鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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「蒼き鋼のアルペジオ」

・・・・原作、あんま進んでないのに大丈夫か?


それぞれの別れ

見滝原市 中央区 一二三邸

 

父親が全世界修行の旅に出て以来、佐倉杏子が妹のモモと母親と一緒に居候している邸宅だ

彼女の目の前の、広く大きなダイニングテーブルの上には美味しそうな匂いを立てる様々な料理が並べられていた

本部から破門され、雨の中寒さに震えながら父親とスローガンの書かれたビラを街中で配っていた頃と比べ、今の生活はまるで天国のようだった

モモとたった一個のリンゴを分けて食べることもない

本当に幸せだった

 

「おねえちゃん・・・・・泣いてる?」

 

「え・・・・?」

 

杏子の瞳から、ぽたりと涙が一滴、テーブルの上に落ちた

見るとモモが杏子を心配そうに見つめていた

モモの純真な瞳は魔法少女や魔獣なんて知らない、無垢な少女のそれだった

 

~ ここからもしアタシがいなくなったら、モモはどうするんだろ・・・・ ~

 

織莉子から「箱庭」の恐ろしさを教えられている

あの結界内では、何の対処方法を持っていなければ直ぐに「楽園」の餌食になる

「楽園」は少しずつ、見滝原を侵食している

でも、それに見滝原に飲み込まれるのはまだまだ先だ

 

― 見捨てればいい ―

 

そうだ

見捨てて、危険になったらこの見滝原を離れればいいのだ

そうすればこの「幸せ」を失うことはない

「アイツ」は不幸だった

そう諦めればいい

 

~ この幸せを失くたくない!でも・・・・! ~

 

杏子の脳裏にいつも誰よりも真面目で、誰よりも真剣だった一人の少年の面影が浮かぶ

 

― 「鉄仮面」の魔法少女 宇佐美真 ―

 

佐倉杏子は自分のいる席から周りを見渡す

真にも家族がいる

真にも真の幸せがある

だから・・・・・!

 

~ 自分の為に他人の幸せを奪っていいわけない!!!! ~

 

杏子はもう迷わなかった

逃げれば、この場は助かるかもしれない

でもずっと逃げ続けることなんてできやしない

後悔は影のようにぴったりと後を尾けてくる

なら後悔なく、進み続けなければならない

相棒の「美樹さやか」を失ったときのような後悔なんてしたくない

 

夕食を終え、皆が寝静まった深夜

杏子は与えられた部屋をから出て、階下にあるキッチンに向かっていた

作戦の決行は明日

心が騒ぎ、眠ることができなかった

冷たい水を飲めば少しは眠りやすくなるかもしれない

 

ギィ・・・・

 

階下ではブランド物のスーツを着た一二三美緒が「仕事」の準備をしていた

花の香りのするコロンの香りが杏子の鼻孔を刺激する

 

「叔母さん・・・」

 

「杏子かい?ガタガタ騒がして悪いね。これから仕事なんだ」

 

叔母の一二三の本業はレズビアン専門のデートクラブの経営だ

故に、その経営者である彼女も「客」を取ることもある

そのおかげで、杏子の父親は日本を旅立つ寸前まで「彼女」からの申し出を断っていた

正直言って、杏子は叔母である彼女を嫌悪していた

「お金」の為に同性と付き合う彼女は「教え」にある「罪深い女」そのものだった

でも、彼女に引き取られて父親から距離を置いてみると、父親の言っていたことがどんなに歪んでいたかを知ることになった

父親は世界を救うよりも、家族を救わねばならなかった

それすらできない男に誰がついてくる?

美緒の生業は褒められたものではないが、少なくとも彼女のおかげで心に秘めた思いを曝け出して救われる人々もいる

それを「正常な恋愛ではない」と否定することが、「人々を救う」と書かれた「神」の教えとはとうてい思えなかった

 

「あの・・・その、こういうことでおかしいかもしれないけど・・・がんばって・・・」

 

「ありがとう杏子」

 

一二三は微笑むと杏子の白い手を引いて、彼女の小柄の肢体を引き寄せると、その頬にキスをした

 

「ちょっちょっと叔母さん!!!」

 

「これは勇気の出るおまじないさ!じゃあ行くよ」

 

杏子が何かを言うよりも先に、一二三はドアを開けて出て行った

 

 

 

「ただいま・・・・」

 

金色の巻き毛を揺らし、一人の少女がその少女の持つ気品に相応しい豪華な部屋

数々のアンティークな調度品

少女らしい、高額なテディベアの数々

でもここには決定的に欠けているものがある

それはおかえりと言ってくれる「家族」の存在・・・・・

 

『落ち込んでいるのかい?マミ』

 

明るくはあるが、感情のない声

振り向くと、彼女を魔法少女にした存在「キュウベェ」が座っていた

 

「別に・・・・・」

 

『それはおかしいな。実際、あすなろ市全体がロストしてしまっている。この近辺の魔法少女に連絡網を持っているマミなら詳しいことを知っていると思っていたんだけど・・』

 

「それとこれは別のことよ」

 

『僕らもアレには手を焼いているんだよ。中に入ろうとしても弾かれてしまうし、中の魔法少女達とも連絡が取れないんだ』

 

「そう・・・・・それは私にもわからないわ」

 

『なら僕はもう行くね。事態を的確に把握しないと』

 

「キュウベェ・・・待って・・・」

 

『何だいマミ』

 

「もし私が魔法少女にならなかったらどうなっていたの?」

 

『助かる可能性もあったけど、かなり確率は低いね。それに身体も酷い状態だった。もし助かっても今のように元気に学校は通えなかったと思うよ』

 

「ありがとうキュウベェ」

 

『じゃあねマミ』

 

そう言うとキュウベェは窓枠に前足をかけるとガラスの向こうへと消えていった

その姿をマミは複雑な思いで見ていた

 

― 貴方に普通の少女の生活を与えることができるわ ―

 

あの夜にあった少女の声が脳裏に木霊していた

 

 

 

 

 




今期のアニメだったらやっぱり「キルラキル」かな・・・・

「ヴァルヴレイヴ」また「犯っちまう」だろうし、間違いなく

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