やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。 作:フリューゲル
FateのホロウのVita版を買いました。一度やった内容ですけど、声があるとより一層楽しめますね。
凄く面白くて、ついつい進めてしまいます。
積ゲーを消化せねば……
それでは、ご覧ください。
外に出ると強烈な光が差し込んできて、思わず目を細める。
まだ気候は夏どころか梅雨にも少し早いくらいだが、降り注ぐ日光の強さは既に夏を感じさせる。オゾン層は一体何をやっているのかと思ったが、あれは紫外線だかを通さないだけであって、光自体の関係ないのか。完全に思い出補正な気もするが、昔の方が日差しも弱かった気がするぞ。
まだ午前中でこの日差しの強さだったら、午後には暑くなるのかもしれない。
サイクルポートのような便利な外構がない我が家で、野晒しにされている自転車に跨がると、案の定大分熱くなっていた。
駅へ向けて自転車をこぎ始めると、思いのほか顔に当たる風が気持ちいい。どうやら空気自体はそこまで熱くなっていないらしい。
ちなみにだが、自転車の最大の敵は風である。海辺に近いと冬にはからっかぜと呼ばれる風が東西南北関係なく吹きすさぶため、行きも帰りも向かい風になるという意味の分からない現象にかられる。
帰りが追い風だと思って頑張ったあげく、復路も向かい風だった時の絶望感は計り知れない。
「八幡さんじゃないですか、どこか行くんですか?」
聴き慣れた声を振り向くと、私服姿の切花が近づいて来ていた。
黒のストッキングと少し明るいベージュのショートパンツを組み合わせ、トップスには薄ピンクのブラウスでその華奢な体を包んでいる。肩に革製のトートバックを掛けていて、いかにもお出かけという格好だった。
思わず足下に目をやると、背の低いサンダルを履いていた。
どうやら切花の目線が俺よりも高くなることがなく、安心する。
「ちょっと街に本でも買いに行こうと思ってな」
そういえば都会と田舎の違いとして、駅を中心とした繁華街を駅名で呼ぶか、街と呼ぶかの違いがあるらしい。地方都市の場合、基本的に繁華街が一つしかないとともに、駅名が市町村名となっていることが多い。自分の所在地に行ってくると言うのは、どこかおかしな感覚でもあるので仕方がない。
「奇遇ですね、私も街に用事があるんですよ」
「何か買いにいくのか?」
「そんな所です。……そうだっ、買い物の後、ちょっと付き合ってもらっていいですか?」
切花が控えめな表情で聞いてくので、頭の中のスケジュール帳を開いて、今日の予定を確認してみるが見事に白紙だった。というか全てが空欄でスケジュール帳の意味がない。このスケジュール帳は二度と使うことはないだろう。
「何の用事だ?」
「行けば分かりますよ。八幡さんにも関係あるものです」
買い物が終わったら家でごろごろしようと思っていたが、どうしようか。
それでも切花の言葉が少し気になる。切花とは接点が強いようで、家以外はほとんどないのである。その切花が俺に関わると言っているということは、それなりのものなのかもしれない。
……少し考えて、結論を固める。
「ん、じゃあ行くか」
そう言って自転車から降りて、自転車を引きながら歩き始める。ここから歩きだと少し遠いが、仕方がない。自分よりも年下の女子が歩くのに、俺だけ自転車に乗っているのは流石にみっともない。
「えっ? 自転車乗せてくれないんですか?」
切花が驚いたように、俺と自転車を交互に見比べながら聞いてくる。何でそんな当たり前のように聞いてくるんだよ……。
「お前な、二人乗りは道路交通法違反だぞ」
そもそも合法でも乗せる気はないが。
「そうですか、じゃあ歩きで行きましょう」
切花は少し不満げな顔をして、自転車の荷台の部分を軽く撫でると、そのまま駅へと向かい始める。その足どりはいつも通りで、本気で言っているのかどうか、俺には判断できない。
とりあえず駅の近くまで行き、駐輪場へ自転車止める。
