IS~白き隻眼~   作:鈴ー風

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さて……すみませんでしたorz
もう言い訳しません。ただただ遅くなりました。あーでもないこーでもないと唸り修正しつつ別作に精を出したりしてたらこんなにも遅く…次は早く書きたいなぁ……

さて、こんな駄目作者を許してくれるという心の広い方がいらっしゃいましたら、是非ともお付き合いくださいませ。
今回は視点がよく入れ替わります。第九話、どうぞ!


第九話 絆の在り方

『……それ、簪さんには言ったんですか?』

『言えるわけないじゃない。簪ちゃんを拒絶しちゃった私が、今更どんな顔して言えるっていうのよ』

 

 そう言って笑う楯無さんの顔を、俺は見たことがある。救いを求めていて、それでいてどこか諦めている、そんな顔だ。

 嘗て、俺が鈴にさせてしまった顔だ。

 

『……いい』

『え?』

 

『言えばいい。簪さんに全部言えばいい。カッコ悪くても、惨めでも、情けなくても、全部言えばいいじゃないですか』

『で、でも……』

『でももしかしも無い!』

 

 自然と声が大きくなった。どうして、こんなに想い合っているのに、この姉妹はすれ違ってしまうのか。

 そう思うと、黙っていられなかった。

 

『でももしかしも無いんだよ!言えばいい!資格なんてない、そんなもの必要ない!どんな顔をしてたっていい!どんなに相手を思いやっても、言わなきゃ相手に伝わらねえだろ!』

 

 自然と声が大きくなっていく。自然と言葉が荒くなる。楯無さんも俺の豹変ぶりに驚いていた。箒や遥達が見たら、俺らしくないと言うだろう。何を熱くなってるんだと諌めるだろう。でもそれ以上に、この二人がすれ違ってしまって、俺達のような後悔をすることが耐えられなかった。

 俺は、一度息を整えると、できるだけ静かに言葉を続けた。

 

『カッコ悪くても、惨めでも、情けなくても、今言わないと一生後悔すると思います。…俺は、そうして後悔した人間を知っていますから。貴方には…いや、貴方達には、そうなってほしくない』

 

 脳裏に浮かぶ鈴の顔に、静かに目を閉じる。自然と右目を覆う眼帯に触れる。

 

『失敗を後悔するのは後でいくらでもできる。でも、行動しなかった後悔は、二度と消えることはありません。だから……』

 

 最後に、俺は楯無さんを真っ直ぐに見る。

 

『俺が場を作ります。だから、簪に伝えてやってください。たった今俺に語った、貴方のその想いを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「簪ちゃん……」

「…おねえ、ちゃん……」

 

 俺が開け放った扉の向こうには、楯無さんが立っていた。何てことはない、俺が呼んでおいた。今の俺達の話を聞いてもらうために。

 俺はそのまま楯無さんに近づき、呟くように言った。

 

「…後は貴方達二人の問題です。俺は出ていきますから、昨日俺が聞いた想いを、貴方の想いを、簪に伝えてやってください。…それじゃ」

 

 そう言いきって、俺は楯無さんを残して廊下に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…勝手だな、俺も)

 

 整備室の扉が閉じる音を背に、自身の悪態を突く。言葉上は二人の為だ、なんて言いながら結局は自分の為だ。俺が、救われるかもしれない二人を見て納得したかったからだ。救いたいという傲慢を押し付けただけだ。やっぱり、自己満足の偽善でしかない。

 

(……そう、だな)

 

 自己満足でも、偽善でもいい。今の俺は歩き続けるしかないんだ。傷つきながらでも、そうするしかない。

 

「……ごめん、ちょっといいか?」

 

 俺はふと、脳裏に浮かんだある場所に向けて、端末で連絡を入れると同時に、その人の元へと歩き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 空気が、重たかった。確かに、一夏くんは私と簪ちゃんが話す場を作ってくれた。なのに、昨日あれだけ話した簪ちゃんへの想いを、目の前の本人に伝えられない。口が、動いてくれない。

