やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。   作:フリューゲル

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こんにちは、フリューゲルです。

最近スマホの画面が見事に割れてしまいました。前に使っていたスマホと一緒に落としてしまったのですが、古いほうの画面は生き残って、新しいほうが割れるという事態に陥りました。

直すのも面倒なので、そのままにするつもりですが、なんだかやるせない気持ちになります。

……保護フィルム張ってたんだけどなあ……

それでは、ご覧ください。




その4 ~乙女たちのガールズトーク~

「じゃあ、朱音ちゃんとヒッキーって、幼馴染なんだ!」

 

 

 

 由比ヶ浜が、やたらと不健康そうな色をしているメロンソーダを、氷もろともストローでかき混ぜながら言った。

 

 

 雪ノ下と由比ヶ浜が席に着いてから十分くらい経ったが、会話は和やかに進んでいる。

 

 

 初対面の場合、本心かどうかは別として、女子のほうが話せるとも聞くし、この中で好戦的な奴は一人しかいない。その一人も基本的にはカウンター型なので、挑発しなければ問題はないため、特に雰囲気が悪くなる要素もないだろう。

 

 

 

「一応小学生からの付き合いなので、たぶんそうなります」

 

 

 

 切花も最初のうちは少し堅かったものの、すぐに表情が柔らかくなり、それなりに打ち解けて、軽く冗談まで言っている。

 

 

 そういえば、切花と出会って七年くらいにはなるのか。そう考えると家族を除けば最も長い付き合いになる。もし付き合いの年数を棒グラフ化すれば、恐ろしく突出したグラフが出来上がるだろう。

 

 

 

「あの頃は、兄も可愛かったですねー。お二人にも是非見せたいですよー」

 

 

「比企谷くんの幼い頃ね……。途轍もなく可愛くない子供しか想像できないわ」

 

 

 

 小町と切花が俺の昔話を面白可笑しく話し始めると、雪ノ下たちも興味深そうに聞き入り、時折茶々を入れては楽しんでいる。

 

 

 女子の会話にはどうも入りづらい。

 

 

 そもそも話題の展開が早すぎる上に、やたらとファッションの話に入る。しかも俺には理解できない横文字が飛び交い、ファッションなのか海外の風習を言っているのかの区別ができない。まだ世界史の人物の名前のほうが覚えやすい名詞が並んでいる。

 

 

 そういうこともあり、俺は世界史の教科書とにらめっこである。脱出はできないが、端っこにいるので話に参加しなくても違和感はない。

 

 

 千六百十六年、ヌルハチと。民族が違うとはいえ、なんでこいつだけ片仮名なんだろうな。しかもその後に出てくる奴らが覚えにくい、書きづらいことこの上ない。康煕帝、雍正帝、乾隆帝の三人だが……。しかもこいつら一ページに収まりやがるからな。

 

 

 漢字書きたくないから世界史を選んだのに、なんでこんな目に遭ってるんだよ……。しかも世界史の担当は、テストの時には嬉々として漢字のミスを減点してくる。三国志前後のテストで十五点分を漢字ミスで間違えたときには、本気で泣きたくなった。

 

 

 

「是非、うちに来て写真を見てくださいー。ホントに可愛いですよ」

 

 

 

 なんだか不穏な提案を小町がしてくる。俺の子供の写真とか、本当に恥ずかしいので、やめてください。しかもその後、大体卒業アルバムまで見られそうで怖い。中学卒業の卒業文集なんて黒歴史でしかないぞ。

 

 

 このまま家に来られても困るので、切花にレスキューを出す。

 

 

 

「おい、なんとかできんか?」

 

 

 

 切花は俺のシャーペンを取り、俺の教科書に何故か隷書体で、『無理です』と書いてくる。やはり『無』は隷書が映えて美しい。行書や草書は目に映る美しさが分かりやすいが、隷書には、不思議な魅力にあふれている。

 

 

 ……というか、なんで口に出さないんだよ。

 

 

 もう一度催促の意味を込めてシャーペンの頭で切花を小突くと、切花はため息を吐き、

 

 

 

「そういえば、お二人ともお綺麗ですけど、恋人とかっていないんですか」

 

 

 

 と切り出してくれる。何だかんだで甘い奴である。

 

 

 

「あたし? あ、あたしは、いないかなー」

 

 

「私もいないわね」

 

 

 

 奇遇だな、実は俺もいないんだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 思わず俺たちの間に悪い空気が流れる。俺のグラスの氷が弾け、甲高い音が響く。

 

 

 

「こ、小町ちゃんたちはどう? 二人とも可愛いけど」

 

 

「私たちもいませんねー。朱音ちゃんは結構告白されるんですけどね」

 

 

 ……おかしいな、ここにいる奴らは客観的に、見た目が良い奴がいるはずなんだが。

 

 

 隣の切花を流し見ると、手の甲を顎に乗せていた。中学生らしく、化粧っ気はないが、睫毛は適度に上を向いていて、こうして見ても整った顔立ちをしているのが分かる。

 

 

 

「ほえー、告白された中で、誰かと付き合おうって思ったりしなかったの?」

 

 

 

