ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~ 作:となりのせとろ
ミノリはやるせない気持ちでいた。
悩みの種はミノリにとっての二人の先生のこと。
一人はミノリの所属するギルド
もう一人はシロエの友人でミノリと同じ十二職業
この二人のことで最近、様々な体験をしたことで周囲の同世代よりも若干大人びた雰囲気を感じさせるようになったミノリは悩んでいる。
二人の先生の指導に何か不満があるわけではない。
むしろミノリがまだ<エルダーテイル>を始める前から活動しその上<放蕩者の茶会>という伝説的プレイヤー集団に所属していたトッププレイヤー二人から初心者のうちから指導してもらえるなんて英才教育普通の初心者は受けることはできない至れり尽くせりの環境だとミノリ重々と承知していた。
そして、シロエは<円卓会議>の委員の一席という大役をこなしながらできる限りミノリの助けになろうとしてくれていたし、奏も自分の所属するギルドでもないミノリに惜しげもなく彼の今までの経験談や培ってきた
では、ミノリにとって何が悩みの種なのか、
それは、奏のミノリン呼びに始まる度重なるセクハラ言動...。
ではなく、二人の街の住人たちからのあらぬ誤解である噂であった。
先の<ゴブリン王の帰還>を根底に据えるザントリーフへの数万のゴブリン軍の襲来があった。
その事件は、当時、時を同じくしてチョウシの町の防衛にあたっていたミノリは人伝ての話ではあるがレイネシア姫という大知人のお姫様が自らアキバの街まで出向きアキバの街の<冒険者>へと助力を頼み彼女の真摯さに心を動かされた志願の<冒険者>たちにより未だゴブリンの殲滅活動は続いているものの事態は一旦の収束をえた。
問題は、その後の<円卓会議>と<自由都市同盟イースタル>の友好条約締結を祝う晩餐会でのことだった。
チョウシの街の防衛戦にも参加し<円卓会議>の参加ギルド<記録の地平線>の一員でもあるミノリはその晩餐会に参加することができた。
ヘンリエッタが用意してくれた橙色のドレスに向日葵の髪留めで精一杯のおめかしをして参加した晩餐会は普通階級の家庭で育ったミノリにはあちらの世界では一生経験できなさそうな舞台で緊張も少ししたがとても楽しかったことを覚えている。
けれど、そこでミノリは耳にしてしまったのだ。
「なんだかあのシロエってやつ怪しいよな」
「ああいう奴っているよな。裏でコソコソとやってそうな奴」
「なんだか目つき悪いしなに考えてるかわからないし」
そんな風に話している参加者の話をたまたま聞いてしまった。
本当は優しくてとてもいい人なのに、あまり表へ出たがらない性分のシロエは鋭い目つきも手伝ってしまってあらぬ誤解をうけてしまっている。
奏の方も同じような感じだった。ある日街を歩いているとこんな噂を耳にした。
「<三日月同盟>の奏は真昼間からイヌミミとシッポをつけた女の子を路地裏に連れ込んでいる」
「<シルバーソード>に気に入らないからといちゃもんつけて喧嘩を売った」
「<D.D.D>のギルドキャッスルの前で<D.D.D>のメンバー三人を人質にとったうえに幹部をバカにしまくって無傷で帰還した」
とか、きっと何か間違って話に尾ひれ背ひれがついてしまったんだろう。
奏から<茶会>の頃の武勇伝を聞いているミノリとしてはそうと思わざる負えなかった。元々いろんな本当か嘘かもわからない噂が絶えなかった奏なのでそれも手伝っているのだろうとミノリは考えていた。
その証拠に奏本人に話を聞いたところ苦虫を噛み潰したような顔で
「ミノリン、人の噂も七十五日って言ってな。ほっときゃ勝手に聞かなくなるよ」
と言っていた。
こういう根も葉もない噂には慣れているんだろうなとミノリ密かに感心し改めて奏がすごい人物なのだと再認識したものである。
とにもかくにも、二人共いい人なのにこんな不当な扱いを受けるなんておかしい、そう思ったミノリはこの天秤祭をうまく活用して二人のイメージアップをしてみせようと考えたのだった。
幸いにもあてはすぐに見つかった。
奏は昔やっていた店を天秤祭限定で復活させるらしく、そこが繁盛してたくさんのお客さんが来てくれれば直接奏と話すことで奏に対する妙な噂が過度なものであるとわかってもらえるはずだ。
そして、シロエの方はケーキバイキングに一緒にいってもらえることになった。もちろん目当てはケーキだけではない。ケーキも目的の一つではあるのだけど。このケーキバイキングは予選で優勝するとレイネシア姫主催の大夕餐会のチケットがもらえるのだ。
夕餐会には<アキバ新聞>や<アキバdays>の取材も来ると聞くので、もしかすると...
