ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第三十三話 ワレワレハ リアジュウヲ ユルサナイ<中編>

「つまり、今アキバ中にカップルに対して嫉妬狂ったお前らみたいなのが<大規模戦闘>(レギオンレイド)単位の組織で動いている、と」

 

「はい。そうです。私はちり紙になりたいです」

 

 

 三バカへの一通りの調教を終えた奏は店のカウンターに胡座をかいて座り正座をして奏を見上げる三馬鹿に対して事情聴取を行っている最中だった。

 

 ちなみに三バカにやられたカズくんは無事に蘇生され彼女と一緒に人の波が絶えず蠢く街の中へと繰り出していった。カズくんにはこれ以上の災難が降りかからないように奏から心ばかりの<快癒の祈祷>と幸運上昇の効果がついた鈴がお詫びに贈られた。

 

 話は戻り三バカから得られた情報はなかなかにエキサイティングな内容だった。内容はいたってシンプル。祭りで大量発生するカップル軍団に男のあるべき姿を思い出させるため、もとい私刑を執行するために大知人も<冒険者>も手を取り合い全力でリア充を特製<ポイズンクッキング あの川の先には死んだじいちゃんが!>で祭りの間だけでも血祭りにあげて行動不能にし彼女と微妙な雰囲気にして別れさせよう大作戦。らしい。

 

 

「なんというか、まぁ・・・。

 回りくどくて遠回りしすぎてる辺りがお前らのモテない感じを表してるな」

 

 

 良心を全然捨てきれてねぇじゃん、呆れたようにため息をつく奏

 

 

「理由のくだらなさは置いておいて、実際問題ことの解決は少しめんどくさそうですね」

 

 

 レザリックが眉間のシワを親指と人差し指で揉みながら感想を漏らす。

 

 

「あん?

 んなもんこいつらから親玉の居場所聞き出して締め上げれば一発だろ」

 

「そうもいかねぇんだよアイザックくん」

 

「そうなんですよアイザックくん」

 

「くんづけやめろ!今度は<ソード・オブ・ペインブラック>食らわすぞコラ!」

 

 

 奏とレザリックは二人してアイザックの顔を見ることなくナチュラルにアイザックくん呼びをする。アイザックもそれに反応して怒鳴り返すが二人共ニヨニヨとしてどこ吹く風といった感じだ。

 

 

「さて、ミノリ問題です。なんでアイザックの言ったやり方じゃダメなんでしょうか?」

 

 

 カラン、と高下駄を鳴らしてカウンターから飛び降りて立ち上がった奏はくるりと回ってソファーに座ってことの行く末を見守っていたミノリにたいして話題を振る。ミノリはいきなり話題を振られたことに少し驚きつつも少し考える素振りを見せた後に、

 

 

「・・・今回の祭りのために集まった寄せ集めのチームじゃ、いきなりトップを抑えると指揮系統が混乱して制御が効かなくなるから、でしょうか」

 

 

「いや、ちげぇな。それだけだったら俺たちのことを隠させたうえで指示を飛ばさせればいい」

 

 

 ミノリの答えにアイザックが否定の言葉を入れる。

 

 

 脳筋ギルドなどと言われてはいてもサーバートップクラスのレイドギルドのギルマスであるアイザック。ただの戦闘バカなわけがない。とびっきり腕が立つ連中が集まった程度で攻略できるほどハイエンドの<大規模戦闘>(レイド)は甘くはない。

 

 

 奏もアイザックの言葉に頷き答えを話し出す。

 

 

「アイザックの言う通りだな。間違えちゃいないけど正解じゃない。問題はこのレイドチームが()()()()()()()()()()()になってることにある」

 

 

「そうか、念話ですね」

 

「正解。付け加えるとすれば大知人には俺たちからの直接制裁が加えにくいこともあるけどな」

 

 

