白い犬   作:一条 秋

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 さて、黒い人型戦第2ラウンドです。どのような結末が待ち受けるか?
 では、どうぞ!


32 再会と覚醒

「…………!……ここは!?」

 我に返った光秋は、荒野の様な殺風景な場所にニコイチを棒立ちさせ、頭上に夜の様な暗い空が広がっていることに気付く。

 どこからか届く星明かり程度の光とニコイチのモニターの補正機能でなんとか周囲の様子はわかるが、それでも視界は著しく悪い。

―…………闇の世界―

モニター越しの映像から、自然とそんな印象を抱く。

「…………!」

「二尉!」

光秋の左腕を掴んでいた伊部二尉も我に返った様に周りを見回し、光秋はその方に顔を向ける。

「……ここは?」

「わかりません。僕も気付いたらこうなってて……ただ、状況から考えると……」

 言いながら光秋は、つい先程黒い人型に宙に空いた黒い大穴に押し入れられたことを思い起こす。

「……あの穴の中?」

「……」

伊部の言葉に、首肯を返す。

 と、

「……!そういえば黒い奴は!?気付いた時にはもういませんでしだが?」

穴に入った時の記憶から黒い人型のことを思い出した光秋は、慌てて周りを見回し、

「……!」

正面上空に浮かぶ人型を見つけるや、滑る様に後退して距離を取る。

 同時に人型もゆっくりと降下し、若干足元をよろけさせながら地面に着地する。 

―やっぱり、限界なのか?―

油が切れかかっている様な人型の鈍い動きに、光秋はそう考えてみる。

 が、直後、

「!?」

人型の頭上に背景以上に暗い黒雲が発生する。周囲がかなり暗いににも関わらず異様に映える黒雲は、人型の肩幅程に膨らむと、中央から一条の細い渦を人型の腹部の赤い長八角形の扉へと伸ばし、そのまま吸い込まれていく。