そんなわけで、ミノリの天秤祭一日目。
まずは奏の店<陰陽屋>のお手伝いから始まった。
「いやー助かるわミノリン。具体的にはそこの男どもの十倍たすかるわー」
「いえ、そんなことないですよ。お二人とも接客から品出しまでしてもらってますし」
「失礼なヤツだな。君ってヤツは。まず観光に来た貴族に店の手伝いさせるバカがどこにいるんだい」
「実用性のない友情ならそんなもん、引き裂いてペースト状にして焼いて食っちまえ」
「それには同意しかねるのだがね!?」
「私としましては奏様の<陰陽師>の魔法が見れるだけで何を言われようと構いませぇん」
「ほら、リ=ガンさん見習ってせかせか働けよ。あとミノリンに手ぇ出したらお前でも吊し上げにするからな」
奏の<陰陽屋>の準備のために朝早くに出てきてミノリがまずはじめに見たのは簡易店舗の中で汗水たらして準備を進めている奏と見知らぬ男性二人だった。
小柄な体躯にシワがよってヨレヨレなローブを着た中年くらいの男性はリ=ガンと名乗った。なんでも魔法学者であるらしく奏の魔法を観察するためにわざわざ<エターナルアイスの古宮廷>から出張ってきたらしい。
もうひとりの奏と年もたいして変わらなそうな男はエルノ=コーウェンと名乗った。なんと彼は<自由都市同盟イースタル>の筆頭領主セルジアット=コーウェンの養子であるそうだ。いつかに会った時とは違いエルノの身分を知ってしまったミノリは失礼の無いようにとガチガチになりながらも挨拶をしたところ、
「今回は奏の友人としてこの店の手伝いをさせられてるからそんなに気を使わなくていいよ」
と言われた。ニコリと笑う笑顔はどことなく奏のそれと似ていると思った。
妹がミノリと同年代らしくお兄ちゃんと呼んでくれても構わないと言って頭を撫でられそうになったミノリだったが奏の助走付きのドロップキックにより目の前でエルノがふきとび阻止される光景には驚かされた。
けれど、二人共とてもいい人だった。
なんでも奏が<エターナルアイスの古宮廷>にいる間お世話になったのがこの二人だったらしい。
そして助っ人の加入もあったことでミノリが来た時にはもうほとんど準備も終わっていて、あとは店を開店するだけとなっていた。
ミノリも奏の役に立つように頑張らねばと気合を入れ直し、奏から手渡された鮮やかな瑠璃色とそれに映える真っ白な割烹着に身を包んで奏の手伝いを始めたのだった。
「ミノリンが
「それにしてもいろんなお客さんがいらっしゃいますね」
<海洋機構>の特性武器の店の隣にこじんまりとだが陣取っているとはいってもいろんな人種の人が<陰陽屋>をまだ店を開店して間もないというのに訪れていた。
レベル90などの高レベルプレイヤーが割合としては多いがそれ以外の人種もたくさんいるのだ。大手のギルドタグをつけたプレイヤーがいたりする中を私服のデート中と見えるカップルが店内にあるあらかじめ加護を付与したお守りや小物を見ているし、ミノリと同程度か少し上くらいの中堅プレイヤーも棚に飾ってある武器を見ていたりする。店内はなかなかにカオスな光景なのである。
「ミチタカさんに貸し店舗を借りて正解だったな。もう少し広い所を要求しても良かったかもしれん」
「ここでももの凄く広いと思いますよ」
「まあこれもミノリンのイラスト付きのチラシの効果も結構あると思うよ」
「えへへ~そんなことないですよ~」
「いやいや、マジマジ。あんな斬新なチラシは俺生まれて初めて見たよ......まじで」
「草くえ!」と言い放つキリンのような生物が描かれ丁寧に伝えたい内容がまとめられたチラシを渡された時の奏の心境といったらもう何も言えないものだった。
「草くえ!」と言い放つキリンのような生物ととても丁寧でかつ素晴らしまとまりをみせる魅力的な言葉たちの組み合わせの破壊力はいつもペラペラと言葉を吐き出す奏さえも黙らせるものがあった。
ミノリを猫可愛がりする奏はミノリの意外な残念さに心を痛めながらも、「いや、これはこれでアリだ...タブン」と自分を納得させせっかくミノリが作ってきてくれたんだと隣の<海洋機構>の店や<クレセントムーン>の壁にチラシを貼ってきたのだった。
今もそのチラシが貼られる場所は、街を遊んで回っている千菜とおやっさん、おばさん、ウィルの一行により広がっていっている。
「でも、流石にこれ以上広いのは持て余しちゃうんじゃ...」
「いや、来るんだよ幅を取る連中が。
ほら、噂してたらやって来た」
作業を止めずに手を動かしながらドアの方に目をやる奏。
つられてミノリも視線をドアの方にやるとドアが開かれ入店を知らせる風鈴のすんだ音が店内に響く。
「よお、<高笑い>来てやったぞ」
その男の名前は<黒剣>のアイザック。
<記録の地平線>、<三日月同盟>と並ぶ<円卓会議>参加ギルド<黒剣騎士団>のギルドマスター。
アキバでも有数の戦闘系ギルドのギルマスらしくその立ち姿はそこにいるだけで空気が引き締まるようだった。真っ赤なツンツンとした髪に特徴的な鋭い突起が目立つ漆黒の鎧も相まりこわもての容姿に拍車をかけている。
アイザックは堂々とした様子で店内に入ろうとしたところで、
ガンっ!