 大地人には<冒険者>が当たり前に持ち合わせている特殊は魔法や技能がない。念話しかり復活機能しかり、言語翻訳機能しかり、<冒険者>にとっては当たり前のゲームとしてのサービスも大地人からしてみればそれは神から授かった偉大なる加護や恩恵であるのだ。

 

 つい先日大地人から<冒険者>へと成ったルンデルハウスもその技能や恩恵にたいして驚愕の声を上げていた。<冒険者>にはここまでの神からの恩恵が与えられていたのか。なんとも僕にはまだ分不相応な気がしてならない、と。

 そして大地人に対しては<冒険者>の自治組織<円卓会議>の影響力は<冒険者>に比べて小さい。<冒険者>であればギルド会館の使用を禁止することができる。しかし大地人にたいしては直接的な制裁の手段がない。注意勧告や厳重注意はできても罰を与えることができないのだ。大地人には大地人の社会が、<冒険者>には<冒険者>の社会が形成されている。

 お互いに隣人として協力はし合っているが罰を与えることができるほどに深い干渉をすることはできないのだ。お互いに影響を与えることはできても干渉をすることはできない、そういった関係だ。

 

 

「まだ、エルノは目を覚まさないか?」

 

「はい、まだ真っ青な顔をして隣の部屋で寝込んでいます」

 

 

 だからこそ、大地人側の権力者、貴族であるエルノの力が有効に作用するのだが・・・、思わぬ伏兵によりエルノは行動不能状態に陥っていた。

 <冒険者>であるカズくんに比べて大地人のエルノはレベルや耐性が圧倒的に低い。その分回復に時間がかかるのだった。

 

 

「誰かさんが、余計なことしなけりゃすぐにでも行動にうつせたんだがな~」

 

 

「そういえばミノリは確か午後から予定があったんだよな」

 

「・・・はい。ちょっとケーキバイキングに」

 

「ミノリ、やめてくれ!そんな優しそうに笑いながら俺を見るのは!恥ずかしくなってきた。」

 

 

 最近目まぐるしい速度での成長を奏に感じさせるミノリはついに大人ぶっている奏に精神的恥ずかしめを与えられるほどに気を回せるようになってきていた。

 その慈愛に満ちた眼差しはいつぞやに直継と話していた奏の大人ぶっている化けの皮を見事に引っぺがすことに成功していた。

 

 

「とりあえずアイザックとレザリックさんはクラスティの野郎に話を通して街の警備にあたってもらっていいですかね。

 俺は三佐さんに三バカを引き渡してきます。

 リ=ガンさんはここに残ってお留守番でウチの妹を手伝いにこさせるんでアイテムの売買だけお願いします。加護付与希望のお客様には整理券を配って明日また出直していただくようにしてください。整理券がなにかについてはうちの妹に話せば作ってくれるはずなんでそんなキラキラした目で俺を見ないでください。あとエルノが起きたら連絡ください」

 

 

「あの、私は何をしたらいいですか?」

 

 ミノリがしずしずと手を上げて奏に自分の役割を尋ねる。すると奏はニンマリと笑って、

 

 

「ミノリンのお仕事はなし!めんどくさいことはお兄さんたちに任せて祭りを楽しんできな。せっかくの(シロエとの)ケーキバイキング(デート)だろ」

 

 

 ミノリが自分やシロエの悪評を改善しようと色々と気を回していたことに奏は気づいていた。ミノリの気遣いは心から嬉しい。でも、奏の噂はまさに身から出た錆でしかなく、シロエの噂もシロエ本人がわざと狙って流したままにしていると奏は知っている。

 そんな大人の都合にまだ中学生のミノリにまで気を揉ませてしまっていたことが奏は恥ずかしかった。

 だから、せめても年相応に楽しいことを満喫させてあげたいと思うのだ。面倒事や挫折することはくるべき時がきたら必ず来る。成長だって気づいたら勝手にしてることなんてざらだ。

