鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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では投下


未来の二つの顔

見滝原市の閑静な住宅街

 

そこに住むのは社会的に成功した人種、いうなればセレブと言われる階級の人間が多かった

歴史ある武家屋敷のような邸宅や、海外の有名な建築デザイナーの手による邸宅がひしめく中、その中でも白亜の城のような邸宅が特に目を引く

ただ大きいだけではなく、隅々まで手入れの行き届いた庭園

ただ闇雲に豪華さを強調するのではなく、内に潜む気品が見る者を圧倒する

この邸宅の持ち主の名は「美国久臣」

かつて悪意のあるマスコミや社会運動家によって汚職政治家の烙印を押された人物だ

 

その当時は酷かった

連日、「報道の自由」を振りかざしたマスコミが詰め掛け、ゴキブリの様に涌いた「社会運動家」による悪意のあるデモがこの住宅街で行われた

中には美国家をこの住宅街から追い出そうとする動きまであった

久臣は追い込まれた

それこそ自殺を決意するほどに・・・・

だが、彼をそこまで追い詰めた醜聞が悪意あるデマであるとわかると、あれほど彼を糾弾したマスコミも社会活動家も黙り始めた

特にマスコミは「報道しない自由」を盾に、事件そのものを「なかった」ことにしようとした

そして、彼の住む邸宅付近はある意味「不可侵域」となった

考えれば当然のことだ

彼を追い込んだ醜聞がデマであると判明した以上、なおも糾弾すれば自分達もデマを流したシンパであると自分から告白するもの

口では「差別はいけない」「ノーモアヘイトスピーチ」と声高に叫んでも、その裏では彼らが「社会的弱者」と認定する人種に引っ付いて女や金といった「甘い汁」を吸うのが目的だ

無論、彼らの認定した「社会的弱者」が証言以外に客観的な証拠などない「既に賠償の済んだ事案」を持ち出して、「あの奇跡」をもう一度とばかりに賠償金の「おかわり」を求めたり、大使館の前で幼気なキジの雛を踏み潰して殺していることを「報道しない自由」を盾に問題にすることはないのだが・・・・

久臣がデマで追い込まれたのも、マスコミの後押しで当選した政党が「社会的弱者」に無償で百万円支給するという「社会的賠償」に反対したからだ

今では彼、いや彼の所属していた政党を批判する者はいない

ネットでその当時、彼を率先して糾弾していた政党が、特定の国に自国の領土を「経済協力」による「共同開発」という名目で朝貢しようとしていたことが暴かれたからだ

誰がその情報を流したのか、それは定かではなかったが、添付された書類や音声データは信頼に足るものだった

マスコミは自分のやったことを棚に上げ、悪意のあるデマと「声闘」するが、もはやマスコミも、マスコミの力で第一党となった件の政党も、その「権威」は地に落ちたといっていい

そしてその切っ掛けとなった久臣の人気は高まった

政党に復帰すれば、総理大臣は間違いなかった

しかし、予想に反して彼は政界には戻らずに引退を選んだ

その理由を知る者はいない・・・・

 

 

美国家長女 美国織莉子

品行方正

容姿端麗

絵に描いたような完璧な人間

彼女も醜聞で被害をこうむった一人だ

通っていた白百合女学院で彼女は生徒会長をしていたが、その地位から引きずりおろされ、それまでいた取り巻きからは影口をたたかれ日々

身体的な苛めはなかったが、彼女の内面をガリガリと削りとっていった

久臣の潔白が証明された今は彼女を苛める者はいない

彼女の取り巻きも戻ってきたが、織莉子は彼女達を歯牙に掛けることさえない

ただただ、平凡な学生として学業に励んでいた

それには理由がある

魔法少女の起こした事件を解決する「魔法少女探偵」として活動しているのだ

絶望の未来を回避するために、罪なき人々を虐殺した「贖罪」として・・・・

 

 

私は夜が嫌い

夜になるとあの日の事を思い出すから・・・

ドアノブにロープを掛けて自殺したお父様

お父様の顔は鬱血してむくみ、その手足はまるでゴム人形のような土気色をしていた

助け起こしても、もうお父様はその声を聞かせてくれない

私は・・・私はいつも美国家にふさわしい者として生きてきた

その結果がこれですか・・・・?

何故私はこの世界に生まれてきたの?

何故私は・・・・

 

「お父様!!!!!!!!!!」

 

周りを見ると、そこは私の部屋

白い海のような、シミ一つない純白のシーツ

何処も変わったところはない

でも白い肌の下の心臓は早鐘を打っていた

早くお父様に会いたい

会って無事を確かめたかった

 

 

織莉子の目の前には久臣の書斎の扉があった

 

トントン・・・!

 

「お父様、起きておりますか?」

 

返事はなかった

 

「お父様はもう眠ってらっしゃるのかしら・・・・」

 

不意に「あの日」の光景が脳裏に蘇る

「この世界」に転生して、お父様を自殺の運命から助けることができた

でも・・・・運命を克服できなかったら?

再び彼女の心臓が速くなる

そのときだった

 

「・・・・織莉子か。入りなさい」

 

「は、はい!!!」

 

彼女の父である久臣は部屋の中央に座っていた

テーブルにはバーボンの瓶とバカラのショットグラスが置かれていた

 

「こんな夜更けにどうしたんだい?」

 

「あの・・・怖くて・・・」

 

「怖い?」

 

「私は怖いんです。お父様は元気で・・・今は友人もいます。でも、いつかこの幸せが消えてしまいそうで・・・」

 

目を伏せ、そう告白する織莉子の姿は美国家の長女ではなく、年相応の少女だった

その姿を久臣は父親らしい、優しい瞳で見つめていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「さっさと仏像返せ!!!!!!!」

子供の時まで対馬に住んでいた以上、他人事じゃないんでね

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