鎧の鋭い突起がドアの縁へとぶつかり入店を拒否された。
ダメだ。今笑ったら確実に殺される。
みんなの心の声が重なった。
アイザックは表情を変えることなく寧ろさっきより怖さが心なしかましたような顔で体を横にして無事入店した。
そこに奏はいつの間に手元の仕事を済ませたのか立ち上がりアイザックに近づいていくと、
「お客様、ドアへの直接攻撃はおやめください」
「ぶっころすぞテメェ!」
「ブフゥっ!」
奏とアイザックのやり取りに我慢の限界に達した客のカップルの男の方が吹き出してしまった。
アイザックは男の方をギロリと一瞥するだけして奏へと向きなおる。小物の態度にいちいち腹をたてて絡んでいては大手のギルドマスターとしてやっていけないのだ。
「おい、<高笑い>俺の装備に加護付与をさせてやる。素材アイテムは持ち込みだ。感謝しろよ」
「してください。お願いします、だろ。開放ドア激突よろ痛い痛い痛い!めり込むっ!指が眉間にめり込むっ!レザリックさん助けてっ!」
うざい話ではあるがそれなりの奴相手には舐められないようきちんと対応する必要があるが
「ふう、死ぬかと思った」
宙吊りにされるような形で片手でアイアンクローを決められていた奏は後ろに控ええていたレザリックの援護もありなんとか開放されて加護付与の準備へと店の奥へと引っ込んでいった。
アイザックとレザリックはエルノに待合室へと案内されアイザックはソファーへどかりと座り込みレザリックは反対側へと座った。ミノリは来客用のお茶を魔法瓶から湯呑みへと注いで待合室へと運んだ。エルノとアイザックらも面識があったらしくなにかを喋っていたがミノリが来ると接客をしなければと戻っていった。
ミノリがアイザック、レザリックへとお茶とお茶菓子を出しているとアイザックがジロリとミノリのことを見て一声かけてきた。
「お前腹黒んところのメンバーだよな。〈三日月〉と腹黒のギルドは仲が良いみてーだけど、大変だな。あんな奴の手伝いなんてさせられて」
「こら、アイザック君失礼じゃないですか。すみませんね。アイザック君は言葉をオブラートに包むことが極端に出来なくて」
「いえ、そんなことないです。奏さんは私の師匠ですから」
アイザックの悪く言えば威圧感のあるよく言えば男らしいざっくばらんな口調にニッコリと向日葵のような笑顔で対応するミノリ。
レザリックは堂々とした立ち振舞いに感心し、アイザックは「あのヤローのムカつかねー方の笑顔に似てるな」と心の中で呟いた。やはり師弟関係なにかと似ていくこともあるのだろう。シロエのギルドのメンバーということもあってとんでもない曲者になったりしないかと末恐ろしく感じるアイザックだった。
店の奥の方からリ=ガンの「ふおおー!」という興奮したような声が聞こえてきたのでもうすぐ奏の仕事も終わるだろうとミノリは辺りを付ける。
「もうすぐ終わると思いますからもう少しだけ待っていてください。合図が聞こえてきましたから」
「……今のおっさんの声がか?」
「はい!」
またまた向日葵のような笑顔で対応するミノリ
(もう結構アイツに毒されちまってるな…)
「ああ~そのなんだ、色々大変かも知れないけどなんとか頑張れよ。なんか面倒なことになったらウチに来い。そこのやつがなんか力になってくれるだろうからよ」
「私に丸投げですか」
「?ありがとうございます」
アイザックの心配が伝わっているのかいないのか首をコテンと軽く傾けつつもお礼を言うミノリ。
そんなやり取りをしていると大きな漆黒の剣を片手で肩に担いだ奏が待合室へと入ってきた。加護付与が終わったばかりなのもあってか気だるげに目を半眼にして首をコキコキと鳴らしている。
「ほれアイザック。完璧に要望どうりに仕上げてやったぞ。気に入らなかったりしたら一ヶ月後に持って来い。一回だけならやり直してやる」
「いや、十分だ。...ん。おいなんか柄のところの変わってんじゃねか?」
「サービスだ。<朱雀血濡れの包帯>自動回復効果が付くようになってる。いらないなら返せ。もったいないから」
アイザックの二つ名の由来となった由縁
