やはり幼馴染なんてものは、どこかまちがっている。 作:フリューゲル
本編最終回で書いた通り、これから番外編になります。
全5話の内の1話目です。
話はちょっと変わるのですが、今回から改行の仕方を少し変えました。
本当は本編も返るべきなのですが、意外と量が多いので、番外編だけにしました。
それではご覧ください。
番外編その1 ~正しい彼女の紹介のしかた~
十四歳。それは大人と子供の狭間に位置する年齢であり、それ故に思春期と呼ばれる複雑な感情を有している。エヴァンゲリオンに乗れるのもこの年代だけだし。
小学校を卒業し、ちょっとだけ大人が見える年代。男子はだんだんと少年漫画を卒業し、厨二病の世界へと足を踏み入れる。逆に女子はだんだんと女らしさを獲得し始めロリコンを絶望させる。
彼ら、彼女らに共通するのは自分が子供ではないという自意識であり、それゆえに男女ともやたら背伸びをする奴らが多い。
大人を演じるために大人の真似事をするが、それはやっぱりただの真似事だ。煙草をくわえても蒸かすだけだし、恋愛なんて徐々にお互いの関係を深めていくしかない。
当人たちがどう思おうともやっぱり子供であり、世間も常識もないこの年代は、不安定ながら行動力があるために、色々な問題を起こしたりもする。盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎の窓ガラスを割って回ったりと例を挙げたらキリがない。大人たちも彼らをそういう目で見るせいか、十四歳の女の子が母親になったドラマも放送されたりと、まあ世間の十四歳に対する認識というのは子供、の一言に限られる。
何が言いたいかといえば、どんなに容姿が大人っぽくても、十四歳は十四歳であるということでる。そしてそんな女の子と付き合っている高校生は、世間から少し冷たい目で見られるということだ。
たかが二歳、されど二歳。もう少し歳を取ればそんな年齢差なんて大したことじゃなくなるのに、俺たちにとっては大きな差である。そういや平塚先生に二十八歳を三十路といったらすげえ傷ついた表情をされたな。……とにかく中学生女子からすれば、高校生と付き合っているのはある種のステータスかもしれないが、高校生男子からすると、中学生女子と付き合っているということは、やっぱり後ろめたさを感じてしまうものなのだ。
つまり、たとえそんな浮かれてしまうような事態に陥っても、やたらめったら広めずに、親しい友人たちにだけ知らせておくのが、冴えたやり方なのである。そんな奴らほとんどいねえけど。
―――――――
「あの映画、やっぱりあんまり面白くなかったですね」
こちらを覗き込んで微笑むと、その言葉の内容とは裏腹に弾んだ調子で切花は言った。その拍子に真っ黒な長い髪が風と一緒に揺れている。
だんだんと本格的な夏が始まり、青空から差し込んでくる光がより一層眩しくなってきた七月の中頃。学生最大のイベントである夏休み……前のテスト明けの最初の休みである今日、俺は切花と一緒に街へ出掛けていた。お互い一学期の期末テストを乗り越えた、ほんのご褒美というやつである。
ちなみに、これまでの定期テストと違い、雪ノ下という強力なブレーンを得た俺と由比ヶ浜は、雪ノ下のスパルタ教育に必死に耐え、自己採点の結果どうにか赤点を回避した。それと一緒に雪ノ下が家庭教師に向いていないということもよく分かった。あれに比べれば自力で何とかしたほうが楽なのかもしれない。
「というか、事前につまらないと知ってたなら、別のやつを見ればよかっただろ」
「でも、ある意味面白かったんです」
「そりゃ、面白いの意味が違うだけだ」
テスト明けに遊びに行くことは事前に決めていたので、テスト勉強の合間にどこに行くのかを考えていたりもした。なかなかいい案が浮かばないので、井杖先輩に相談をした。
純愛思考系ビッチという珍しいジャンルの先輩ならば、正統派デートを何人と繰り返しているだろうから、初心者に最適なデートスポットをお勧めしてくれるだろうという期待を込めてである。まあ、裏切られたけど。
