「ふぅ~食った食った!」
真の分、つまりは二人分のパンケーキを食べた杏子がソファーに横になる
口の端のクリームも拭っていない
「杏子さん!ゆまちゃんの前で行儀が悪いですよ!」
真が皿を片付けながら杏子をたしなめるが、杏子は特に気にしていないようだ
彼女が赤い暴君と呼ばれるゆえんである
「食べたら寝たくなるのが人間だろ?な、ゆま」
「うん!杏子おねえちゃん」
妹がいるせいか、真よりも早くゆまを手なずける杏子
最早職人芸ともいえる手際だ
「それじゃあ、僕は洗い物をしているから杏子さんはゆまちゃんをお願いしますね」
「ああわかったよ」
杏子はソファーに寝そべりながら手を振る
「もう!杏子さん」
なんだかんだ言っても、杏子を信頼している真は、ゆまを任せて別館に据え付けられている、流し台へと向かった
「ふぁ~」
杏子があくびをする
腹が満たされたら、あとは寝るだけ
子供ならそれでいいが、年ごろの少女である杏子にとっては天敵といえた
― 確か食べてすぐ寝たら太るんだよな ―
不意に杏子の服の袖をゆまが引いた
「ねぇねぇ、杏子おねえちゃん。あれは何?」
ゆまが指差す先にはアボリジニ独特の彩色が施されたブーメランがあった
「あれはブーメランって言ってな。投げたら戻ってきて・・・・」
「ぶーめらん?」
杏子が時計を見る
正確に時間を読み取るにはコツがいるが、この別館で過ごすことが多いため杏子は抵抗なく時間を読み取った
― よし!運動してカロリー消費してくっか! ―
「3時45分か・・・・よし!これから川原で飛ばしにいくぞ!」
「え!いいの?」
「ああ!子供は風の子だぜ!」
「うん!」
杏子は壁からブーメランを取り外すと、ゆまと一緒に出て行った
「真!ゆまと遊びに・・・・っていないか。メモを残すか」
「ふぅ・・・やっと終わった」
真がリビングに戻ると、そこに二人の姿はなかった
そして・・・・
「ブーメランがなくなっている・・・・」
ふとテーブルを見るとメモが置かれていた
「杏子さんは相変わらず字が汚いな。なになに、川原でゆまとブーメランを飛ばしてきます?って、あれは狩猟用だからコツを知らないと戻ってこないんだけどな・・・・」
呪いのブーメランといった云われはないが、それでもよく知らない人間が扱うには危険だった
彼はガレージにおいてある、マウンテンバイクのところへ向かった
「まぁ体を動かすこともいいことだしね・・・」
彼、真はこの時大きな失態を犯していた
メモを読む真の傍ら、銀色のトランクがそこに置かれていることに彼は気付くことはなかったのだ
新興都市 見滝原
様々な近代設備を備えたビルが立ち並ぶ中心街を離れると、昔ながらの風光明媚な自然が数多く残されていた
彼ら、マギカ・カルテットが拠点としている宇佐美邸もそこに位置している
宇佐美邸から少し離れた所にある河川敷に杏子とゆまはいた
宇佐美真が「魔法少女」として杏子と初めて決闘した場所もここだ
「きれいなところ・・・」
ゆまが目を輝かせながらあたりを走り回る
「ん?織莉子たちは遊びに連れて行ってくれなかったのか?」
「ううん。織莉子おねえちゃんたちはゆまを色んな所に連れてってくれたよ。遊園地とか・・・」
ゆまの表情が陰る
― 真の話じゃ薬を飲んでいるらしいしな・・・・ ―
「そっか・・・・。織莉子が迎えに来るまでアタシとここで遊ぼうか!」
「うん!」
二人は仲のいい姉妹のように笑いあった
NGシーン
「そっか・・・・。織莉子が迎えに来るまでここで遊ぼうか!」
「うん!」
宇佐美邸から少し離れた所に河川敷に杏子とゆまはいた
河川敷と言えば・・・・
「ねぇねぇ杏子おねえちゃん!これ何・・・・・?」
美国ゆまが差し出したもの・・・・それは
とてもハーメルンでは書けないような、煽情的な煽り文
そして縄で縛られ・・・・ナニをしている女性の写真
中学校で男子生徒がソレを持っていることがある種のステータスともいえる・・・・
伝説の禁書「エロ本」だった
「これってプロレスごっこの本?」
穢れのない無邪気な笑顔で尋ねるゆまに杏子もそれはエロ本です、とは答えられなかった
それどころか・・・
「・・・・杏子おねえちゃん顔が真っ赤だよ?」
「ぅるせぇ・・・・」
悪ぶっていても、人一倍乙女な杏子だった
今回は短くてすみません・・・