ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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おまけ
第一話 非日常との衝突


 ごくごく普通な俺たちの日常の中に突然として起きた非日常な出来事。

 

 いつも通りに朝起き、日課の昔からやってる古武術の型稽古をし、いつも通りに妹を起こしに行き、家族全員で朝御飯を食べ、出掛ける妹たちを見送り、実家の神社の境内を掃き掃除をして、自室に戻って長年やってるオンラインゲームをやろうとするが、そういえば今日はアップデートで午前中はログイン出来ないんだと気づき、しょうがないからネットで海外の友達にいきなり連絡をとって怒られ、ふて腐れて馴染みの古本屋さんに遊びに行き、昼御飯を父と母と祖母と食べ、アップデートに備えて色々と準備を妹たちの分までわざわざ用意してやったと自己満足に浸り、ゲームにいざログインしてみたら非日常にぶつかった。

 

 ごくごく普通な日常から何を間違えたのか非日常にぶつかった。

 

 20年以上も続く大人気老舗オンラインゲーム〈エルダーテイル〉

 

「剣と魔法の存在する幻想の世界」

 

 十二番目の拡張パック〈ノウアスフィアの開墾〉が導入されたその日、俺たち日本人ユーザー三万人が幸か不幸かゲームの世界に取り込まれた……

 

      非日常が日常になった

 

 

           ◆

 

「んに?どこ、ここ…?」

 

 目の前に広がるのは、どこかで見たことのある今にも崩れ落ちそうな廃ビル郡とそれを覆う膨大な草木と青い空と白い雲、ファンタジーチックな全身鎧や法衣を着込んだコスプレの男女たち。

 

 それと、昔っからの長い付き合いのフワフワと周囲を漂う煙のような液体のようななんか意味不明な色とりどりのナニカ

 

 由緒正しいとはいわないでもそれなりに歴史ある神宮の家系である家はこういった霊感のようなものが強い人間が多い。

 俺は幽霊は見えないが、なんかこういうフワフワが見える。未だに俺はこのフワフワがなんなのかは詳しくはわからない。ただ、パワースポットみたいなところではこのフワフワはたくさん見えるのでなんか霊的な力みたいな?と考えている。

 

「うわぁ、ここなんかパワースポット並みにナニカがフワフワしてるよ。日本にこんなところあったっけ?って済ませたいところだけど絶対にこれなんかちがうわ」

 

 普通だったら夢で済ませたいところだけど、生憎物心ついた頃から夢の中ではこのフワフワは見えない。これリアルっすわ。だからって、いきなり荒廃した未来の地球に飛ばされたーなんて思えないけど。

というかよくよくみたら、俺もなんかコスプレしてるし。

 

 

「って!!俺っ、刀差してるじゃん!やべぇよ!!モノホンだ~すげえー

あれっ…これって……〈夜刀・風月玄沢〉…か?」

 

 今、自分の目の前に抜かれてるこの黒刀、〈エルダーテイル〉の俺の装備品じゃ…。

 よくよく見てみると自分の身に付けている藍色と蒼色の胴着も高下駄も紅い宝玉が嵌まった腕輪も〈エルダーテイル〉の俺のアバター〈奏〉の装備品に酷似している。

 着物をはだけさせ肩を覗いて見れば〈奏〉の種族の法儀族の特徴の紋章が刻まれてる。

 

「はっははっ……異世界トリップてか…?ここアキバの街?なんでやねん…」

 

 〈エルダー・テイル〉は〈ハーフガイア・プロジェクト〉といって世界を半分の縮小して再現しようという計画を進めていた。

 日本サーバーも例外ではなくファンタジーの世界観を崩さないように荒廃した町並みを遥か昔に栄え滅びた神代としてゲームの設定では語られている。

 

 口からほろりと出た嘆きも空気に溶け込むだけで、その弱々しいツッコミに反応を返す者はいない。

 

 虚しく風が吹き、それに乗って人のヒステリックな叫び声が聞こえてくる。

 多分同じように現状に気づいた奴が少数だが現れ始めたんだろう。

 投じられた石は水面に波紋をうみ、広がっていく。悲鳴のような声は徐々に共鳴し大きくなる。恐怖や不安は連鎖する。

 

「よしっ!!とりあえず元気出そうっ!!落ち込んでてもなんにもならん!!