 でも楽しいことは自分から望まないと出会うことはできない。だから、不甲斐ない先生たちの勝手な都合のせいでミノリがその機会を失うなんて申し訳がたたなさすぎる。

 

 

「え、でも・・・こんな事態ですし」

 

「いいのいいの。じゃ、俺はさくっとコイツラを引き渡してくるよ」

 

 

 しぶるミノリの背中をグイグイと押しながら店の扉を押し開けて店をミノリと一緒に出た奏はしゅばっと手を挙げ、いつぞやのプラカードを首から下げた三バカを引きずって高山女史の待つ<D.D.D>の駐屯所へと出向くのだった。

 

 

 

 

 

「どうも、この度はご迷惑をおかけしました」

 

「いえいえ、たいした手間じゃないですし。

でも、少しお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

 

「お願いですか?今すぐとなると私に聞けるものであれば、あまり大きなことであれば<ご主人>(ミロード)に確認を取らねばなりませんが」

 

 

「あぁ、そんな大事じゃないですないです。出来ればでいいんですけどこいつらの罰、なくすのは無理にしても軽くしてやってくれませんかね」

 

 

「なぜです?この三人は奏さんの店のお客様に襲いかかったという話ですが、それに彼らは二回目です。子供ではないのですから、重い罰が与えられてしかるべきかと。甘やかせばつけあがりますよ」

 

 

「こいつらと逃げずに出頭すれば俺のお仕置きで済ますと約束しまして。約束はやっぱり守らないと。罰の代わりといったらなんですけど、今日と明日俺の店の手伝いをタダでするってことでどうですか」

 

 

「奏さんがそれで構わないのであればこちらとしては構いませんが・・・」

 

「奏さん!!いえアニキと呼ばせてください!」

 

「うるせぇ、バカども。サボったりしたら問答無用で千菜に<暗黒物質>(ダークマター)にかえさせるからな」

 

「一生ついていきます!」

 

 

 縛られていた縄を解かれた<武闘家>(モンク)が両手を大きく挙げて全身で喜びをアピールしながら奏に感謝の意を伝え、<守護戦士>(ガーディアン)<暗殺者>(アサシン)と一緒になって手をつなぎくるくると小躍りしている。その様子を見ながら奏は、ったく調子のいいやつらだと独白する。

 

 

「意外ですね」

 

「ん?」

 

「奏さんが彼らの擁護をしたことがです。あなたは身内以外には冷血漢でしょう」

 

「ハハッ・・・ひどい言われようだな。否定はしませんけど」

 

「情でも湧きましたか」

 

「ええ、あいつらの雰囲気が俺の好きな小悪党三人組に似てまして」

 

「なるほど、ほんの少しだけわかる気がしますね」

 

 

 現役の保育士というまさに戦場よりも戦場している場所で無尽蔵のスタミナを持つ戦士たちと日々を過ごし続ける高山女史はそこらの知識にも詳しかった。戦場ではどんな知識でも役にたち、また戦士たちからも毎日刺激的な色々なものを与えられる。彼女が<D.D.D>というアキバきっての大規模ギルドで鬼畜メガネの右腕としてやっていけるだけの能力もここに起因している。傍若無人で自由奔放な彼らを相手にするのに比べれば話を聞いてあげてご褒美をあげさえすればなんでも言う通りに動くメンバーたちのフォローなんて簡単なものなのだ。

 

 

「よし、お前ら。さっさと店に行って手伝いしてこい。このボンクラ。真面目に働きゃ飯くらいはおごってやる」

 

「いえっさー!ボス」

 

「便利な手下が手に入りましたね」

 

「計画通り」

 

 

 小躍りしていた三バカを急かして店に向かわせる奏。それに敬礼してから真っ直ぐに駆けていく三バカたち。ものの数分で便利な手下の出来上がりである。

 高山女史もメンバーが半奴隷化されているのにも苦言を呈することもなく、それどころか心なしか面白そうにうっすらと笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

「さて、俺も少し動き出しますかね」

 

