ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第三十四話 ワレワレハ リアジュウヲ ユルサナイ<後編>

「やっぱり無茶があったかな~」

 

 

 <ダンステリア>でシロエたちと別れた俺とクインの二人は人がどこも溢れる大通りを避けて裏道をスイスイと歩いて進んでていた。こういう抜け道には職業柄詳しいクインのおかげで楽なものだ。

 あんまり人の多いところは人酔いしちゃうからね

 

 

「何がだ?」

 

<加護領域>(バックアップ・ゾーン)の有効人数がだよ。流石にありゃダメだ。一人頭に対しての出力が低すぎる。あれなら、俺が刀を持つ意味がねぇ。後方支援に徹した方が効率割増だ」

 

 

「だろうな。<ダメージ遮断呪文>の最適投射ミスって何人かもろに攻撃喰らってた人いたぞ。12人とか接近戦等しながら支援できる人数じゃないことくらい初心者でもわかるぞ。本職の方々を舐めすぎだ。ば奏」

 

 

「まったくもってその通りで」

 

 

「最近、少し紺を詰めすぎではないか?周りに気を使いすぎだし無鉄砲なことをしすぎだ。

もう少し前みたいに気を抜いても構わんと思うぞ?もしもの時は皆に相談して策を練ればいい。策を練るのは私やシロエ殿の専売特許なのだからな、お前ごときが奪っていいポジションではないわ。ば奏」

 

 

むう、こいつに心配されるとなんか悔しい

言われてみれば最近なんだかゴチャゴチャと考え過ぎてた気がする。シロエじゃないんだから考えすぎるのも考えものだな。頭悪いやつがが考えすぎるとろくなこと思い付かないな

 

 

「ば奏ば奏言うな。最近言わなくなったと思ったら思い出したかのように言い出しやがって」

 

「最近のお前の行動は目に余るのだぞ。もう少し私たちをきちんと頼れ。モーションをとるんじゃなくてどっしりと寄りかかれ。悲しくなるぞ」

 

「・・・お前はやっぱりいいやつだな」

 

 

クインの髪を腹いせもとい照れ隠しにわしゃわしゃとする

なんだこいつ嬉しいこと言いやがって照れるぞ

 

「やめろ!せっかく揃えた髪が崩れる!」

 

 

 そういえばこいつ今日はいつもと髪型違う

 いつもはまとめることはせずに下ろしていて後ろ髪も短いポニーテイルにして普段は隠れているうなじがバッチリと覗ける。匂いもほんのりとすみれの花の香りが鼻についた。普段はこんな香水なんてつけないで自然な甘い香りがするだけだから。新鮮な気分だ。

 やっぱり仕事に対してのこいつの誠実さは尊敬できる。わざわざしなれない化粧やら香水までしてくるんだから、名探偵の鏡だな。名探偵なんて職業はないけど。

 

 

「そこのお兄さん、お姉さん。ちょっと道を尋ねたいんだけど教えてくれないかな?」

 

 

 そんな声に釣られて後ろを振り向いた。

 振り向いた瞬間にはもう既に目の前に真っ白なものが迫ってきていた。

それをなんなく躱して声の主でありこのまっしろな劇薬をぶつけてきた張本人の伸びきった腕を掴む。勢いをそのまま殺さないようにして力の向きに合わせて腕を引っ張り相手の足が俺の足に引っかかるような場所に添えておくとすんなりと足に引っかかって声の主は転んだ。もちろん掴んだ腕は離さずに背中の方に回して拘束する。

 このちょろい感じは大地人だな。

 

 

「ようお兄ちゃんいきなり襲いかかってくるなんて危ないじゃないの」

 

「くそ!なんでわかったんだ!路地裏でイチャつくカップルなんて格好の獲物だと思ったのに!」

 

「いやいや、貴様こんな路地裏で道を尋ねるバカがどこにいるというのだ。怪しさ抜群だろうに」

 

 

 クイン、カッコつけるのは構わない。

 だけどせめて尻餅ついた体勢から立ち上がってからにしろ

 カッコついてないから

 

 

「しまった!盲点だった!お前ら天才か!」

 

「いや、少し考えれば子供でも気づくことだ。お前()馬鹿か」

 

 

 揃いも揃ってなんでこうバカばっかり揃ってんだよこの集団

 もうやんなってきた。クラスティ辺りに丸投げしようかな~

 

 

「なんだと~!俺を甘く見ていたな<冒険者>の兄ちゃん、俺一人だけが兄ちゃんを狙ってたわけじゃねーんだ!