 黒雲を吸い込み切ると、人型は一瞬両目を緑色に輝かせ、左半身を前に出して構える。

「……」

その挙動に先程までの鈍さはなく、光秋は演習場での緒戦に感じた悪寒と恐怖を思い出す。

 が、

「……やる気か!」

その記憶を押しやる様に意識して覇気のある声を出し、操縦桿を握り直してニコイチの左半身を前に出して構える。

「気を付けて!ここでは恐らく、向こうの方が有利」

「!」

伊部の静かな忠告に、光秋は思わず目をやる。

「自分の有利な場所に敵を誘い込んで戦うのは常套手段。私たちにはこの場所に関する知識が全くないんだし……それに、黒い雲を吸い込んでからのアレ、さっきまでと違う!」

―……それもそうか―「はい!」

応じると、光秋は正面の人型に視線を戻す。

 直後、人型は滑る様にニコイチに接近し、右拳を繰り出す。

「!」

光秋はそれを左腕で受け、後ろに押されそうになるのを何とか踏み止まり、

「!」

当たり所の痛みを堪えて人型の腹部に右蹴りを入れる。

 蹴りの力で人型が後ろに押されている間に右脚を後ろに戻し、滑る様に接近し、

「!」

頭部に左突きを2発、胸部に右突きを1発入れる。

 それで後ろによろけた人型は、急上昇して間合いを取る。

「!」

光秋もすぐに右ペダルを深く踏んでそれを追う。

 と、

「!」

上昇していた人型は右脚を伸ばして降下蹴りをかけ、光秋は少し後退してそれを避ける。

 が、直後、

「!」

人型はすれ違いざまにニコイチの胸部を右拳で横から殴り、胸に痛みを覚えながら光秋は後ろに落下する。

「……!」

Nクラフトを吹かして地面直前で体勢を立て直すと、上の人型を見る。

「!」

目前まで迫った人型は肩溜めにした左拳を放ち、光秋は両腕を胸の前で組んでそれを受ける。

「!……」

殴られた勢いで地面に押し落とされ、左腕に痛みを覚えながら後ろに数メートル押される。

 その間、後ろにした右足を地面に押しつけ、地表を浅く削って殴られた力を殺す。

 ニコイチが止まると、光秋は両腕を下ろして前を見る。

「!」

正面に迫った人型が肩溜めの右拳を放とうとする直前、姿勢を低くしてそれを避け、

「!」

間を置かず、腰溜めにした右拳を人型の腹部に入れて後ろに押しやり、滑る様に後退して間合いを取る。

「・・・」

左半身を前にして構えると、光秋は滑る様に間合いを詰め、

「!」

人型の頭部に左突きを2発入れ、胸部に右蹴りを放つ。

 が、

「!」

放った右脚は人型の左腕に掴まれ、そのまま持ち上げられて右側に捨てる様に放り投げられる。

「!」

Nクラフトを吹かしつつ、地面に足を着いて投げられた力を殺す。

 止まり切ると、光秋は左を前にして構えるが、

―……いかん!ばててきてる!―

同時に体中に危機的な疲労を覚える。

―演習の緊張と向こうの世界での戦いの疲れ、それに恐怖心、未知の環境……小休止がもらえたとはいえ、殆ど無休でやってたのもあるから、無理もないか…………が!―

思うや正面に立つ人型を見据える。

―もう少しもってくれ!こんな所で死ぬのは御免だ!―

そう思うことで自身に活を入れ、疲れを紛らわそうとする。

 直後、人型が右腕先に刃を伸ばし、それを前に突き出して迫ってくる。

「!」

光秋はすぐに後退しつつ上昇して間合いを取るが、

―頭まで疲れたか?周囲把握……注意力が散漫になってる気が……―

その傍らで自身への危機感を抱く。

 そして、これが隙になる。

「!」

一瞬の考え事の間に人型は目前まで迫り、光秋は寸前のところで左に動いて突き出された右腕の刃を避ける。

 が、

「!」

直後に人型の右蹴りが腹部に当たり、腹が破けたかの様な痛みを覚えながら後ろに飛ばされる。

 そして、

「!」「うっ!」

疲労と痛みで光秋の心身の反応はいよいよ鈍くなり、手動操作も思考操作もできないまま背中から地面に落下し、全身の痛みとコクピットの微振を感じ、伊部の小さな悲鳴を意識の隅に聞く。

