鉄仮面の魔法少女   作:17HMR

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さて、今章は外野だった真の父親が出てきます
織莉子の父親も・・・


第七章 それは影にも似て・・・
第121話


ヒュォォォォォォォ!!!!!!

 

風が通り抜ける

母譲りの紫かかったシルバーブロンドが巻き上げられる

髪型を気にするよりも、冷たく鋭い風がむき出しの顔に容赦なく当たる

それはまるでナイフのように痛く、本当に皮膚が切り裂かれているように感じた

しかしなによりも・・・・

 

「何・・・これ・・・・?」

 

雲一つなく

鳥の鳴き声も聞こえない

溝の中を滴る汚水のように黒く濁った空

空に飛ぶものはなく、周りには廃墟ばかり

ふと脳裏に、昔見た怪獣映画のワンシーンを思い出した

でも、それは銀幕に映し出されるそれよりもはるかに現実的だった

周りを見る

半壊した「巨大な柱」

子供が積み木を崩したかのように二つに折れ曲がっている

信じたくない

でも・・・

それは間違いない

なぜなら・・・・

・・・・見間違うはずがないのだ

隣県の見滝原に対抗して、その当時の市長が推し進めた電波塔建設

できた頃はあまりにも「まんま」な姿で失笑をかった「ソレ」

でも、その地に住む者にとっては愛着のある「ソレ」の残骸

目の前で無残な姿を晒すそれは、私の住むあすなろ市のシンボルである「あすなろタワー」に違いなかった

 

「どうしてこんな・・・・・!ヒィッ!」

 

私の周りには倒れ伏す少女たち

皆、色とりどりの衣服を着用していた

だが、皆一様に人形のようにピクリとも動かない

その中で赤い槍を握りしめたまま、倒れている紅い髪の少女に見覚えがあった

劇の客演でプレアデス聖団に暫くのあいだ、在籍していた少女だ

 

「起きて!佐倉さん!!!!」

 

必死に声を掛けるが、少女の瞳に光が灯ることはなかった

呼吸はない

瞳孔が開いている

彼女はもう既に・・・・

私は生存者を探す

古い時代の猟師の恰好をした「巴マミ」

彼女とは劇団のスポンサーから紹介されて以来の友人だ

友人が魔法少女だったことに驚くことはなかった

それよりも・・・・

彼女もまた佐倉さんと同じく「命の光」を失っていた

 

「何でこんなことに・・・・・」

 

これはまるで・・・・・

あの日見たまんまじゃないか

「真」さんが見せてくれた・・・・・「死」と同じ・・・・

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

遠くから聞きなれた声が響く

それは私と妹を救ってくれた「一人の道化師」の声

 

「ミチル?!」

 

私は声のした場所へと走る

幼くとも、凛とした声

私と私の妹を演技を通して、救ってくれた無比の親友の声

和紗ミチルの声に間違いなかった

 

「ミチル!!!!!!」

 

親友の名を叫ぶ

しかしその声は彼女に届かない

ミチルの前には暗い人影

それはまるで全てを覆う北欧神話に出てくる世界樹のようであり、全てを貪る旧約聖書の魔獣「ベヒーモス」のようにも見えた

 

「ミチル!!逃げよう!!あんなの倒せるワケがない!!!!!」

 

私は必死に呼びかけるが、彼女を引き戻そうとするが、ミチルの身体をすり抜けてしまう

既に死んでしまった「幽霊」かのように

ミチルはあの日に目にした、エプロンをモチーフにした白と黒の衣服を身に纏っていた

―「魔法少女」 ―

たった一つの願いをかなえてもらう代わりに「この世の絶望」と戦う運命を定められた戦士

彼女は決意を宿した瞳で奇妙な意匠を施された黒い杖を構え、その影へと向かう

ミチルの雪のように白い肌は擦り切れ、血が滲んでいた

勝ち目なんてない

絶望しかない戦いへと

 

『運命を変えたいかい?』

 

振り向くと体色が黒く、首回りを包むファー状の毛皮から触腕を生やした猫やウサギくらいの生き物がいた

 

「あ・・・なたは?」

 

『オイラは・・・・べぇ・・・・。キミに・・・いが・・・・』

 

雑音のようなノイズが入り、その生き物の声がうまく聞き取れない

だがそれよりも・・・・

 

シュゴォォォォォォォォォォ!!!!!!!

 

ミチルが黒い杖から猛烈な光線を放つ

ミチルの光線は黒い何かに当たり、その巨体を千切る

だが・・・・

その黒い何かは周りから黒い霞を集める

それはどろりとした質感へと変わり消し飛んだ場所を埋めていく

 

「勝ち目なんてない・・・・・」

 

 

「ぐぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!」

 

ミチルが黒い何かから放たれた針のようなモノ貫かれ、絶望の悲鳴をあげる

その時、私は確かに聞いた

そのバケモノの声を

 

― ミンナボクガ・・・・・・ ―

 

少女のようにも

少年のようにも

その「どちらか」にも聞こえるような声

 

― ボクヲコロシテ・・・・・・ ―

 

黒い何かが叫ぶ

それは嘆くようでいて・・・・

 

「ミチル!!!逃げるんだぁぁぁぁ!!!」

 

黒い何かから放たれた無数の針がミチルに迫っていた

 

 

「ミチルーーーーーーー!!!!!」

 

絶望の声とともに私は覚醒した

そこは何時もの部屋だった

「魔法少女」達の骸も

積み木崩しのように破壊された「あすなろタワー」も

そして引き裂かれ、絶命した「ミチル」の姿も

影も形もなかった

 

「サキちゃんどうしたの?」

 

私よりも落ち着いた、優しい声

隣の部屋で寝ている妹の美幸の声だった

 

「大丈夫だよ・・・美幸」

 

私は外を見る

大きな柱のようなあすなろタワーに月が隠れていた

穏やかな夜

でも私の心はざわめいていた

夢にしては現実過ぎる

まるで・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キュウベェは「白いゴキブリ」
やっぱジュウベェは「あすなろ市の黒いゴキブリ」と呼ばれるのだろうか?

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