井杖先輩はにやにやとからかうような笑顔を浮かべては俺の肩を叩き、「青春してるね~」と言って、装飾された学校指定のバッグからA4ファイルを取り出て、俺へと差し出してくる。ファイルの中に入っている紙を取り出してみると、最近公開されている映画のチラシだった。
いつもの様に指をぐるぐると回しながら先輩は、「このチラシの映画は全部だめなやつだから、絶対おすすめ」と矛盾していることを言い放ってきた。
……そういやこの人、クソ映画愛好家だったな。
何となくこんな趣味があるから彼氏と頻繁に別れるじゃないかと思いつつ、その笑顔に負けてチラシを受け取ってしまったので、切花に行くかどうかを聞いてみると、意外にも二つ返事でオーケーが出た。何やら悪い趣味にはまりそうで本気で心配である。
というわけで本日朝一番に家を出発し、映画館まで遠征をしたわけだが……まあ、映画の出来は期待通りというか、案の定であった。
せっかくの休日ということもあり、映画館には夫婦や友達同士など多くの人が溢れていたのにも関わらず、俺たちが入ったスクリーンは驚くほど観客がおらず、俺たち以外には二、三組しかいなかった。そのわずかばかりの客たちも劇場を出ると一様に苦い顔をしていた。たぶん
映画館を出たあとは、行く当てもなくふらふらとしながら街中をさまよう。何日か前に梅雨が明けたこともあり、午前中から太陽が燦々と輝いて、建物のガラスを乱反射させていた。それでも夏の朝特有の透き通った空気がどこか心地よかった。
「それで、このあとはどうする? 飯にするにはまだ早いだろ」
「そうですね……八幡さんは普段はどんな所に行くんですか?」
片手で顔を扇ぎながら、切花は素朴に尋ねてくる。そんな様子にも関わらず切花は汗をかいているようには見えない。俺は暑さにやられて、すでに何滴か汗がこぼれているというのに、女の子は不思議である。
「つってもなあ。俺だって本屋か図書館ぐらいにしか行かねえし。……あとは、ゲーセンぐらいだな」
「ゲームセンター、ですか? そういえばあそこ入ったことないです」
「そうなのか。友達とプリクラとか撮りに行かねえの?」
女子中学生とか、遊びに行く度にプリクラとか撮るイメージがあるが。中学のときもプリクラ交換なんて女子の間で流行っていたし、
小町なんかも時々切花以外と撮ったプリクラを俺に見せてきて、「この子可愛いでしょ」とか聞いてくるが、どう答えたらいいか未だに分からん。実際に可愛けりゃ返事のしようもあるが、プリクラで微妙な場合、実物はほぼ残念だからな。「ま、まあ可愛いんじゃねえの」くらいしか言いようがない。ツンデレではなくて。
「今時はゲームセンターじゃなくても、プリクラは置いてありますから。私たちだとそっちの方が行きやすいんです」
まあゲーセンって不良の溜まり場みたいなイメージがあるから、避けてしまうのも仕方ない。アウトローはどうしても見逃しやすいからな。逆に桑田とか好きそうだし。
そういえば駅マチのレディース服売場の近くに、プリクラっぽい機械が置かれていたような気もする。何年か前にプリクラエリアは男子禁制になったらしいが、あんな場所に置いておけば、男なんてそもそも来ねえだろとは思う。
「折角話題に出たので、ゲームセンターにでも行きます?」
切花が足を止めて方向転換したので、その背中に話しかける。
「行きづらいんじゃねえのか?」
「男の人と一緒なら平気ですよ。プリクラでも撮りましょうか」
振り返って俺に笑いかけると、そのまま足を止めることなく切花は進んでいく。
なぜゲーセンと聞いて一人の男の顔が勝手に思い浮かんできたが、その顔がやたら腹立たしかったので、踏みつぶして切花の後ろについていった。
―――――――
駅から少し歩いたところ、周囲の華やかさに紛れながらその雑居ビルはあった。近くには飲み屋なり、カラオケなり、ラーメン屋がひしめいている中、絶えず電子音が鳴り響いている場所こそ、この街のゲームセンターである。
飲み屋街なせいか、まだ午前中なためか人影はまばらで、高校生や中学生、あとは通り道にしている家族連れがちらほらいるだけだった。夕方以降のアルコールと煙草の匂いとはまた別の、若さと暖かさ、そして陰気さが混じった奇妙な雰囲気を醸し出していた。