そのまま駅と複合施設になっているショッピングモールへ向かい、案内版の前に立つ。。この辺りは午後にはいつも人混みで溢れているが、まだ午前中なのか人通りも少なく、若干閑散としている印象を受ける
この分ならお互いの知り合いに会うことなさそうだ。
「私の買い物は後でいいんで、まずは本屋から行きましょうか?」
切花がそう言ってくれるので、エスカレータで三階の本屋へと行く。
「適当に買ってるから、そこら辺でも見とけ」
「いえ、特に買いたい物もないので、後ろで見ています」
「気が散るんだよ、気が」
そう返しても、切花は何が楽しいのか、機嫌が良さそうにしているだけなので、諦めてハードカバーのコーナーへと向かう。
新刊を上から下まで一通り眺めて、面白そうな本がないチェックをしていると、切花が一冊手に取っているのが目に入る。
裏表紙を真剣な目で見ながら、何か考えているようにそのまま動かない。
「お前、その作家のこと好きなのか?」
「好きというか、前に読んだのが面白かったので、気になったんですが、ちょっと高いですね」
切花は物欲しげな顔のまま、少し厚みのある本を棚へと戻す。ズボンに突っ込んでいた長財布を開いてみると、樋口さんと目が合う。少し微妙なところだな。
切花は俺の動作に気づくと、嬉しそうに頬を緩ませ、
「大丈夫です。まずはアマゾンのレビューでも見て考えます」
と言って、可愛らしく後ずさりをして本棚から離れる。
ただ、言ってることは、あまり可愛くねえなあ。いや、まあ合理的といえば合理的なのだが。というかアマゾン使うのな、お前も。
その後文庫本とマンガを悩んだ末に買い、本屋を出ることには既に正午を回っていた。どうやら思いのほか、時間を潰してしまったらしい。
「待たせて悪かったな。飯はどうする?」
「私は朝ご飯が遅かったので、まだお腹は空いてません」
「実は俺もあまり空いてないんだよな」
家を出る直前に軽くトーストをかじったので、まだまだ俺の腹は空腹を訴えていない。
「じゃあ、ちょっと文房具を見に行ってもいいですか?」
「別にかまわんが……。お前の用事って、それか?」
「違いますよ。ただ、せっかく来たので、ちょっと見に行きたいなと思いまして」
「じゃあ、行きましょうか」と弾んだ声で言って、切花が軽やかに歩き出すので、その後をついて行く。
エスカレーターに乗り、三階から五階へと昇ると、優しいパステルカラーに彩られたテナントが歓迎してくる。
ショッピングモールはフロアごとの特色をある程度絞り、客が大まかに行っても、買い物がしやすいように設計してあるところが多い。この五階は生活雑貨をメインとしているのか、文房具屋のほかにはキッチン用品や百円ショップなどが出典をしていた。
さすがに昼時なのもあり、エスカレーター自体は少し混んでいたが、いざフロアに降りると、人影もまばらとなっていた。
どうやら買い物自体はゆっくりとできそうだなと一人思う。
「何か買いたいものありますか?」
「いや、特にない」
「だったら、一緒に見て回りませんか?」
一瞬断ろうかと思ったが、先ほど付き合わせてしまったことが、頭をよぎる。一応向こうが着いてきたとはいえ、ここで付き合わないのは決まりが悪い。
「お前の後ろで見てるから、適当に回ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
文房具屋というのは不思議なもので、そこまで欲しい物がなくても、試し書きや、無駄に高機能な事務用品を眺めているうちに、気付くと時間が経ってしまう。
針のないホッチキスといい、無駄にカッコいいメモ帳といい、なんであんなに男心をくすぐる機能を追加するんだよ。ほとんど使わないが、買いたくなるだろうが。
切花はまず筆記用具のコーナーへと向かうと、少し悩みながらボールペンを取り、そのまま試し書きを始める。
特に俺はやることがないので、試し書き用の横長の紙を見てみると、「ぅちらの友情わまぢ不滅!!」やら「金山氏ね」とか「――太・極――」と書かれている。この街の人間関係に何やら不安に思わなくもない。
あと最後の奴は間違いなく中二病だな。
「八幡さん、ガラスペンがありますよ」