お前ら!!出てくるんだ!」

 

 

 男の声が狭い路地裏に響く。反響する声が耳障りだ。

 男の声に反応して出てくる影は一つもない。

 

 

「あれ?」

 

 間の抜けた男の間抜けな声だけが路地裏を占拠する。それでも、出てこようとする影は一つたりともない。

 

 

「お前はやっぱりバカだよ。こんなところに来る男女なんてヤルことやろうなんて考えてる盛りのついてる連中か俺らみたいな例外だけだって」

 

 

 ズルズルと入り組んだ路地の道から大地人と思われる男たちが一人の<冒険者>に引きずられてくる。

 

 

「そんな!そこまで読んでいたのか!お前ら天才か!」

 

「お前のボブギャラリーはもうすこし広くはならなかったのか・・・」

 

 

 お前ら天才か!しか言えんのかお前は

 あほか、ウィルでももう少し理知的に喋るぞ。お前らバカか

 ・・・やべえ、なんかうつってきちゃったよ。早めにこいつから離れよ、バカがうつる。

 

 

「奏の兄貴、しかしこやつらの気持ちもわからんわけではないでゴザルよ」

 

「なんだゴザル、お前そっち側か、裏切りか」

 

 

「いやいや、拙者はクシャの姉御と奏の兄貴には死んでも逆らわんと決めてるでゴザルよ。

 しかしこんな白昼堂々とあそこまでイチャイチャイチャイチャとされれば拙者ですらもムカつくでゴザルよ。しかもそれを素でやってるのでゴザろう?モテない男としてはぁ~割りきれない気持ちも理解できるでゴザろうよ」

 

 

「何言ってんだ。俺とクインはそんなんじゃねえよ俺たちは──」

 

「普通だよ──っておい、クインちゃんと合わせろよ。もう俺とお前の鉄板ネタみたいなもんだろうが」

 

「ヤること・・・盛りのついた・・・イチャイチャ・・・あうあうあううぅぅ・・・きゅー」

 

 

 あ、ダメだ。

 無駄にたくましい想像力のせいで頭の中キャパオーバーして気絶しやがった。

 顔がりんごみたいに真っ赤っかに染まって頭から湯気までのぼってる。目がメダパニ状態だ。

 

 

「おい、ゴザリスト。どうすんだ大事な撒き餌が使い物にならなくなったじゃねえか」

 

「また意味不明な呼び方を・・・それに、半分は兄貴の責任でゴザルろうよ・・・」

 

 

 ゴザルの半眼でシラケたような目で見つめられたことであることを思い出す。

 クインが目を覚ますまでの時間つぶしにはちょうどいいだろう。クインの軽い体をおぶりながらゴザルに今日新しくできた下僕の話をする。

 

 

「てことで、お前の子分が三人増えたぞ。しかも三人とも一応<D.D.D>のメンバーだからお前の後輩にあたるやつらだ」

 

「ほう、それはなかなか嬉しい話を聞いたでゴザル。して、そ奴らは今どこに?」

 

「今は俺の店で千菜の監視の下で店の手伝いさせてるよ」

 

「それはそれは、そやつらいい思いをしてるでゴザルな~。正直言ってせっしゃの方が貧乏くじでゴザルよ」

 

「あん?なんで店の雑用がいい思いなんだよ。まだこいつらみたいなバカを相手にしている方が愉快で楽だろ」

 

「兄ちゃんそう褒めるなよ照れるじゃねぇか///」

 

 

 褒めてねぇよ

 けどもう俺はこいつとは話さないんだと決めてるんだ。

 でもやっぱりムカつくから無言で蹴っとこ。相手したら喜びそうだけど

 

 

「千菜の姉御はアレでゴザろう。姫モードと普段の優しいときとのギャップが激しいでゴザろう。それがものすごくクセになるでゴザルよ」

 

「おい待てゴザル。お前そんな理由で俺に付き合ってるんだったら今すぐ腹切れ」

 

