鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


ただ一人の物書きとして・・・

一週間の中日、水曜日

 

此処「あすなろ中央中学校」の図書設備は日本でも高いランクにあるようで、その蔵書も様々なジャンルが網羅されていた

その中にはライトノベル、所謂「ラノベ」も多く蔵書されていた

椅子は粗末なパイプ椅子ではなく、床と一体化した収納型の椅子になっている

空気圧を利用したスプリングは体重を上手く支え、長期間の読書も負担にならない

御崎海香にとって、ここ図書室は静かに思索に耽れる場所だった

週末ともなりなれば、各々の好みのライトノベルを貸し出す学生の姿もみえるが、水曜日は週の中日ということもあり、図書室は閑散としていた

つまりは「いつも」ならこの素晴らしい環境を海香は全てを独り占めに出来た

しかし今日は違った

 

図書室の書架が影になり直射日光が入らず、それでいて空調設備の風が直接当たらない快適な席

そこは「う~か」こと、御崎海香の特等席といえた

だが、今そこに座っているのはレモン色の髪をした見たことのない少女

白を基調とした制服を着ていることから学生であることは間違いない

訝しむような海香の視線を気にせず、少女が読んでいるのは・・・・

 

― イノセント・マリス ―

 

海香二作目の長編小説であり、今もWEB連載を行っている人気小説だ

彼女が真剣に読んでいるのは二巻目、主人公達が戦っているはずだった悪の組織

その正体は「主人公以外の全て」

無論、彼らは自分たちが悪の組織に加担している意識はない

だが彼らが道端で見ず知らずの「誰か」のために募金をしても、それは間接的に「悪の組織」を支援することになってしまう

正義に溢れた「無垢な悪意」こそが組織の全てである事を知って、主人公が絶望の淵に立たされるシーンだ

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

 

~ 無理言ってごめんねカンナ ~

 

少女「神那ニコ」は念話で鞄の中にいる、「生みの親」に話しかける

 

~ いいって!がんばってねニコ! ~

 

毎週水曜日、この時間にこの席に御崎海香が座っていることは瑠樹という名前の図書係に「接続」したことでわかっている

カンナがてっとり早く海香に接続したら?と言うが、「かつての世界」からの影響がどこまで及んでいることがわかっていない以上、海香やカオルに接続するのは得策ではない

敵として認定されたら厄介だ

「かつての世界」でも一匹狼だったあいりは確かに厄介だが、彼女がこのあすなろ市で仲間を持っているとは思えない

ましてや「かつての世界」の記憶を持っているのなら、隠者のように日々を過ごしているのは想像に難くない

だから、無関係な人間に近づいたのだ

 

 

「ん~?これ読むの?ごめんねついつい海外で読めない最新刊が置いてあるんで夢中になって読んじゃった」

 

少女はややおっとりとした笑顔を見せた

 

「海外って・・・・あなたも帰国子女なの?」

 

「うん。このまえ転校して来たばかりでね~」

 

「・・・・それ面白い?」

 

あの日以来、海香は執筆が止まっていた

これまで彼女は小説を書くことを軽く考えたことはない

だが、あの日「この世の影」を垣間見た彼女は自分の小説がまるで子供だましのように感じた

どんなに描写を練っても、どれもしっくりこなかったのだ

有体に言えばスランプに陥っていた

 

「面白いよ!・・・まぁ海外ではリアルタイムで書籍版を読むことができなかったからかもしれないけど」

 

「ふ~ん・・・・・・」

 

「特に、悪の組織の理由づけがイイ!!主人公全てが敵だったなんてオチってそうないよ!」

 

「素直な感想はやっぱり参考になるわ。ありがとう」

 

「へ?」

 

「それ書いているのは私よ」

 

「へ?」

 

「だ・か・ら!それの作者は私なの!!!!」

 

「え~~~~~~~~~~!!!!!!!」

 

 

「う~か先生にナメた口聞いてすみませんでした・・・・」

 

「先生ってことなんてしてないわ。・・・・・それにもう続巻が出ないかも」

 

海香はそういうと顔を伏せた

 

「どうして・・・・・?」

 

不意に海香がニコの手を掴む

 

「お願いが有るの!!!!!」

 

海香の鬼気迫る、というより「ツノ」の生えた海香がニコの手を掴む

 

「私に貴方を取材させて!!!!!」

 

少女の白い指に嵌められた指輪

それはあの日に出会った「魔法少女」がしていた指輪と同じものだった

 

 

 

NGシーン

 

御崎海香

あすなろ市中央中学校に通う現役中学生でありながら、今や押しも押されないライトノベル作家だ

彼女の事を知る人間が口をそろえて言う

 

― 海香が執筆に行き詰まると「ツノ」が生える ―

 

そう彼女はスランプに陥ると頭から「ツノ」が生えるのだ

なぜ魔法少女でもない彼女に「ツノ」が生えるのか?

 

「魔獣」は言うならば、人の生み出す瘴気の結晶した存在

つまりは、「局所的」に「穢れ」が結晶した場合は、ある程度実体を生み出す可能性があるのだ

仮説はこうなる

 

海香→スランプで瘴気発生→結晶化→「ツノ」が生える

 

『これは珍しいケースだね。うまくすれば魔獣のグリーフシード以上に感情エネルギーを得られるかもしれない』

 

安心の外道営業マンこと、「キュウベェ」

彼らが海香の特異体質を分析して、契約を自重するような精神構造をしていないのは諸君は了解していると思う

結果は・・・・

 

ガス!ガス!ガス!

 

暗い書斎

白い何かを一心不乱に「腹パン」する海香

 

「きゅぷぃ・・・僕と契・・・・ぎゅぶっ!!!!」

 

「あら?サンドバックが何か言っているのかしら?」

 

ガス!ガス!ガス!

 

「わけ・・・が・・・わか・・ら・・・」

 

「何度殴りつけても再生するなんてサイコー!!!これでスランプを乗り切れるわ!!!」

 

スランプに陥った作家程危険なものはない

それを理解して行動できるほど「インキュベーター」は感情というものを理解できていなかった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




「火垂○の墓」の作者がスランプになったときの「解決法」

気になったら調べてみてください
NGシーンの意味が分かります・・・

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