ここが〈エルダーテイル〉だっていうんだったらそれはそれでいいじゃねえか。この体は〈奏〉のものみたいだし。だったら強くてニューゲームだ」

 

 無理矢理根拠のない自信を奮い立たせ、頬を叩いて気合を入れる。

 

「ここが〈エルダーテイル〉ならステータスも見れるはずだけど…っとあぁ、こうやるのか」

 

 ステータスよ出てこいと念じたらこれまた見慣れたステータス画面が頭の中に浮かぶ。

目についたのは〈念話〉の表示。

 すぐさま選択し、いくつかの名前を探す。一つに念話を入れる。出ないっ。次にまた念話をかける。でたっ!

 

『兄さんっ!?』

 

「千菜っ、今どこにいる?」

 

『〈三日月同盟〉のギルドホーム。〈三日月同盟〉のみんなはいったんここに集まろうって。

兄さんもこっちに来なよ。マリエールさんもヘンリエッタさんも他のみんなも多分兄さんがいてくれたら心強いだろうし…』

 

 千菜の不安そうな声が耳をつく。

 

「わかったよ。確かギルド会館の四階だったよな。今からそっちに向かうわ」

 

『うん…』

 

 千菜との念話が切れる。

 念話の一覧から知り合いの名前をさらりと見直し、何人かには念話をかける。

 落ち着いた反応を返すやつもいたが少なからず全員がパニックに陥っていた。

 わかっていることを情報共有しあい、共通の知り合いの無事を確認し合う。

 

 それにしても…これは正直キツいな…。

 ギルド会館へ向かう道はギルド会館がアキバの街の中心にあることもあって比較的人の多い大通りを通ることになる。

 今のアキバの街にいる人間は、NPCの大地人じゃなければ全員がついさっきこの世界に呼び出されたばかり。

 パニックに陥って負の感情をばらまいてる。

 その負の感情に影響されたナニカは、ドロドロと見ていて吐き気をもよおすぐらいに気持ちが悪い…。

ツラい…。気分が悪くなり、頭の後ろらへんがギスギスする…

 我慢できなくなった俺は路地裏に駆け込み、吐いた。

 この体では胃のなかに何も入ってなかったのがよかったのか吐くとだいぶ楽になった。けれど少し吐き気が残る。

 

「ちょっと遠回りしても…人の少ないところを通ろう……」

 

 何度か休憩を挟みつつ遠回りをして、ギルド会館の〈三日月同盟〉のギルドホームについたときはなんかもう満身創痍だった…。

 入り口に着いたのはいいが、ギルドホームは〈三日月同盟〉が借りている〈ゾーン〉のため俺は勝手な出入りが出来ない。

 念話で来たことを伝えて中から誰か来てもらわないと。千菜に念話を繋ぎ、

 

「千菜…悪い、着いたから入れてくれ…」

『っ!わかった!すぐ行くから』

 

 俺の情けない弱々しい声を聞いたからか千菜が慌てて扉を開けてきた。

 女性であるにも関わらず170ある長身に腰の辺りまである長い黒髪を七部辺りで結っている。

 身を包んでいる蝶の描かれた美しい緑の着物に似合う大きな紅い瞳がこちらを捉えてもともと大きな瞳がさらに大きく見開かれる。

 

「兄さんっ!!

マリエールさんっ!!兄さんがっ!」

 

 千菜のただ事ではない大声が聞こえたのだろう。ドタドタと中から何人も出てくる。

 みんなアワアワと慌てだし「どうしようっ」「寝れる場所を用意しろっ」「水っ水っ」「救急車呼べっ!!」「バカっ救急車がこの世界にあるかっ」と大騒ぎになった。

 

「うわっ!?カナ坊っどうしたんっ!?あわわっ、どないしょどないしよっ。救急車っ。110やっ。あわっ念話じゃ呼べへんやんっ」

 

「全員落ち着きなさいっ。マリエ、救急車は119です。それ以前に救急車なんてこの世界にはありませんっ。飛燕、今すぐ台所に行って水枕を作ってきてください。小竜は寝れる場所を準備して。マリエの部屋で良いでしょう。明日架とマリエはヒールをかけてあげてくださいまし。千菜、ゆっくりと奏様をマリエの部屋に」

 

「「「イエスッマムッ!!」」」

 

 ギルメンどころか巨乳のエルフギルマスまで大騒ぎを始めたところでピシャリと落ち着いた声が響きこの場にいる全員を落ち着かせ指示を飛ばす。

 

「はははっ…相変わらず賑やか」

「そんな死人もびっくりな青白い顔してるのに笑える余裕があるのは相変わらずタフですね奏様」

 