 由比ヶ浜が控えめに聞くと、雪ノ下が切花をフォローする。

 

 

 

「告白されたからといって、誰かと付き合おうと思うのは早計よ」

 

 

 

 おそらく、この中で一番告白されているだろう雪ノ下の言葉なだけに説得力がある。こいつもそれなりに告白され、付き合わないかと周りから囃したてられたことがあるのだろう。

 

 

 そして聞いたことはないが、切花も同じような事態には一回くらいに遭遇しているだろう。恋愛がらみの話は驚くべき速さで拡散し、誰かの話のネタになってしまう。

 

 

 

「付き合おうって思ったことはないですね」

 

 

「誰か、す、好きな人がいるの?」

 

 

 

「そういう訳じゃないんですけど。……なんというか、恋愛的に好きじゃない人と付き合って、デートとかしてして、相手が私を喜ばせようと頑張って、それでも相手のことが好きになれなかったら、なんか申し訳ないじゃないですか」

 

 

 

 それは、この前深崎くんと話していたこととは少し似ていて、どこか違っている言葉だった。なんかこいつって、自分の感情に自信がないんだよな。

 

 

 意外に真面目な言葉だったので、由比ヶ浜が少し驚いている。

 

 

 

「だから私は、自分が好きになった人しか付き合いません」

 

 

「でももし、その人に振られちゃったらどうするの?」

 

 

「その時は、諦めて他の人でも探します」

 

 

 

 切花は笑顔でそう言った。

 

 

 雪ノ下も由比ヶ浜も押し黙り、何か言うことを探している。小町は、いつもと変わらない。

 

 

 流石に気まずい空気になったのを気にしたのか、切花は「そろそろご飯でも食べましょう」と言うと、チャイムを鳴らした。

 

 

 各々好きな物を注文し、ドラマや最近の流行りの話をつまみにしながら食べ始めると、さっきの雰囲気が流しだされ、ゆったりとした会話に戻り始める。

 

 

 会話をしているうちに、いつの間にか夜の帳が降りてきて、町が人工的な無機質の灯りに照らされ始める。小町も切花も中学生なので、早めに帰るように促すと、その場でお開きとなった。

 

 

 会計を済まし、ファミレスから出ると、空は墨汁を流し込んだように染まり切っていた。

 

 

 ここからだと俺の家と切花の家が近いため、まずは小町と切花を家まで送り、そこから雪ノ下と由比ヶ浜を見送りに行く。

 

 

 

「ヒッキーとあんなに距離が近い子って、初めてみた」

 

 

 

 俺を先導する由比ヶ浜が、振り向きながら話しかけてくる。

 

 

 雪ノ下は少し前の信号で別れている。意外にも切花を気に入っているらしく、また会ってみたいと少し機嫌が良さそうに言っていたのが印象的だった。

 

 

 

「まあ、付き合いだけは長いからな。小町二号みたいなもんだ」

 

 

 

 なんか小町二号って、宇宙船みたいな響きがするなと、頭の隅で思いつく。

 

 

 

「あんな風に話せるんだったら、もっと学校で愛想よくすればいいのに……」

 

 

「それができなかったから、今ぼっちなんだろうが」

 

 

 

 引きこもりだって、家族と会話をするときだってある。だからなんというか、

 

 

 

「ま、あいつは例外みたいなもんだ」

 

 

 

 小さい頃は小町とワンペアみたいに捉えていたから、どうしても接し方が小町と同じくらい近くなってしまう。

 

 

 少し意識をしすぎて疎遠になった時期もあったが、結局妹以下、知り合い以上という関係に落ち着いた。

 

 

 最近照明の灯りが控えめになったコンビニの前に、同じ高校の奴らがたむろしているのが見え、由比ヶ浜から距離をとる。由比ヶ浜は足音が遠くなったのに気付いたのか、不思議そうな顔をして振り返った。

 

 

 

「ほら、そういうとこ」

 

 

 

 由比ヶ浜が頬を膨らませながら歩みを止めて、俺の隣に並ぶ。

 

 

 

「あたしとかゆきのんだと、距離に気を使ってるでしょ? けど、何か話をしていても朱音ちゃんにはそういうのがなくって」

 

 

「…………」

 

 

「だからあたしたちにも、もう少し遠慮をしないでくれると、嬉しかったりする」

 

 

 

 由比ヶ浜はそれだけを恥ずかしそうに言うと、早歩きでまた俺を先導し始める。

 

 

 沈黙を埋めることばを探したが見つけられず、そのまま夜道をしばらく歩くと、綺麗に並んだ住宅街へと景色が変わる。

 

 

 

「ここまでで大丈夫。送ってくれてありがとね」

 

 

 

 等間隔に配置されている街灯を歩く、由比ヶ浜の小さな背中をじっと見つめた後、俺はそのまま帰路へとついた。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

最近書いていておもうのですが、ラブコメを書くのが本当に苦手です。
友達と話しているときは、湯水のように話題が出てくるものですが、実際に文章にして起こそうとすると、どうも頭の中から抜けてしまいます。


皆様に楽しんでいただけるよう、ラブコメのほうも研究したいと思います。


それでは、また次回。

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