「…・・・加藤くん、大丈夫?」

横向きになっているコクピットで、伊部は席の背もたれを支えに光秋の左側に顔を出して訊く。

「……何とか……」

疲労と痛みで思うようにならなくなってきた体の中から、光秋は絞り出す様に言う。

 と、

「……!」

人型がニコイチの上に跨る様に降り立ち、右腕を肩溜めにして刃の先をニコイチに向けてくる。

―…………ここまでか?……―

漠然と思いつつ、光秋は血の気が失せた顔の伊部が、縋る様に自分の左腕を両手で掴むのを目の端で見る。

―…………この人と一緒に逝けるなら、悪くないか…………―

 人型の刃が一気に迫る。

 が、光秋にはその間が、すごくゆっくりに感じられる。

―綾にもう一度会いたかったな…………いや……―

刃がコクピットに迫る。

―綾のところに行くのか?…………―

知らぬ間に、口元が笑みの形に歪む。

 直後、

「アキ!」

「!」

聴覚を打った声に口の笑みなど吹き消し、光秋は伸び切った人型の右腕を力を込めた両手で掴んで刃の先が装甲に接する寸前に止める。

「『アキ』って!?……」

驚きの声を上げながら左隣を見る。

 と、

「!……」

後頭部のゴムを外し、髪を広げた伊部が目元に薄っすらと涙を浮かべながら微笑みかけるのを見、掴まれている左腕に先程より掴む力が弱くなったと感じる。

「…………アキ」

「……綾」

その呼び掛けと、伊部の時とは違う、強いていえば柔らかい雰囲気に、光秋は目の前にいるのが伊部法子ではなく、加藤綾だと確信する。

 直後、

「!」

人型が突き出している腕に力を込める。

「話しは後だ!」―まずは、ここを乗り切らんと!―

 断じると、光秋は両手にさらに力を込める。

―勝手だったかもな。『二尉だけでも』って発想を持たず、一緒に死ねて嬉しいなんて考えは―

両腕を徐々に伸ばし、人型の刃を遠ざけていく。

―この人が、こいつがいるから、頑張らんと!―

その腕の動きに合わせる様に、ニコイチの節々のカバーの隙間から赤い燐光が漏れ出す。

―こいつを守りたい!……何より……―

燐光の輝きが増すに従って腕の力も増し、伸び切った両腕に押さえられた人型の右腕は寸分も動く気配を見せなくなる。

―まだ生きたい!……生きて……!―

人型が左腕の刃を伸ばしてそれを繰り出そうとするのを見、光秋は右脚を素早く動かす。

―生きてこいつと!―

心中に叫ぶや、両手を離すと同時に人型の胸部に右蹴りを入れて上空へ突き飛ばす。

 人型が放物線を描いて飛んで背中から落下する傍らで、光秋は上体をゆっくりと起し、両手を地面に置いて体を支えながらゆっくりと立ち上がり、仁王立ちになる。

 その間にも節々の燐光は輝きを増し、周りの闇を押し退ける様に周囲を血の赤色に照らす。

「…………」

光秋は目をつむって鼻で大きく息を吸い、吐きながらゆっくりと目を開け、正面の立ち上がろうとしている人型を見据える。

 同時に自分の知覚が四方に拡大する感覚を覚え、それに合わせてニコイチの節々のカバーが胸部のコクピットから末梢へ向かって開き、血の色に輝く骨格--Nフレームを露出させる。頭部の角も伸長し、「蜂の巣」戦で見せた暴走状態と同じ姿になる。

 が、その時と違って、今回両目は赤くならず緑のままである。光秋の方も、頭を椅子から伸びる2本の腕に固定され、自分の体と操縦席の境界が曖昧になる感覚を覚えるが、同時に左隣で自分の生身の腕に手を添えている綾の存在も普段通りに知覚できているのである。

 そして、激怒しかなかったあの時と違い、今は、

―ここを乗り越える!―

という明確な意志を自覚し、ニコイチの機能と同期し、拡大された知覚で周囲の状況も見えている。

「……」

 人型が若干よろけつつ立ち上がると、光秋は左半身を前にして構える。光秋の意思と完全に同期したニコイチは、両目を一瞬強く輝かせ、いつも以上に自分の体の如く動いてくれる。

