鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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ではでは投下します


一時の平穏

「ニコから聞いたけど実際見るとデカいね・・・・・」

 

金色のツインテールを踝まで伸ばした少女が誰に言うことなく、静かにそう呟いた

彼女の目の前にはあすなろ市全体をすっぽりと覆う大結界「箱庭」が聳えている

 

ブロロ・・・・・・

 

車が結界に近づく

目の前に明確な壁があると言うのに、運転手は何も見えていないのか取り乱さずそのまま走り続ける

 

― 激突する ―

 

吸い込まれるように結界へ突進する車

でも、耳を引き裂くようなブレーキ音も焼き焦げたタイヤの臭いは無かった

車は「自然」に何もなかったように走り去っていった

当然のことだ

魔法少女が生み出す「結界」はいうなれば純粋な「魔力」の塊

魔力を感じられる人間にはあの「壁」を見ることができるが、そうではない人間ではそれを見ることも感じることすらできない

結界に「実体に作用する程度」の強度を持たせることは流し込む魔力の調節で実現することができるが、あすなろ市全体を覆うこの結界の目的はそこにあるわけではない

 

― インキュベーターを「殺す為」の「結界」 ―

 

記憶を読むことのできる神那ニコの話によれば、この結界は魔力のある存在つまりは「魔法少女」に作用して「インキュベーター」や「魔法少女」に関する事柄を根こそぎ改竄してしまう

つまりは一度でもこの結界の内部に入れば、魔法少女は自分が「魔法少女」であることを忘れ、同時にインキュベーターを認識できなくなる

同時に、この結界内ではインキュベーターの存在は誰にも認知されず、少女たちと契約を結ぶこともできない

物理的な攻撃手段で滅殺しても、いくらでも無限に涌くインキュベーターでも、その全存在の意義である「魔法少女の契約」を行うことができなければその存在は無だ

おまけに、ニコの話ではインキュベーターを見つけ出して一匹残らず処分する「処刑人」もあすなろ市にはいるらしい

恐らくはあすなろ市には動けるインキュベーターは一匹もいないだろう

全く、恐ろしいまでに計画的だ

不意にこうしているのも「アイツら」の計画の内の様に感じ始めた

あの夜、トドメを刺さなかったのは本当は自由に泳がせて、より大きな「獲物」を釣り上げる為だとしたら?

そう

「聖カンナ」が敵の甘言にのせられて生み出した「コピー人間」で私達二人が釣り上げられた時のように・・・・・・

 

 

「おーい!あいり!!」

 

背後から聞き覚えのある声が聞こえる

「あいり」と呼ばれた少女が振り向くと、そこには彼女を助ける為に悪魔と魂を対価に契約した「オンリーワンの親友」である「飛鳥ユウリ」が立っていた

 

「交代だよあいり!」

 

病気から快復したあいりは以前にもまして活発に動けるようになった

もっとも、それにはある「弊害」もあったが・・・・

 

「今日はターキーサンドか」

 

「自家製のハニーマスタードソースが決め手なの!自信作なんだから!」

 

二人の少女が近くの公園で仲良くサンドイッチを分けながら食べていた

ユウリがあいりを見る

快活に笑い、食欲も旺盛

どこも暗いところはない

いや昔以上に元気だ

しかし、彼女は病気の快復以来ある変化が起こり、ユウリにも言えない秘密を抱えていた

彼女には「記憶が二つある」のだ

俄かには信じられない現象だ

でも、彼女はその記憶を信じている

だからこそ、彼女は捕まえたインキュベーターを使って魔法少女となり、ユウリの命を救った「和紗ミチル」を狙った

 

― かつての世界 ―

 

そこでは希望を願い契約した魔法少女は絶望し魔女という化け物に成り果てていた

インキュベーターはその時に得られるエネルギーを目的に魔法少女を生み出していた

その世界では私は魔力を使い果たし、「魔女」へと変わりそして・・・・処分された

その運命に抗うために、あいりは魔法少女へと変わった

もしユウリが師匠である和紗ミチルに会うことが出来なければ死んでいただろう

 

「さてと・・・・ニコに交代するまで見張りをしているか!」

 

あいりが公園のベンチから立ち上がり、ショートパンツの汚れを叩き落とす

 

 

あの無人島からの脱出後、見滝原へ戻った私達は「箱庭」に阻まれてあすなろ市へ戻ることができなかった

それに師匠は行方不明で私達も失踪扱いになっていた

本当は一刻も早く戻りたいが、しかしニコとあいりからは「箱庭」の特性を教えてもらっている以上、今を静観するしかない

此処の監視は自分達と同じ魔法少女を「箱庭」の餌食とさせない為だ

それと・・・・仲間を探すという目的もある

とにかく今は焦って行動しても意味はない

冷静になって行動することが未来を拓くカギだ

 

プルルルッ!!!!

 

不意にユウリの携帯が鳴った

 

 

「・・・・・・・わかった。あいりにも変わるね」

 

「おい誰だ?」

 

「ニコちゃんからだよ、あいり」

 

あいりの表情が強張る

彼女はユウリから携帯を受け取るとそれを耳に当てた

 

「何かあったのか・・・ニコ?」

 

「今後について話したい。結界の監視もある程度落ち着いたらホテルで落ち合わないか三人で。それに・・・・」

 

 

 

「・・・・・・わかった」

 

言葉少なげにそう答えると、あいりはユウリに携帯を返した

 

― 協力してくれる魔法少女が見つかった ―

 

ニコは信用できないが、でも今は選べる選択は多い方が良かった

 

 

 

 

 

 

 




花粉がきつい・・・・・・・

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