もぅ、つま先までびしょびしょだよぉ~~
すいません・・・・・出来心です
巨大なダイニングテーブル
そこには灰色の髪の少女とレモン色の髪の少女が座っていた
目の前には豪華な食事が用意されているが、二人はそれに手をつけてはいなかった
「貴方の願いは知っているわ・・・・せっかくの大魔法の甲斐なく、植物人間になってしまった両親を目覚めさせること。違うかしら?」
― ・・・・・そうだ。その為に私はここにいる ―
「交換条件よ。私達の協力者には覚醒魔法を得意にしている魔法少女がいる。彼女の魔法なら、間違いなく両親を覚醒させられる」
― 条件は?私が払える対価なら払う ―
「私達の楽園の礎になること。無論、苦痛もないわ。私達の計画が成功すれば、貴方も、そして貴方の片割れをも救うことができる」
― わかったわ。私の条件も飲むのなら、喜んでこの身体を差し出すわ ―
「・・・・条件を聞きましょう」
ハロウィン前夜
両親が家に押し込んできたギャングに撃たれ、私はもう一人の私である「ニコ」と一緒に魔法少女になった
魔法で完璧に治せた「はず」だった
だが、両親は目覚めなかった
両親の身体に何処にも異常はなかった
それでも・・・・目覚めてはくれなかった
私と「ニコ」は旅をした
それは、両親を目覚めさせることのできる魔法少女を探すためだ
魔法少女の願いは千差万別
世界に一人でもいるはずだ
たった二人っきりの旅
何度も心折れそうになったこともある
でも、ニコはいつも私の傍らにいて励ましてくれた
― 大丈夫だよ!パパもママもきっと目覚めてカンナの事を呼んでくれるよ ―
魔法少女は世界中に居る
危険な国を二人で歩いたこともある
私達が「日本」を訪れた時だ
「先見」の魔法少女から、グリーフシードと引き換えに得た情報から、ついに私達は彼女に出会った
― 救済の魔法少女 ―
彼女は眠りと覚醒の魔法を得意にしていた
やっと長い長い旅に終わりが見えた頃、それは起こった
それは何時もと変わらない「狩り」のはずだった
私もニコも魔法少女だ
魂の結晶である、ソウルジェムから穢れを吸い出さなければ、速やかに「死ぬ」ことになる
だからこそ、訪れたその土地の魔法少女の取り分を犯さない程度に狩りをして、二人の浄化に必要最低限のグリーフシードのみを得ていた
無論、その土地を縄張りとしている魔法少女達と争いとなることもある
でも・・・・ニコと二人なら乗り越えて行けた
その日は違った
― 風見台 ―
幸い、そこを縄張りにしている「魔法少女」はいないようだ
よくある
何も魔獣のいるところに必ず魔法少女がいるとは限らない
そういう場所は絶好の狩場だ
私達は暫くそこを狩場にしていた
― ちょっと!アノ娘あぶない! ―
― 放っときなよ!あんな娘! ―
ニコは優しすぎる
だから・・・だから!
恐らくは魔法少女となったばかりなのだろう
彼女は魔獣の攻撃法すらわからず、魔獣の間合いに入ってしまっていた
もう助けられない
でも、ニコは違った
― 今ならまだ間に合う! ―
緑髪の少女を庇って、魔獣の放った光の中に消えるニコ
ニコは最後まで笑っていた
心配しないで、と
私は「救済」の魔法少女と一緒に、故郷に戻った
彼女の力でパパとママは目覚めた
再び家族三人の生活に戻った
でも、傍らにニコはいない・・・
ずっと私を見てくれた、私の守護天使はもう語りかけてくれない
「願い通りにしたわよ。彼女は海香の魔法で書き換えられた通りに、自分を神那ニコではなく聖カンナと思い込んでいる」
「感謝する。両親を目覚めさせた上で、私の条件も飲んでくれて・・・」
「灰色の髪の少女」宇佐美真琴の傍らにはオリジナル「聖カンナ」
二人が居るのはカルフォルニアの住み慣れた我が家
彼女達が旅立つ前とほとんど変わっていない
彼女がカンナが魔法少女の「願い」で生み出した「神那ニコ」は、自分を「聖カンナ」と思い込んで、植物状態から目覚めた両親と一緒に生活している
自分が魔法少女であるという記憶はある
「接続の魔法」を使う「聖カンナ」として
楽しそうに母親や父親と朝食を食べる彼女の姿に、カンナの心の奥がチクリと痛んだ
「大丈夫よ。計画が成功すれば、貴方もニコとまた一緒になれるわよ・・・・聖カンナ」
真琴が傍らの少女に話しかける
「・・・・行こうか」
「ええ」
二人の姿は突如現れた扉の向こうへと消えた
「再生成」の魔法少女 聖カンナ
彼女が宇佐美真琴から両親の覚醒の代わりに出された条件
それは、彼女の作る「楽園」の為にその身を捧げる事
カンナにとって、その条件に悩むことなんてなかった
彼女が拒否すれば、両親を目覚めさせる手段はなかった
でも、この取引のことをを聞けば心優しいニコは決して許さないだろう
だから海香の「イクス・フォーレ」で「死んだ」事にした
「私一人が犠牲になるだけで、ニコが幸せになれるのなら・・・・」
聖カンナが呟く
彼女は知らない
「かつての世界」でも聖カンナは合成魔法少女である「神那ニコ」に両親も、人としての幸せも、彼女全てを託した
世界線は違えども、自分がそれと同じことをしていることにカンナは気づかなかった
「因果な・・・・・」
真琴は健気に笑う彼女を見つめるしかできなかった
相変わらず、ワタモテが痛い・・・