では、どうぞ!
第一話 再会 ファースト幼馴染
あれから三年。嘗ての傷は、まだ癒えない。癒えてはいけない。俺ではなく、彼女を救うまでは。そのために、俺は強さを求めた。強さの意味を間違えないように。力を正しく振るえるように。いつか、また会えた時に彼女を救えるように。今度こそ、守れるように。
そして、その「いつか」は突然やってきた。全てが変わりゆく、悪戯な運命と共に。新たな力、「IS」と共に―――――
「うあぁ…」
俺はテレビ画面を見ながら、死にそうな声を上げた。その画面では、いかにも政治家!って感じの大人たちがずっと話し合いを続けている。そこにでっかく映し出されているのは、『世界初の特異点 織斑一夏の処遇について』というタイトルと……俺の顔写真だ。眼帯姿が割と様になっているのが唯一の救いだな。
「なーんで、こうなっちまったかなぁ…」
事の
そりゃさ、珍しいもんが置いてあったらさ、触ってみたくなるよな?普通。まあ、そこまではいいんだ。そこまでは。なんせ、この『IS』―――――正式名称、『インフィニット・ストラトス』には凄まじい欠点がある。…男は動かせないっていう欠点が、な。だから、俺が触れても何も起こらない。……
問題は、それを
だから、今世界は唯一の特異点である「男でISが使える」俺の処遇に追われてるってわけだ。
……しかし、その日の内にニュースになるって、暇なのか?日本。
「はああぁ……」
「そんな死にそうな声を出すな。こっちまで気が滅入る」
「あ、千冬姉。帰ったのか」
「ああ、たった今な」
振り返ると、千冬姉が立っていた。確か、政府から俺の保護者として呼ばれてたんだっけ。その千冬姉が帰ってきたってことは…
「決まったぞ。お前は春から『IS学園』に通うことになった」
「やっぱりか…」
まあ、ある程度…つうか、十中八九そうなると思ってた。「世界唯一の特異点」である俺を、政府が見逃がすはず無ぇもんなぁ。
「IS、か…」
本来、男である俺が持つはずの無い力。前代未聞の、未知の力……
「まあ、そう悲観するな。どんなに特殊だろうが、
「…ん、そうだな」
俺は、右目を覆う眼帯に触れる。
この目の傷は、俺の無力さの証明。あいつを……鈴を守ってやれなかった、己の力を
だから、俺はもう間違えない。力の意味も、それをどう使うのかも。
「それに、IS学園なら私もサポートもしやすいしな」
「?どういうことだ、千冬姉」
はて、千冬姉もIS学園に来るのか?いやいや、仕事があるだろうに。
「…言っていなかったな。私は今、IS学園に勤めているんだ」
「あれ、そうだったのか?」
そう言うと、千冬姉は意外そうな顔で俺を見た。何だ、変なこと言ったか?俺。
「…あまり驚かないんだな、一夏」
「まあ…IS世界大会モンド・グロッソ二連覇の実力を国がほっとかないだろうし、給料が並みの職業を軽く超えてたから、ある程度はな」
「…そうか」
そう、嘗てあの天才、束さんが開発したISによる世界大会モンド・グロッソにおいて、千冬姉は二年連続で総合優勝を果たしている。そして付いた異名が「ブリュンヒルデ」。世界最強の代名詞だ。そんな人材を政府がほっとく訳無いし、よくよく考えれば当然か。
「にしても、IS学園か…」
そういや、蘭も来年受けるって言ってたな、IS学園。ってことは俺、蘭の先輩になるのか。へぇ。
とか言ってたら、携帯が鳴り始めた。相手は―――――
「お、蘭じゃねえか」
ドンピシャの相手だった。まさか、俺の考えていることは遠く離れていても、テレパシー的な何かで伝わっているとか?んな馬鹿な。
「はい、もしもし」
『一夏さん!?テレパシーだとかそんなこと思ってる場合じゃないですよ!』
すげえ、本当に伝わってた。何で?怖え。
『何でISなんか動かしちゃってるんですか!?あ、ちょっとお兄―――』
「いや、んなこと言われても…」
『そうだ一夏!行く学校、俺と代われ!』
「何でだよ!?」
声は弾に変わった。が、学校なんて代われるか、馬鹿。
『IS学園なんて女しか入れない一種の女子校だろ!?畜生、天国じゃねえか!!』
「いや、地獄だろ」
考えてみろよ、何百という女子の中に一人の男子がいる様子。確実に珍獣扱いじゃねえか。考えただけでぞっとする。
「とにかく、用がそんだけならもう切るぞ。蘭によろしく言っといてくれ」
『あ、おいこら一夏!ちょ―――』
遅い、もう切った。一体何だったんだ……?
