IS~白き隻眼~   作:鈴ー風

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悩んだ。とても悩んだ。
結果、何とか絞り出すと7,000字を超える長文。これからはもう少し考えよう、俺。
いろいろ納得できないところもあるでしょうが、あれば感想としてどしどしお願いします。受け止める覚悟はできています。

ともあれ、追憶編ラスト 追憶 Ⅳ 罪

どうぞ!


追憶 Ⅳ 罪

八月二十日、夜八時前。俺は、神社の鳥居前に来ていた。辺りは提灯なんかが飾り付けられ、着物姿の人達が行きかっている。

 そう、今日は夏祭りの日だ。

 

 

 

「明日の夏祭り、夜の八時に神社の鳥居で待ってるって、鈴に伝えてください」

 

 

 

 

 もうすぐ、指定した時間になる。鈴はまだ来ていない。俺は、鈴が来るのを静かに待った。もし、鈴が来なかったら…頭を何度もよぎるそんな考えを、その度に振り払う。

 

 

「…待った?一夏」

 

 

 不意に、声がした方を向く。そこには、あの日からずっと会いたかった―――鈴が立っていた。着物かとも思ったが、いつもの普段着のままで……その目はくま(・・)ができて、暗く沈んでいた。

 

「待ってないよ。久しぶり、鈴」

 

 俺は、あくまでいつも通りに接すると決めていた。それが、少しでも今の鈴の支えになると信じて。

 

「行こうぜ。鈴に見せたいもんがあるんだ」

 

 鈴は何も答えない。ずっと下を向いたままだけど、俺の後をついて来てくれているから、拒絶されてるわけじゃ無さそうだ。

 

「ほら、こっち」

 

 だから俺は、鈴を先導する形で人混みから外れた道を選び、ある場所まで鈴を連れてきた。

 

「ふう、やっと着いた」

 

 ついた場所は、神社の裏手側にある高台。去年、祭りの後に見つけた場所だ。

 

「なあ、鈴。なんで俺が、こんな祭りの終わりかけに時間を指定したと思う?」

 

 祭りは七時から九時まで。祭りに誘うには、今の時間はあまりにも遅すぎる。もう終わりの準備を始める頃だ。

 

「何で、こんな所に連れてきたと思う?」

 

 鈴は、依然として下を向いたまま答えない。

 

「あれが、理由だよ」

 

 

 

 ドォ――ン!!

 

 

 

 

 俺が空を指さすと同時に、空に鮮やかな光が灯る。祭りの名物、シメの花火だ。

 

「ぁ……」

 

 空に映し出される鮮やかな花火に、下を向いたままだった鈴がやっと上を向いた。横顔から見えるその目に翳りは無く、そこにいたのは、眼前の美しい景色に魅了されている年相応の―――――可愛い、女の子だった。

 

 

「鈴」

 

 

 今しかない。俺がここに来た理由、ここにいる意味、俺の本当の気持ち。伝えるには…今しかない。

 

「俺、前にお前を守るって言ったよな。でも…結局何もできなくて、お前を傷つけた」

 

 視線を花火から俺に移した鈴は、俺の言葉を黙って聞いてる。不安と期待が入り混じったような、そんな顔で。

 

「だから、そんな俺が言えたことじゃないのは分かってる。けど、お前を守りたいって言った、あの時の想いは嘘じゃない」

 

 あの時から、いやもっと前から、きっと感じていた。

 

「…何で、そこまで私にするの?一夏に、そんな義務、ないのに…」

「逆だよ。義務なんかじゃない。俺だから、お前を守りたいと思うんだ。だから、これからはもっと近く(・・・・・)でお前を守らせてほしい。ほかの誰でも代わりなんてできない、俺だけにお前を守らせてほしい」

 

 何故、鈴を守りたいと思うのか。何故、鈴のためにここまでするのか。いや、してあげたいと思えるのか。それは、鈴がただの友達だからじゃ、ない。

 

「お前を守りたいんだよ。お前の―――――彼氏として」

「え……」

 

 そうだ。本当はずっと前から気づいていた。ただ、気づかないふりをしてたんだ。あの関係が心地よくて、あの関係を壊したくなくて。でも、もう一等兵じゃ我慢できない。

 だから、この関係は終わりにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、鈴のことが好きだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空には花火が景色を彩り続けている。しかし、この一瞬だけ、俺たちの時は世界から切り離された。全ての音が、時が止まった中で真っ直ぐに見つめた鈴の表情は、大きく目を見開いたまま固まっていた。…まあ、いきなり告白なんてされりゃ驚くよなぁ、普通。

