鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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愛用していた「オリエント・スリースター」(自動巻きでデジタル表記というイかれた腕時計)が滑った拍子で粉砕・・・・
鬱だ・・・



欺瞞

 

 

夕闇の迫る見滝原

 

二人の男性が歩いていた

茶髪と金髪

ごてごてと装飾品を付けていることから、いわゆる堅気の仕事ではないとわかる

 

「だから女なんて・・・・おい!あれ!」

 

「どんしたん?」

 

ブランドモノのスーツで身を固めた金髪の男性の一人が空を指差した

彼の視線の先には絵本から抜け出したような白いドレスを着た・・・「おっさん」がビルの谷間を飛び跳ねていた

 

「女装したおっさんが屋根を飛んでるように見える・・・・リョウは見えるか・・・」

 

伝説の魔獣クネクネを目撃した哀れな犠牲者のよう彼の顔はみるみる青ざめていく

彼の小麦色の肌に冷や汗がにじむ

 

「はいショウさん・・・・・」

 

リョウと呼ばれた青年が言葉すくなに答える

 

「俺・・・・今日クラブ休むわ」

 

「俺も・・・酒飲んでないのに吐きそう・・・オエ」

 

 

 

「ちょっと!織莉子!変身が解けてないって!」

 

黒髪の眼帯をした少女が「女装おっさん」に声を掛ける

 

「ゆまが倒れたのよ!ゆっくりなんてしてられないわ!!」

 

「そうだけど・・・・パンツ見えてるよ」

 

中年おっさんの「白パン」

少女らしくも大人の色気を醸し出す、豪奢なレース

まさに宝器といえる

しかしそれは核兵器もかくやといえる、見た者にトラウマをもたらす凶器へと変貌し空を舞っていた

成人した男性の「ソレ」を包むには小さすぎ、ショーツのクロッチ部分いうなれば「つくね」となっている

そして、スカートからは土から掘り出されたばかりの牛蒡のような脛毛

偶然目撃した二人のホストには災難だが、彼らが女性を抱こうとするたびにこの光景が脳裏に再生されるに違いない

 

「へ・・・・きゃぁぁぁっぁ!!!!!」

 

「よし!変身解除!」

 

シュオォォォォォォォ

 

隙をついて黒髪の少女 ― 呉キリカ ― が変身を解除する

中年おっさんのアバターが解除され、輝くような白いドレスを身に着けた美国織莉子が立っていた

 

「ふぅ・・・・。やっぱり織莉子はこの姿が一番だよ」

 

キリカが織莉子に微笑んだ

 

「もうっ!」

 

「少し落ち着いてよ織莉子!」

 

あまり織莉子に意見することのないキリカが彼女を諌める

 

「真にはトランクをゆまの所に持ってくるように言ってあるんだろ?」

 

キリカが織莉子と視線を合わせる

織莉子の瞳には不安と焦りが見て取れた

そのどれもが彼女らしくない

 

「ええ・・・」

 

「なら大丈夫だ。真ならうまくやってくれるさ」

 

織莉子は乱れた髪を直し深く深呼吸した

そして、決意を秘めた瞳で前を見据えた

 

 

河川敷

 

真はゆまをなるべく動かさないように注意しながら、平らな場所に寝かせた

この行動がよかったのか、先ほどまでの弱弱しい鼓動は徐々に力を取り戻しつつあった

 

「真さん!」

 

息を上げながら織莉子は真とゆまに駆け寄る

 

「織莉子さん!すみません・・・・僕がゆまちゃんを預かっていたのに・・・こんなことに・・・」

 

「いいえ・・・ゆまの症状を詳しく伝えなかった私の落ち度よ。トランクは今、キリカが持ってくるわ」

 

ガサッ!

 

「遅れてごめん!」

 

キリカはトランクのロックを開け、中から錠剤を取り出しゆまに飲ませた

青白かった彼女の顔はゆっくりと赤みを帯び始めた

 

「あ・・れ?織莉子おねえちゃん?」

 

 

二人は回復したゆまと一緒に河川敷を後にした

 

「織莉子おねぇちゃん待って!」

 

「どうしたのゆま」

 

ゆまは真の前に来るとお辞儀した

 

「ゆま、真おにーちゃんと杏子おねーちゃんと一緒に遊んだブーメラン楽しかったよ!!」

 

「ああ・・・」

 

自分の判断ミスで小さな命を危機にさらした

その事実は重い

屈託のない笑顔を見せるゆまに、真は声を掛けることができなかった

 

 

 

NGシーン

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

キリカとのお茶会を楽しんだ後、キリカと別れた後三国織莉子は一人部屋に戻った

荒い息と憔悴しきった姿に往時の輝くような美貌はない

 

「早く・・・・アレを飲まないと・・・」

 

ワードローブに巧妙に仕込まれた隠し棚からドクロのマークが描かれた小瓶を取り出す

彼女はその細いネックを圧し折ると、一気に飲み干した

 

「ぐぅ・・・・・がぁぁぁっぁぁぁ!」

 

苦しみもだえる織莉子

話は数時間前に戻る

 

 

「今日のお茶会は任せて!結構自信があるんだ」

 

無比の親友である、呉キリカが胸をはる

 

「ええ・・・・愉しみだわ・・・ね」

 

こうして地獄の紅茶会は始まった

 

彼女の目の前にはインドの激甘紅茶である「チャイ」以上に粘度の濃い、「ロイヤルミルクティーペースト(酷甘)」

もはや湯気すら甘い

友情を裏切ることのできない織莉子はポーカーフェイスを崩さず・・・・・全てを飲み干した

 

 

「・・・・・命を縮める行為だけど私にはこれしかないわ」

 

織莉子は中身が空になった小瓶を見つめる

 

「BLAIR'S AFTER DEATH」

 

キリカの作る酷甘ミルクティーの味を消すにはこれしかなかった

飲まなければいい?

彼女は頑なだ

もし、まずそうに飲んだり「素直な」感想を述べたら、臍を曲げてしまうだろう

彼女の一度機嫌を損なったら、もとに戻るまで結構時間がかかる

 

― なら私が我慢するしかないじゃない ―

 

そこには愛に殉ずる気高い聖女がいた

 




劇中のBLAIR'S AFTER DEATHというのは、ドクロがトレードマークの激辛ソースでタバスコ以上に辛いです
何せ、バケツ一杯の水に一滴垂らすだけで水が激辛になるくらいですから・・・

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