 簪ちゃんがあんな風に思っていたなんて知らなかった。あんなにも想われていたなんて、知らなかった。何か言わなければいけない。伝えたいことがたくさんあるのに、私の声は仕事をしてくれない。

 

「…ねぇ、お姉ちゃん」

 

 そんな中、先に口を開いたのは、簪ちゃんだった。

 

「……何?」

 

 短い。たった一言の短い返事。それでも、その言葉の応酬は、私がずっと望んでいた「会話」だった。あの日から、私が、簪ちゃんを拒絶してしまったあの日からずっと私が望み続けてきた、「会話」だった。

 たった一言の返答で口が震える。唇が、喉が渇いて上手く声を出せる自信がない。

 そんな私とは違い、目の前の妹は、簪ちゃんは、はっきりと言葉を紡いでゆく。

 

「…一つだけ、聞いても良い?」

「……うん」

 

 互いに消え入りそうな小さな声。それでも、私は全神経を集中させてその声を必死に拾う。聞き逃さないように。もう、言葉を間違えないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃんにとって、私は何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪ちゃんの声は相変わらず小さかったけれど、私は、その言葉を聞き逃さなかった。それは、自分の存在意義をかけた問いかけ。私が嘗て否定してしまったものへの問いかけ。

 

「…私は、お姉ちゃんが誇りだった。強くて、かっこよくて、綺麗で優しくて……本当に自慢のお姉ちゃんだった。…だからこそ、許せなかった。お姉ちゃんじゃない、私自身を」

「え……?」

「…お姉ちゃんは強かったよね。それでもどんどん強くなって、一人で凄く遠いところに行っちゃって……私、寂しかった。悔しかった。頼ってもらえないことに。必要とされないことに。何で、何で私は強くなれないんだろうって。こんなにも弱いんだって。私は、ただ、お姉ちゃんに、認めてもらいたかっただけなのに……」

「それは…」

 

 違う。それは違う。私は強くなんてないし、簪ちゃんのことをとっくに認めていた。あなたは私よりずっと強いって。私なんかよりずっと大きくなれるって。大声で叫びたかった。だから…だからこそ……

 

「私、強くなろうと頑張った。IS(このこ)を作ろうって思ったのも、そうすれば、認めてもらえるかなって…少しでも、お姉ちゃんに近づけるかなって……でも、やっぱり上手くいかなくて……」

「簪ちゃん……」

「やっぱり、駄目なんだよね。私なんかが、こんなことしたって……お姉ちゃんに追いつけるわけ……」

 

 不意に。

 不意に、簪ちゃんの頬を何かが伝うのが見えた。それを見た私の口が、今まであれほど乾き、動かなかったはずの口が、嘘のように言葉を紡ぐ。

 

「違う…」

「え……」

「簪ちゃん。お姉ちゃんね、あなたが思ってるほど、強くない。私より簪ちゃんのほうがずっと強い。技術面でも、人としてでも」

 

 そう言いながら、私はそっと簪ちゃんのISに触れる。未完成ながら強く光を放つその姿は、己が存在感を示しているようだった。

 

「私ね、自分のISを一人で作った訳じゃないのよ。整備科の皆がいたから作り上げられたの」

「え……」

「私一人で作れた訳じゃない。勿論、一人で作ろうなんて意思すら無かった」

 

 ぽつり、ぽつりとだけど、想いを吐き出していく。長年溜め込んだ想いを、愛しい人に聞いてもらうために。感じてもらうために。

 

「簪ちゃんは私に追い付きたいって言ってくれたけど、それは全くの逆。簪ちゃんは、とっくに追い抜いてたのよ。私の方が、憧れてたのよ。いつも眩しい、純粋な簪ちゃんに。私なんかよりずっと強い簪ちゃんに」

 

 言葉を切って、視線を簪ちゃんに向ける。そして、さっきの問いに、私の想いを全て込めて、答える。

 

 

「だってあなたは、私の最高の妹だもの」

 

 

