IS~白き隻眼~   作:鈴ー風

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最新話、前回から1ヶ月経ってますね。時間かかりました。
今回は前回露見した、一夏の『謎』の力の原因がはっきりします。まあ、大体の予想はできてるでしょうが。

後、とある方の感想にお返しした「一夏と鈴の中学時代」についてですが……すみません。都合上、書けませんでした(謝)
なので、また別の機会にまわさせてもらいます。すみません、すみません。

では、第六話をどうぞ!


第六話 空白の過去

 遠くで授業終了のチャイムが聞こえる。

 

「織斑君……」

 

 三枝遥……私は今、倒れた織斑君に付き添って保健室にいる。

 

『言えよ。言ってみろよ!言えぇっ!!』

 

 あの時の織斑君を思い出して、震える。あんなに怒った織斑君、初めて見た。小学生の頃に弾と悪戯(いたずら)した時だって、笑って許してくれるような人だったから。

 そもそも、私は織斑君が怒った所を、あんまり見たことがない。

 

「一体何があったの……?」

 

 織斑君は答えない。私の目の前で、穏やかに寝息をたてている。

 確かに、セシリアが織斑君や鈴を馬鹿にした時は、私もキレそうになった。けど、織斑君のは違った。明らかに常軌を逸している。

 

「……三枝」

「あ、織斑先生」

 

 がらりという音と共に扉が開き、織斑先生が入ってきた。やっぱり、織斑君のことが心配で……

 ぐりっ。

 

「や、痛い。痛いです、織斑先生!?」

「私は『織斑を保健室に連れて行け』と言ったのであって、『授業をサボれ』と言った覚えはないのだが?」

「や、すみません!ごめんなさい!許してください!!」

 

 織斑先生が私の頭を両側からぐりぐり締め付けてくる。痛い痛い!頭割れちゃう!

 

「その辺にしてあげたら?千冬」

「甘やかすな、(あかり)

 

 私の危機を救ってくれたのは、久し振りの再会(何度目だっけ?)の赤いボサボサ頭が特徴的な緋雅乃(ひがない)(あかり)さんだった。

 いやでも、まさか再会がIS学園、しかも教師で保健室の女医さんになってたとは思わなかったけど。

 

「こんな時期からサボり癖をつけられたら敵わん」

「でも、残るように言ったのは私だし」

 

 そう。この人、昔から凄くオープンな性格で明るい感じの人で、織斑君の様子を見ていたときも、何も聞かずに黙っていてくれた。

 というか、はっきりと「残れば良いじゃない」と言っていた。正直ありがたかったけれど、よくよく考えたら教師としてどうなんだろう、それ。

 

 がしっ。

 

「お前の差し金か」

「ちょ、痛いよ千冬!頭割れちゃうって!」

「そうかそうか握り潰してやる」

 

 とか思ってたら…な、何か私そっちのけで、凄まじいことが始まった。あれ、アイアンクロー?頭メキメキいってるんだけど……

 

「ったく」

「痛ったぁ~」

 

 織斑先生のアイアンクローから解放された緋雅乃さ…先生は、痛そうに頭をさすっていた。いや、どうみてもその程度の痛みには見えなかったんですが……

 

「まあ、流石にそう何度も授業サボらせるわけにもいかないし、取り敢えず教室に戻りなさい」

 

 緋雅乃先生に諭される。まあ確かに、そう何度も授業にサボるわけにもいかないし。

 

「はい……あの、織斑先生」

「何だ?」

 

 でも、保健室を出る前に、織斑先生に聞きたいことがある。…いや、聞かなければならないことが。

 

「織斑先生は、織斑……一夏君の『あの状態』について、何か知ってるんですか?」

 

 『あの状態』……それだけで、織斑先生には伝わるだろう。織斑先生は少しだけ間をおいて、呟くように言った。

 

「………ああ」

「それを、教えてもらうことは……」

 

 恐る恐る尋ねると、織斑先生は織斑君を見て、ため息をついた。

 

「……知るべきかもしれんな。お前らは」

「え?」

「いいだろう、話してやる。…が、まずは授業を受けてこい。話は放課後だ。無論、そこのドアに隠れている馬鹿共も一緒だ」

 

 そう言って、織斑先生が保健室のドアを開けると、箒を始め、本音さん、鷹月さん、相川さんが隠れて聞き耳を立てていた。皆、バレて居心地が悪そうにしている。

 

「あらあら」

「ったく、揃いも揃って………さっさと教室に戻れ、次の授業が始まるぞ。次は山田先生だ、あまり副担任を困らせるな」

「皆、取り敢えず教室に戻ろう?」

「あ、ああ……」

 