 体勢を立て直した人型は、右腕の刃を突き出しながら迫る。

「!」

刃が繰り出される直前、光秋は姿勢を低くしてそれを避け、間を置かずに左突き、右突きを人型の胸部に食らわして後ろに突き飛ばす。

 人型はよろけながら5、6歩後ずさると、一気に上昇する。

「!」

光秋もそれを追って上昇し、2機は高高度で並んで滞空する。

 光秋が再び左半身を前にして構えるや、人型は左の刃を突き出して接近してくる。

 一瞬恐怖を覚えるが、

―守っていたらダメだ!攻めなきゃ!―

すぐに断じ、構えの姿勢を維持しながら前進する。

―『速く動け』―

 意識の隅に藤原三佐の言葉を思い出した直後、光秋は人型の左の刃を屈んで避け、

「!」

胸部に右突きを食らわす。

 突き飛ばされた人型が体勢を立て直す前に接近し、

「!」

頭部に左突き、胸部に右突きと右蹴りを入れる。

 人型がさらに突き飛ばされるや、光秋は人型の真上に上昇し、両腕と左脚を腰に引き、右脚を真っ直ぐに伸ばす。

 直後、

「あさぁ!」

腹の底から気合を出すと同時に、火矢の如く人型に急接近する。

 一瞬後、光秋の落とし蹴りを頭頂に受けた人型は、そのまま地面に突き落とされる。

 光秋は数メートル程進んでから停まると、人型の落ちた辺りと距離を取ってゆっくりと着地する。

 正面に仰向けに落ちた人型が体を引きずる様にゆっくりと立ち上がろうとするのを見、その頭部に蹴りが当たった頭頂から左目の上部にかけて走る大きな亀裂を捉える。

 弱っているという印象を抱かせる人型の動きに、光秋は好機を感じる。

―決めるなら、今だ……しかし……―

一方で、演習場での戦闘で抱いた疑念--人が乗っている可能性を思い起こす。

 と、

「大丈夫……」

光秋は、生身の聴覚で綾の声を聞く。

「アレに人はいない。すごく嫌なもの」

「……生物は乗ってないのか?」

「うん!」

「……テレパスの力か?」

「ニコイチが……アキが手伝ってくれるから」

「?……わかった!」

 応じるや、左半身を前にして構えて右拳を腰に引き、そこに意識を集中する。それに合わせて、右腕から放たれる燐光が徐々に他の部分よりも輝きを増していく。

―わかった理屈を訊くのは後だ。今は、ここを乗り切る!―

綾の言葉だけを根拠にそう断じると、光秋は何とか直立した人型を凝視する。

 疑念を払うには根拠が弱いのではないか、という思いを意識の隅に抱きつつも、綾への信頼の方が遥かに勝っていると自負する。

「嫌なものはあそこ。あの赤い所から感じる!」

―あの赤い八角形か!―

綾の指摘に、人型の胸部の下にある赤い八角形の扉に狙いを定める。

「……!」

 人型が完全に体勢を立て直した一瞬後、光秋は滑る様に瞬時に間合いを詰め、

「あさぁ!」

腹の底からの気合と共に人型の八角形部分に渾身の右正拳突きを見舞う。

 他の部分以上に強く輝く赤い燐光を纏った右拳は八角形部を粉砕し、そのまま人型を背部まで真一文字に貫通する。

 すぐに右腕を引くと、上昇しつつ人型から間合いを取る。

 腹部辺りに大穴が空いた人型は、穴の周囲に漏電らしき光を3、4本走らせると、力なく前に倒れ込み、そのまま動かなくなる。

「今度こそ……終わった……のか?…………」

知らぬ間に、若干の安堵を含んだ声が漏れる。

 同時に、Nフレームの輝きも徐々に弱まり、燐光が完全に消えると、節々のカバーが末梢からコクピットに向かって閉まり、頭部の角も収縮する。それに合わせて、光秋のニコイチ大に拡大した知覚も自分の体へと戻っていく。

 頭部を押さえていた椅子の腕が外れると、光秋は未だピクリとも動かい人型を見る。

―これだけ経っても動かないってことは……本当に、終わったんだ!…………―

その認識が完全な安堵を覚えさせ、力が抜けた体から安心の溜め息が漏れる。

 と、

「……!」

突然、それまで殆ど暗かった視界に、純白の光が広がり出す。

「何!?」

綾の怯えた声を聞きつつ、光秋は握られている左腕に力がかかるのを感じる。

 その間にも光は広がり、瞬く間に光秋の視界を埋め尽くしていく。

 

「……!」

 気付くと光秋は、モニター一面が白一色で埋め尽くされているのを見る。

―故障か?……いや……―

「……!ここ、どこ?」

綾が怯えた顔で辺りを見回すのを横に見つつ、

―ここは……まさか!―

と、光秋は自分たちが置かれている状況を薄々予感する。

 直後、

―よう!半年ぶりか―

「!」

背後から聞き覚えのある声を聞いた、というよりも頭に直接感じた光秋は、ニコイチを後ろに振り向かせる。

 正面に、大人程の大きさの白い顔のない人型が現れる。

「……神モドキさん」―やっぱり……―

「……あれ、アキが前に話してた?」

「そう」

モニター越しに神モドキをまじまじと見ながら訊く綾に、光秋は短く返す。

―そうそう。あの世界の超能力者の女も一緒だったな―

―?……『超能力者の女』?―

神モドキの言葉に疑念を感じつつ、光秋は左肘掛のハッチの開閉ボタンに左手を伸ばす。

 と、

―あぁ、ちょっと待った。今回はソイツ、お前のいうニコイチに乗ってることを前提にして空間を創ったから、空気は用意してない。出ない方がいいぞ―

「!」

神モドキの言葉に、光秋は慌てて手を引っ込め、

―スケールのでかいズボラが!―

と、思わず心中に言う。

 と、

―まぁ、いろいろ言いたいことがあるんだろうが、まずは……―

「?……!」

神モドキが言うや、光秋はモニター越しの目前に白い長方形の板の様な物が現れるのを見る。

「これは?」

―ニコイチを構成している主成分の塊だ。生き物でいうタンパク質、機械的には予備部品と言うべきかな?ニコイチの左腕を見てみろ―

「?……!」

言われた通り左腕に目を凝らすと、腕に3本の切り傷を見つける。傷自体は細くそれほど大きいものではないのだが、かなり深く付いており、傷口からNフレームが露出している。

