鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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でへではでは投下


博物館の少女

アンゼリカ・ベアーズの地下

あすなろ市全体を覆う大結界「楽園」形成の為の要であり、彼女達の行おうとする「救世」の全てが集まっていた

今、この部屋にいるのは一人の少女だけだった

しかし、壁や床に目を落すと数十基のカプセルとそれらを繋げるケーブルが無数に走っている

そして壁や床に置かれている棺桶のようなカプセルの一つ一つの中では少女達が眠りについていた

皆ピクリとも動かず、カプセルの形状から本当に死んでいるようにも見える

 

「・・・・・変身」

 

少女が手に虹色の光を放つオパールのような輝きを持つ卵型の宝石を乗せる

 

― ソウルジェム ―

 

インキュベーターの技術で分離された少女の魂が封入されたアーティファクト

同じものはこの場所で眠り続ける少女達の入ったカプセルにも設置されていた

魂を分離された人体は、言うなれば外付けの外部機器と同じ

つまり肉体の中に「魂」はないのだ

魂を封入したソウルジェムから離れすぎればコントロールを失い、肉体はただの肉の塊に変じてしまう

この事実をインキュベーターは「契約」の際に少女達へ告げることはない

魔法少女を増やし、魔獣から得られるグリーフシードから感情エネルギーを抽出する

それが彼らがいう「宇宙の延命」に繋がる唯一の方法だ

だからこそ、彼らは精神の起伏が激しい「第二次成長期の少女」を土台に「改造」を行う

「願えば何でも叶う願い」という、極上の餌をチラつかせながら・・・・

 

― 吐き気がする -

 

インキュベーター共の所業は少女達の純粋な願いを踏みつける行為だ

しかも、全てを「納得済み」で契約するならわかる

人は皆幸せになる権利を持つが同時に不幸になる権利を持つ

だが、奴らはそれの事実を隠し切れなくなったら、「ソレ」を告げる

それの結果として、魔法少女が死んでも彼らは悲しむことも喜ぶこともない

 

「死んだら次を探せばいい」

 

冷たいまでの合理性だ

私は私が歩んできた久遠の旅路に思いを馳せた

 

 

虹色の光に包まれて、紫のドレスが光の粒子になって消え代わりに金の装飾が施されたエンパイアドレスが彼女の身体を包む

変身の終わった少女 ― 宇佐美真琴 ― がそこに立つ

輝くような金色の髪は灰色がかった銀髪に変わり、「母親」ゆずりのエメラルドのような緑の瞳が映える

彼女は固有魔法を使って様々な世界を渡った

 

魔法少女の「いない」世界

 

全人類が「魔法少女」化してしまった世界

 

人類が消え、「魔女」同士が永遠の闘争を繰り返す地獄のような世界

 

私が廻った世界の中には「魔法少女」のことを知っている人間なら耳を疑うこともあった

ある世界

人類は地球に飽き足らず、更に深宇宙へとその生息域を広げようとした

宇宙は過酷だ

だから人間は人間と言う形から「変態」した

最初は身体を人工物に置き換えた「サイボーグ」や人の脳髄を宇宙船に載せ替えた「頭脳艦」が開拓初期に使用されていた

その技術は更に発展を遂げた

 

― 人間の魂を身体から抽出し、それを強固な外部装置に保存する ―

 

傷ついても欠損しても「死ぬこと」のない身体

たとえ修復不能になっても「魂」が無事ならいくらでもスペアがある

まるで「魔法少女」と「インキュベーター」のようだ

いやそのものと言ってもいい

 

魔法少女は「宇宙開拓者」であり、インキュベーターはそれをサポートする「ロボット」

 

皮肉だ

私は何もこの世界のインキュベーターがあの世界で見たものの成れの果てとは言わないが、しかし余りにもその世界でみた技術がそっくりだった

だからこそ私は祖母が生み出した「魂の欠片」を完成させることができた

浅海サキ、若葉みらい、御崎海香、牧カオル、神那ニコ、宇佐木里見

別の世界のあすなろ市でインキュベーターに抗った「プレアデス聖団」の団員だ

彼女達を「魔法少女」にしたのは何も私欲ではない

プレアデス聖団、いや「プレイアデス聖団」の遺産 ― 箱庭 ― を手に入れるためだ

この結界は自動的に記憶を改竄し、インキュベーターの姿を認識させなくさせる効果がある

これによりあすなろ市では「新規」の魔法少女は居なくなった

あの「悪魔」を殺すにはもっとも効率がいい

 

カッカッカ・・・・・

 

真琴が彼女達のカプセルに近づく

頑丈なケースに守られた彼女達のソウルジェム

それらは一つに繋げられ、それは大理石のような輝きを持つこぶし大の石に集束されていた

 

「あともう少しで完成する・・・・箱庭の魂の欠片が・・・・」

 

あともう少し

個々の魔力を注げば「箱庭」の魔法を持つ「魂の欠片」が完成する

そうすれば、彼女達を「魔法少女」のままにする必要はない

彼女たちは悪い夢を終え、いつもと同じ日常へもどる

偽りの「世界」ではなく日の当たる「世界」に

 

 

~ そういえば・・・・ ~

 

私はある「世界」で見た映画を思い出した

アメリカのネズミが出てくるアニメを作っていたプロダクションが、作ったSF映画

話は陳腐だったが、最後の結末はなかなかだった

 

― 主人公たちが飛び込んだブラックホールの先には「天国」と「地獄」があった・・・ ―

 

案外、ブラックホールに吸い込まれた開拓船の一つが偶然この世界に流れ着いていたら?

そして誰も操作する者がいないのに、残された機械はただ延々とインキュベーターを使って「魔法少女」を生産していたら?

 

卵が先か、鶏が先か

 

使い古された問答だが、答えは出てこなかった




作中のネズミプロダクションの映画というのは「ブラックホール」という作品です
まぁ、作品は駄作でしたけど・・・・・

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