「こんな所にあったんですね」
切花がゲーセンへと繋がる自動ドアを眺めながら、感慨深そうに粒や浮いた。
「何だ、来たことはなかったのか」
「さっきも言ったじゃないですか。女子が用事も無しに入る場所じゃないんです」
拗ねたように返すと、切花は少し汚れた自動ドアをくぐった。
俺も切花を追うように店内に入ると、洪水のような音が一斉に襲ってきた。メダルが擦れ合う音、高低音が絡み合った電子音に人の騒ぎ声、それらが合わさった不協和音が一体に耳に届けられる。しかし、その雑然さが不思議と嫌いになれない、そんな場所だ。
切花は普段通りの調子で口を開いたが、言葉は雑音の波に飲まれてすぐに消えてしまった。驚いた様子で目を少しだけ見開くと、一歩俺の近くに寄った。肩と肩が、触れあう。
「何だか、別々のお店をそのままくっつけたみたい」
今度は、はっきりと聞き取ることが出来た。
「まあな、案外綺麗に沸かれてるだろ」
ここのゲーセンは男が好みそうな格ゲーやら音ゲーやらWCCFなどと、女子が好みそうなクレーンゲームやプリクラのエリアをはっきりと分けている。近頃はカップルや女子グループも積極的に誘致したいせいか、入り口にクレーンゲームを配置して、残りを両極端に振ってある。
まだ早い時間にも関わらずカップルが一組だけいて、彼氏がぬいぐるみをとるために、真剣な表情でアームの行方を追っているのが目に入った。
視線をもう少し奥へと進めてみると、常連客らしき雰囲気のやつらがすでに居座っていて、各々黙々とアーケードゲームをプレイしていた。
清潔感溢れる白色の光に目を細めながら、プリクラの筐体が集まる男子禁制のエリアへと足を踏み入れる。ネオンライトのような光が絶えず瞬いているここは、気を抜くと光に溺れてしまうほどだ。その眩しさを切花は全く気にしない風に、奥へ奥へと歩いていった。
何年か前に盗撮だの何だの言われから、このエリアはカップル以外での男子の立ち入りを禁止されている。以前はテンションの上がった中高生や酒を飲んだ大学生が、男グループだけでプリクラを撮りに行くなんてことがあったらしいが、そんな光景はもう二度とみることはないだろう。
やたらギャルっぽい女の子が描かれている暖簾に圧倒されながら、右往左往していると、「こっちですよ」といって切花が手を引いてくる。
あんまりギャルっぽい奴らと付き合いはないと言っていたが、やっぱり女子だけあってこういうものには慣れている。というか、ギャル=プリクラって発想が古いな。
切花が適当に選んだ場所に入ると、照明写真機を少し広くして、やたら豪華にしたような光景が目に入る。タッチパネルには由比ヶ浜が好きそうなポップな字体が浮かんでいた。目が痛い。
金を入れて切花が操作をすると、様々なフレームを選ぶ場面が出てきたので、切花が俺に尋ねてくる。
「八幡さん、どれがいいですか?」
「よく分からんから、適当に頼む」
「そう言われるのが、一番困るんですけど……」
眉を寄せながら返しながらも、切花はあーでもない、こーでもないと楽しそうに悩みながら、画面のフレームを切り替えていく。
「でも、八幡さんって目がのせいでカメラ写りが悪いので、ちょっと損ですよね」
「おいこら」
「冗談ですよ。……じゃあこうやって目を隠してみると、案外格好良く撮れるかもしれないですよ。ほら、私もやりますし」
腕を持ち上げると、瞳の前に置いて目線を隠す。それでも切花の口の端が緩んでいるのを見ると、本当に冗談のつもりなのだろう。だが、あれだ。どうやってもあの格好にしか見えなかった。
「俺はいいが、お前は絶対に止めろ」
思わず、力強い言葉が口から飛び出す。
男がそうやって隠す分には大して問題はないが、女の子が目線を隠してしまうと、アレにしか見えなくなるから大問題である。
切花は俺の声に目を丸くして、大きく首を傾げた。今自分のやっていることがどういうことかは気付いていないらしい。そりゃそうだ。
そのまま頭に疑問符を浮かべながらも、画面にタッチしながら設定を進めていくと、「これで大丈夫ですよ」と言って、俺のすぐ横までずれた。