 箒を筆頭にして、皆教室に引き上げた。皆、一様に織斑君の心配をしながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「浮かない顔してるわね、千冬。やっぱり心配?一夏君のこと」

「…まあな。たった一人の家族だ、心配くらいする」

 

 こいつ相手に隠すことも無いだろう。そう思い、素直に答えたが、私の答えにやけ(・・)ににやける星。どうにも居心地が悪く、顔を背ける。

 

「話しても良いのだろうか、私は……あのことを」

 

 内心、まだ迷っている。私は、あのことを一夏に無断で話すことに。

 

 私が話そうとしていることは、一夏の過去にまつわることだ。当然、本人に無断で話していいことではない。

 

「私は誰しも知る権利があると思うな。特に、あの二人は」

 

 未だ決心がつかぬ私に、星がそう言ってきた。

 

「…篠ノ之と三枝のことか」

「ええ。一夏君と関係が深くて、それでいて一夏君の過去を知らないあの子達は、ね。まあ、もし一夏君が怒ったら、私も一緒に謝ってあげるから、ね?」

 

 星は、そう言って私にコップを差し出した。中は、湯気のたった黒い液体で満たされていた。

 

「飲む?」

「……いただこう」

 

 受け取って、あおる。ああ……頭がすっきりする、いい苦さだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、放課後。

 

「集まったか、お前ら」

 

 私達は、再び保健室に集まっていた。緋雅乃先生も立ち会っている。その傍らでは、織斑君がまだ眠っている。

 

「あの、織斑先生……一夏は、まだ目を覚まさないのでしょうか?」

 

 聞いたのは箒だ。皆気になっていたのは同じなので、私も含めた皆がうんうんと首を振っていた。結局朝からずっと寝込んでいることになるのだから、気にもなる。ここにいないクラスのみんなも、皆少なからず気にしていた。

 

「ああ………今回は少し長すぎるがな(・・・・・・・・・・・)

 

 長すぎる、という遠回しな言い方。それは、『嘗て織斑君があの状態になったことがある』ということの証明に他ならなかった。

 

「織斑先生、やっぱり織斑君は前にも……」

「ああ、なったことがある。…中学の時に、な」

 

 やっぱり……そうだったんだ。

 

「千冬」

「…ああ、そろそろ話すとしよう。嘗てあいつが、一夏がああなったときのことを―――――」

 

 緋雅乃先生が促すと、織斑先生は目を閉じて話し出した。

 空白の過去を、思い出すように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、確か中学一年の頭だったな。ようやく(ファン)を失った悲しみが薄れつつあった頃だ」

「ふぁん?」

 

 何のことか分からない、といったように布仏さんが頭を傾げる。

 

「ああ、そっか。布仏さんは鈴のこと知らないんだっけ」

「うむ~」

「私も会ったことは無い。名前だけは、一夏から聞いているがな」

 

 布仏さんに、箒も同意する。次いで鷹月さん、相川さんも首を縦に振る。

 

「凰は一夏の嘗ての幼馴染だ。本人はセカンドだと言っていたが…丁度、そこの篠ノ之と入れ替わりで転校してきたらしい」

 

 織斑、だと紛らわしいからか、私達の前でも織斑先生は織斑君を下の名前で呼んだ。

 なにげに、下の名前で呼ぶ千冬さんを久し振りに見た気がする。

 

「そういえば、篠ノ之さんは織斑君と昔からの知り合いなんでしょ?」

 

 鷹月さんが箒を見る。あからさまに「いいな」って顔に書いてある。

 

「私もだけどね」

 

 さり気なくフォローを入れる。と、そこで織斑先生が大きく咳払いをした。

 

「話が脱線する前に続ける。…凰がいなくなり、ようやく立ち直りつつあった頃…同じクラスになったという女子が一夏に嫌がらせをしてきたそうだ」

「嫌がらせ?」

「……その女子の命令を聞かなかったらしい。一夏(あいつ)らしいと言えばらしいが……それで、逆恨みをされたということだろう」

「そんな…それって……」

 

 今回と……セシリアと同じ、女尊男卑の体現者。織斑君が一番嫌いそうなタイプだ。

 

「あいつは別段気にもしていなかった。争いを好む性格でも無いしな。いつも、誰かに迷惑をかけるかもしれんと、気にはしていたがな」

 

 そう言う織斑先生の表情はどことなく嬉しそうだった。でも、すぐに表情を引き締め、話を再開する。

 