 

「う、嘘…」

「嘘じゃない。好きだ、鈴」

 

 ありえないといった様子の鈴に、再度想いを告げる。恥ずかしくはあったが。

 

「今度こそ、鈴…お前を守る。これからずっと、俺の全てを使ってでも」

「ぁ……」

 

 俺は鈴を自分の方へ引き寄せて、鈴を抱きしめた。抵抗されると思ったけど、鈴は大人しく俺の胸へと納まった。

 

「…それ、本当?」

「本当だ。嘘なんかじゃない」

 

 その言葉を聞くと、鈴は俺の胸の中で、

 

 

 

 

「あたしも…あたしも、ずっと一夏のこと―――――」

 

 

 

 

 鈴が何かを伝えようとしている。多分、俺が望む、俺が一番聞きたい言葉だった(・・・)と思う。

 でも、その言葉を聞くことは無かった。

 

 突然の、来訪者によって。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、お邪魔だったかしら」

 

 

 

 

 

 突如、草陰から見知らぬ女性が出てきた。遅れて、ゴツイ黒服の男も。長い金髪に俺より高い背丈は、どう見ても俺たちより年上…千冬姉と同じか、それ以上。男にいたっては完全に大人だ。

 

「…何だ、あんた。何か用か?」

「あら、随分不躾じゃない」

 

 理由なんて知らない。けど……嫌な予感がする。

 声を聴いた瞬間、何か「敵意」みたいなものを直感で感じたからだ。

 

「一夏……」

 

 後ろで、鈴が俺の名前を呼ぶ。その声は、顔を見なくても分かるほど怯えていた。

 

「心配すんな、鈴。言っただろ?今度こそ、絶対守るって」

「あら、随分と勇ましいのね。まあ、目的はあんたじゃないんだけどね、織斑一夏」

 

 …っ!?やっぱり、俺の名前を知ってる…でも、今、目的は俺じゃないって……

 

 

「目的はあんただよ。凰鈴音」

 

 

「え…」

 

 なっ……!

 

「連れて行け」

「はっ!」

 

 女の言葉を受けて、男が素早く俺をはねのけ、鈴の腕をつかんだ。

 

「や…嫌っ!!」

「鈴!!」

 

 俺はすぐさま、男の腕に掴みかかる。だけど、大人の腕力は思った以上に強くて、俺の力じゃびくともしなかった。

 

「邪魔だ、ガキ。どけ!」

「ぐあっ!?」

 

 男の拳を腹に受け、俺はいとも簡単に殴り倒された。そんな俺に目もくれず、男は抵抗している鈴を強引に連れて行こうとする。

 

「嫌…嫌ぁ…一夏、一夏ぁ!!」

 

 痛みの中、俺を呼ぶ鈴の声が聞こえる。必死に俺にすがる、鈴の声が。

 

 ―――――このまま、また守れないのか?俺は、鈴を。

 

(嫌だ…)

 

 俺は、鈴を絶対守るって誓ったばかりだろ…だったら、やれよ…やるんだ、織斑一夏!!

 自分を鼓舞した俺の目は、あるもの(・・・・)を見つけた。普段なら気にも留めないようなもの。でも…丸腰の俺には、それで十分だった。

 俺はそれを掴んで、男を睨みつけた。その目は、さながら野獣の如く。

 

「くそ、暴れるな!」

「ああもう、面倒ね!こうなったら多少痛めつけてでも…」

「だああぁぁぁっ!!」

 

 女が鈴に手を伸ばしたその時、俺は咆哮と共に男へと突っ込んだ。何てことはない、ただの不意打ちだ。

 でも、俺を視界から外していた男には、十分に効果があった。

 

「っ!?コイツ!」

 

 男が俺に掴みかかろうとする。が、俺はそれをかわし、男の腕に、あるもの(・・・・)を突き立てた。

 何てことはない、ただの棒切れだ。鋭利に尖った木の枝(・・・・・・・・・)、だが。

 

「ぐ、ああああっ!!」

 

 予想外の棒切れ(武器)が男に激痛を与え、男が痛みにもだえ苦しむ。同時に、鈴を掴んでいた男の腕が離れた。

 

「今だ、鈴!」

 

 そのまま、俺は呆気にとられている女を蹴り飛ばし、鈴の手を掴んで走り出した。千冬姉から教わった護身術がこんなにありがたいと思ったことは無い。

 

