IS~白き隻眼~   作:鈴ー風

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ども、最新話です!
いやー、何か筆が、もとい手がのっちゃって勢いで書き上げました。
しかし、ここに来て一つ気がついたことが。
いままでの話で、当初予定していたプロット通りに進んだ話が一つもないということ。
なんか、書いてるうちに全然違う結果になったりするんだよなー何故か。

さて、今回は前回と違って少しシリアス回です。遂にチョロインことあのお方が出ます!が、やらかします!それはもう、原作以上に。

では、第五話、どうぞ!


第五話 逆鱗の傷痕

 

 

「……ん」

 

 妙に目覚めが良い。

 久々に、懐かしい夢を見ていた。嘗て、俺が箒を男子達から庇った時の夢だ。

 今更こんな夢を見たのも、昨日当の本人――――箒に告白された影響だろう。 

 

 俺は、あいつの想いに答えることができなかった。でも、あいつのおかげで俺は俺が進むべき道を見つけられた。だから、感謝はしても後悔はしない。鈴のためだけじゃない。あいつのためにも、俺は、今以上に強くならなくちゃいけない。

 ……頑張ろう。

 

「起きたか、一夏」

 

 と、決意と同時に出た欠伸(あくび)を噛み殺していると、板一枚挟んだ向かい側のベッドから箒が声をかけてきた。見ると、既に寝間着から制服へと着替えていて、肩に竹刀の入ったケースをかけていた。

 

「ああ、今起きたところだ。にしても早いな。まだ六時前だぞ?」

 

 枕元のデジタル時計は六時の少し前を示している。学園に行くには早すぎる時間だ。

 

「ああ……毎朝、竹刀を振るのが日課でな。昨日のうちに剣道部顧問の先生に、早朝の剣道場の使用許可をもらったのだ。剣道部に入ることを条件としてな」

「なるほど。…そういや、前に剣道の大会で優勝したって新聞に出てたな。色々あったから忘れてたよ。今更だけど、おめでとう」

 

 俺は箒が引っ越すと同時に剣道とは疎遠になったけど、箒はあれからずっと努力して強くなってたんだな。

 

「あ、改めて言われると少々照れるな。それに、私などまだまだだ」

「謙遜するなって。また今度、剣道を教えてくれよ」

「ああ、いいだろう。…さて、私はそろそろ行く。お前も、遅刻しないようにな」

 

 そう言って、箒は部屋を後にした。

 

「ふう……」 

 

 流石に気づいていた。普通に話してたけど、箒の目が少し赤かったことくらいは。まるで、ずっと泣き張らしたかのような。

 俺は、いろんな人に支えられてる。それを忘れちゃいけないんだ。俺は、自分の頬を両手で思いっきり叩く。…よし、目が覚めた。

 

「頑張らなくちゃな」

 

 支えてくれる人達のために。箒のために。

 何より、鈴のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「ん?」

 

 一時間目が始まる前、俺と箒、遥、それに鷹月さんと布仏さんを加えた五人(相川さんは寝坊らしい:布仏さん情報)で何気ない話をしていると、俺の席に一人のクラスメイトがやって来た。金髪の縦ロールに青い碧眼、確か名前は……

 

「何か用か?…セシリア、さん」

「まあ!何ですの、そのお言葉。それに、直前まで(わたくし)の名前をお忘れだったでしょう。このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットの名を!」

 

 う、何故分かる。俺の心は万国共通で分かりやすいのか?心はグローバルか?……ワケわからん。

 おまけに、このセシリアという女性、どうやら俺の苦手な性格らしい。つまり、「女尊男卑の体現者」である。

 俺は、本当にこの手の手合いが苦手だ。

 

「悪いな。俺、別に他の国の代表候補生なんて興味なかったからな」

「んなっ!」

 

 あ、やべ………またやっちまった。

 何故なら、このようにすぐに噛みついてしまうから、である。ISが生まれてからは、何かにつけて「ISが使えるから」という一点だけで、男を見下した態度をとる女がそこらじゅうに溢れている。勿論、そんなやつらばかりじゃないのは分かっているが、そういうやつらを許容できない部分が俺にはあった。力を持つことと、それを振りかざすことは根本的に違う。嘗て力を(おご)ったからこそ、余計に。

 