「いやいや、そんなことで従ってるのではないでゴザルよ。行ったでゴザろう。拙者はクシャの姉御と奏の兄貴には逆らわんと決めてるでゴザル、けれど千菜の姉御には従いたいと思わされるのでゴザるよ」

 

 

コイツ、ダメだ、早くなんとかしないと

千菜に骨抜きにされてやがる

なんでデカイ顔を赤らめた俺より確実に年上のやつから実の妹に対する惚れ話を聞かされなくちゃいけないんだ。

 

 路地裏をムサイ男と連れ歩きやっと狭い道を抜けたところでウブな眠り姫様が目を覚ました。

 

「うにゃ・・・ひゃ!」

 

「ん、起きたか。

よしクイン落ち着け。恥ずかしいのはわかる。だからその手に持った銃をしまえ。大きく深呼吸するんだ。さすがにそれを俺にぶちかましたら衛兵が来る」

 

「すーはー、すーはー、うむ、落ち着いた。だから早く私をおろせ」

 

 

 このタイミングで、

「顔がまだ真っ赤に染まってるぞ赤面探偵」

 なんてちゃちゃをいれるほど俺もバカじゃない。

 だってまだ銃をしまってないんだもの。いくら〈付与術師〉(エンチャンター)の火力が蛍火レベルでも痛いものは痛いんだ。

 背中に背負った暖かくて柔らかな軽いものを膝を折って下ろしてやる。

 

 

「では、そろそろ元凶を叩きに行こうか」

 

「「は?」」

 

「エルノを拾ってさっさと今回の事件を終わらせるぞ。もうそろそろこうやって戯れているのも飽きてきた」

 

「ちょちょっと待つでゴザルよ!?クイン殿元凶の居場所がわかってるでゴザルか?」

 

「ん?そうだが?」

 

 

 いやいや、いくらなんでもそれはねえだろ。

 捕まえた奴らは一人たりとも口を割らなかったんだぞ?

 妙なところで団結力のある奴らだったし主要そうな奴は断固として口を割らなかった。

 末端の奴らは主要メンバーからそれぞれ指示を受けていただけだし、最後に集まったのもまるで全員が入ることを最優先に考えた街の外にある廃墟だったらしいじゃねえか。

 

 

「なんだお前たち気づいてなかったのか?」

 

「残念ながらお前みたいにお利口さんな頭は持ってないんでな」

 

「そうかそうか、私はお利口さんだからな。今回の事件も私のお陰で無事解決だ」

 

 

 俺たちがわかっていないことがわかった途端に上機嫌になるクイン。皮肉が通じねえぞこいつ

 ハズレろ!推理ハズレて恥ずかしくなれ!

 

 

「では、行こうか。解決編だ」

 

 

 そういってクインは自信満々に、かっこよさげにかわいらしく真っ赤なスプリングコートを翻してそう言った。

 そのニヒルな笑顔はいつ見ても俺が知っている誰よりも自信に満ち溢れている

 

 

                    ◆

 

 

「本当に合ってやがった・・・」

 

「だろ?私の言った通りだったろ?褒めていいんだぞ?」

 

「マジクインサンカッケー、ホレチャイソウダー」

 

「さすがの私でもそれに照れることは出来そうになさそうだ」

 

 

こんなのにまで照れられてたら俺がお前を<ロデ研>に連れてくわ

治験だろうがなんだろうがどんなてを使ってでもまともなやつに生まれ変われるようにしてやるよ

 

 

「しかし何だったんだだろうなアイツは・・・<欲望の典災 シセラ>だったか?なんかアイツの魂魄は歪んでて気持ち悪かった・・・」

 

「<ノウアスフィアの開墾>での新モンスターと見るのが無難だが、どうにも話が通じない印象が強すぎてなぁ。機械的なゲームの頃のモンスターを相手にしてるようだった」

 

 

 それでは全てが片付いたここらで解決編に入らせてもらおう

 

 

 クインの推理はここでは細かいところは端折らせてもらうが一応彼女の名誉のために大本だけは語らせてもらおう。・・・本当のところは俺もゴザルもクインがそこに至るまでの思考とかヒントとかをクインと同じレベルで理解できていないために全てを完璧に説明できないせいなのだけれどそれでよければ聞いてもらいたい。今回の功労者は紛れもなくクインなのだから。