「う、くそっ…おい、何してる!早く追え!!」

 

 

 

 

 

 

「っはあ、はあ、はあ…」

 

 結構走った気がするけど、小学生の体力じゃそう長くはもたない。おまけに、さっきの痛みもぶり返してきた。

 

(このままじゃ、追いつかれる…)

 

 時間的にもう祭りは終わってる。ふもとに降りても人がいる保証は無い。捕まったら終わり…絶望的な状況で、俺は、ある決断をした。

 

 

 

「…鈴、お前は先に行け」

 

 

 

「え…」

「お前一人ならまだ動けるだろ。俺も後で合流する」

「で、でも…」

「鈴!!」

 

 俺は、静かに鈴に告げる。

 

「俺は大丈夫だから。誰か、人を呼んできてくれよ」

 

 優しく、静かに言うと、鈴はようやく、泣きそうな顔のまま俺に背を向けて、走り出した。

 

「悪いな、鈴」

 

 だんだんと大きくなる足音を聞きながら、俺は一人呟いた。

 早速、約束守れそうにねえや。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「もうそろそろ帰っていいか?」

「だぁーめ。千冬、付き合い悪いんだから手伝い位していきなさいよ」

「私の分が終わっているから言っているのだが?」

「うぐっ」

 

 私は今、祭りの後片づけを旧友、緋雅乃星(ひがない あかり)によって手伝わされていた。一夏と祭りにでも行こうかと思っていたが、まあ、一夏には予定があり、暇を持て余してはいたのだがな。

 

「まーまーちーちゃん。ほら、ヨーヨー攻撃~」

 

 …この篠ノ之束(しののの たばね)というバカは放っておいていい。私に向けられたヨーヨーを掴み、逆に顔へぶつけてやる。おお、破裂したぞ。

 

「ぷわっ!?ちーちゃんひどい~!ぶーぶー!」

 

 無視だ無視。

 

「その辺を歩いてくる」

 

 気晴らしに散歩でもしようか…そう思い、山のほうへ行くと、誰かがぶつかってきた。

 

「む、すまない。大丈―――」

 

 夫か―――そう言おうとしたが、やめた。見知った顔だったからだ。

 

「凰か…?」

 

 だが、様子がおかしい。服は汚れ、足をがくがくさせている。まるで、何かから逃げて来たような…そんな様子だ。

 

「ちーちゃん?どったの、その子」

「ど、どしたの?大丈夫?」

 

 束と星もやってくる。それより…

 

「凰、一夏はどうした?」

 

 家を出る時、一夏は「鈴と夏祭りに行く」と言っていた。しかし、今は一人だ。電話はかかっていないから先に帰ったわけでもあるまい。一体…

 

「あ、あの…い、いち、一夏が…一夏が…」

「っ!?一夏がどうかしたのか!?」

「いち、一夏が…あ、あたしを、庇って…あっちで、怖い、人たちに……」

「っ!!」

「ち、ちょっと千冬!?」

「ちーちゃん!」

 

 瞬間、私は束と星の声に答えず、凰が来た方へ走り出した。

 

 

 

「一夏!!」

 

 私の視界に、男女一対の姿が映った。恐らく、凰の言っていた「怖い人たち」で間違い無いだろう。

 

「ちっ!誰か来た…あんたがあんなガキに手こずるから!」

「す、すいません」

 

 あんなガキ…?まさか!?咄嗟に浮かんだ考えを否定する。しかし―――――見つけてしまった(・・・・・・・・)

 

 

 二人の奥に無造作に倒れた、弟の姿を。

 

 

 その瞬間、私の中の何かが切れた(・・・・・・)

 

「千冬…っ!一夏、君!?」

「何で…いっくん!?」

「…星、救急車と警察の手配を頼む。束、力を貸せ」

「わ、分かった!」

「…どうするの?ちーちゃん」

「…奴等を狩る」

「おっけ」

 

 遅れて来た星に一夏を任せ、束を呼ぶ。そのまま、私達は「敵」に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

「一夏君!大丈夫、一夏君!」

「一夏っ!一夏ぁっ!!」

 

 …ああ、痛ぇ…全身が、感覚が、もうねえや…

 

「―――夏っ!――――っ!―――――!」

 

 ああ…鈴が何か言ってる。くそ、もうまともに聞こえねえや。顔も、歪んできた。もう…意識も保てない、な。

 言葉も、出ねえ…一言、だけでも、言わなきゃ…

 

