シャァァァァァァ・・・・
暖かなシャワーを浴びる
肌は乾燥しているわけではなかったが、それでも暖かいシャワーは彼女の肌の緊張を解すにはうってつけだった
そして十分に緊張がほぐれたところでスポンジを使い、丹念に念入りに身体の汚れを落す
カプセルの中に眠る際は、その使用者の生体機能をできる限り最小限に留めている
その為、老廃物や排泄物で四肢が汚れることはない
とはいえ彼女とて年頃の少女だ
人前に出るのなら、それなりに身を清めたいと思うのが普通だ
特に今日は真琴に定期報告する日だ
真琴から魔力の使い方を学び、衰えた身体を補修できるようになった
でも彼女は自分の身体と真琴の美貌を比べてしまう
太陽の様に輝く、真琴の金色の髪
それに比べ、彼女の髪は例えるならくすんだ真鍮色だ
到底、彼女に勝ち目なんてないが、それでもできる限り美しくありたいと願うのは女性としての性だろう
幸いにも、このシャワールームには真琴が彼女の為に準備してくれた様々な種類の ― 中には同使用するのかわからないようなモノもあるが - 高級なシャンプーやリンス、コロン類も完備されている
そして、彼女がそれらを好きなだけ使うことを真琴は許してくれていた
キュッ!
シャワーを止め、タオルで身体を拭くと湯冷めしないうちに彼女は準備しておいた衣服を着る
カプセル内では動きやすいショートパンツとタンクトップといった軽装であるが、今日はスリットの入ったタイトスカートとブラウス、そしてスカートに合わせた色のジャケットを準備した
真琴を見習って、それなりにおしゃれに気を使いたいが、彼女は常人には及びつかないほどの「ブランク」がある
特に、彼女の「役割」では外を出歩くことは稀だ
一応は、ここから離れてもあすなろ市内であればなんなく行動できるが、それでもうっかりすれば彼女と「ソウルジェム」とのリンクが切れる恐れがある
彼女の使命の重要さを考えるなら、軽はずみな行動は慎むべきだ
「後で真琴にファッション誌でも借りようかな・・・・」
「救済」の魔法少女 ― 夏樹真理 ― は一人、そう呟く
「救済者」の本拠地 「アンゼリカ・ベアーズ」
その地上階
大きな天窓と仰々しくも安っぽいテーブルの並べられた集会場には、既に数人の仲間が集まっていた
カウンターには彫刻が施され、天窓には何かの絵を模写したのであろう、色鮮やかなステンドグラスが床に光の絵画を描いていた
一見豪華な印象を持つが、実際はかなり安っぽい
カウンターの彫刻は厚ぼったく機械で彫ったことを能弁に語り、天井のステンドグラスも実際に色とりどりのガラスを組み合わせたものではなく、ただガラスに立体シールを張っただけの代物であることは端がガラスの地肌を晒していることで明らかだ
この集会場は、このクマ博物館が営業していた頃は喫茶店だったのだろう
かなり広く、奥には汎用品のコーヒーメーカーや今時珍しいタワー型のウォータードリップ式コーヒーメーカーまで見える
真琴はかなり拘りをもって生きている
しかし、この喫茶店の紛い物の内装は彼女の美学に反する
だが、真琴がこの喫茶店を改装していないのには明確な理由がある
此処には壊れて後悔するようなものは何一つおいてはいない
それが意味することはただ一つ
それはこの部屋で「何があっても」構わないということだ
そう、此処の部屋で戦いが起きても・・・・
「・・・・・・・?!」
真理の瞳が一人の少女を捉えた
金色の巻き毛
そして女性的なシルエット
身長は真琴と同じくらいの少女だ
真理は魔法少女としての戦歴はあまりない
以前に真琴と一緒に何度か魔獣を狩りに行ったくらいのものだ
特に真琴からは魔力の使い方と応用を習ったことの方が、戦闘技術よりも多い
とはいえ、真理とて最低限の自衛手段を持ち合わせている
戦闘に秀でていない彼女とて、目の前の金色の少女がかなりの手練れであることは理解できた
その少女は何の準備もしていないように見えて、その実、いつでも戦えるような体制に入っている
少女の得物が何であるかはわからない
だが、彼女が真琴から得た戦闘技術を通してみると彼女の得物は恐らく「銃」
特にこの位置関係では、全員を照準に捕えられる後方にいて壁を背にしている
実体弾を使う銃なら、弾道予想は難しくない
でも、それが魔力弾だったら?
~ ・・・・・ ~
ここいるのは愛華とジュ二
真琴と紗々はいない
紗々は恐らくは洗脳が有効である範囲にいるのだろう
彼女の性格は最悪だが、常に最善の方法をとる姿勢は共感できる
もし何かあれば、即座にあの金髪の少女を拘束する
多少、戦闘になるだろうがこの場所なら存分に戦える
しかし、真理のそんな心中をそわかっているのか、わからないのか金髪の少女はその位置から動こうとはしない
あの真琴のことだ
敵になりそうな人物がいれば真っ先に潰している
この場所にいるということを鑑みれば、衝突の危険はないはずだ
ならば真琴が来るのを待つしかない
「・・・・・・・・」
少女達に言葉はなかった
ギィ・・・・・
不意に、集会場の建付けの悪いドアが開いた
「明日ママがいない」
話がここまで拗れているのに、意地になって放送する理由がわからない
もしかして、工作員お決まりの「相手を貶めたらウリ達が評価されるニダ!証拠はないが心証では明らかニダ!」かな?