鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下


石の記憶

 

「・・・・・・・」

 

カンナが部屋の中に入ると、そこかしこにニコとの思い出が彼女を見つめていた

 

開かれた「秘密の部屋」

此処は彼女の魂の同胞であった「神那ニコ」の思い出を埋葬した場所

見れば見るほど心が締め付けられるような感覚がカンナを襲う

例えば壁にかかっている頑丈な牛追いの鞭は、アリゾナから魔獣を追ってやってきたカウガールの魔法少女からの「友情の証」として贈られた物であり、様々な荷物タグが付けられた二人分のトラベリングセットはニコとの二人っきりの旅を思い出すものだ

そして、傍らに無造作に置かれている金塊の山

これは「再生成」の魔法を得意する、神那ニコが旅の資金として生み出したものだ

純度は高く、高値で現金化できて彼らの旅を支えた

・・・・・・もう必要がないから此処に置かれている

何も知らない、他の人間にはガラクタとしか思えないものでも、そのもの一つ一つにエピソードがあり、ニコと二人で旅をしてきたかけがえのない思い出が詰まっていた

だからこそ・・・・

 

「ニコ・・・・・・・!」

 

その心を焦がす苦しみにカンナは慟哭した

 

 

ひとしきり泣いて落ち着いた後、カンナが棚から一つの箱を取り出した

黒い箱に銀で装飾されたビロード張りの箱

そこの中には一対のイヤリングが入れられていた

小さい物であったが、それに使われている宝石は特異なものだった

深い緑色の宝石で、光に透かすと緑色の光の中に空気の泡や融解時にできた筋が輝いていた

あの運命の夜、両親から渡される予定だった「プレゼント」

それは緑色の宝石「モルダバイト」のイヤリングだった

 

 

― モルダバイト ―

 

約1500万年前、隕石が落下した際、跳ね上げられた地表の物質が急速に冷やされてそもままガラス化したもの

「隕石ガラス」、所謂テクタイトの一種であるが、チェコのモルダウ川で発見された、ガラス光沢を持つ緑色のテクタイト、それらは宝石として珍重されていて、こうした宝飾品に使われることもある

その石言葉は・・・・・

 

 

カンナが自らのソウルジェムを翳す

彼女の衣服が光の粒子へと変わり、代りにダークグリーンのボディースーツが彼女の健康的な肢体を覆い包む

そして同じ色の、手術着のような外套が装着され最後に帽子が彼女の髪の上に乗る

背中には鎖のように光の輪が繋がった尻尾が接続されてる

 

「接続」の魔法少女「聖カンナ」

 

その固有魔法は「接続」

例えば、契約を経て「魔法少女」になった少女達はそれぞれ、願いに則した「固有の魔法」を持っている

無論、よく似た魔法があっても厳密に言うと同じものは一切ない

彼女が使う「接続の魔法」は、それのみで戦闘に使用できる魔法ではない

だが、特定の魔法少女と「接続」することでその戦闘に使用することができる

それのみならず、幾つもの固有魔法を彼女の「接続」でつなぎ合わせれば、それまで存在しなかった全く新しい魔法も生み出すことができる

おまけに接続されている人間は接続されているという感覚が全くない

つまりは、知らず知らずの内に自分の魔法でやられているということも十分あり得る

考えようによっては、「カンナ」の持っている魔法はかなり厄介なものになる

そしてもう一つの特徴として、その接続できる適応範囲には制限というものがない

ただ、モノによっては記憶のみしか接続できないこともあるが・・・・

 

 

シュル・・・・・・・

 

彼女の背中から生えた、鎖のような触手がテーブルの上に置かれたモルダバイトのイヤリングに向かって放たれる

 

「自分の記憶」

 

思いつく限りの記憶を辿り、時には両親にも聞いた

・・・その結果は驚くべきものだった

 

― カンナとその他の人達の「記憶」にはズレがある ―

 

例えばカンナには家族でキャンプに行ったことがあるが、その際に父から狩猟用コンパウンドボウの手ほどきを受けた

コンパウンドボウは「弓」と名がついているが、その撃ち方はかなり特殊だ

通常は「リリーサー」と呼ばれるピストルでいうところの引き金のような特殊な器具でもって弦を弾く

それが無ければ使用はできない、筈だ

でも・・・・・カンナは「コンパウンドボウを撃った」という記憶があっても、その際に「リリーサー」を使用した記憶がないのだ

忘れている?

リリーサーの存在すら知らなかった私が、コンパウンドボウを撃つことなんて出来はしない

父からはリリーサーが手に合わず、幾つもの血マメができたことを教えてもらった

これも記憶にない事だ

信じられし信じたくないが、自分がなんらかの魔法を掛けられている可能性がある

不可能を可能にするのが魔法少女だ

あり得ない可能性ではない

最早、自分の記憶さえ疑わしい

ならば・・・・・選ぶ手段は一つしかない

 

― 物体に「接続」を行う ―

 

アーティファクトの記憶は客観的なモノだ

蓄積された記憶は裏切らない

このモルダバイトのイヤリングはニコと私がそれぞれ片方ずつの耳に付けていた

これはあの夜のことを忘れないという、私達の「決意」

だからこそ、ニコの死の記憶も蓄積されているはずだ

 

「コネクト!」

 

カンナがイヤリングと「繋がった」

 

 

 




キルラキル
やっぱり安心の面白さ
ぶっちゃけ、26話でも短いくらいだ

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