鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下


二人の演者

 

「夢の牢獄」で真がゆまとの邂逅を果たした頃

二人の少女もある人物との邂逅を果たしていた

 

 

陸で溺れた魚のように、燈色の髪をした少女が身をくねらせ苦しみもだえる

 

「お願い!!落ち着いて!!」

 

それを群青色の髪の少女が必死に抑えていた

「真」から「夢」の中へ自らの思念を投射する際は、一時的にだが全ての身体の機能が停止するとは聞いていた

無論、彼女達も覚悟はしていた

しかし、あらかじめ知っていた二人とはいえ、これ程の苦しみなのだ

それを彼女も彼女の仲間である「プレアデス聖団」の皆を目覚めさせる為に、何度も行っていた真とサキの苦痛を思うと群青色の少女 ― 御崎海香 ― の胸の奥が痛んだ

 

~ こんなに苦しかったなんて・・・・ ~

 

海香は一度、真になぜその身を削ってまで、たった数ヶ月の付き合いのさほど親しかったわけでもない劇団の皆を助けようとしたのか、それを尋ねたことがある

彼女の心の裏にあるもの、それは「不安」

彼女は「知っていた」

 

― 宇佐美真 ―

 

魔獣に襲われていた彼を助けた魔法少女に憧れて、彼はインキュベーターと契約し「魔法少女」になったことを・・・・・

変身時に男性から女性へとコンバートされる「イレギュラー」な魔法少女とはなったが、真はあの時の少女と同じ力を得た

きっと、真も喜んだに違いない

でも・・・運命は皮肉だった

彼が夜な夜な見滝原を徘徊し、見滝原をテリトリーとしている「マギカ・カルテット」と偶然とはいえ、出会うことができたのは僥倖

実際、その時の真は魔法少女としての戦い方をしていなかったらしく、本人の話だがかなり効率の悪い戦いをしていたのだそうだ

魔法少女の死因の殆どは戦い方を学ぶ前に戦死してしまう

早期に出会い、戦闘のイロハを学ぶことができたからこそ、彼はこうして生きている

それは幸福といっていい

でも、その身を危険にさらして得たのはたった一つの真実

「マギカ・カルテット」は、真が会いたがっていた「魔法少女」を知っていた

その名は「美樹さやか」

癒しの願いで契約した彼女は「マギカ・カルテット」のリーダーである「巴マミ」と出会い、共に戦い・・・・・そして戦いの果てに倒れた

「幸福」と「不幸」は同じだけ存在していて、多すぎる幸福は同時に大きすぎる不幸を得る

なんという皮肉だ

既に彼の会いたかった「ヒーロー」はこの世の人ではないなんて

でも、彼は負けなかった

誰よりも英雄に憧れた彼は、常にそうあろうとした

戦い続けた彼は、しかし正体の見えない敵によって拉致された

そして「夢の牢獄」へ繋がれた・・・・・

 

 

私達を捕らえている「夢の牢獄」

囚われた対象は記憶を改竄され、自分の理想の世界を「現実」と思い込む

そうつらい現実すらも忘れて・・・・・

「彼」に与えられた世界は、かつて彼を助けたその「ヒーロー」と恋人同士になった世界

しかしそれは魔法少女になる事を決意した彼にとって、自らの願いを否定するもの

真が契約の際に願ったことは「ヒーローの痛みを受け入れて、共に戦い続けるということ」だ

だからこそ彼はぬるま湯の幸福を選ばなかった

夢の牢獄から脱出した彼は再び、目覚めて戦い続けることを選んだ

愛だの恋だの

それは偏に肉欲に基づく

真とて「男性」だ

心の底では、彼を助けた魔法少女にそういった感情を抱いてはいないとは限らない

だからこその「夢の世界」だ

でも彼は「偽り」の救済を望まなかった

彼は一番最初に目覚め、そして同じく夢の牢獄に繋がれた皆を一人一人目覚めさせていった

その姿は彼が追い求める「ヒーロー」、そのものだった

 

~ でも・・・・・・ ~

 

海香は危惧している

いずれは彼が恋い慕う「ヒーロー」と同じく、激しい戦いの果てにその命を落すのではないかと・・・

 

「・・・・・・・」

 

海香がカオルの手首に触れ、脈をとり彼女の呼吸を見る

そして、カオルの容態が落ち着いたのを確認すると、海香はそっとカオルから離れた

 

「あ・・うぁ・・・・う・・みか?」

 

カオルの瞳に光が宿る

 

「もう大丈夫ね」

 

海香が予め準備しておいた、ゲータレードをカオルに差し出した

氷のように冷たかったが、それがカオルの意識をはっきりとさせた

 

「喉渇いているでしょ?」

 

暫くは手が自由に動かないことも考えられる為、あらかじめキャップを取ってある

カオルがいつもの調子に戻るには、もう少し時間が必要だった

 

 

「ねぇ、カオル。怖くなった?」

 

海香はなんともなく、傍らの少女に声を掛けた

危険は無いとはいっても、あれほどの苦しみを受けたのだ

普通なら怖気づいてもおかしくはない

でも、カオルの瞳には怯えはなかった

 

「真の奴も、サキも同じことをしたんだろ?」

 

カオルの問いかけに海香は静かに頷いた

 

「・・・・なら怖くはないよ」

 

短いカオルの返答

その裏に潜む感情に海香は気付いた

恐らくは本人すら感じない感情に・・・・

 

~ 人に執着するのは同じか・・・・・ ~

 

恋のカタチには色々とある

憧れが恋へと変わることもある

そして対抗意識が恋へと変わることも・・・・

彼や彼女がその気持ちを理解する日は近いのかもしれない

 

 

 

 

 

 




春先になると、古本屋でも変態が増える・・・・

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