堪らない
見滝原市工業地区
今夜は珍しく、全員が集まっての作戦が実行されていた
「どうしたんだ真、ボーとして・・・・?」
マギカ・カルテットの先輩である「佐倉杏子」が真の顔を覗き込んでいた
「?!」
勝気な笑みと口元に見える八重歯
健康的な美がそこにある
咄嗟に真は目線を逸らした
真の父である「宇佐美蓮助」と、織莉子の父親である「美国久臣」
二人が旧友であったことにも驚いたが、何よりも二人が真と織莉子とを「許嫁」としたことが真の頭から離れなかった
織莉子さんは良家の子女
許嫁の一人くらいいるだろうとは思っていたが、それが自分であるとは思わなかった
その後、織莉子さんと二人っきりでで話し合って、「許嫁」を引き受けた方がお互いにとって利益になることもわかった
織莉子は、このことが父親である「美国久臣」が、彼女のことを考えての行動であることは分かっていた
わかっているが、真も「思春期」の「健全な男子」だ
理性では理解できても、その奥底では煮え切らない思いが渦巻いていた
「何で目を逸らすんだよ!!!アタシの顔に何かついてんのか?」
尚も真の顔を覗き込む杏子
「そ・・・そんなことは・・・」
「だからなんでアタシから目を逸らすんだよ!!!!」
「そこまでにしなさい佐倉さん」
「へいへい・・・」
今マギカ・カルテットはいつものパトロールを行っていた
当然、真も参加していたが、その気分は漫ろだった
「真さんもしっかりとしなさい!」
「はい!!!」
マミの声に真は背筋を正しくする
「父親が帰国して色々と大変なのもわかるけど、油断と慢心は自分のみならず仲間も危険を引き込むわ。真さん、それをわかって?」
「わかっています・・・」
「何か悩み事があるのなら、遠慮なく私達に話してちょうだい。貴方は一人じゃない、こうやって話し合える仲間がいるんだから・・・・」
真は意を決した
「実は・・・・・」
真は今まで起った全てを皆に話した
織莉子との一件も・・・・
皆の反応は当然・・・
「「「真とバケツ女が許嫁~~~~~~~!!!!!!!!!!」」」
こうなるのだ
「まぁ・・・・真さんも結構名家の出身だし・・・・」
なぜかスカートに仕込まれた、マスケット銃がばらばらと地面に転がる
「おっぱいなのか!やっぱりおっぱいで選んだのか?」
瞳孔の開いた目で詰め寄る杏子
「処女とセックスするときはローションを用意しなさい。そうした方が破瓜の時痛くなくて、お互いセックスに満足するわ」
やたらと実感のこもったアドバイスをするほむらと静かに混乱するマミ
なぜか、「おっぱい」に拘る杏子
今「マギカ・カルテット」はカオスの極みに達していた
「そしてボクは途方に暮れる」
カオスのようになった「頼れる仲間」達を横目に見ながら、真は静かに呟いた
数日後
「とうとうこの日が来てしまった・・・・」
見滝原の高級ホテル
今日ここで「真」と「織莉子」の「許嫁披露パーティー」が行われる
真は父親がいつも利用しているテイラーで仕立てたスリーピースのスーツを着用し、織莉子も白いドレスを優雅に着こなしていた
余裕のある織莉子と比べ、真の表情は浮かない
~ 緊張しているのかしら?真さん ~
織莉子からの念話が真に届く
~ ええ・・・・すみません ~
~ 緊張しなくてもいいわよ。許嫁も所詮は書類上の手続き以上の価値はないわ ~
~ そうですね・・・・ ~
~ あら?真さん、本当は許嫁になるのが嫌なの?そんなこと思っているなんて、結構傷つくわ ~
織莉子が念話を送りながら口の端で笑みを浮かべる
― 結構楽しいわね ―
・・・・・彼女も真を弄る愉しみに目覚めつつあった
「失礼ですが、本日は内輪のイベントでして・・・・」
初老の男性が目の前に立つ黒いドレスを着た女性に声を掛ける
しかし、女性はその場を立ち去ろうとしなかった
「招待状ならあるわ・・・・」
ただならぬ雰囲気に男性は袖から、多段式警棒を取り出そうとするが・・・
シュバァァァァァァァ!!!!
「うっぐぅ・・・・・・・・・」
女性の身体から針金のような糸が飛出し、男性を縫い付けた
「コレガ、ワタシノショウタイ状ヨ?」
女性が耳まで裂けた顔で笑みを浮かべる
NGシーン
「そういえば、真さんって趣味って何?」
「へ?」
巴マミの自宅
「マギカ・カルテット」の本部は宇佐美邸別館を使っていたが、今は真の父親である蓮助が帰国している関係上、本部を再びマミの自宅へと戻していた
「そういえば、真さんのプライベートって謎だわ」
暁美ほむらが静かに、紅茶を楽しみながら呟く
「そうですね・・・・休日は父さんのコレクションを整理したり・・・車を作ったり・・」
「そうね。真さんも男の子だし、プラモデルを作るくらい」
「いえいえ、車ですって」
「「?!」」
宇佐美邸別館 ガレージ
「ねっ、車でしょ?」
「確かに・・・・・」
真に案内されたガレージには完成間際の「車」があった
アルミで作られたフレーム
宝飾品のように輝く、エンジンユニット
イギリスの至宝である「キットカー」ケーターハム・スーパーセブンがそこに鎮座していた
「・・・・やっぱり遺伝?」
「?」
杏子の発言に真は首をかしげる
彼の父は救いようのない「珍品奇品コレクター」である
その息子も彼の遺伝子を立派に受け継いでいた
キットカーというのは欧米で売買されている文字通りバラバラになった車で、完成させると実際に、走らせられます。