「誰からだ?」
「蘭から。まあ、途中から弾しか喋ってなかったけどな。おまけに、電話越しに考えてることばれてたし。一種のホラーだろ、あれ」
何だったんだろうな、と千冬姉の問いかけに答えながら、立ち上がって部屋へ向かう。
「そろそろ寝るよ。おやすみ、千冬姉」
「ああ。……一夏」
「何?千冬姉」
部屋のドアノブに手をかけたところで、千冬姉に呼び止められた。
「…どんな道に進もうと、お前はお前だ。堂々としていれば、それで良い。あいつらも、案外お前を励ますために電話をかけてきたのかもしれんな」
「…あ」
「さて、早く寝ろよ。明日からは忙しくなるぞ?何せ、一からISの知識を詰め込まなければならないんだからな」
ぐあ、そうか、それがあった。それを聞いて、一気に気が重くなった。
…でも、まあ。
「ありがとな、千冬姉」
俺はそれだけ言って、部屋を後にした。
「……ふう」
日課の筋トレを終え、自分のベットに身を投げ出した状態で、俺はぼんやりと考えていた。これからのことを。IS学園での生活を。それは恐らく、いや確実にこれまでの生活とは違うものだろう。でも、行くしかない。覚悟は決めた。覚悟を決めたのなら、後は突き進むだけだ。
(強く、なるために)
中途半端な思いは、自分も相手も傷つける。俺はあの事件でそれを知った。……引き換えに失ったものは大きかったけれど。だから、まずはしっかりと覚悟を固め、誓いを立てる。想いは、力になることを知ったから。
「やってやるぜ、強くなるために」
強くなる。ただそれだけを目指して、俺は眠りについた。
「うう…緊張してきた…」
「今更何を言っている。いい加減覚悟を決めろ」
いや、そうは言ってもですね?お姉さま。覚悟と緊張は別でして、仕方ないといいますか。
なんて言い訳を脳内でしながら、俺と千冬姉はモノレールに乗っていた。今日は待ちに待った(?)、IS学園入学式だ。これから俺は、男として前人未到の地に足を踏み入れることになるんだぜ?そりゃ緊張もするって。
「先に言っておくぞ。私はお前を身内だからといって贔屓などせんし、学園内では―――」
「織斑先生、だろ?」
「分かっているならいい」
千冬姉は少し誇らしげに笑って、それきり黙った。特に話題を振ろうとも思わなかった俺は、
(…最後に、復習しとくか)
付箋がびっしりと張られた千冬姉お手製の教科書を開き、最後の復習を始めた。
「じゃあ織斑、私は教師として行かねばならない。講堂までの道は分かっているか?」
モノレールから降りて教師としてのスイッチが入ったちふ…織斑先生から、早くも忠告をいただいた。講堂までって……そんなに信用ないかなぁ、俺。
「大丈夫だよ。こんだけ人がいるんだから、誰かについていけば迷わねえよ」
「…過去に同じ状況で迷った記憶があるから、こうして心配しているのだが?」
うぐ、それを言われると痛い。確か、中二の時だっけか?
「大丈夫だって。少しは信用してくれよ」
「ことお前の方向音痴に関してだけは、当分無理だな」
ぐあ、言い切りやがった。
「じゃあな、織斑」
そう言って、織斑先生は先に行った。俺も行かないとな。迷わないように。
と、思っていたら……
「あれ、誰もいねえ……」
辺りにたくさんいた人の姿は無く、いつの間にか俺一人しかいなかった。
どうやら、来て早々に、俺は難関にぶち当たったようだ。
「俺、講堂に着けるかな……」
返事の返ってこない俺の呟きは、この上ないほど寂しく響いた。
そして、案の上…
「迷った……」
前も後ろも右も左も見知らぬ壁、壁、壁。どの道をどう通ったかさえあやふやだ。つまり、来た道を戻ることさえできない。早く講堂に行かなければ、入学式が始まってしまう。忠告を受けたにもかかわらず迷ったなんて千冬姉に知れたら、どうなるかなんて分かったもんじゃない。
さて、これからどうしようか―――――
「い、一夏…?」
―――――と、悩んでいた俺の耳に、どこか懐かしい声が聞こえた。声のするほうへ振り返ると、
「箒……?」
そこに立っていたのは、ISの生みの親であるあの束さんを姉に持ち、小学四年の終わりに転校していった嘗ての幼馴染―――――
再会したところで、次回です。
因みに、ここからの展開は色々と考えていて、どれで行こうかちょっと悩み中です。
結構融通がきくので、何かご要望がありましたら、感想欄に書き込んでください。可能な限りで答えさせていただきます。
ではまた次回で!