 

 奏はこめかみに手を当ててどこか遠くへと視線を飛ばす。それは念話特有の動作で念話の相手はメニュー画面を開かずとも念話を繋げることができるほどに熟練し念話しなれた相手ということ。

 

 

「なにか手を考えていらっしゃるのですか」

 

「いえ、手ってほどじゃないですけど、もうすこし情報が集めるのと、弟子の楽しみを潰させないための手打ちをしとこうかと思って」

 

 

 念話のコール音を聞きながら高山女史の質問に答える。

 

 

「カップルのイチャつきに群がってくるのなら、偽装カップルでだましうちしてしまおうかと、知り合いに甘いもの好きで演技の上手いやつがいるんでそいつ頼もうかと」

 

「甘いもの・・・デート場所にどこかそういったところにでもいくつもりで?」

 

 

「俺の弟子の子が行くのが<ダンステリア>っていうギルドのケーキ屋さんらしくてなんでもケーキバイキングで男女ペアならケーキ8つ食べれば代金無料らしいんで、昼ご飯もまだだったし昼飯ついでにそこら一帯のやつら邪魔できないように一網打尽にして一石三鳥かなと思うんですよ」

 

「ケーキ・・・8つ・・・タダ・・・」

 

 

 奏での話を聞き高山女史がブツブツとなにかを言い始めたところで奏の念話が念話相手と繋がった。奏はそこで高山女史との会話を打ち切り念話相手との会話に意識を移す。

 

 

「ん、もしもし。ああお前に仕事の依頼があるんだ。いやいや、ケーキを食べるだけの簡単なお仕事ですよ」

 

 

 奏は念話相手の会話が終了し交渉がすんだところで念話を切り高山女史へと向き直る。それじゃあ自分は行きますね、と声をかけようとしたところで、

 

 

「奏さん、私とデートをしましょう」

 

 

 いつもの仏頂面の鉄面皮で声のトーンも変えることなく目をキラキラと子供のように輝かせてそう言う高山女史のお願いを奏は断ることはできなかった。少しばかり他人には見えないものが見える彼の目にはうきうきと元気に跳ね回る魂魄が見えていたりしたのかもしれないと思うと彼が断ることは絶対にできなかったと誰にでも納得できることだろう。

 

 

                        

 

 

「で、こういうことになったというわけか、ば奏」

 

 

 目の前に広がるのは綺麗な円形のホールケーキ

 まん丸とした満月のようなこれを切り分けれて八等分にでもすれば見覚えのある三角形になってくれるのだろうが、そのホールケーキが奏たちの目の前には合計()()()

 もちろんそんな大きなホールケーキがカフェの小奇麗なテーブルに全て乗り切るわけもなく場所をとってしまうのだろうにご丁寧に二段型のワゴンがテーブルサイドに鎮座している。

 

 

「いや、なぜこうなった・・・」

 

 

 奏の記憶では一応全てうまくいっていたはずだった。依頼をしたクインと合流し高山女史が同伴している事情を話して一応デートの体をとっているにも関わらず他の女性と一緒にきて済まなかったと依頼する側の態度ではなかったと非礼を詫びた。仕事というスタンスに一家言持ち合わせているクインからしてみれば不誠実極まりないことだと叱責を受ける覚悟をしていた奏だったが、

「でっデートなんてしたことなかったから逆に助かった!」

と情けない言葉を聞いてその気も萎えてしまった。

 そんな気持ちを残しながらも<ダンステリア>へと向かいギルマスの加奈子女史に事情を話して協力を頼み、ルールはそのままで三人分の12個を食べきれなければ代金は払うという条件で了承してもらった。

 そこまではうまくいっていたはずだったのだ。奏としては、

 

 結果がこれである。

 

 目の前に広がるホールケーキの圧倒的物量である。これでは嫉妬に狂った狂戦士たちをおびき出すどころの話ではなくなってしまう。昼ご飯どころか三日はなにも食べなくても過ごせそうなボリュームが目の前には広がっているのだから。