「あ、あ、あなた!私を知らない!?この私を!?代表候補生と同じクラスになれただけでも奇跡に近い幸福だというのに!」

「そ、そうか。それは良かったんだな、うん」

 

 こういうタイプはあまり関わらない方がいい。またボロが出そうだ。実際、千冬姉から聞いた限りでは一年の代表候補生は二人しかいないらしいし、ラッキーといえばラッキーだ。…だから何だって話だが。

 

「……あなた、馬鹿にしてますの?」

 

 何でだ。どう答えてもだめじゃねえか、積みゲーか。

 

「……はあ、全く。男というのはどうしてこうも無知で粗野で野蛮なのかしら」

 

 む。今のは少しカチンと来たぞ?皆も、あまりいい顔はしていない。

 

「まあ、私はあなた方と違い優秀ですから?もし分からないことがあれば、そうですわね……泣いて頼まれれば教えて差し上げないこともなくってよ。何せ私、入試で唯一教官を倒したエリートですから!」

 

 唯一、の部分をえらい強調された。ついでに、自慢気に胸を反らしたことで、胸も強調された。おお、でけぇ……じゃなくて!

 

「入試って、あれか?IS同士で戦うやつ」

「…そうですが、それが何か?」

「あ、いや……」

 

 言おうとして、やめた。この娘、やたらとプライド高そうだから、言わない方がいいよな……

 

 

 一応、俺も教官を倒したってこと(・・・・・・・・・・・・・・・)は。

 

 

 

 うん。悪戯(いたずら)にプライドを傷つけることもないし、ここは黙っとく方向で――――

 

「あれ?でも織斑君も倒したって言ってなかったっけ?教官」

 

 ……爆弾は意外な伏兵によって放たれた。まさか遥、この中で一番空気が読めるお前がそれを放り込むとは。

 

「え!?織斑君、あの入試で勝てたの!?」

「うわぁ、織斑君すごぉ~い!私は全然駄目だったよぉ」

 

 あ、うん。布仏さんは何か分かる。……じゃなくて!

 撤回しようかと思ったが、時既に遅し。目の前のセシリアは体をわなわなと震わせており、今にも怒りが爆発しそうだ。活動を再開しそうな休火山を連想する。…あれ?俺結構余裕ある?

 

「…わ、私だけと聞きましたが……?」

「えぇーと……女子では、てオチじゃないか?」

 

 俺は、なるべくセシリアのプライドと自尊心を逆撫でしないように言葉を選んだ。

 

「貴方!貴方も、教官を倒したんですの!?」

 

 が、どうにも無駄だったようで、セシリアの怒りは火山の如く爆発した。あまりの剣幕に、鷹月さんや布仏さん、箒に遥までビックリして萎縮していた。談笑をしていた他のクラスメイト達も、何事かとこっちを見ていた。

 

「えーと、とりあえず落ち着けよ。ほら、皆驚いてるし、な」

「これが落ち着いていられますか!貴方――――」

 

 と、その時。セシリアの暴走を止めるが如く鳴り響いたのは、何を隠そうSHR(ショートホームルーム)開始のチャイムだ。

 

「時間だ、お前等。さっさと席につけ」

 

 同時にクラスに入ってきた千冬姉(と、山田先生)を見て、流石に怒られたくないのであろうセシリアは、一応席へと戻っていった。皆も、安堵の表情のままそれぞれの席へと戻っていった。

 

「さて、授業の前にお前達に……何をしている?織斑」

「いや、神に感謝を捧げようかと」

 

 両手を合わせて祈る俺に千冬姉が問いかける。これほどまでに授業前のチャイムがありがたく感じたことはない。同時に入ってきた千冬姉にも。

 …まあ、直後に名簿クラッシュ(俺命名)を頭部に貰ったが。「馬鹿なことをやっているな」と。

 

「さて、この馬鹿のせいで話が飛んだが……授業の前に、『クラス代表』を決めねばならない」

「クラス代表?」

「クラス代表とは、そのものずばりクラスの代表者だ。クラス間の集会や話し合い等にも参加する…まあ、クラス委員長のようなものだ。自薦他薦は問わない。推薦されたやつには拒否権もないから、そのつもりでな」

 

 へえ、クラス代表か……何か大変そうだし、遥辺りがやるんじゃないか?あいつ、こういうの向いてるし。

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

 そうそう。こういうのは織斑が………うん?

