鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


洪水

どんな入れ物でも一度罅が入ると、そこから際限なく漏れ出す水は止めることができない

それは今日の優秀な接着剤でも同じことだ

例え、その罅を接着剤で塞いでもそれはあくまで応急手段に過ぎない

接着剤の効力は徐々に失われ、結局はまた水は漏れ出してしまう

零れ落ちる水をただただ眺めるしかないのだ

 

 

「嫌ぁぁぁっぁぁっぁぁ!!!!!!!」

 

美国ゆまが耳を塞ぎ、目を瞑り叫んでいた

そうしても「ソレ」が消え去るなんてないとはわかっているが、しかしそうするより仕方がなかった

否定しなければ「ソレ」を認めること

でも、一度想起された記憶は止まることが無かった

 

紅い髪の少女と野原で一緒に遊ぶ私

 

おばけの出て来そうな家で、沢山の本に囲まれて私と一緒に本を読んでいる真お兄ちゃん

 

紅い髪の少女と真お兄ちゃんと一緒に、パンケーキを食べる私

 

私の記憶の中を探してもそんな出来事なんてない

 

「知らない!知らない!!!!」

 

力いっぱいに叫ぶ

喉の奥が切れて、口の中に錆びた鉄の味がする

どれもこれも私のまったく知らない記憶だった

私とお兄ちゃんが住んでいる美国家の本宅は確かに広大だが、あの映像の中に出てきたような図書館のように天井まで本が詰まった棚なんてない

それに本宅は見滝原の住宅地にある

映像に出てきたような野原はかなり遠い

気軽に遊びに行ける距離ではないのだ

しかし映像を否定する論証を重ね、いくら論破しようとも心の奥底でそれに同意している自分もいる

表現しずらいが、感覚でわかる

確かに今の状態は異常だ

いつものようにベットで寝た

私は「夢」なんて見ない

目を閉じると、スイッチが切れるみたいに意識が消えて、翌朝になっていることが多い

でもこれはなんだ?

夢というものは往々にして不合理で不条理だ

鳥が水の中を泳ぎ魚が空を飛ぶ

あり得ないが、夢では現実となる

確か、人が「悪夢」を見るのは「危機に備えるためのシミュレーション」現実世界の脅威に備えるために悪夢は起きるのだという

では私の身に何かが起ころうとしているのか?

それを「受け入れる」準備の為に「悪夢」を見ているのか?

目の前の映像に映っているのは間違いなく、「過去」の私だ

忘れ去った「私」だ

否定したい

「証拠」がないと、否定するのは簡単

でもそう言いきれなかった

その映像を見れば見る程、頭の中にあるもやもやが晴れていくように感じる

それは単に忘れているという程度のことではない

自らの根源に関すること

そう、「自分が何処で生まれてどうやって生活してきたのか?」

私自身の存在に関わる大切な「何か」を知ろうとしている

そのキーとなるのがあの「紅い髪の少女」だ

姉は名家の長女として、様々な階級の人々と親交を結んでいる

兄もそれなりに美国家の長男としての役割をこなしている

だが、兄の交友関係や姉の交友関係でも「彼女」のような人物はいない

当然のことだが、自分の交友関係でも彼女のような人物なんていない

紅い髪とぶっきらぼうな発言

あれだけ個性に溢れた人物を忘れるなんてない

では、本やテレビで見た人物が無意識に夢に反映された?

それもあり得ない

自分ではテレビは殆ど見ないし、ファッション誌を漁るよりも一瞬で世界中の情報を得られるワイヤードを見た方が実りが多い

ほんの少し、キーを叩くだけで世界中の情報が得られる時代

マスコミや消費者を「家畜」ぐらいにしか見ていない広告代理店が持ち出す「ファッションリーダー」なんて言葉なんてもう「存在しない」のだ

テレビのタレントだってそうだ

批判されるような作品に「敢えて」出て、自分の名を売って色気がついた頃にどこぞの実業家と懇ろになる

ある意味、遠回りな「売春」だ

そんな職業意識も信念も無い、自称「タレント」ばかりのテレビなど全く以って見るに堪えない

CMもただただ商品名を連呼するだけ

ただの銭ゲバの癖にそれでいて自分を上流階級の人間であると気位ばかり高い

あり得ないことだが、夢に出てくるようなタレントであるのなら、何かしら名前でも憶えているはずだ

そして彼女の名前はおろか、本やテレビどのメディアで見たのかさえはっきりしない

しかし・・・・・彼女の少し低くハスキーな声も、ぶっきらぼうに見えてしっかりとしている点もなぜか見覚えがあった

そう、こうなる前の昔から知っていたのように・・・

 

~ ゆま・・・真お兄ちゃんが本当のお兄ちゃんで・・・・ ~

 

目の前の映像が言葉を紡ぐ

聞いちゃいけない

聞いてしまったら・・・・・!

 

~ きょーこがお母さんだったらいいなって ~

 

「がぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁあl!」

 

更に強い頭痛がゆまを襲う

それにともなって、映像も変わる

 

セピア色のフィルム

ノイズ混じりの音声

所々に焼け焦げたような跡

 

映像の中には怪物のような人物にいたぶられる少女

少女は泣くこともなく、壊れたように笑い続けるだけ・・・・

 

~ ・・・・・嫌い・・・大っ嫌い・・・・ ~

 

少女の絞り出す声それは・・・

 

「私の声だ・・・・・」

 

ゆまを取り巻く黒い流れは渦となって、苦しみ悶える彼女を飲み込んだ




一昔前の女性タレントって今は何をしているのかね?

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