鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下

「紅い瞳の少女」=水華ジュニ

ジュニさんマジ外道


マウスハント

「彼」は唐突に「自分になった瞬間」を覚えている

目を開いた瞬間に彼の網膜を飛び込んできた光が焼き、口を開けばそれまで動かしていなかった肺が悲鳴をあげ、指一本動かしただけで全身を貫くような痛みが走った

「彼」が初めて味わった感情は「痛み」だった

彼自身、生き物である以上、そういった感情を持つのはおかしいことではない

しかしいくら記憶を探っても、自分という存在が感情を持っていたという記憶はなかった

ただ、光すらなくまるで暗闇の中を彷徨っていたかのような感触がある

「誰か」と行動していたような記憶もあれば、非難された記憶もある

しかし、それに伴う感情はなかった

目的の為に使い捨てられるべき「道具」に他ならない

それが恐らくは「以前の彼」の全てだったのだろう

しかし、それは唐突に終わる

それは例えるようなら光

全てを焼き尽くすような強烈な光だった

彼はどこかでそれを求めていた

それを得ることが彼という存在の全て

光を得る事、そのことに何か理由があったような気がするが、しかしそれを今更思い出す必要なんてない

ただただ自分の役割をこなすだけでいい

不意に何者かのぬくもりを感じた

彼が見上げると彼と同じ赤い瞳の少女が彼の肢体を撫でていた

 

「おはようジュウベェ・・・」

 

彼女はまるで「兄弟」に出会ったかのように、そう語りかけてくる

 

― ジュウベェ ―

 

彼は彼女が呼んだその「ジュウベェ」というのが自分の名前なのだろうとおぼろげに思った・・・・

 

 

タッタッタッタ!!!

 

彼は何時ものようにこの街を彷徨い歩く

声を掛けても街を歩く人々は誰も彼に関心を抱かない

彼の声を聴き、彼を抱き上げて撫でてくれるのは紅い目の少女とその仲間だけだった

しかしかれはそれを淋しいとは思わない

彼の姿とよく似た「仲間」が沢山いた

彼らも「ジュウベェ」と名乗っていたが、そんなことはどうでもよかった

自分は自分であり、少女が喜んでくれるならそれだけでいい

毎日、彼が「街」を歩くのは彼女からの「お願い」を守るためだ

 

― 赤い目の白いネズミを見つけたら問答無用で嚙みつくこと ―

 

最初その「ネズミ」というのがが何なのか彼にはわからなかったが、彼の仲間達がその「白いネズミ」を駆除しているのを見てからは問題なく、彼女のお願いをこなしていくことができるようになった

その白いネズミは彼が仲間達と一緒に追い詰めると大概何か理解できない言葉を言うが、意味はわからないし彼にとってそんなのはどうでもよかった

自分達が「白いネズミ」を駆除すればするだけ少女は喜んでくれた

少女の笑顔を見た瞬間、体の中が暖かく感じた

彼はこれが「嬉しい」という感情なのだなと一人思った

紅い瞳の少女の笑みの意味はわからない

それでも彼は「嬉しかった」

その日も何時もと変わらない「駆除」だと彼は感じていた

彼が徘徊している場所でまた新しい「白いネズミ」を見かけたのだ

何時ものように追い詰める

「仲間」を呼び必要なんてない

大概の「白いネズミ」は追い詰めれば特に抵抗することはない

奴らの退路を断ってしまえばそれでお終い

後はいつも通りに噛みつけばいい

それだけだったはずだ・・・・・

 

「今だよ!ニコ!!!」

 

「?!」

 

追い詰めていた「白いネズミ」が「少女達」と同じ言葉を話した

彼は混乱した

なぜネズミがいつもの理解できない言葉じゃなく少女達と同じ言葉を話すのか

彼が思考の迷宮に陥った瞬間だった

 

ヒョイ!!!

 

「つーかまえたっと!!」

 

突如、彼の身体が持ち上げられる

 

「なんだよオメーたちは!!!早くオイラを離せ!!!!」

 

彼が身を捩り、何とか拘束から逃げ出そうとする

しかし、どう頑張っても彼女の手からは逃れることができない

 

「ニコ、こいつがそのジュウベェなのか?」

 

シュオン!

 

白いネズミが彼の目の前で少女の姿に変わる

黒い髪と眼帯を付けた少女が怪訝な表情で「ジュウベェ」を見る

 

「ええ、そうよキリカさん。これがジュウベェよ・・・もっともインキュベーターの情報を鵜呑みにするのならだけど・・・・」

 

彼を掴んだレモン色の髪の少女が「キリカ」と呼ばれたネズミから変わった少女に話しかけた

白いネズミたちの言葉と違って何を話しているのかはわかっているが、彼自身「インキュベーター」等よくわからない単語も多くその意味は分からない

 

「うわっ!コイツ牙まであるぜ」

 

「気を付けてね。コイツ嚙むから」

 

「じゃあ、サクッて終わらせようぜ。織莉子が待っているし」

 

「ホント貴方って何時もそればかりね・・・」

 

何かが入り込む様な感覚を感じた瞬間、彼は意識を失った

 

 

気が付くと彼らはいなくなっていた

念の為に身体を見てみるが、特に変わったようなところはなかった

彼女達が何者なのかわからない

少女達にその事をつたえるべきなのだろう

彼はそう考えると少女達の元に戻ることを選んだ

 

「行ったねニコ」

 

少女たちがジュウベェの後ろ姿を見送る

タイムリミットは近づいている

早く、このあすなろ市から離脱しなければならない

そして、この情報を仲間達に伝えなければいけなかった

 

 

 




ノブナガ・ザ・フール 

なんだかんだ言って悪くないと思ってしまう

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