 約束、破ってごめんな。り、ン………

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 次の日。私は、一夏のお見舞いに、病院に来た。…でも、会えなかった。一夏の病室にかかっていた『面会謝絶』の文字。それは、一夏の容態がそれだけ悪いってことで…胸が、痛い。

 あの後、一夏は救急車で連れて行かれ、怖い人たちも千冬さんが束さんって人とボコボコにした後、警察に引き渡された。あたしは、星さんって人に家まで送ってもらった。

 一夏は、あたしのせいで大怪我をした。千冬さんは否定してくれたけど、間違いなくあたしのせいだ。

 

『俺、鈴のことが好きだ』

 

 なのに、そんなあたしのことを、一夏は好きだと言ってくれた。

 正直、すごく嬉しかった。思い出しただけでも、心臓がドキドキしてる。だけど、あたしはまだ返事もしてない。一夏に数えきれないほど守ってもらっているのに、あたしは一夏に何もできてない。ずっと、甘えたまま。だから、こんなことしかできないけど、一夏が目を覚ましたら、許してもらえたら……伝えよう。あたしも、この想いを。

 

「―――どうですか、一夏の容態は」

 

 不意に、千冬さんの声が聞こえた。どうやら、先生と話しているらしい。私も、一夏の容態を知りたくてつい、聞き耳をたてていた。

 

「はい。全身にひどいダメージを負っていましたが、奇跡的にも命に別状はありません。しばらくは目を覚まさないと思いますが、ご安心ください」

 

 はあ、とだけ千冬さんは言った。よかった。あたしも、ほっとして胸をなでおろした。

 

「ですが…」

 

 ―――――この言葉を聞く、前までは。

 

 

 

 

 

「右目付近の損傷が酷く…残念ながら、右目は……恐らく、見えなくなるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――え?

 

「最善の手を尽くしたのですが、申し訳ありません」

 

 そうですか―――――沈んだ声で、千冬さんはそう言った。

 一夏の目が、見えなくなる。何故?何で?

 

「あたしの、せいだ…」

 

 あたしが、一夏の目を奪った。一夏の世界を、奪った。

 

『鈴』

 

 笑いかけてくれる一夏の顔を思うと、途端に―――――怖くなった。

 

 一夏に会うことも。

 一夏の想いに答えることも。

 一夏のそばに、いることさえ。

 

「ぃ、や…」

 

 その場から逃げるように去って、気付いたら、家にいた。それからずっと、うわ言のように謝り続けた。今も眠り続ける一夏に。

 一夏はきっと笑って許してくれるだろう。お前のせいじゃない、気にすんなって。だから怖い。また、その優しさに甘えてしまうんじゃないかって。…また、一夏を傷つけてしまうんじゃないかって。

 

 そんな時だった。あの誘い(・・・・)が来たのは。まるで助け舟のようなその誘いを、あたしは了承した。

 

 ありがとう、一夏。それと…ごめんね。一夏の想いには、答えられないや。

 

 

 

 あたしに、そんな資格、ないから―――――だから、

 

 さよなら、一夏。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うーん」

 

 目が覚めた俺は、テレビをじっと見ていた。

 今日は二十五日。俺はあの日から、実に五日も眠っていた。あのことは、ニュースになるほど大ごとになっていた。おまけに、右目が見えなくなっていた。ようは失明したらしい。最初は大変だったぜ?距離感とか掴めなくて。けど、不思議と悲壮感は無かった。傷は眼帯で隠せるし、正直、鈴を守れたってことのほうが嬉しかった。まあ、ネガティブに考えても仕方ないしな。ポジティブシンキングってやつだ。

 

「何を唸っている、お前は」

 

 そうこうしてると、部屋を出ていた千冬姉が呆れ顔で入ってきた。

 

「なあ千冬姉、俺って眼帯似合う?」

「それなりにはな」

 

 うわ、適当。

 

「それより、そろそろリハビリの時間だろう。早く行って来い」

「ああ、行ってくる」

 

 まだ今の距離感に慣れない俺は、リハビリを受けている。けど、俺は呑み込みがいいらしく、このままだと新学期までには退院できるらしい。

 

(そういや、鈴に返事もらってねえな…)

 

 うやむやになってたけど、俺、告白したんだよな。

 

(会いてえな……見舞いとか来てくれっかな?)