「ん、何だその強度に不安がありそうな筆記具は?」
切花が指を指す方へ首を向けると、半透明ガラスで形作られたペンが、少し蒼みがかったインクと一緒に陳列されていた。
……名前のままだな。
面白そうに駆け寄る近づく切花に付き添って傍に寄ると、どうやらこれも試し書きができるらしい。
切花が持ち手が装飾されていくペンを手に取り、インクにペン先を浸して、真っ直ぐに引き上げる。すると濡れたような黒色が側面の溝にするすると通っていく。
上手ことインクが入っていくので、思わずしゃがみこんで見入ってしまう。理屈はよく分からないが、おそらく何らかの圧力でも働いているのだろう。目に見えない力というものは、えてして目に見えて大きな現象を引き起こす。
しばらく透明なガラスに漆黒が満たされていく様子を見入っていたが、口唇を撫でる生暖かい吐息によって意識が引き戻される。
顔を上げると、切花が今にも頬が触れそうな距離でガラスペンを眺めていた。というか頬がくっついていないだけで、肩は当たっていた。
切花はこの体制に気付いていないのか、口元に笑みを浮かべ、興味深そうな目をしながら、ペン先が染まっていく様子を眺めている。
……やばい、思わず薄紅色の艶めかしい口唇や、光沢のある漆のような瞳に目線が奪われてしまう。切花の口から洩れる吐息が顔に当たりくすぐったい。
頬が熱くなっていることに気付き、飛び引くように立ち上がる。切花はそのままの体勢だったが、やがてガラスにインクが染みわたると、用意されている紙にすらすらと試し書きを始める。
切花が適当に丸やら漢字を書いている間、戸棚に飾ってあるインクの色を見比べて、心を落ち着かせる。
ラベルによると様々な顔料を使って色を出しているそうだが、今の俺では細やかな色の違いを区別することはできなかった。
……切花がじっくりと書いてくれて助かった。この顔の熱さが引くまでには、もう少し時間がかかりそうだ。
しばらくしてインクが無くなったのか、名残惜しそうにペンを置くと、こちらを振り返る。
「意外に長持ちするんですね。これなら普通に使えそうです」
「……おう」
そのまま何も買うことなく、切花が出口へと真っ直ぐに向かうので、少し物欲しそうな顔に声を掛ける。
「結構気に入ってたが、買わないのか?」
「ペンとインクを買っちゃうと、それだけでお小遣いがなくなっちゃいますよ」
二人して文房具を出て、目配せしてこのあとどうするか尋ねる。
「お待たせしました、次から私の買い物です」
と言って人差し指で下を指す。どうやら下の階に幼児、違う、用事あるらしい。いや幼児はいるだろうが。
人並みを縫いながら一階へと降りると、切花は入り口に面している花屋へと入っていく。外観からして色とりどりの花が並んでいて、男が入っていく姿が一切見えない。
……花屋なんて人生で一度も入ったことがないぞ。
一人で行かせるのも決まりが悪いので、思い切って入ると、鼻の奥を軽く触るような匂いが漂ってくる。花屋というといい香りかと思っていたが、色々なにおいが混ざって、良いとは言えなかった。
切花は慣れた様子で店員と話すと、名前の知らない花を白、黄色、紫の三輪選ぶと、一束にしてもらって購入した。
さっきの買い物が長すぎたので、思ったより拍子抜けしてしまった。
荷物になりそうなので、花束へ手を伸ばすが避けられてしまう。どうやら自分の手で持ちたいらしい。
「じゃあ、行きましょうか」
「いや、どこに行くか聞いてないんだが……」
「大丈夫です。すぐに分かりますよ」
多少不安であるが、口元をほころばせてる切花を見ると、どうやら変な所に連れて行かれることはないだろう。
こいつの場合、こういう顔をしているときは、案外真面目な要件だったりするんだよな。
ご覧いただきありがとうございます。
実はこの回が、ここ最近で一番早く書くことができました。
こんなペースで投稿できたのが信じられないとともに、かなりノリノリで書いてしまいました。
女の子を可愛く書こうと思ったら、どうやって八幡を照れさせるかどうかを考えていました。
それでは、ご覧下さい。