 

 

「お二人とも食べないのですか?とても美味しいですよ」

 

 

奏の左横に席を陣取っている高山女史が右手に持ったフォークでケーキをつつきながら青い顔をして片手に手付かずのフォークを持て余す奏とクインに小首を傾げて尋ねる。

高山女史、そういう問題ではないのだ。それ以前の問題なのだ。クインの顔にはそうありありと書かれていたがそれを口にする気力も今の彼女にはない。

 

 

「カップルの演技をするのならもうすこし楽しそうにしていた方がいいと思いますが・・・なんなら話題を提供しましょうか、ミロードが一ヶ月毎日欠かさずに水を上げていた花が造花だったと気づいたときの話とか」

 

 

「その話はすっげぇ聞きたいけど三佐さん!そういう問題じゃないんだなぁ!目の前のこの惨状をどうにかしないといけないんだなぁ!俺たち!」

 

 

「大丈夫ですよ、お二人とも。ケーキならこれくらい余裕で完食可能です」

 

「クインこの方は女神だ。俺たちの目の前には女神がいらしゃる」

 

「助かった・・・奏これからは三佐教に入門して毎日ケーキをお供えしよう」

 

 

だきっと抱きしめ合って救われたことに感謝する奏とクイン

 

 

 

そしてそれを見据える無数の黒い影

 

 

『隊長、アイツ、殺りましょう』

 

 握り壊さんばかりにギリギリと握り締めた双眼鏡を片手に血走った目をレンズに押し付け続ける男へ念話で憎しみしか込められていない仲間の声が伝えられる。今回の作戦のために繋げたレイド専用のパーティチャットで<冒険者>の仲間たちからの声を男は全て聞くことができる。男は彼らのい気持ちは痛いほどにわかる。だからこそ、

 

 

「ダメだ。まだ待て」

 

『しかし!』

 

 

 彼女いない歴=年齢であり仕事に没頭するが故に既に三十の年をゆうに超え四十の大台を全力で天元突破した彼は魔法使いを超えて賢者への道を極めていた。賢者は魔法を全て極め全知へとなる。だからこそ彼は知っている。感情に身を任せてはいけないと、変態は紳士でなければならないと。

 

「かたぎの方に迷惑をかけてはいけない。我々が殺るのは神の教えを忘れた愚かな男だけだ。気持ちは理解できる。だがここは抑えるんだ」

 

 

 

 全知なる賢者は知っている。

 

 がっつく男は嫌われる、と

 

 童貞はがっつきすぎるから嫌われる。紳士であれ、誰よりも

 

 変態紳士こそが取り残された自分たちが救われる残された道だということを

 

 

 

『隊長おお!!!アイツ!!二人からにじり寄られてあーんをされています!!!!しかも黒髪パッツンの美少女は赤面涙目、クールビューティーの無表情のお姉さんも心なしか顔が赤い気がしなくもないですっつ!!!』

 

 

「この場にいる部隊計24名全員に告げる!<異端者尋問委員会>ギルドマスターDTSの名のもとに命ずる!

 彼奴を殺せぇ!特製<ポイズンクッキング あの川の先には死んだじいちゃんが!>を使う程度ではたりぃん!彼奴には地獄の業火すらも生ぬるいと思えるほどの痛みと苦しみを与えて回復させてもう一度同じ苦しみを与えてから殺してやれえぇぇぇぇ!!!!」

 

 

『隊長!全員がそのつもりです!衛兵のことなぞ忘れて皆が武器を抜いています!一部は自我を失い狂戦士化していま・・・

 ヒャッハー!コロシチャウヨ~コロシチャウヨ~ウヒョォォォォォ!!』

 

 

 念話をしていた男からも正気が失われた。

 賢者DTSもじっとはしていられない。

 獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くす。例え相手が一人であったとしても全力で殺したい。

 その気持ちで賢者DTSの心中はいっぱいだった。それが、賢者の名を持つ彼の冷静さを欠いた。

 

