ギィ・・・・・・・・
上等な革が張られたソファーが軋む
先ほど杏子とも別れ、真は一人別館のソファーに身を預けていた
― 己の不手際で一人の命を危機に晒してしまった ―
それは間違いようのない事実だ
保護者である織莉子に詳しい病状を伝えてもらっていなかった、そんなことは免罪符とはならない
彼がトランクを杏子に持たせるべきだった、否、彼がそれを持って出ていけばゆまも意識を失わずに済んだのかもしれない
後から後から湧き出す後悔は彼を憔悴させていった
真はちらりと自身のソウルジェムを見る
グリーフシードが必要な程ではないが若干の穢れが見て取れた
「・・・もう寝よう」
真は白いナイトガウンを羽織ると、別館と本館を繋ぐ扉へと向かう
その時、不意にソファーの裏に彼の目が向いた
「?」
ソファーと壁の隙間
特段変わったところはない
しかし微かな違和感を感じる
真は更に隙間を見つめる
隙間の中は暗い
ただ、長く見つめていくと黒い靄のようなものが微か隙間に漂っていた
暗闇よりも暗く、ドロリと粘着質な「ソレ」
それは・・
「瘴気・・・・・!でもなんで?」
人の負の感情が凝固した物質「瘴気」
魔獣を生み出すそれは通常は「自殺」や「事故」など、凄惨な事件が起こった場所に多く存在する。
確かに瘴気はそれ以外の場所でも存在する
しかし、それは霧のように漂っているのみで、このように一か所にまとまっているのは稀であるといえる
ましてやそこは日中「ゆま」のトランクが置いてあった場所だ
瘴気など溜まる理由などない
~ そういえば・・・なんでトランクが近づいた瞬間、ゆまちゃんの心音が元に戻ったんだ? ~
彼の頭の中の歯車が微かに軋んだ
美国邸
美国織莉子は父親におやすみの挨拶をすると白いネグリジェに着替え豪華なクィーンサイズのベットに腰かけていた
~ 織莉子さん・・・夜分すみません ~
織莉子の脳裏に真の声が響く
~ 真さんどうかしたの? ~
~ 今お話しができますか? ~
~ 愛の告白かしら?情熱的ね ~
~ ゆまちゃんのことです・・・ ~
「美国ゆま」、美国家の幼女であり、織莉子にとって最愛の妹だ
彼女は昼間の事件が嘘のように快活に笑い、彼女自身の部屋で休んでいる
~ 昼間の出来事は不幸な事故だった・・・それ以上の謝罪は必要ないわ ~
彼女はできるだけ、優しく諭すように彼 ― 宇佐美真 ― に声を掛ける
自分を責めるタイプである彼が昼間の謝罪に来ただけだと織莉子は思っていたのだ
~ 教えてください・・・織莉子さん ~
真は一呼吸置く
~ ゆまちゃんは魔法少女なのでしょう? ~
彼女の脳裏に浮かんだのは焦り
彼の知能を鑑みれば、ゆまの秘密を知るのは時間の問題であった
だが、それはもう少し後だと彼女は考えていた
~ ・・・・場所を変えて話しましょうか ~
~ はい・・それでは昼間の河川敷に来ていただけますか? ~
~ 承知したわ。でもあなた一人でね ~
織莉子の口調は柔らかくはあったが、有無も言わせぬ迫力があった
「女の子と夜のデートを楽しむなんて、意外と真さんも男の子なのね」
真は答えない
その表情は硬い
今、真と織莉子がいるのは昼間ゆまが倒れた河川敷
辺りを見渡すが誰一人いない
真は誰も潜んでいないことを確認すると、織莉子を呼んだ
「此処を見てください」
真が指し示す場所には黒い靄が立っていた
「瘴気ね。でも瘴気ならどこでもあるわ」
「同じ瘴気が家のゆまちゃんのトランクが置いてあった場所にもありました。それに・・・」
真が立ち上がる
「ここは僕の家から100mギリギリ。以前キュウベェが言っていました。僕らの身体からソウルジェムが100m以上離れると・・・・」
ガシッ!
不意に誰かが真を掴む
~ 誰もいなかったはず!まさか・・・・! ~
「アタシをのけ者にするなんて、ツレないな真?」
眼帯の少女 ― 呉キリカ ― が彼を拘束していた
彼は失念していた
呉キリカの二つ名 ― 変容の魔法少女 ― 彼女の変身には制限がないことを
真は身を捩るが、変身していない真が魔法少女の力に勝てるわけもなかった
さらに、金色の円盤が二人を囲んだ
美国織莉子の能力であり、武器である「アカシック・レコード」だった
「真さん・・・・貴方は真実を受け入れる覚悟はおあり?」
白い少女 ― 美国織莉子 ― が真を見つめる
NGシーン
「第一回魔法少女チキチキチキンレース!!!」
「杏子さん何ですか一体?」
二人が居るのは宇佐美邸近くの河川敷だ
夜は・・・
「らめぇぇぇぇえ!!!」とか
「ぬふぅ!」とか
「俺の中でションベンしろ」とか聞こえてくる黒塗りのバンが止まっていることの多い此処だが、夕暮れ時は人の姿もない
「真!ソウルジェムとはなんだ!」
「僕らの魂ですが」
「そう!その通り!ではその有効距離は?」
「100メートルくらいですよね?」
「くらい?じゃだめだ!だから今日の特訓はお互いにソウルジェムを置いてどれくらい離れられるかのチキンレースだ!」
何馬鹿な事を・・・と真は言いたいが、自重する
本音は僕を負かしてまた飯を奢らせようとしていると見抜いていた
「はいはい」
真は自身のオパールのようなソウルジェムを置く
「わかってんじゃん」
杏子も真紅のソウルジェムを置く
「負けたらわかってるな?」
佐倉杏子が真に向かって笑みを浮かべる
「貴方達はなんて愚かなの・・・・!」
正座する真と杏子の目の前には仁王立ちになった暁美ほむら
チキンレースのスタートの瞬間だった
二人のソウルジェムをカラスが咥えて飛んで行ってしまったのだ
無論、結果は・・・・
「私が手製爆弾の実験に来なかったら、そのまま死体安置所行きよ!わかっているの?」
「「しーましぇーん・・・・」」
「そんなに死にたいのなら・・・・・」
カチッ!
「貴方達の周りに対戦車地雷を設置してあるわ。少しでも正座を崩せば・・・・一生肉料理が食べられなくなるような光景を目撃することになるわ」
「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!!」」
「気が向いたら解除してあげるわ・・・・では二人とも暁美式チキンレースを心ゆくまで楽しんでね」
二人がその後どうなったのか?
二人は黙して語らない
やまじゅんネタは古いかな・・・・