美国ゆまは混乱していた
彼女が「兄」と思い込んでいた少年「宇佐美真」
彼はゆまが全ての記憶を思い出したと同時に現れ、何かに飲まれようとしていた彼女を救った
なぜ、男である真が女装していたのかは別として・・・
~ でも女装にしてはあまりにも自然すぎたんだけどな ~
ゆまが思い出せる限り、真のことを思い出してみる
無論、真が実の兄であるという偽りの記憶を除外してだが
しかし、どう思い出そうとしても真に女装癖があるとは思えなかった
それに彼女を引き取った織莉子にも勝るとも劣らない巨乳はシリコンの偽乳などでは再現不能なくらいに実体を持っていた
どうせ知らない中でもないし、本当に同性なら胸の一つくらい揉んでもよかったかもしれない
でも当の真はこの場所に姿形もなかった
後ろには切り裂かれた檻の残骸
どれもこれもすっぱりと切り裂かれている
そしてそれを成し遂げたサーベルは今彼女の手にある
真からは「なんでも切れる魔法の剣」と言われて渡されたが、正直扱い方はわからなかった
とりあえず、テレビなどでフェンシングのサーブル競技は見たことがあるが、実際にサーベルを手にしたのはこの時が初めてだ
ずっしりと重いが、ゆまの力で振り回せない程重くはない
「これって魔法の剣って言っていたけど・・・・」
ゆまが真から手渡されたサーベルを何の気もなく振った瞬間だった
ザシュッ!!!!!!
「え?!」
何かを切り裂くような音が響くと同時に目の前の空間が切れた
そして
「何で私・・・前に進んでいるの?」
一歩も歩いていないと言うのに、ゆまは向こう側に立っていた
後ろを振り向いてみるが、「切り裂く」前では、ゆまのすぐ背後にあった檻が五歩以上後ろにあった
それはまるで空間を切り飛ばし、ショートカットしたかのように
「これを上手く使えばすぐに暖炉に行けるか。でもその前に・・・・・」
ゆまの目の前にはあの二匹のトロールが立っていた
巨大で目の前には大木のような足しか見えない
しかしそれはトロールも同じようで切り裂かれた檻は見えていても、檻よりもはるかに小さいゆまを見つけるのは難しいようだ
とはいえ、あの足で踏みつぶされたらたまらない
「行くっきゃないか!」
ゆまは剣を携え走り出した
彼女の手にしたサーベルがトロールの目を引いたのだろう
赤髪のトロールが彼女の歩みを止めようと、その手で彼女を捕まえようとする
でも、彼女の目ではゆまの歩みを完全にとらえることはできなかった
「この鈍間が!!!」
ゆまのサーベルが冷たい光を放った
ザシッ!
水気を含んだキャベツを両断するような音が響き、女のトロールが薄汚れた手を押さえ聞くに堪えない呻き声を上げる
気味の悪い泣き声
でも戦う意思を決めたゆまに一切の慈悲はない
さらに全体重をかけた一撃でトロールのサンダル、その小指の爪にサーベルを突き立てた
小柄なゆまでもその全体重を掛ければ、サイやゾウのようなトロールの肌でも貫くことができる
同様に、椅子に座ったもう一体のトロールにも同じ攻撃をお見舞いする
足押さえて、スタン状態になるトロール達
手をむちゃくちゃに振り回すが、ジグザグに走るゆまを掴むことさえできない
そもそもトロール達は足を潰されている以上、移動することは困難
いくら巨人でも手の届く範囲なんてたかが知れている
旋回範囲を超えてしまったらもう彼女を止めるものはない
暖炉はもう彼女の目の前だ
「さてと・・・・」
ゆまがサーベルを構えると、慎重に鍋の縁を切る
底を切ることも考えたが、このサーベルの切れ味を考えると中の少女に危険が及ぶ可能性がある
その点、縁を切るのならば少女に対する危険は少なくて済むはずだ
ジュォォォォォォォォ!!!!!
落下した鍋が横倒しになり、流れ出た水で瞬く間に暖炉の火は消えた
後は「少女」を助けるだけ
ゆまが暖炉に入る
少女は鍋の中で横たわっていた
すぐさまゆまが彼女を診るが脈拍に異常はない
「よかった!命に別状は・・・」
ガシッ!
身を起こした少女がゆまの手を払いのける
そのはずみでサーベルがゆまの手から滑り落ちた
そして・・・・
「なんで・・・・・?」
目の前にはサーベルを握った少女
その瞳には怒り、悲しみ、嫉妬、全ての負の感情を混ぜたような表情でゆまを見つめる
― いいよね・・・・あなたは幸せな生活をしていて・・・・ ―
少女の声が頭の中で響く
違う!そう言いたかった
でも少女はゆまに反論を許さなかった
― あなたは本物の親に虐待されていた記憶に蓋をし続けてきた・・・・・・ ―
「それは・・・・!」
ゆまは今までのことを思い出した
それは一人の少女が虐待を受けている映像
分かっている
それは織莉子が彼女を守る為に消去した記憶だ
実際の彼女は両親に生まれた時からずっと虐待され続けた
なら・・・目の前の少女は・・・
その「正体」は・・・・
― あなたは罪を償わなければならない・・・・・「私」を忘れてのうのうと生きてきた ―
私の忘れていた「両親に愛されてなかった私」だ
グシュッ・・・
身体の中に冷たい何かが射しこまれる感覚が彼女を支配する
それは・・・・・
ゆまの手が冷たい刀身を握る
少女が笑っていた
その手にサーベルを握りながら・・・・
その瞬間すべてが消失した
遅ればせながら劇場版タイガー&バニーを見てきた
ハッキリ言って悪くはない
でも、TV版の「ウロボロス」関連は無い
ただタイガーが一部チームに復活したから続編をつくれるか・・・・