 

「やあ、いらっしゃい。待っていたよ」

 

 

 ニヤリと嫌らしく憎々しいほどに凄惨な笑みを襲いかかった彼らは向けられた。

 狂戦士の何人かが<付与術師>(エンチャンター)の魔法<アストラルバインド>や<ブレインバイス>により膝をつかされ拘束されている。件の青年の両隣には先ほどまで顔を真っ赤にしていた美少女とクールビューティーな女性がそれぞれ武器を構えている。そしてその周りには重厚な鎧を着た騎士や筋骨隆々な美しい肉体を晒す拳士が構えていた。

 その瞬間、賢者は気づいた。我々は嵌められた、としかし彼も伊達や酔狂で賢者になったわけではない。すぐさま思考を切り替え今直面している疑問を自分たちを嵌めたと主犯格と思われる目の前の青年へと問いかける。

 

 

「どうして武器を抜き戦闘をしているのに衛兵が来ないのですか?」

 

「へえ、話のわかりそうな頭の回るやつもいるんだな。簡単だぜ?ここは屋外だけど<ダンステリア>が所有している<ゾーン>だからってだけだ」

 

「戦闘行為可能区域ですか」

 

「事情を話してそうしてもらったよ。

 どうかな、アンタリーダー格だろ?全員投降させる気はない?」

 

 

「笑止。この人数差を覆せるとお思いか?確かに嵌められたことには驚いた。だが見込みが甘かったなこちらの数は24名、そちら君たち三人を合わせてもせいぜい12名そこそこだろう。倍の人数差だ」

 

 

「・・・俺もさぁ<大災害>からいろいろあってもっと力がなくちゃいけないと思うようになったんだよ」

 

 

 青年は突然脈絡もなく身の上話を語りだす。賢者はそれになにかの時間稼ぎかと考えて長杖を抜き臨戦態勢に入り<妖術師>(ソーサラー)の高火力魔法《オーブ・オブ・ラーヴァ》を先手必勝とばかりに解き放つ。深紅と黄金の混ざり合った光を放つ溶岩の砲弾は青年に見間違うことなく着弾する。

 しかし、着弾の光から開放された賢者が見たのは無傷で立つ青年の姿。青年は賢者の攻撃をまるでなかったかのように言葉を続ける。

 

 

「だから、俺の<過保護な加護領域>(オーバーバックアプ・ゾーン)の有効人数を()2《・》人《・》まで増やしてみた。

 レベルも中途半端な倍の人数程度じゃ潰せやしねーよ」

 

 

「お前もしかして<高笑い>か?」

 

「嬉しいね、久しぶりに俺のことを詳しく知ってるやつに会えたよ」

 

 

「やはりそうか、だが引くわけにはいかん。私にも率いる部下たちがいる。

 だが、それ以上に不思議でしょうがない。お前の<茶会>の終期の話を聞く限りはこちら側(憎む側)よりの人間のはずだ」

 

 

「ああ、やっぱちげーわ。お前俺のことをちゃんと知らないやつだ」

 

 

突然として青年の目は心底底冷えするそれへと変わった。その目に込められているとてつもない怒気。この世界に来て一度だけ見たことある<D.D.D>のギルマスクラスティが戦闘中にみせる人を視線で殺せる人間の目だ。

 

 

「かかってこい痴軍のリーダー、お前のその愉快にねじ曲がった認識、俺が愉快に快活に高らかに高笑ってやんよ」

 

 

 賢者はその言葉に反応して射殺さんばかりの怒気を放つ青年へととっておきの魔法を放つ<妖術師>(ソーサラー)のもつ電撃属性の広範囲攻撃魔法<ライトニングネビュラ>それを極限まで範囲を絞込み威力の追求だけを念頭にした賢者だけが放てる独自魔法<インドラの矢>その速度と火力は<ライトニングネビュラ>の約三倍。