 嘘でもお世辞でもない。寧ろ、目標としていたのは私の方だ。私には無い「優しさ」という強さを持っていた簪ちゃん。

 目指していたのは、私の方だ。私の方が弱くて、簪ちゃんが眩しくて、でもそれを認めたくない自分がいて……変なプライドを張って、簪ちゃんを傷つけた。

 なのに、そんな私を憧れだと、誇りだと言ってくれる妹がいる。弱く、狡く、卑怯な姉を好きだと言ってくれた、愛しい妹が。

 なら、私もぶつかろう。何も飾らない、弱く卑怯な「更織楯無(さらしき たてなし)」として。

 

「あなたは強い。私の真似なんてしなくても、十分強くて、可愛い、私の目標で、自慢で……最高の妹」

 

 私の全てを晒しながら、簪ちゃんに歩み寄る。嫌われてもいい、卑怯だと、狡いと罵られてもいい。

 私は、もう後悔しない道を選ぶ。

 

「ねぇ、簪ちゃん。簪ちゃんにとって、私は何?」

 

 最後に、簪ちゃんと同じ言葉を返す。私は、ただじっと黙って待っていた。簪ちゃんの言葉を。簪ちゃんの本当の想いを。

 

「私、は……」

 

 震える簪ちゃんをじっと見守る。私は、多分また簪ちゃんを傷つけてるんだと思う。それでも、もう誤魔化すわけにはいかないから。

 後悔したくないから。

 

「私だって…お姉ちゃんは、ずっと私の目標で」

 

 ……ああ。

 

「私にとって、自慢で」

 

 こんなことで、良かったんだ。

 

「憧れの、最高のお姉ちゃんだよ。ずっと…ずっと前から」

 

 こんなにも、簡単なことだったんだ。

 

「ずっと…お姉ちゃんが、私のお姉ちゃんでいてくれた日から、ずっと…ずっと最高のお姉ちゃん」

 

 こんな私のことを憧れだと言ってくれた簪ちゃんの笑顔は、涙に濡れていたけれど。

 確かに、私があの日に見た、守りたいと思った、あの笑顔だった。

 だから、私は。

 

「簪ちゃん…」

「お姉、ちゃん……」

 

 簪ちゃんを抱き締めた。体は強張っているけれど、拒絶は無い。

 

「私ね、ずっと簪ちゃんの笑顔に憧れてた。私には無いその笑顔を守りたかった。だから、簪ちゃんに弱さを見せたくなかったの。簪ちゃんの前でだけは、完璧な姉でありたかったの。そんな私の勝手なプライドのせいで、あなたを傷つけてしまった。……本当に、ごめんなさい」

「…お、姉、ちゃん……」

 

 簪ちゃんは、私にしがみついたまま小さく震えだした。小さな嗚咽も聞こえてくる。

 

 愛しい。

 

 この腕の中にいる、世界で最高の妹が。私が守りたかった妹が。やっと気づけた。守るだけでは駄目なんだと。弱い私に、そんなことを押し付けるなんて出来ない。簪ちゃんを守った気になって、簪ちゃんのことを分かった気になって、本当は、簪ちゃんに嫌われたくなくて、ずっと誤魔化し続けていたくせに。

 それに気づいた時、私の両の目から涙が溢れてきた。ずっと我慢していた涙が、まるで決壊したダムのように溢れ出てくる。

 

「ごめんなさい……簪ちゃん、本当に……本当に、ごめんなさい…ごめんなさい……」

「もう、いいよ。私こそ、ごめん…ごめんね…お姉ちゃん……」

 

 私の頭の中に、色んなものが溢れてくる。同時に、ああ、自分はこんなに弱かったんだと、改めてそう思った。そして、簪ちゃんの暖かさが体に、心に染みるように広がっていく。

 

「…私は、お姉ちゃんの隣に立ちたい。頼りないのも、力不足なのも分かってる。お姉ちゃんが私のことを大切に思ってくれてるのも知ってる。でも、それでも……一緒に並びたい。私にも、お姉ちゃんの苦しみを背負わせてよ。ほんの少しでもいいから…一緒に歩かせてよ」