 若干あきれた風に言葉を返す秘書風の女性。

 さっきの巨乳の関西弁お姉ちゃんことマリエールとそのおっちょこちょいギルマスを支える冷静沈着なギルドの会計担当ヘンリエッタ。

 この二人がいるお陰でこのアットホームなギルドは成り立ってるんだろうな。

 

「とりあえず今はゆっくりと休んでくださいまし。話はそれからですわ」

 

千菜に支えられて、しっかりと休めと寝かされて俺が起きたのは次の日に日付は変わって日が昇る頃だった。

 

           ◆

 

「ナニコレ…マズ……」

 

 目の前には食欲をそそられるような色とりどりのサラダ、魚の塩焼き、味噌汁、白いご飯がある。

 なぜか匂いは感じ取れない。なぜか口の中の感触が変わらない。なぜか食べ物の味がしない。

 

「なんじゃこりゃっー!?ナニコレ新手のイジメか!?いきなり来ていきなりぶっ倒れて身を迷惑かけたのは悪いとは思うけど、俺、こういうのはいけないと思うなっ!うん。人として」

 

「カナ坊っ落ち着いてえな。別にカナ坊のことが迷惑だなんてウチら思うてへんて。ただ、こっちの世界ではなんか料理に味がないみたいなんよ…」

 

 バツの悪そうにうつ向きがちに告げるマリエちゃん。

 はいっ?料理に味がない?

 

「ヘンリエッタさん、厨房、貸してください」

「ええ、それは構いませんけど…後悔しますよ?多分」

 

 厨房に入り、さらっと準備を済ませる。簡単なものしかつくれないけど、実験だからいいだろう。

 奏さんの三分クッキングだ。

 

  ─30秒後─

 

「質問です。コレ、なんなんですか?」

〈暗黒物質〉(ダークマター)かなにかじゃないでしょうか?」

「俺にっ〈暗黒物質〉(ダークマター)なんて作れる才能はねーよっっ!!」

 

 ゲル状のモザイク物質を残飯かごに向けて全力でスパーキング!!〈暗黒物質〉(ダークマター)は消滅した。

 

「おわかりいただけましたか?この世界ではコマンドで作った料理に味がなくて、直に作っても意味不明なゲル状の物体が出来上がるだけです」

 

「素材アイテムには味があるんやけどね」

「なぜそれをはやく言わない」

 

 マリエちゃんの言葉にビシッ!!と効果音がつきそうなぐらい素早く指を指す。

 

「兄さん、素材アイテムよりは味のない料理の方がお腹持ちもいいし栄養もとれるの(…多分)

「今多分って言ったよね!?確証ないんだよね!?」

 

 昔は「お兄ちゃんのお嫁さんになって一生お世話してもらうー」なんて言ってくれてたのに…

 あれ?今も昔もいいように使われてね?

 

「あぁ、もういいや諦めた。とりあえず料理残すのは勿体ないから全部食べるよ」

 

〈暗黒物質〉(ダークマター)は投げ捨てましたわ」

「投げ捨てたやんね」

「投げ捨てたね」

 

「あれを食えと!?あんたら本当は俺のこと迷惑だと思ってんじゃねーの!?」

 

「「「そんなことない(よ/ですわ/やんね)」」」

 

「じゃあなぜ全員目を明後日の方向に!?」

 

 三人ともばらばらの方向に目をそらして全然俺と目を会わせようともしない。

 

「ぷっ、あはは。もう無理や~我慢できへん~カナ坊の顔おかしすぎる~あはははっ~ゴメンなカナ坊からかってただけや。堪忍してな」

 

「その無駄に大きな胸の塊もげるまで揉むぞ」

「ひいぃぃ」

 

「あはははっ」

 

「千菜、テメェはファーストキス奪ったろか?この処女が」

「ひいぃぃ」

 

 千菜とマリエちゃんが身を寄せあってブルブルと震える。

 お仕置きはこんなもんでいいだろ。

 ヘンリエッタさん?俺の知り合いのメガネからかけてる人にはろくな人いないからスルー

 腹黒メガネとか、狂戦士とか、紅き名探偵とか、二つ名だけでも近づきたくなさがビンビンだ。

 この人もぱっと見普通だけど、可愛い子には目がないし…正直あの詰め寄るときの形相はは小さい子には恐怖以外のなにものでもないよな。

 

「あら、私にはなにもしなくてもよろしいんですか?」

 

「前に俺のもう一つのアバターもみくちゃにしたでしょ…俺はもうあんな恐怖は味わいたくないです」

 

「私が興味があるのは可愛いものだけですわ。今の奏様はちいっちゃくも可愛くもないですから、安心していいですわよ?」

 