 

 来るといいなぁ。そう思いながら、俺はリハビリに向かった。

 

 けど、俺の予想に反して、鈴が病室に来ることは無かった。

 

 

 そうして、新学期。

 

(結局、鈴と会えずじまいか…)

 

 まあ、告白もしたし、俺重症だったし会いにくかったんだろ。あいつ、自分のせいだとか思ってそうだし。

 そんなこと考えながら、教室に入った。

 

 

「おはよう」

「「「一夏!!」」」

 

 教室に入るなり、いきなり弾、遥、学年が違う蘭を加えた三人に詰め寄られた。うお、近い近い!

 

「だ、大丈夫なのか!?」

「眼帯なんかして…」

「あ、ああ、まあな。もう大丈夫だ」

 

 気づけば、クラスメイトも集まってきて口々に話しかけてくる。だが、その中に一人、見知った顔がいないことに気付いた。

 

「そういや、鈴は?」

「いや、まだ来てねえな」

「そういえば…」

 

 どうやらみんなも知らないらしい。何でえ、今日は休みか?

 なんて考えていたら、ドアが開いて、ものぐ―――先生と女子が三人入ってきた。えっと…たしか、天原、佐々浦、神田、だっけ。随分暗いけど。何かあったのか?

 

「お前ら、席につけ。大事な話がある」

 

 先生がそう言うと、みんな席へと戻っていった。蘭は自分のクラスに戻った。

 

「残念な知らせだ。――――――――凰が家庭の事情で中国へ帰ることになった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――は?

 

 

 

 

 

「というのは表向きの理由だ。お前らも知ってるだろうが、凰はいじめに遭っていた。その犯人がこいつら。主犯は、天原だ」

 

 そう言って、先生は三人に侮蔑の眼差しを送る。

 

「さらに言えば、織斑の暴行事件の一件も、こいつの家が関わっているらしい」

 

 クラスが一気にざわつき始める。ニュースにもなった事件の関係者がすぐ目の前にいればざわつきもするだろう。

 

 だが、俺にはそんなことどうでもよかった。

 

 鈴をいじめていた、犯人。先生のその言葉を聞いた俺は、席を立ちあがり―――――思いっきり、天原を殴りつけた。

 

「「一夏!?」」

「おい、織斑!!」

 

 

 突然の行動に俺を、先生と弾、遥が止める。

 

「落ち着け、一夏!」

「放せ、放せよ!もう一発殴んねえと気が済まねえ!!」

 

 俺は、何とか拘束から逃れようともがく。一方で、天原は佐々浦と神田に寄りかかり、ふらふらと立ち上がっていた。

 

「俺の怪我のことなんてどうでもいい!何で…何で、鈴をいじめた!!話してみろよ、話せぇ!!」

 

 激情に駆られ、荒れる俺に、天原は恐怖の表情を向けてくる。

 

「だって…だって、あいつが悪いのよ!あいつが、ぱっと出のあいつが、織斑君と馴れ馴れしくしてるから!!」

 

 ―――――何だよ、それ。

 それっきり、天原は泣き崩れ、佐々浦と神田がそれを慰めている。俺は、抵抗をやめ、床に倒れこんだ。クラスから、泣き声以外の声が消えた。

 

「何だよ、それ……」

 

 俺に馴れ馴れしくした。違う、話しかけたのは俺だ。そのせいで、あいつはいじめられたってのか?何てことは無い、全部俺のせいだったのか?

 

 あいつを守りたかった。

 でも、あいつを傷つけていたきっかけは、他ならぬ俺自身だったってのか?

 

「何だよ、それっ!!」

 

 ドンッ!!俺は拳を床に叩き付け、叫んだ。

 

『無理はしないでね』

 

 ああ、ようやく分かった。俺、鈴のこと、何も分かってなかった。俺は、自分を犠牲にしても鈴を守れたと思ってた。

 

 

 けど、違う。俺の犠牲は、鈴への押しつけだ。

 俺が、あいつを追い詰めた。

 

(ようやく分かったよ、鈴)

 

 けど、気づくには遅すぎた。

 

 未だに整理が追い付かない頭で、一つだけ、確かに分かっていたことがある。

 

 この目の傷は、俺の無力の証明。

 

 あいつを、鈴を守れなかった、傷つけた―――――俺の「罪」の証明。

 

 

 

 

 鈴のいない秋の訪れは、空っぽの心には寒く感じた――――――――――




次からは、新章に入ります。そうです。本編です。
キャラ設定はまた後程投稿いたしますので、しばしお待ちをば。

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