硬い笑顔を作りつつ、筐体から流れる電子音声に従いながら何枚か撮ったあとに外に出ると、撮った写真が編集できるとかで切花が慣れた手つきで操作していく。切花は目の腐り具合を何とか緩和できないかにご執心で、さまざまな効果を試している。ちょうどキラキラを目の横に配置したら、切花が顔をしかめた。
時間がかかりそうなので切花に声を掛けて、プリクラエリアから出る。さすがにゲーセンでプリクラ撮って帰るのも味気ない。適当に遊ぶ必要があるだろう。あいつが何か気に入るものがないか、クレーンゲームをぼうっと眺めていく。
「むっ、あれは。……八幡ではないか!」
やたら暑苦しい声に呼ばれたので嫌々振り向くと、そこには声の通り暑苦しい風貌の男が立っていた。
そいつ、材木座義輝は眼鏡をくいっと上げると、その巨体を揺らしながら俺の所までやってくる。
「なんだ材木座かよ……何、なんか用でもあんの?」
「特になし! ただ八幡の顔を見つけたから、つい声を掛けてしまっただけだ」
「どうしてお前は、そんなとこだけ女子っぽいんだよ……気持ち悪りいな。お前も遊びに来てんのか?」
その声音と風貌にも関わらず、ジャケットを羽織っていているせいで、クーラーがかかっているのにこいつの近くにいるだけで大分暑い。
「うむ、やはり創作にはインプットが大事だからな。白紙と向かい合っていても意味がない。こうして様々なものに触れ、創造力を養うことこそが、創作の本質と言えるのだ」
「つまり全く筆が進まねえから、現実逃避で遊んでるってことか」
「そ、そうとも言うな……ふむ。お主も我と同じで一人か?」
「ああ、いや……あれだ」
思わず言葉を濁してしまう。こいつには元々切花の存在を教えていないわけだし、それに付き合っていることを伝えたら、何を言われるのか分かったものじゃない。
じっと材木座を見る。話し方からして切花と相性がいいわけでもないし、会わせたところで意味はないだろう。というか、こいつと相性が良い人間なんているのか?
とりあえず適当にこの場を去り、切花を拾って、どこか別の場所へと避難するとするか。
「お待たせしてすみません、八幡さん」
そう思って口を開こうとしたところ、切花の涼しげな声が、そして材木座へと届いた。……タイミング悪いな。
切花は俺が誰かと話していることに気づいたのか、目を瞬かせたあと、そうっと俺の奥を覗き込む。そしてちょうど口をぱくぱくさせていた材木座を無感動な目でしげしげ見ていた。
「……お友達と話しているようですし、私は失礼しますね」
「おいこら、逃げんな」
そのまま体を翻して避難しようとする切花の腕を掴んで、無理矢理止める。ほっそりとした白い腕は、ひんやりとしていた。
切花は口を尖らせて不満げな表情を作ると、目線を明後日の方向へと持って行きながら、身じろぎを一つした。
「ほら、お友達も待っているようですし、せっかくなんでゆっくり話して下さい」
「俺だって、こいつの相手するのは疲れるんだよ。お前のこと材木座にバレた時点で一蓮托生だ」
「でも私、こういう人は苦手で、何を話していいか分からないです」
「……とりあえず声の大きさを下げろ。こいつ、意外と傷つきやすいんだろ」
ほら、材木座が少し涙目になってんじゃねえか。
切花が諦めたようにため息を吐いて俺の隣に並んだので、名残惜しさを感じながらも腕を放す。
材木座は未だ口をあんぐりと開いたまま、腕をぷるぷると振るわせて切花を差すと、
「は、八幡……、このご婦人は?」
微妙に切花の機嫌が悪くなったのが分かった。
「ご婦人って、こいつそんな歳じゃねえぞ。ああ、あれだ……切花って名前で、妹の友達で……、俺の幼馴染みたいなもん」
最近追加された新たな肩書きについては、何も言わなかった。一応切花に目配せをすると、特に抵抗なく首を縦に振った。
その様子が材木座の心を苛立たせたのか、「けっ、リア充が」と憎々しく吐き捨てると、眼鏡をくいっと持ち上げた。
「八幡、見損なったぞ。我と共に童貞に優しい世界を作り上げると約束したのではないか」
「してねえし、思ってもねえよ。あとお前は信じるな」
切花が本気で引いているのが分かったので、頭を小突いておく。
材木座は、まるで木星から帰ってきたように傲岸不遜な態度で胸を反らすと、やたら大げさに両手を広げた。腹の脂肪がたぷんと揺れる。