 

「あ、私も!織斑君を推薦します!」

「やっぱり唯一の男子だもん!推さなきゃ損だよね!」

「ま、待て待て!」

 

 立ち上がって抗議を申し立てる。しかし、誰にも聞き入れられず、あえなく却下。

 

「じゃあ私も~。おりむーを推薦で~」

「私も私も!」

「鷹月さん!?布仏さん!?」

 

 二人まで!?しかも布仏さん、おりむーって何!?

 くそ、何故に俺なんだ!助けてくれ、遥!

 

「………(ふるふる)」

 

 お手上げのまま頭を振っていた。っく!箒!

 

「…………」

 

 目が諦めろと告げていた。くそぉ、味方はいないのか!

 

「織斑だけか?それなら――――」

「納得いきませんわ!」

 

 あわや俺に決まりかけてた所で、声を荒げて反論するものがいた。その者、何とセシリア・オルコット。

 

「こんな選出、認められませんわ!クラス代表といえば、そのクラスの最も優れたものがなるべきです。つまり、私セシリア・オルコットが最も相応しいのですわ!それを男だからという理由で極東の猿などに……私達はサーカスを見に来ているわけではございません!」

 

 怒りのあまり、感情を剥き出しにして反論するセシリア。本人が気づいているかは知らないが、このクラスの半分は日本人。自分の祖国を馬鹿にされて、嬉しいものなどいないだろう。例え日本人でなくとも、クラスメイトをボロクソ言ってるセシリアを好意的に見るものは、多くない。

 つまり、今セシリアは俺を批判しているつもりで、実は千冬姉を含めたクラスの大半を敵に回しているような状態だった。

 

「その辺にしとけよ、セシリア」

 

 流石にヤバいと思い、セシリアを止めにはいる。千冬姉の持ってる名簿がメキメキいってんだ。そろそろ止めないと血の雨が降る。

 

「何ですの!?貴方も、私では不相応だと仰りますの!?」

「そんなこと言ってないだろ!クラス代表やりたいなら譲るから、とにかく落ち着けって」

「逃げる気ですの!?」

「違えよ!?」

 

 ああもうどうすりゃいいんだ!頭痛くなってきた。

 

「大体、男がISに乗ること自体間違っているんです!おまけに、貴方のような障害者(・・・)がクラス代表だなんて、いい恥晒しですわ!」

 

 ズキリ。

 

「おい、貴様!今一夏に何と言った!?」

「ちょっとセシリアさん!幾らなんでも、それは言い過ぎだよ!」

「止めてくれ、二人共」

「「でも!!」」

 

 俺を庇って、箒と遥が怒ってくれたけど、俺は二人を宥めた。とっくにクラスの空気は凍りついている。セシリアの言葉は痛いが、俺への侮辱だけなら何てことはない。これ以上酷くならないうちに、セシリアを止めないと……

 

「おい、セシリア――――」

「それに聞きましたわよ!貴方のその目の傷、女性を庇って負ったものだと」

 

 ズキリ。

 

「弱い男のくせに、女性を守るなど粋がった罰ですわ!」

「………っ!!」

「止めろ、箒!!」

「止めるな一夏!もうこれ以上は耐えられん!!」

 

 箒の怒りがが限界に達した。クラスの空気も最悪。不味い、このままじゃ……

 

「セシリアの言ってることは事実だ!……俺は大丈夫だから、止めてくれ」

「…っ」

 

 何とか踏み留まってくれた。ヤバい…早くしないと!

 

「セシリア、もう止めろ!」

 

 最早セシリアは止まらない。どうやら、それほどまでに彼女のプライドを傷つけてしまったらしい。

 

「それに、貴方に助けられたという女性も実に愚かですわね!」

「なっ……!」

 

 ……………っ!!