「そりゃどうも」

 

 ─閑話休題─

 

「なあ?カナ坊、ウチのギルドに入らへん?」

「んな?」

 

 味のない文字通り味気ない食事をモッグモッグと食べているとマリエちゃんが唐突に、いや、この現状だったら別に唐突でもなんでもないな。

 こんな世界にいきなりなにもわからずほっぽり出されたんだったら群れを作って大きく固まろうとするのが生物としての当たり前の生存本能だ。

 

 テーブルの向かい側に、クッションをギュッと抱き締め、マリエちゃんは言葉を続ける。

 

「ウチらのギルドはええギルドや。

カナ坊やったら、〈D.D.D.〉とか大手のギルドさんにもコネとかあったりするやろから、別にそっちの方に行ってもらってもかまわへんのやけど。むしろそっちの方がよかったりすると思うんやけど。

今、このわけわからへん状況でソロでやってくのは正直キツいんちゃうかな?

だから……」

 

「ごめん。マリエちゃん。

とりあえず俺はアキバの街を離れるわ」

 

「えっ!?そんなんどこ行くつもりなん?ミナミか?シブヤか?ミナミの方は遠いし、シブヤの方はアキバよりうーんと不便やで?」

 

「アサクサ」

 

「アサクサは〈大地人〉の町ですわよね?こんなときに行く必要はないのではないんですか?」

 

 俺の答えにマリエちゃんは驚いた表情をつくり、ヘンリエッタさんはアサクサなんかに行く必要はないのではと問いかける。

 

「今のアキバはさ、こっちの世界に来たばっかりでみんな混乱してる。周りのやつらに当たり散らすやつもいるし、その隙に犯罪まがいのことをやろうとするやつもいるだろうな。多分…PKもやるやつも出てくるだろうな…」

 

「そんなっPKやなんてっ」

 

「いや、出るね。十中八九、100パーセント、絶対に。

人間てのは弱いから。死んでもゲームと同じように大神殿で復活するかどうかはわかんないけど…生き返ることが出来るなら、絶対にPKは現れる。

俺はそういうのは見てられない。そういう人を殺すことが出来るやつは生理的に受け付けない。

多分この世界にいる誰よりも」

 

「俺のギリギリまで譲歩としても俺の周りで人を殺すことをしないことだ。

俺のいないところでだったらまだ許せる。俺の知らないところだったらまだ大丈夫。

でも俺がそれを知ってしまったら絶対に正常ではいられるかもしれないけど平常ではいられなくなると思う」

 

「だから、

アサクサに行ってほとぼり冷めるまで、色々しながら過ごしとくよ。

アキバが落ち着いたら戻ってくるわ」

 

「そうか…うん。わかった。

カナ坊はなんや色々考えとったんやね。

偉いわ。よし、お姉さんが抱きしめたるわ。むぎゅーやで」

 

 納得してくれたのか、うん。と一回頷いたマリエちゃんはパアァァと満開の向日葵のように一度笑うとこっちに詰めより思いっきり抱きしめてくる。

 この人のこういうところは俺は大好きだ。別に抱きついてくるところとかじゃないぞ?もちろんそういうところも好きだけども。

 マリエちゃんのきちんと俺の話を聞いて受け入れてくれて満面の笑みを向けてくれる。そういうところが俺は大好きだ。

 多分〈三日月同盟〉の全員がそうだろう。

 

「こら!マリエ、はしたないから止めなさい!奏様も困ってらっしゃるでしょう」

 

「むぅ」

 

 ヘンリエッタさんに首根っこを捕まれ猫のように引剥がされるマリエちゃん。

 さすが武器攻撃職の〈吟遊詩人〉(バード)人一人だったら片手で簡単に引きずれるらしい。

 

「千菜は連れてくん?」

 

「あー、どうしょうかなぁ。別にアイツは俺みたいに見える( ・ ・ ・)わけじゃないからな~

まあ、本人がついてくるって言ったら連れてくわ」

 

「出発はいつ頃に?」

「明日の朝イチで人がいないうちにさっさと街を出ようかと」

「それなら少しになりますがなにか準備をさせましょう」

「遠慮せず貰いますよ?」

「それが奏様の美徳ですね」

 

 俺の答えに愉快そうにコロコロと笑い返すヘンリエッタさん。

 明日は早いし準備も適当に済ませなければ。千菜にも俺とアサクサに行くかどうか聞かなければ。

 

 

 こうして俺たちの非日常の物語が幕をあけた。

 

 


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