鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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投下します


父たちの思い

見滝原の閑静な住宅地に位置する美国邸

ほんの数か月前にはマスコミがハイエナのように詰めかけていた此処は、しかし今元の静けさを取り戻していた

政治スキャンダルで失脚したとはいえ、その当主である織莉子の父が健在でありその政治的な手腕、人脈は失われず確かなものだった

それ故「かつての世界」のように外国人の献金問題に絡んだ云われない誹謗中傷は起こらず、その一人娘である美国織莉子も「普通の少女」としての日常を過ごしていた

ただ学校生活では生徒会長としての活動からは身を引いている

 

「全ての魔法少女達を絶望から救う」

 

かつての世界で絶望の魔女 ― クリームヒルト・グレートヒェン - その誕生を阻止する「救世」の為とはいえ、見滝原中学校の罪なき人々を無慈悲に虐殺した彼女にとって、「かつての世界」で犯した罪を償うにはそれしかなかった

だから彼女は生徒会長を辞めた

織莉子の父は織莉子が生徒会活動から離れると聞いた時も彼女に理由を尋ねることはしなかった

それは彼女に関心がなかった訳ではない

彼女を信頼しているのだ

「父親」として・・・

 

 

― 今こそ先生のお力が・・・・ ―

 

― 私はスキャンダルで失脚した身ですよ。今更、政治に戻るなんて・・・・ ―

 

父の書斎から女性の声と父の声が聞こえる

相手はかつて父の秘書だった女性で、今は女性代議士をしている桑島だ

私はあの女が嫌いだ

母が死んだ後、いや死ぬ前から父に独りよがりの愛情を見せる「あの女」

外見を取り繕っただけの「中身」のない嫌な女だが、「スキャンダル」が対抗勢力によって巧妙に仕組まれた「犯罪」であることが発覚したあと、いの一番に父の名誉回復に尽力したのはまず評価できる

 

― 何を仰います!そのスキャンダルも自殺した平川が、通名で外国人であることを隠して行った「献金テロ」が原因です!先生には罪はありません!!! ―

 

― 私の前で死者を冒涜する言葉は辞めてくれないか? ―

 

― すみません・・・・ ―

 

先の選挙で父の所属している政党が勝った

当然だ

長年、政治に関わっていない連中が政権をとってもいい結果にはならない

嘘を並べ立てた「お題目」が剥がれた「裸の王様」なんぞ、誰も見向きもしなかった

加えて、「連中」が既存の政治家を追い落とす為に行った卑劣な「工作活動」も明らかになり、とうとう政党消滅の危機に瀕している

そのおかげで泡を喰った連中が父に擦り寄ってきている

曰く、そちらの政党に入れてくれ

曰く、選挙応援に来てくれ

皆、純粋な「父」を私利私欲に利用することしか考えていない

「信念」も「理念」も、そして「自己犠牲」すら持たない「下種」な人間共だ

 

「それでは先生、前向きにご検討ください」

 

短い会談は終わったようだ

 

「あら?織莉子ちゃん。おっきくなったわね」

 

あの女が私に目線を合わせる

彼女は笑顔を見せるが、その瞳には何も映っていなかった

 

「はじめまして、桑島さん」

 

「他人行儀な挨拶はなしよ織莉子ちゃん」

 

まただ

この女は常に「特別」になりたがる

何の信条も

何の信念も

何も持たない「お嬢様」

反吐が出る

 

「お帰りですか?」

 

「・・・ええ。また来るわ」

 

「ではまた」

 

「ええ」

 

あの女が来ている高級なスーツを脱がしたら、そこにはきっと何も残らないだろう・・・・

メイドに連れられてエントランスへと向かう彼女の後ろ姿を見ながら、私はそう考えていた

 

 

「織莉子、夜遅く呼んですまない」

 

父の書斎

私は子供の頃からそこで過ごすのが好きだった

微かに漂う葉巻の香り

そして、まだ幼い私には到底理解できない難しい本

幼い日の私は父の事を何か、「魔法使い」と思っていたくらいだ

 

「織莉子、私は政治に戻らない・・・・」

 

「なぜ・・・・ですか?」

 

「あのスキャンダルで懲りたんだよ。これからは織莉子と一緒に過ごしたいと思っている」

 

「お父様・・・・・」

 

「生活は心配しなくていい。顧問としての報酬もあるし・・・・・織莉子?」

 

私は何時の間にか涙を流していることに気が付いた

涙なんて流すのはどれくらい振りだろうか?

 

「アレッ・・・・・何で・・・こんなにも嬉しいのに・・・・」

 

決壊した感情の流れは止まらず、ただただ流れ落ちていた

 

「織莉子・・・もう寂しい思いはしなくていい。ずっと一緒だ」

 

久臣は幼い頃のように泣きじゃくる娘を静かに抱きしめた

 

 

「ああ・・・・君が教えてくれた通りだった・・・・」

 

深夜の書斎

古めかしい電話の前で織莉子の父が誰かに電話を掛けていた

その姿に普段の威厳に満ちた姿はない

 

「娘は・・・織莉子は・・・本当に魔法少女になってしまった・・・・私はどうすればいい?」

 

そして縋りつくように旧友の名を呼んだ

 

「助けてくれ・・・・蓮助・・・・」

 

 

 

MGシーン

 

「これがあれば・・・・私は特別になれるの?」

 

赤いスーツを着た妙齢の女性が一人の少女の前に立っていた

二回り以上歳が離れているが、恭しく女性は少女に跪いていた

 

女性の名前は「桑島桂子」

美国久臣の秘書をしていたが、今や女性代議士の一人として活躍している

名家の出である彼女は常に「特別」になることを望んだ

だから久臣の秘書となった

しかし、久臣は彼女を愛することはなかった

 

「ええ、その通りよ。それを額に押し当てアブラカタブラ、ホイカクシアジってね」

 

桂子の手には歪んだ黒真珠の両端から歪んだ針が突きだした物体が握られていた

 

「それをどう使うか、なんて聞かないよね?」

 

紫色のドレスを着た少女は笑みを浮かべる

 

「自分の障害になるもの、全てを壊しなさい・・・・・大丈夫、警察は何もできない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マックのチキンタッタ
何か味変わらなかった?

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