―……!盾が切られた時痛みを感じたけど、あの時腕も切れてたんだ!―

思いつつ、演習場での戦闘を思い出す。

「それで、この板は?」

―そいつを傷口に当てろ―

「?……」

神モドキに従って、右手に持った白い板を左腕の傷口に当てる。

 と、

「!?」

板が腕に染み込む様に消え、同時に傷口も跡形もなく消える。

「これは?……」

―機械で言う予備部品と言ったろう。ニコイチを構成しているその物質はな、破損個所に当てるとあとは勝手にそれを塞ぐんだよ―

―なるほど……と!―

 目の前で起こったことに感心しつつも、気を取り直した光秋はモニターに映る神モドキの顔部分を注視する。

「ところで……あの黒い人型、送り込んだのは神モドキさんですか?」

―コイツのことか?―

言うと神モドキは、左手を横に伸ばす。

「!」

直後に神モドキの左後ろの現れた人型に、光秋は戦慄する。

―安心しろ。コイツはもう完全に死んでる。お前が急所を正確に壊したからな―

「!……」

神モドキに言われて、光秋は人型の胸部下に空いた穴を見る。

「それなら……で、どうなんです?やっぱりあなたが?」

―いや、オレじゃない―

「じゃあ、誰です?そもそもソレは何です?」

―詳しくは言えない。ただこれだけは教えておこう。オレの様な存在は、オレだけじゃないってことだ―

―!……他にも、神モドキさんの様なのが?―

―そりゃそうだ―

―!……テレパシーか―

話していないのに神モドキが応じた理由を察し、勝手に心を読まれたことに光秋は少々不快感を覚える。

―だってそうだろう?お前とその女のいた世界それぞれに、種として同一のヒトがいるんだ。さらにいえば、同じ一つの世界にも、同じ様に知性を持ち、文明を持つ異種族はいる。オレの様な存在が他にいたって、なんら不思議じゃない。ま、そいつもオレと同じ様な考えで動いているとは限らないがな―

―……それもそうか―「じゃあその人型は、その存在が……」

―あぁ。造りそのものはニコイチと大差ない。違いといえば、ニコイチは様々な状況に対応できるバランス重視の汎用型として作ったが、ソイツは力と装甲に重点を置いた攻撃機だな。あとは、人が乗るか否かくらいだ―

―…………今更なんだが、とんでもない物と戦ってたんだな―

力なく佇む人型を見、光秋は背筋に寒気を覚える。

 と、

―にしても、半年でソイツをここまで制御できるようになったかぁ。前に暴走してから不安な状態が散発してたんで、オレも心配してたが……有性生物は異性が絡むとどうかする傾向にあるからなぁ……―

「?」

神モドキの言葉に、光秋は再び疑念を抱く。

「その言い方……もしかして、僕のことをずっと見てたんですか?」

―あぁ。もともとそうやってお前を選んだんだし、ESOに入ると決めた時も電話しただろう―

―確かに……―

理解するや、少し表情が曇る。

―安心しろ。向こうに送る前もそうだが、節度は考えてある。私生活も必要最低限のことしか見ていない。それに、『ずっと』でもないな。『定期的』と言った方が合ってる。大きな事態の場合は、ニコイチの反応を感じて臨時で見ることもあるがな―

「……『必要最低限』がどの程度かはわかりませんが、それなら」―昨日大河原主任が僕のことを『モルモット』と言っていたが……神モドキさんにとってもそうか……―

一連の説明を、光秋はそのように理解する。

 と、

「……あの……神モドキさん」

それまで蚊帳の外だった綾が恐る恐る言う。

「……アキを、元の世界に戻してくれませんか」

「!綾……」

突然の発言に、光秋は意表を突かれる。

「だって、知らない所に連れてこられて、独りぼっちで…………アキが可哀そう!……あと…………あたしもそこに連れて行って欲しい!」

―綾……―

綾の顔を見つつ、光秋は想われている嬉しさと、綾が自分の今の状況を過剰に捉えているのではないかという思いを抱く。

―お前、愛されてるねぇ……だが、そうはいかない。オレの目的はまだ果たされていないからな―

言うと神モドキは、右手を前にかざす。

 と、

「……!」

初めて神モドキと会った時の様に、ニコイチが勝手に後退を始める。

―あー、そうそう。コレも持ってけ。トロフィー代わりだ―

言うと神モドキは左手も前に出し、それに合わせて人型もニコイチの方へ流れてくる。

「トロフィーって…………」

光秋が戸惑う間に、神モドキは徐々に小さくなっていく。




 いかがでしたか。
 久しぶりの綾登場。これまで張っていた伏線に気付いた方はいらしたでしょうか?
 なんとも中途半端なところで終わりますが、次回もお楽しみに。
 

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