 

「愚かで薄汚い男に庇われるなど、屈辱の極みですわ!その方に何があったのか知りませんが………」

「ちょっと、セシリアあんたっ!!」

 

 遥がセシリアを諌めようとする。が、セシリアはその言葉の続きを吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男に庇われるような女など、恥を晒す前に死んでくれた方がましですわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキン。

 刹那、俺の中で何かが砕けた(・・・)

 

「おい、セシリア・オルコット!これ以上の暴言は――――」

 

 千冬姉がセシリアを止めようとする。が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怖い程に澄んだ、小さな呟き。

 俺の短い、本当に短いその一言で、クラス中の音が一瞬、消えた。

 

「お、織斑君……?」

「一、夏……?」

 

 遥、箒……クラスの皆や千冬姉でさえ、俺の豹変ぶりに困惑している。

 でも、そんなのはどうでもいい。

 

「……セシリア。お前の言った通りだ。否定もしない。俺への侮辱なら幾らでも受けてやるさ」

「な、なんですの……」

 

 ゆっくりとセシリアの元へ歩く俺を、強がってはいるがセシリア本人さえ怯えたように見ていた。

 

「でもな」

 

 そう言って、俺はセシリアの前に立つと、セシリアの胸ぐらを掴み上げた(・・・・・・・・・)

 

「ぁぐっ!?」

「俺のことはどう言おうが気にしない。でもな……知りもしねえくせに、あいつの、鈴の心を語るんじゃねえっ!!」

「お、織斑君っ!?」

「一夏っ!?」

「おい、一夏!落ち着け!!」

 

 外野が何か言ってるけど、んなのどうでもいい。

 もう俺も、自分を押さえられない。

 

「訂正しろ、セシリア・オルコット。お前があいつの何を知ってるんだよ。あいつの受けた苦しみの、あいつに背負わせちまった俺の罪の何を知ってるって言うんだ!!言えよ。言ってみろよ!言えぇっ!!」

「ぐ、あっ……」

「そこまでにしておけ、一夏!」

 

 千冬姉にセシリアを掴み上げていた手を掴まれ、その支配から解放されたセシリアが地面に落ちた。咳き込んでいるセシリアを傍目に、俺は千冬姉を睨み付ける。

 

「放せよ、千冬姉!」

「止めろ、自分を見失うな!お前は織斑一夏だ(・・・・・)!!」

「……………っ!!」

 

 千冬姉のその言葉で急速に、俺の中で荒ぶっていた感情が鎮静化していく。まるで、嵐が去っていくように。そして、意識が朦朧とすると同時に力が抜けて、その場に倒れそうになる。

 

「っと」

「ご、ごめん。千冬姉」

「……織斑先生だ。馬鹿者」

 

 ちふ……織斑先生が抱き抱えてくれた。ついでに、軽く頭をはたかれた。

 

「ぅ、ぅう……」

 

 すると、倒れていたセシリアがよろよろと立ち上がる。恐怖に似た感情の中で、なおも俺を睨み付けると、

 

「け、決闘ですわ!!あんな屈辱、私の前に膝まずかせてやりますわ!」

 

 と、言ってきた。決闘、か……この期に及んでもなお止まらないセシリアと本気で話をするには、丁度いいかもしれない。

 

「……ああ。受けてやるよ、セシリア。お前にだけは、絶対に負けない」

「………では、クラス代表を賭けて二人の模擬戦を行う。日程は一週間後の月曜、場所は第三アリーナ。双方、それでいいか?」

「え、ええ。よろしくってよ」

「…ああ。問題、な、い……」

 

 急激に意識が遠くなる。千冬姉や皆が何かを言ってた気がするけど、うまく聞こえない。

 

 俺の意識は、そこで途絶えた。

 




・後書き談話
 さて……何か、一夏が暴走しましたね。

箒「一体何なんだ、あれは」
遥「私も、織斑君のあんな怒った姿初めて見た」

 これ、はっきり言って最初のプロットにはありませんでした。書いてたら、いつの間にかこうなってました。でも、ちゃんと理由も分かりますし、次回で。

遥「露骨に宣伝してるね」
箒「ああ」

 ……と、とにかくアニメ風次回予告、どうぞ!




相「っはあ!遅れちゃったぁ~って、何があったの?」
の「おりむー、いきなり怒っちゃって恐かったよぉ~」
鷹「うん。セシリアの態度にはあたしも腹が立ったけど、織斑君のは何か違ってたよね」
箒「あいつがあんな怒り方をしたのは初めて見た」
遥「私も……織斑君、一体何が……」

次回、「空白の過去」

千「お前らには、話しておこう。あいつの過去を……」

 知られざる空白の記憶が、今紐解(ひもと)かれる。

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