「そんなことがあって、少したった頃だ。…私の元に、一夏が暴力を振るったと連絡が入った」

「…………!」

「駆け付けた私が見たものは、傷だらけで泣き叫ぶ生徒数人と……教師達やクラスメイト達に取り抑えられても尚、暴れている一夏だった」

 

 皆、絶句した。あの織斑君が、そんな凶行に及んだという事実が信じられないのだろう。私だって、未だに信じられない。

 

「後で話を聞いたが、どうもその女の嫌がらせは一夏だけではなく、あいつの友人にまで及んだらしい」

 

「なっ……!」

 

 真っ先に反応したのは箒だ。卑怯な事を嫌う箒が、嫌悪を感じるのも無理はない。

 他の皆も、誰も良い顔なんてしていない。

 

「特にあいつの友人の妹……蘭というのだが、そいつに手を出した事が最終的な引き金(トリガー)を引いたらしい。状況を見ていた生徒達の証言もあって、女生徒側に非が認められ、結果的に厳重注意(・・・・)のみで、不問となったがな」

「何故…何故、不問なのですか。一夏は悪くないでしょう!」

 

 箒が、立ち上がって叫ぶ。あまりの剣幕に、皆もびっくりしている。

 

「箒!静かにしないと、まだ織斑君寝てるんだよ!?」

「しかし!」

「箒ちゃん、だっけ?」

 

 憤慨している箒に声をかけたのは、ずっと静聴していた緋雅乃先生だった。

 

「今の世の中は女尊男卑。それは、箒ちゃんも分かっているでしょ?」

「だ…ですが!」

「私達が望もうと望まざるとも、これが今の世界。この不条理な常識(げんじつ)は、どうあっても変わらない」

 

 緋雅乃先生の言葉に、箒は黙りこんでしまう。緋雅乃先生の見えない気迫に気圧されてしまったのもあっただろうけど、何より……女尊男卑に対して、何も言い返せなかった。皆も、箒も……私も。

 ISが登場してから、その搭乗者となり得る女性の地位は飛躍的に上がった。というより、立場が『逆転』したと言った方が正しいと思う。勿論、そんな思想を持った女性ばかりでは無いけど、今では、道ですれ違っただけでパシリにされる男なんて珍しくもない。気に入らなければ冤罪を着せられて投獄、なんて人もいたらしい。

 

「その女も、更に言えば当時の教師陣もその風潮に染まっていたのだろう。だから揉み消された。あいつを擁護してくれたのは、友人達だけだったのだろう」

 

 多分、弾や蘭達も入っているんだろうその友人達の口添えがあっても、織斑君の不利は変わらなかった。そう言いたいのが、織斑先生から見てとれた。

 

「それ以来、あいつはこの世界の常識を憎むようになった。何者にも染まらず、全てと対等に接しようとした」

「だから、女尊男卑を嫌うようになった…と?」

 

 私の言葉に、織斑先生は微妙な顔をしていた。『YES』でも『NO』でも無い、そんな表情。

 

「少し違うな。確かに、あいつは女尊男卑を快く思ってはいなかった。しかし、だからと言って、あのような暴挙に出るような奴ではない。…これが身内の依怙贔屓(えこひいき)で無いことは、お前らが一番よく分かっているだろう?」

 

 …確かに、そうだ。織斑君は曲がったことが大嫌いで喧嘩することはあったけど、あんなに激昂した所は見たことがない。それに、セシリアが女尊男卑に染まっているのは最初に話したときに分かっていた筈。でも、織斑君が怒ったのは―――――

 

「……もしかして、友達を傷つけられたこと(・・・・・・・・・・・)、なんですか?織斑君があの状態になった引き金(トリガー)って……」

 

 織斑先生が語った織斑君の過去、そして今回。二つに共通していたのは、蘭と鈴…『織斑君に近い人の中傷』だった。

 その私の推理に、織斑先生は首を縦に振った。

 

「…あいつは、凰の一件以来、人が傷つくのを過剰に恐れている。医師の診断によると、嘗てのトラウマから来る一種の回避行動だそうだ。珍しいケース故、はっきりとした病名も無かったがな」

「鈴ちゃんを守れなかったというトラウマから、人を傷つけようとするものを排除しようとする……一夏君の場合、その為に攻撃性が表に出てしまった、ということね。まるで、もう一人の自分を生み出したかのような」

「そんな……」

 

 織斑先生と緋雅乃先生の言葉に、再び言葉を失う私達。

 織斑君は、ずっと苦しんでいたんだ。嘗ての事件がトラウマとなって、その罪の意識に。私がいなくなった後も、ずっと……たった一人で……

 