「童貞の足を引っ張ることしかできないリア充どもに何ができる? 常に世の中を作ってきたのは一握りの童貞だ」
「違う。というか童貞なら世の中作っても、後の残せねえだろ」
「そもそも、この小娘のどこに年下幼馴染要素があるというのだ?」
切花が年下だと分かったからか、やたらと強気になって聞いてくる。清々しいほどのゲスさであるが、不思議と嫌いになれない。絶対好きにはならないが。
「はい? 私ですか?」
まさか自分に振られるとは思っていたのだろう。近くのガラスの中にはいっていたぬいぐるみを見ていた切花が、意外そうに振り返る。
今日の切花は、膝丈まで伸びた黒のスカートに、半袖のブラウスを合わせた格好なので、まあ大人っぽい姿ではあるが。
目を瞬かせた切花が、俺と材木座の顔を眺める。材木座は切花と目が合うと、すぐに顔を逸らして、俺へと向き直った。
「ところで八幡、この子とは家が隣なのか?」
「違げえよ。歩いて十分くらいだ」
「ぷっ、その距離で幼馴染とか。あだち先生が聞いたら爆笑ものだぞ」
「それほぼタッチのイメージじゃねえか。H2だと少し家離れていただろ」
そもそもお隣さんに同世代の女子が住んでいる方が珍しいだろ。幽遊白書だって幼馴染設定だけど、家は離れていたしな。
切花はぴんと来ないのか「酒屋の息子だろ?」などとよく分からないことを呟いていた。うん、どうして英雄だけを知っているのか聞いてみたい。
「しかも年下なのに、ロリ顔ではないし無駄に背が高いし……何より八幡のことをお兄ちゃんと呼んでいないではないか」
さらに切花の機嫌が悪くなった気がする。
「いや、妹の友達にお兄ちゃんと呼ばせたら、犯罪だろ」
それでもまあ、材木座の言いたいことは少しだけ分かる気がする。こいつは年齢の割に背が高いし、それに伴って顔立ちや言動がやたら大人びている。制服を着ていないと、たまに本気で中学生ということを忘れそうになる。
隣に立つ切花の顔を覗くと、瞳の色と同じ色の髪が目に入る。肩まで伸びたそれは、初めて会ったときよりも多少短くなっているものの、束ねていたりしていない。ずっとストレートのままだ。
……だからだろうか、自然と切花は大人びて見えてしまう。
そう考えてみると、こいつって年下要素ほとんどねえな。
「いいか、八幡。年下の幼馴染というのは、ショートカットで背が低くくて、ついでに胸も無いけれど、お兄ちゃんと呼んでくれる、そんな子がいいのだ。お兄ちゃんのことがずっと好きだけれどもなかなかいい出せないもどかしさ、それが至高なのだ。そんな隣のお姉さんみたいな年下幼馴染など、所詮は二流よ」
「……はいはい、じゃあ今度そういうラノベでも書いて見せてくれ」
ほぼ材木座の願望じゃねえか、それ。
そんな気持ち悪い妄想を聞かされた切花は、終始顔をしかめていたが、何かを思いついたように、ぱっと表情を明るくすると、
「……それなら、その、座木材さんが言う幼馴染要素に、一つだけ当てはまっているのが私にありますよ」
「ふっ、ふむ、何だ」
「名前、微妙に間違ってるからな」
そんな俺の小言を気にせず切花は、小町のような笑みを浮かべると、するっと俺と腕を絡めながら、
「私、小さいころから八幡さんのことが好きでしたから」
そう言って、子供のようにちろりと舌を出した。
「……」
「……」
そのあとに響いた材木座のよく分からない悲鳴を聞きながら、最近気づいた切花の意外な一面を思い出す。
……こいつは結構、悪戯っぽい。
ご覧いただきありがとうございます。
ということで、朱音と八幡がいちゃいちゃしているだけの回でした。
完結をしたので、こういう回は作らないといけないなーと思ってはいたのですが、割とどころか、だいぶ苦戦しました。
いちゃいちゃって何すりゃいいのさ……。
そんなわけで、頭の中で番外編のプロット作った結果、割とシリアス方面の番外編も入ると思います。とりあえずデートしたりしているのは、あと1話くらいかなあと思います。
それでも、読んで楽しんでもらえるようなものを書くつもりですので、引き続きよろしくお願いいたします。
それでは、また次回。