 

 まず、今回の本丸、今現在進行形で俺たちが立っているのはアキバの街を出て北に進んで徒歩で十分とかからない神代の頃のなんのへんてつもない廃墟である。

 

 クインの推理ではまずアキバの街に本拠地がないことは俺とゴザルといっしょに強襲者狩りをしている時に気づいていたらしい。それは目撃証言が無さ過ぎるせいだとクインは語った。

 

 

「いくらなんでも目撃者がいなさすぎる、アキバの街は眠らない街だ。日々現実世界の技術や物をこの世界でも体現しようと住人全員が眠るなんてことはありえない。それなのに、腐ってもアキバの街の自治組織<円卓会議>が聞き込みをしてもそういった集会をしている連中の目撃証言がないなんておかしい。」

 

 

 ならば彼らはどこにいた?簡単だアキバの外だ。夜中の狩りほど危険なものはない。けれどレベル差が大きく開いたプレイヤーにはモンスターは近づいてこない。低レベルのゾーンだったら夜中に狩りをしに来るコアなプレイヤーもいないだろうから。

 そして低レベルなゾーンで拠点としても使えるアキバ近辺のゾーンは一つしかない。それはアキバの街に隣接する<書庫塔の林>というゾーンただ一つ、らしい。

 

 アキバの街からゲートで移動できる隣接ゾーン。〈神代〉の廃墟を包むように木々が立ち並んでおり、比較的小型のモンスターが徘徊すし、古い書店や図書館、研究所の跡地などが散在していて、幾つかのダンジョンゾーンにも繋がっている。

 

 隠れ家にはもってこいの場所だ。

 

 

 

 そして<書庫塔の林>に点在するいくつもの建物の中からクインが目星をつけた建物を回っていき二つ目で今回の主犯を発見した。

 

 

 そして、発見と同時に真っ白なケーキなんて生易しいものではなく殺気の籠った攻撃を向けられた。

 間一髪にも<ダメージ遮断呪文>が間に合い開始そうそうの不利を逃れることができた。

 近衛兵が数人いたりするであろうこともわかっていた。だからワンパーティー信頼できる人たちに無理を言って出てきてもらった。俺、クイン、ござる、櫛八玉、ゆずこ、リチョウの六人パーティーだ。

 しかし、どうにも相手側の様子がおかしかった。

 目に生気がなく全員が亡霊のように何かうわ言を嘆くだけなのだ。ただ一人はっきりと喋る男は一方的に

 

 

「我々は『愛』に生きるべからず、『哀』に生きるべきである。拒め、拒絶せよ、我らと奴らは異なるものだ」

 

 

 そう言い張り、淡々と言葉を続けて一切こちらの話が通じず一方的に攻撃をくわえてきた。メンバー全員が戸惑いつつも応戦するが近衛兵の力が想像以上に強かった。まるで何重にもパフをかけまわしたような状態が常時続いていたのだ。少しずつ少しずつ押されていき撤退を考え始めたところで、

 

 クインが指示を飛ばした。

 

 やつの言葉を聞かせるなと

 

 言われるがままに<黄金領域で>近衛兵を全員囲い隔絶し<扇動の典災 エロリーダ>からの言葉を遮ってやると、糸が切れた人形のように倒れふした。

そこからは一方的なワンサイドゲームだった。拒め、拒絶せよ、と最後まで言葉を紡ぐことを止めはしなかったが、クインの

 

 

「黙れ」

 

 

 一言と、共に放たれた<インフィニティフォース>、<メイジハウリング>で限界まで強化された<マインドショック>を受けて落魄の光を残して宙へと溶けた。

 

 

 

 これが今回の事件の一切のあらましになる。

 ちなみに、<大規模戦闘>(レギオンレイド)に参加した一時の感情に飲まれてしまった<冒険者>、大地人共にエルノの提案に乗る形で同じ罰が与えられる予定だそうだ。

 

 

『ハーレムギルド<西風の旅団>のソウジロウと女の子たちが楽しくデートする様子を目を逸らさず耳を塞がず一日見学し続けること』

 

 

 明日は男たちの虚しい悲鳴がどこからか聞こえてきそうな一日になりそうである。

 

 




 



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