「…私は、簪ちゃんと並んで立ちたい。頼りなくなんて無い。お姉ちゃん、一人で戦うのはずっと怖かった。辛かった。苦しかった。だけど、簪ちゃんを思えば戦えた。戦ってこれた。…こんなに弱くて頼りないお姉ちゃんだけど…簪ちゃんは一緒に、隣に立ってくれる?」

「もちろん、だよ…お姉ちゃん……」

 

 長い長いすれ違い。私の過ちから始まったすれ違いは、今日、ようやく終わったんだと、そう思えた。

 一夏くん、本当にありがとう。

 やり直す機会をくれた彼に感謝しながら、私達は、ずっと二人で抱き合ったまま、泣き続けていた。

 失った時間を、取り戻すかのように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入れ」

「すみません、失礼します」

 

 扉をノックし、くぐる。扉の向こうでは、書類仕事の途中であろう千冬姉がコーヒーを飲んでいた。

 

「急に連絡してごめん」

「構わんが珍しいな、短期間でお前が二度も私のところへ来るなどと。…更識の方はどうだ?」

「あの二人は大丈夫さ。彼女達は強いから」

 

 そう、彼女達は強い。過ちを、間違いを犯した自らを鑑みることが出来るから。過ちを認め、許すことが出来るから。

 だから、彼女達は大丈夫だ。

 

「今日来たのは別件。…千冬姉、言伝(ことづ)てを頼まれてくれないか?」

 

 そう言うと、千冬姉はコーヒーを机に置き、考え事をするように手を口に添えた。

 

「教師を使おうとは偉くなったものだな、織斑一夏。学校では織斑先生と呼べと何度言えば覚える?」

「すみません、織斑先生」

「ふっ…冗談だ」

 

 怒られるかと思いきや、案外笑って許してくれた。

 

「仕方無い。教師ではなく、姉として聞いてやろう。…と、言いたいところだが、その前に一つ答えろ、一夏」

「何だ?千冬姉」

 

 すると、千冬姉は俺に鋭い視線を投げかけてきた。まるで、全てを射ぬかんとするかのように。

 

あいつ(・・・)にとって、凰鈴音(・・・)にとって、お前は何だ?」

 

 まるで全てを見透かしているかのように、そんな問いを投げかけてきた。

 

「鈴にとっての、俺…そんなの大切な」

 

 そこまで言いかけて、言葉が出なくなる。

 俺にとっての鈴…これははっきりと言える。大切な、友人で、幼馴染みで、大好きな相手。でも、その逆は?鈴も同じ気持ちだ、そう思いたい。でも、大切だと思う人から逃げるだろうか?離れたいと感じるだろうか?少なくとも、今のあいつが俺と同じ気持ちだとは……到底言えないだろう。

 

「俺は、鈴の……」

 

 答えが出ない。頭がぐちゃぐちゃして、気持ち悪くなる。

 すると、見かねたという感じの千冬姉が、新たに言葉を紡ぐ。

 

「すぐに答えは出ない、か…一夏、私はお前の姉だ。お前達の関係や過去もある程度は知っているし、その上で、お前がとる行動の意味も、真意も、幾分推し測ってやるべきだろう。しかし、それでもだ。…あいつに拘るのは止めてほしい。今のままでは、お前も、凰も、互いに無闇に傷つくだけだ」

「そんな、そんなの…やってみないと……」

「やってみないと分からない、か?ならば、お前の声は、想いは、覚悟は、少しでもあいつに…凰に届いたのか!?」

「………っ!」

 

 立ち上がり吐き出された、激昂にも似た、千冬姉の怒声。そこには怒り、悲しみ、哀れみ、様々な感情が隠されていて。

 俺を見る目は、哀しみと慈愛に満ちていた。

 

「更識の件は仕方あるまい。もう終わったことだ、お前も上手くやったのだろう。しかし、こと凰に関してだけは、いくらお前でも……これ以上見ていられん」

 

 今、千冬姉は教師としてではなく、俺の姉として、『織斑千冬』として声を上げていた。

 