「……三枝、篠ノ之、布仏、鷹月、相川」

 

 急に名前を呼ばれ、皆して織斑先生の方を向く。

 

「これは、『教師』としての織斑千冬ではなく、『一人の姉』としての織斑千冬からの願いだ」

 

 すると、私達に向かって、織斑先生が頭を下げた。

 

「…頼む。どうか、あいつの力になってやってくれ」

「お、織斑先生!?」

 

 いきなりのことで、皆動揺してる。まぁ、世界最強の「ブリュンヒルデ」が頭を下げてるんだもん。普通は驚くよね。

 

「まだあいつと出会って日が浅い奴らもいるのは重々承知だ。だが、それでも……あいつを支えてやってくれ。頼む」

「で、でも!織斑先生にできないのに、私達にできることなんて……」

「いえ、違うわ」

 

 鷹月さんの言葉を遮ったのは、緋雅乃先生だった。

 

「あなた達だから、よ。一夏君の力になれるのは、『教師』の私や千冬じゃない。この学園で私達よりも近い所にいる、あなた達だから、一夏君の力に…支えになってあげられる。……悔しいけどね」

 

 緋雅乃先生の最後の呟き。消え入りそうなその呟きは、緋雅乃先生と織斑先生、二人の本心そのものに思えた。友人の弟と実の弟…昔から織斑君を知っているのに、何もできない自分に対する悔しさ。そんな感情の塊に。

 

「……お二人に、頼まれるまでもございません」

 

 最初に口を開いたのは、箒だった。

 

「どんな過去があろうとも、私は、あいつから離れることはありません。ずっと、あいつの良き()であり続けると、そう……誓いましたから」

「篠ノ之…」

 

 織斑先生達を見据えた箒の目には戸惑いや疑惑は一切見られなくて……強い、『覚悟』を感じた。

 箒、もしかして……

 

「…わ、私も!まだ、織斑君と会ってそんなに経ってないけど、悪い人じゃないし」

「そうだよ!今の話聞いて、断るわけ無いですよ!」

「うい!おりむー、優しいし、楽しいし、おりむーともっともっとお話ししたいし~」

「鷹月、相川、布仏……」

 

 …皆……

 

「織斑先生、緋雅乃先生」

「三枝…」

「遥ちゃん…」

「…織斑君のことは任せてください。鈴のこと、セシリアのこと……乗り越えなきゃいけないことは多いけど、私も、箒も、鷹月さんも相川さんも本音さんだっています。それに……千冬さんと星さんの気持ちも、きっと織斑君に伝わってます」

 

 織斑君の事件には、私も無関係じゃない。その罪の意識が、まだ織斑君を傷つけているのだとしたら、私にもできることがある筈だ。それに、今はこんなにも織斑君に力を貸してくれる人がいる。

 そうじゃなくても、私は……

 

「…だから、大丈夫ですよ」

 

 だからそう、断言した。すると、織斑先生は安心したのか、ふっと笑った。

 

「……感謝する」

「千冬さん……」

「まあ、教師を名前で呼んだ罰は受けてもらうがな」

「えぇ!?」

 

 そんなっ!?罰と聞いて、反射的に頭を庇う。すると、そんな私の様子が可笑しかったのか、くすりと笑った。

 

「冗談だ。さて、話は以上だ。そろそろ、私は職務に戻らせてもらおう。星、後は任せるぞ」

「了解」

 

 そう言って織斑先生は保健室から出ていった。

 

(……まあ、ともあれ、頑張るからね。織斑君)

 

 私は、未だ眠り続ける織斑君に心の中で誓った。

 

 織斑君が目を覚ましたのは、その少し後のこと。

 

 




・後書き談話
 と、いうわけで判明しました。一夏のあの症状の正体。

箒「あいつ、そこまで追い詰められていたとは……」
遥「うん。何としても、力になってあげなくちゃね」

 頑張ってね、二人とも。俺も頑張る!

 では、アニメ風次回予告、どうぞ!








相「織斑君に、あんな過去があったなんてね…」
鷹「うん。正直、私だったら耐えられないよ…」
の「うん…おりむー、大丈夫かな~……」
箒「何があろうと、一夏(あいつ)一夏(あいつ)だ」
遥「そうだね。織斑君の為に、皆、頑張ろう!」
皆「「「おぉ!!」」」
星「皆、保健室では静かに」
皆「「「…………」」」

次回、「レンズ越しの敵意」

?「織斑一夏。私は、貴方を許さない」

 揺るがぬ敵意は、理不尽に、かくも深く。

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