鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下します

あ、別にVegemiteをdisってないからね?


もう・・・許さない

カツーン・・・カツーン

 

暗闇の包まれる回廊に足音が響く

足元さえ見えない暗がりの中でも、光り輝くパープルかかったシルバーブロンドを靡かせ、女性らしいスレンダーなシルエットが浮かぶ

ややクラシカルなデザインの眼鏡と、パープルを基調としたタイトスカートと白いタイツがやや硬い印象を持つが、しかし彼女によく似合っていた

その手に乗せられたのは碧色の光を放つ卵形の宝石 ― ソウルジェム ―

ソウルジェムから放たれた光が、この久遠の闇の中で彼女を導いていたが、光に照らし出されたその表情は暗かった

 

~ 覚悟はしていた・・・・でも・・・・ ~

 

彼女の脳裏には彼女が心の底から慕う一人の少女

真から伝えられた方法

それを実行に移し、隠された「仮面」がサキの目の前で剥がれた瞬間、全てを知った・・・・

 

ギュッ!

 

しサキは自らの肢体を両手で強く抱きしめていた

そうでもしなければ彼女の実存すら疑いかねないからだ

 

「我思う故に、我あり」

 

よく引用されるデカルトの言葉だが、この言葉の意味は例え目の前の現実が何らかの手段で作られたモノであっても「目の前の現実が作られたものではないか?」と思考する、現実に左右されず揺るぎない確立した「精神」、そのあり方を言い表したものであるだけに過ぎない

端的に言うなら、哲学における心構えといえる

考えようによっては、ニーチェの「精神的超人」の概念に近い

ただ、その哲人たちの言葉もサキを支えることはできなかった

 

 

浅海邸

 

「ねぇサキ、食べてほしい物って何?」

 

「ああ、父がお土産で変わったチョコレートソースを買ってきたんだ」

 

「えへへ、楽しみだな~~~」

 

「・・・・・」

 

黒い猫のような癖っ毛にガーネットのような紅い瞳

私と妹を「絶望」から助け出してくれた友人の「和紗ミチル」

今、私がしようとすることは彼女への裏切り

彼女の「実存」を疑う行為だ

本当はそんな事なんてしたくはない

真君も、そしてさやかさんも全てを「夢」の出来事と思いたかった

 

ギィッ・・・・!

 

知らず知らず手の中で、「ソレ」を強く握っていた

「彼女達」が教えてくれた「偽物」と「本物」、「夢」と「現実」とを見分ける方法

単純にいえば、サキもミチルも存在していても食べたことのないモノを用意すればいい

それにうってつけのモノを彼らは知っていた

あすなろ市で一番大きな輸入食料店

ここへはミチルと一緒に買い物に来たことがある

店員の「そんなモノ食べるの?」と言いたげな表情に早速サキの心が折れそうになるが、なんとか平静を装い手に入れることができた

試食はしていない

真君からはインターネットでデータを見ることも、あらかじめ味を調べることも禁止された

そうすれば「夢」がそれに引きずられ、結果が変わってしまうことに繋がりかねないからだ

この行動は意図的に「バグ」を生み出す為のもの

サキがやや硬い蓋を開くと、見た目はまるで「チョコレート」のような色をしたペーストが充填されていた

それをクラッカーにたっぷりと塗りつける

見た目は完全にチョコレートソースを塗ったクラッカーで、香りも異常なものではない

それを品よく皿に並べ、ミチルが待っているテーブルに運び彼女の目の前に置く

 

「これって美味しそう!!ねっねっ!食べていい!!!」

 

始めて見る食べ物に目を輝かせるミチル

その姿は可愛らしく、サキの決意を揺るがせるができる限り平然を装う

 

「ああ、一緒に食べよう」

 

カリッ

 

二人っきりのリビングにクラッカーをかじる音が響く

 

「ひっ?!」

 

その時サキは見た

・・・・・信じたくなかった

 

「あ・・・・あああ・・・・・あ・・・・・・・・」

 

その場にサキが崩れ落ちた

 

 

「サキさん、生まれて初めてのベジマイトの味はどうだった?」

 

さやかの言葉にサキは答えなかった

 

― ベジマイト ―

 

オーストリアではよく食べられている、ビール酵母と屑野菜を使って作られた発酵食品

その味は言うなれば、ビールを混ぜたあり得ないほど塩っ辛い味噌のような「ナニカ」

ハッキリ言ってまずい

日本人でこれを食べた経験のある人間は少ないだろう

それをさやかと真は突いた

「夢の世界」が当人の記憶に基づいて願望を現実化させているのなら、存在はしているが「食べた記憶」にないものを用意すればいい

そうすれば、必ず何らかのバグが起きるはず

食べ物関連でのバグで、敵が真やさやかの存在に気付くことはない

バグもそう大きなものではないが、しかし「夢」か「現実」かを判断することくらいは可能なはず

荒療治ではあるが、サキが現実を直面するにはそれしかなかったのだ

 

「・・・・・許さない」

 

絞り出すようにサキが呟く

その瞬間、彼女のソウルジェムが光り輝く

光の中、服が光の粒子に変わりエンジ色の乗馬服とベレー帽被り、かけていた眼鏡がモノクルへとなる

彼女の怒りが魔法少女へと変身させたのだ

「夢の世界」、ベジマイトを食べたミチルの顔

サキは見た

そこには「和紗ミチル」の髪型をしたのっぺらぼうが座っていた・・・・

 

「一緒に戦ってくれますかサキさん」

 

「当然だ!!!!私のミチルを穢した奴らを許さない!!!」

 

彼女の端正な顔は怒りに歪んでいた

 

 

 

 

 




ベジマイトのおいしい食べ方

① パンにバターかマーガリンをたっぷり塗る
② ベジマイトをあらかじめ塗ったバターと混ぜるように塗りつける
③ とろけるチーズを一枚のせ、トーストする

チージー・イージーという食べ方で、ビールのつまみに合いますよ

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