「出来る限りのサポートはしよう。出来る限りの要望は聞いてやるつもりだった。そう決めていた。だが……お前はそれであいつを救えるのか?凰は救われるのか?それまでに、お前は潰れずにいられるのか?自分を見失わずにいられるのか?私は……お前達が傷つく様を、もう見たくはない」

 

 懇願。あの厳しかった千冬姉が、俺に懇願していた。傷つくのはやめろと、鈴に拘るのはやめろ、と。…俺は、焦って見失っていたのかも知れない。俺が傷つくだけならいい。けど……そうじゃないことを、つい最近知ったばかりじゃないか。俺が傷つけば、箒が、遥が、鷹月さんや相川さん、布仏さんや星さんだってそうだ。そして…千冬姉が、俺のために傷ついてしまう。それじゃ駄目だって、知ったばかりじゃないか。

 頭に浮かぶのは、先日の箒の顔。真っ赤な顔で、俺に好きだと言ってくれた顔。次の朝、泣き腫らして赤くなった目……こんな俺を好きだと言ってくれて、こんな俺のために傷ついてくれる、怒ってくれる人が今は大勢いる。

 だから……俺は。

 

「……ごめん、千冬姉」

「……」

「やっぱり、俺は……鈴を諦めないよ。絶対に」

「…私の思いは、お前には届かないということか?」

「それは違う」

 

 千冬姉を蔑ろにするつもりは無い。むしろ、千冬姉のお陰で、俺はこの道を進むと、決めることができた。

 

「確かにこのままじゃ、俺の声は鈴に届かないかもしれない。けど、俺さ…箒から告白されたんだ。この前」

「…あの馬鹿の妹か」

「ああ、束さんの妹の箒だ。でも、俺は鈴が好きだからさ…その告白を断った。けど、その時に思ったんだ。俺のせいで、箒は傷ついたんだって」

「……」

「それだけじゃない。はっきりとは覚えてないけど、クラスでセシリアと口論になった時も、箒や遥が怒ってくれてたよな?あいつらは、俺のために怒ってくれるんだよ。…一緒になって、傷ついてくれるんだよ。だから、俺は鈴を諦めない。あいつらは俺のために傷ついて、怒ってくれた。なら、それに俺が応えるには、俺が俺でいることだ。…必ず、鈴を罪の意識から救い上げることだけなんだ。許してもらえなくてもいい。それしか、あいつらに応える方法が無いから……だから、俺は諦めないよ、千冬姉」

「………」

 

 俺の想いを全部吐き出しても、千冬姉は黙ったままだ。これで駄目なら、俺は千冬姉と対立しないといけないかもしれない。でも、そうだとしても俺は───

 

「……ふぅ。相変わらず、手のかかる馬鹿な弟だ」

「…千冬、姉…?」

「もういい、好きにしろ。そうまで言うんだ、なら私も、とことんまでお前の夢物語に付き合ってやるよ」

 

 千冬姉は気が抜けたように椅子へ座り直すと、右手をひらひらとふって見せた。…つまり、これは…

 

「…認めて、くれるのか?」

「何度も言わせるな馬鹿者。どうせ駄目だと言っても諦めはしないんだろう?私だって、唯一の家族に無闇に嫌われたくはない」

「千冬姉……」

 

 やっぱり千冬姉は千冬姉だった。どんなに無茶を言っても、絵空事を謳っても、最後には必ず認めてくれて、力を貸してくれる。…本当に、俺は恵まれてる。

 

「ありがとう、千冬姉」

「礼なら、やり遂げてから聞こう。私は中途半端が一番嫌いだからな」

「…ああ、約束する」

 

 だからこそ、俺はそれに応えなきゃいけない。

 

「さて…では、当初の言伝てとやらを聞かせてもらおうか」

「ああ、それは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 一夏が部屋を出て、深く息を吐く。全く、青二才のマセガキが一丁前なことを言いおって……

 

「…さて、お前はやつの言葉をどう感じた?()

『………』

 

 通信回線の向こうからの返答はない。まあ…凰としても、答えを出しかねているのだろう、無理もない。

 