 

 

「なぜだ。なぜお前が私たちの邪魔をするのだ。我らはただリア充を撲滅したいだけなのに」

 

 

 紫の閃光が奏を貫こうと光の速度に迫らん勢いでけたたましい音をあげて肉薄する。

 

 だが、それすらも<高笑い>の奏の前では先ほどの<オーブ・オブ・ラーヴァ>と同じように防がれた。否、賢者は気づいた。<インドラの矢>が奏に触れる直前になにかに阻まれたことを

 そしてれに気づいたときにはもう遅かった。賢者の目の前に奏が一瞬にして現れたからだ。

仄かに梅の香りが賢者の鼻をついた。

 

(っ<飛び梅の術>か・・・)

 

 

「気づけよ。お前らのその思考そのものが迷惑でモテない原因なんだって」

 

 

「・・・ごもっともで」

 

 

そして奏にはそう告げられ切り捨てられた。そこから賢者の記憶はなくなっている。

 

 

 

 

 

そこからものの十数分後・・・

 

 

「む、奏ではないか。どうしてこのようなところにいるのだ?」

 

「やあアカツキちゃん、その格好すごく似合ってるね」

 

「むぅ、そんな真っ直ぐに褒めるな小恥かしい・・・」

 

(「シロエに言われた)(方が嬉しいもんねー」)

 

「な!?そっそんなことなっないぞ」

 

 

口をパクパクさせて赤面探偵クインに負けないほどに耳まで真っ赤にして首をブンブン振るアカツキ。大方奏の言われるがままに想像してしまったのだろう。過剰に褒め倒すシロエとそれを聞く自分の姿を

 

 

「奏さん!?なんでこんなところにいらっしゃるんですか?まさかここら辺にあの人たちの仲間が!?」

 

「違う違う。捜査の前に飯を食いに来てただけだよ。後ろのこいつの依頼の報酬前払いも踏まえてね」

 

 

「久しぶりだな、双子ちゃんの姉の方、ミノリちゃんだったか。奏のセクハラに耐えられなくなったらいつでもウチに来るのだぞ?被害者の会は全力で君の味方をするから」

 

 

「被害者の会なんてねーよ。この赤面探偵が」

 

 

クインの言葉に苦笑いして言葉を濁すミノリ。この被害者の会は本当は存在していることを知っているミノリは苦笑いしかしようがないのだ。

 

 

「それならいいんですけど」

 

 

「よう、シロエ。お前デートなんだからもうすこしカッコつけろよ」

 

「年中カッコつけようとして大事なところで失敗する奏だけには言われたくないかな」

 

「む・・・」

 

 

思い当たる節が忘れられいほどにある奏は黙らされてしまう。

 

 

(「アカツキちゃんの和装は)(<和服屋小町>っていうところ)(のオーダーメイド品だ。)(綺麗な藤染めだから)(ちゃんと褒めてあげろよ」)

 

(「それとミノリンがつけてる髪留め)(アレはミノリンが初めてクエストで)(手に入れた髪留めだ。)(これもちゃんと褒めてあげろ」)

 

(「・・・ありがとう奏」)

 

 

 

「ここのケーキすごく美味しかったから期待してもいいと思うぜ」

 

「ああ、とても美味だった」

 

「本当ですか!楽しみですね!わくわくですね!」

 

「期待させられるな主君!」

 

「うん、そうだね」

 

「じゃ、お三方()()()()

 

「?」

 

 

 そういって奏とクインは去っていった。奏がなぜ最後に頑張れなんてこんなお洒落なカフェを前にして言うのか疑問だった三人だったが、その意味をケーキが運ばれてきたと同時に知ることになる。

 ちなみにシロエたちのくる少し前に山のように鎮座したケーキを一人で食し代金をタダにして満足気に帰っていった女性が店員の話によると一人いたそうだ。

 

 

 


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