼロを通り越して『コアごと完全破壊』された事を伝えていた
「私のタイラントが専用機持ち、そして篠ノ之博士の作り上げた第四世代のISを全て破壊すれば……誰もがそのタイラント発案、設計した私のブレインを……篠ノ之博士より遥かに優れている私の頭脳を世界の誰もが認めた筈なのに!!」
怒りが収まらぬ様子で整理されていない自身のデスクにある物を投げ散らかす。そう、彼こそが研究員達の目を盗んでタイラントを暴走と見せかけて陰ながらこの研究所で操り、さも責任を取るかのように、しかし裏では『広告』としめタイラントのデータを公開し、更には『尾』の存在を隠し通す事を官僚に提案した男。開発グループの副リーダーで『エクセラ』と名乗る。一人の野望に歪んだ頭でっかちの男は激昂しながら叫んだ
「はぁはぁはぁ……私とした事が少し冷静さをロストしていたようですね……我ながらお恥ずかしい……」
が、元より一般研究員と比べても基礎体力が欠けているエクセラにはそこが限界だったらしく、肩で息をし始め、それと同時にエクセラは落ち着きを取り戻した
「はぁはぁ……ここは、落ち着いて『今は』まぁいいとしておきましょう……。パーフェクトな頭脳を持つ私には、万が一を兼ねて準備していたタイラントに負けない程、スペシャルISのデータがあるのですから……」
個人的な研究所故、エクセラ一人しかいない薄暗い研究室の中、すっかりいつもの調子を取り戻したエクセラはニヤニヤと一人で笑いながら自身が投げたモニタを再びデスクの上に持ち上げると、新たなファイル。エクセラが考え出した新ISの設計図が書かれたファイルを端末のデスクトップに立ち上げた
「その名も、『ファイブキング』! このISを作り上げてリベンジを果たすのと同時に、今度こそ私の実力を世界に……!」
脳内に輝かしい自身の未来を思い浮かべ、思わず勝利を確信した笑顔を浮かべるエクセラ。
その瞬間だった
目映いばかりの光が、島を、研究所を、そしてその中にいたエクセラを跡形も無く、まるで『島そのものが最初から無かった』かのように吹き飛ばしたのは
『ただのうっとおしい勘違い頭でっかち馬鹿だと思って無視してたけど……流石にいっくんや箒ちゃんに本気で手を出そうとしたのは許せなかったからね~……ゴミ掃除ゴミ掃除っと、たまには世界の為になることするのも悪くないよね~うん、束さん満足!』
研究所ごと跡形無く蒸発した島のあたりからは、そんな兎耳の科学者の声が聞こえていたがそんな声を聞いたものは爆風の衝撃で荒れる海と潮風以外に何も無かった
ついに六兄弟全員を今回の話で(名前だけ)登場させました。そして、今回の事件の真の黒幕としてエクセラーさんも登場していただきました。ファイブキングも稼働する所も考えてはいたのですが、断念した結果、不満に思われる方もいられるでしゃうが今回の結末とさせていただきました
次回から原作本編と戻ります