「とにかく、一夏からの言伝ては確かに伝えたぞ。…とは言っても、回線は繋いだままにしておいたから、伝えたも何も無いがな」

 

 実のところ、一夏が私のところに来ると連絡を入れた時から、凰に連絡を取り、やつとの会話はそのまま凰に筒抜けだった為、伝えるも何も無かったわけだが。

 

「先に言っておくぞ、凰。先程の会話中の私の言葉に虚偽は一切無い。お前が一夏を苦しめ、傷つける存在になりうるのならば、私はお前と一夏との仲を認める気は毛頭無い。何に変えても一夏から引き離す」

『…なら、何で私に連絡をとったりしたんですか。何で、彼の言葉を…』

「私に言うな。一夏がそう決めたことだ、姉として背中を押してやったまでのこと。…あいつは諦めが悪いんだ。それは、お前もよく知っているだろう?」

『………』

「過去のことだと割り切れとまでは言わん。だがな……姉として、一夏の言葉を少しでもいい。ちゃんと受け止めてやってくれ、頼む」

『……』

「その先は、お前達の問題だ。話は以上だ、ではな」

 

 そう言って、一方的に回線を落とす。

 

(…我ながら、らしくもない)

 

 自ら悪態を突き、その余韻に浸る。…不思議と、悪い気分はしなかった。

 

「星でも弄るか」

 

 何故か胸に残ったムカムカは、星でも弄って発散すればいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一夏」

あいつ(・・・)にとって、凰鈴音(・・・)にとって、お前は何だ?』

 

 千冬さんの問いかけが、頭から離れない。もちろん、私に向けられたものじゃないことは分かってる。でも、もし…それが私に対しての問いかけだったとしたら……私は、何て答えたんだろうか。

 

「私は、一夏の……」

 

 …一夏が私を大切だと言ってくれるのは嬉しいし、胸がきゅっとなる。…でも、今の私は、ただ一夏を傷つけているだけ。私が、弱いせいで。

 

「……私も、変わらなきゃ」

 

 一夏の優しさに甘えるだけじゃダメだ。一夏だって、私のためにって、頑張ってるんだ。

 

「…強く、なりたい」

 

 自分に言い聞かせるように一人、部屋で呟いた。

 

 

 

 




・後書き談話

箒「じゃんけんぽんっ」
遥「あいこでしょっ」
鷹「あいこでしょっ」

あの、皆さん。何故に私は磔にされているのでしょうか?そして、何故にじゃんけんを?

箒「あまりに遅すぎる貴様にどんな罰を受けさせるかのじゃんけんだ」

………
ち、ちなみにどんな罰が待っているのでせうか…

箒「一日滝行」
遥「絶叫マシン無限ループ」
鷹「撲殺」

どれも地獄だった!?(作者は絶叫マシン大の苦手です)
あと最後!ただの殺害予告じゃないか!

鷹「だって私今回も出てないんだよ!そろそろ出番を頂戴よ!」

うるさい!こっちにだって予定があるんだい!そんなに頻繁に出せるかい!

遥「まあ冗談はこのくらいにして」

ねえ、本当に冗談なの?箒さんが舌打ちしたんだけど?鷹月さんめっちゃ悔しそうなんだけど!?

遥「とにかく、これに懲りたら定期更新を心がけなさい。月一とかでもいいから」

が、頑張ります………多分。

遥「………」

………

遥「皆、やっぱ火でも付けようか♪」
皆「賛成」

あれ!?ちょっと待って!嘘です、ちょっとしたお茶目だって!あ、何か足元が暖かく…アイヤアアァァァァッ!!

遥「…さ、次回予告をどうぞ!」

次回予告

箒「一夏、何かを吹っ切れたようだな」
布「うぃ!何だか最近は楽しそうだよ~」
遥「簪さんも協力してくれてるみたいだし、何とかなりそう…かな」
簪「一夏、あそこに…あれ、あの子って…」

次回「彼に簪を、彼に楯無の刀を」

簪「…今の、私にできることは」
楯「君に、力をあげるわ…誰かのために、君が望むなら」

二つの想いは、飾りと力となりて。

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