「接続」の魔法少女「神那ニコ」と「全知」の魔法少女「美国織莉子」
ニコが立花に接続し、彼から読み取った記憶を織莉子の魔法で結界内に投影する
別館の中央ダイニングはまるでプラネタリウムのようだった
しばしその浮世離れした映像に圧倒されるが、目的を忘れてしまっては意味がない
必死に映像に皆は必死に映像に目を凝らす
「なぁ、佐倉さん・・・何か気が付いた?」
あいりが杏子に声を掛けた
― 杏里あいり ―
あすなろ市の魔法少女の一人で、飛鳥ユウリの親友だ
杏子としては彼女を含めたあすなろ市の魔法少女達に反感を感じることはなく、あのキュウベェが現れた夜以降にも良好な関係を築いてきている
いつもの杏子なら多少突っかかることもあり得ただろうが、彼女とて今のひっ迫した状況はわかっている
今は一人でも多く協力者が欲しいところだ
それにあすなろ市の魔法少女達はかなりトリッキーな魔法を使う連中だったが、その実取り戻したいモノの為に彼らは覚悟を決めていた
そんな人間をないがしろにするほど彼女は腐ってはいない
ただ、魔法少女形態になった彼女達のありえないまでの露出には少々面食らったが・・・
「そんなことはアタシよりも、実際に住んでるあいりの方がわかってんじゃねーの?実際のところ、アタシ達があすなろ市に行ったのは数えるほどしかねーし・・・・」
「確かに杏子の言うこともよくわかるぜ。でも、長年暮らしてきて見慣れているとおかしい点も見えなくなるもんさ。だからアンタに聞いたわけ」
中学生なのにTバックや背中がパックリと開いた紅いナース服、極めつけは殆ど露出しているようなあいりの魔法少女形態
オメー達の魔法少女形態の方がおかしいよ!と言いたくなるのを杏子はぐっと抑えた
「そうだな・・・・。あくまで主観でワリィが根拠なんてないけど、なんかこう・・・この街明るすぎないか?」
「明るい?」
ニコが杏子に問う
「ったく!根拠なんてないって言ってんだろ!!ただ見ていて他の街と比べてこう・・・何かが足りないって思っただけだぜ!」
― 何かが足りない ―
その言葉が不意に疑問と嚙み合った
そうだ
この街には「何か」が足りない
どの町にもあってそれが空気の様にあって当然のもの・・・・
でもその「何か」は一体?
「立花さん、あすなろ市で何か変わったことってない?」
「変わったこと?いや別になかったと思うよ。そんな理由のわからない自殺事件もなくて・・・そうそう劇団やレストランが襲われる事件があったくらいか・・・・」
「それって・・・・?」
織莉子が立花に向き合う
「レストランやカフェで食材や料理が大量に盗まれた事件があった。でも、犯人はわからないが、でも魔獣のように人間に危害を加えてはいない。まるで・・・」
「休日の朝のアニメのようだわね・・・。奇妙な事件が起きても誰も傷つかない。まるで、意図的に事件を起こしているよう・・・」
今、あすなろ市には戦える魔法少女なんていない
いてもそれは恐らくは「救済者」の一味だろう
「救世」を掲げる彼らが人々を助けないということはないだろうが、しかしそれでも助けられる人数は限られている
どうしても切り捨てられる人間が出てもおかしくはないだろう
だが立花の話ではあすなろ市で魔獣の被害者に多い症例である、理由のわからない自殺者はでていない
そして杏子の「明るすぎる」との発言
もしかしたら・・・
「織莉子さん。この映像に瘴気を映し出すことってできますか?」
「お安い御用よ。ユウリさん」
織莉子が手元の黄金のレコードを動かす
「・・・・・何もかわってねーじゃねーか」
杏子が何の気もなくそう呟く
しかし、「理由のわかっている」織莉子とニコの表情は驚きに満ちていた
「うそ・・・・・」
絞り出すように織莉子が呟く
ニコも信じられないという表情で映像を見つめている
「何で・・・瘴気が出てないの・・・・?」
魔獣は人の悪感情か昇華した瘴気から生み出される
そして魔獣は人の感情を「喰う」
魔法少女は人を喰った魔獣を狩ることで、自らの魂であるソウルジェムを浄化するのに必要なグリーフシードを得ている
魔獣の発生は自然現象と言っていい
単純に考えれば魔獣を狩る天敵ともいえる魔法少女がいなくなれば、魔獣が大量に発生してあすなろ市では自殺者や事件事故が多発するはず
でもそうではない
そしてフィルターに通したあすなろ市の映像には人の生活域にあるべき「瘴気」が全く映っていない
そんなことはあり得ないはずだ
人が生きる上でどうしても瘴気は出る
それは「改変された宇宙」の法則だ
なら何かで瘴気の発生をおさえているのでは?
「なぁ・・・あれってなんだ?」
キリカが指差した先、そこは何の変哲もない路地があった
「どこだよそれ」
「杏子も良く見ろよ!あの路地のゴミ箱の影に黒い卵みたいなのがあるだろ?」
「映像を拡大してみるわ」
織莉子が問題の箇所の映像を拡大する
「これ・・か?」
確かにそれはあった
捩れた針のようなものが両端から突き出した歪んだ真珠のような物体
それは・・・・
「イーヴル・ナッツ・・・・・・」
かつての自分の罪
その過ぎ去った過去がニコとあいりの前に再び現れた
なんかダイミダラ―が面白くなってきた・・・・