「せ、聖天子様!?」
誰かがそう叫び、皆一斉に立ち上がる。もちろん、僕と霊夢も例外ではない。
モニターに写し出された白いワンピースみたいな服装の聖天子に、白い天狗とかが来ていそうな服を着た、蓮太郎曰くジジィの天童菊之丞。
「皆さん、ごきげんよう。……楽にしてください。」
そういわれて、座る人は誰一人いなかった。そのとき、菊之丞の目がある一点で止まる。
「木更ぁ、よくも私の前に顔を出せたな……!!」
「こんにちはお祖父様。お久しぶりです。」
張り積めた空気に、僕は、誰もが生きた心地はしなかっただろう。そんななか、ゆっくりと聖天子様は口を開いた。
「……依頼は二つあります。ひとつ目は、昨日東京エリアで感染者を出した、感染源ガストレアの排除。」
ガストレア――どこから来たのか、どのように生まれたのか不明の寄生生物。様々な種類があり、それは動物だけでなく希にだが植物のガストレアもいる。本来、例えばミノムシとかが人間並みに大きくなっても、自重で潰れてしまうが、ガストレアウィルス、ガストレアの体液などにあるウィルスはそれらの常識を全て覆す。
昨日感染者を出した、とはガストレアに体液を送り込まれてガストレア化してしまった人間が出たことを指す。ガストレアウィルスは、人の体内に体液感染すれば、尋常じゃない勢いでDNAを書き換えていき、形象崩壊というプロセスを経てガストレア化する。
「二つ目は、その感染源ガストレアの体内に取り込まれたケースの回収です。」
取り込まれた?飲み込んだの間違いでは?
そう懸念そうな顔をした僕に蓮太郎が僕にしか聞こえない小声で囁く。
「取り込まれたってのは、感染者がガストレア化する時に持っていた持ち物がガストレア化すると同時に体内に入ったてことだよ。」
「なるほどね……。」
要するに、感染源ガストレアもまた感染者だった、ということか。……全滅させるのは、人類が宇宙の果てに行くことぐらい難しいだろう。果てがそもそもあるかどうかはわからないが。
「何か質問がある人は?」
「はい。」
「なんでしょう。」
木更さんが手をあげた。
「ケースの中身を教えてもらってもよろしいでしょうか。」
「……それは……。」
言いづらそうに小さく視線を逸らした聖天子様。さらに糾弾しようとしたのか、再度口を開いた木更さんだが、結局言えなかった。
……突然の来訪者故に。
「そのレース、私も参加させてもらう。」
「「「「「!!!!???」」」」」
中央に集まる視線の焦点には、道化のようなタキシードのような服を着て、仮面をつけた男の人が立っていた。
いつの間に!?しかもどこから入ってきた!?
「ナナホシの遺産は私が頂く!……おいで、小比奈。」
「はい、パパ。」
蓮太郎の後ろ側から小さな青い髪で、藍色の服を着た小さな女の子がよいしょと机の上にいる男の人の側に近寄る。
ナナホシの遺産、と告げられた時、一瞬聖天子様の目が瞑られた気がした。でも、今は正直それよりもこの二人のことだ。
「この子は私の娘で、私のイニシエーター、蛭子小比奈だ。モデルマンティスの因子で、近接は最強だ。」
名前を呼ばれたとき、小さくスカートの裾を上げて礼をした。
イニシエーター、ごく希に妊婦の口にガストレアウィルスが入り、その毒性を持ったまま生まれた子供たち、『呪われし子供たち』の中から選ばれる子供たちのことだ。……気に入らない、呪われし子供たちなんて言い方は。
「う、うわぁあ!!」
誰もが驚愕に黙り込んでいたが、突然の叫びとひとつの発砲音に皆が自前の銃を男の人達に連射する。だけど、僕と霊夢は青白い燐光が度々あがるのを見逃さず、何も行動しなかった。次の行動を早めるために。
「うそ、だろ……?」
誰かがそう苦々しく呟いた。男の人と小比奈の周りには、だえんのシールドみたいなのが全面に張られていたのだ。
「……私はこれをイマジナリー・ギミックと読んでいる。これを発動するために、体のほとんどを改造しているがね。」
これは、という声なき疑問に答えるように説明をする男の人。そして、一瞬小さく縮むのが見えて、僕はその後の未来が見えた気がして、霊夢を抱えて伏せた。その次の瞬間、シールドに阻まれて浮遊していた弾丸が乱反射する。たくさんの悲鳴とガラスが割れる音、机や色んな所に弾丸が埋まる音が聞こえて、しばらくして静寂が訪れた。
「……good-bye、民警諸君。世界は、終わりだ。」
その声を、皮切りにして。
「……聖天子様、説明していただけますね?」
立ち上がった木更さんが改めてモニター越しに聖天子様に中身を問う。聖天子様は、諦めて説明を始めた。
「いいでしょう。あのケースの中身は、ナナホシの遺産。大絶滅を引き起こした十一体のステージVのガストレアを呼び寄せる触媒となり得るものです。」
ガストレアには段階がある。蜘蛛なら、そのままの状態がステージI、そしてそこから様々なものを取り入れることにより、II、IIIとステージが上がり、上がるごとに姿が怪物と呼ぶに相応しい状態になっていく。本来はIVが最終段階なのだが、その枠組みにとらわれない十一体のガストレア、それがステージVのガストレア。
――そして、その説明を終えた時に、蓮太郎が足元にある箱に気づいた。
「なんだこれ?」
その箱を机の上においたとき、正面入り口からタキシードの男の人、会社員だろうか。が、入ってきた。
「た、大変だ!!社長が自宅で殺された!!そして頭部がまだ見つかってない!!」
その事を聞いた皆の視線が、蓮太郎の前にある箱の前に集まる。……そして、蓮太郎が箱をそっと開けて、少しして閉めた。
きっと、あのなかには――。
蓮太郎は憤怒の表情になるも、すぐに深呼吸して落ち着き、そのひの会議は聖天子様の声によりお開きとなった。
――――
どうでしたか?
今回は様々な人物が登場しましたね~
果たして、主人公との関わりは!?
それでは、次回をお楽しみに~♪