加護付与により心なしかその刀身の艶が増したように感じるそれには柄の部分に深紅の帯が巻かれていた。
<陰陽師>の中でも高レベルの召喚獣<南皇 朱雀>より採集できる血涙を霊験あらかたな包帯に染み込ませて作った制作級の
「なんだ気味わりぃな。お前がただでこんなもん寄越すなんて」
「ミノリの味方になってくれた礼だ。ついでに弟の方の味方にもなってやってくれると助かる」
近々、アキバの街を離れてミナミへと姉を探しに出ようと考えている奏は自分がいない間のフォローをできる存在が嬉しかった。色んなところへ根回しは既に始めてはいたが<黒剣騎士団>レベルとなるとかなり嬉しい。
自分はともかく
「...貰っといてやる。レザリック帰るぞ」
奏の一瞬だけ見せた覚悟の顔を見逃さなかったアイザックはその鋭い眼光で奏を一瞥するとすっと立ち上がりレザリックへ帰る意思表示を示した。
そのときだった。
甲高い女性の悲鳴が店の入口の方から聞こえてきた。こういったとっさの事態にこの世界にきて奇襲やなにやらで慣れてしまっていた、奏、アイザック、レザリックら高レベル組はすぐさまドアを押し開きカウンターを踏み越えて店の外へと飛び出した。後を追うようにミノリも三人の後ろを駆けてくる。
店を出たすぐそこには一人の男が何か白い固形物を身体中にまとわりつけながら倒れふしておりその傍らには女性が座り込んで必死に男性を揺さぶっている。
彼らはアイザックが入店した時に店内にいたカップルのようだった
「カズくん!カズくん!しっかりして!」
「おいどうした!」
「店を出たらいきなりカズくんにこの白いケーキがをにぶつけられて」
「は?ケーキ?」
「おい、奏どうしたのかね?いきなり店から飛び出したりして」
遅ばせながら奏たちがいきなり飛び出して行ったのを見て店からエルノが出てきた。
奏はそれを見やるとカズくんに付着していたケーキ?をひとかけらとると
「エルノ、形は崩れてしまってるけどケーキだ。貴族のお前の意見を聞きたい」
「おいおい、いきなりなんなんだ。いくら私でもそこまで妖しいものは口にする気には...」
「ミノリ、あーんをして差し上げてやってくれ」
「えっあ、はい」
「是非いただこう」
この男奏のそっくりさんと言われるだけあって大概な変態である。
「ふむ、じっとりとざらざらとした舌触りにネバネバとした食感、歯に挟まる意味不明な物体とケーキとは思えないほどの辛さと苦味のコントラストがゴバっ!!」
バタリと倒れるエルノ。その目は奏の方へと向けこう語りかけてきた。ハメやがったな、と
「うん、食レポ乙。ミノリこのバカに<大祓えの祝詞>かけてやって」
「どうやらこのケーキ?が原因でよさそうだな」
「そのようですね<バステ>の嵐ですよ。そのうえダメージが入らないものが何個も重複してるあたりかなり悪質なものです」
アイザックとレザリックは淡々と状況分析を行っていた。
これはこの世界にきて特殊な状況に慣れてしまっているからであって決して奏のこういった行動を見慣れているからではない。
「おら、カズくんもどってこ~い。かわいい彼女が心配してるぞ~」
奏はカズくんの方にも自ら<大祓えの祝詞>をかけてやりいくつにも重複するバッドステータスを取り除いてやっていた。
せっかくの祭りで彼女とのデートだったというのに大手の強面の大男には睨まれるは突然劇薬入のケーキを顔面に叩きつけられてぶっ倒れるは不運な男であるカズくん。
「全く、どこのどいつだ。こんなくだらねえことしやがったのは」
そこに突如として野太い男の声が響いてきた。
「どこのどいつと聞かれたら」
「答えてやるのが世のなさ...」
「犯人はお前らだったか三バカ」
「人様の口上を途中で邪魔するなんてお前なんてやつだ!」
「お前それでも日本人か!」
「というか誰が三バカだ!...てあれ?お前は、いや、あなた様は...」
「よう、久しぶりだな。三バカ」
三バカと呼ばれた三人組は戦々恐々とした顔で後ずさりした。
この
<D.D.D>の厳しい訓練に音を上げアサクサの街へと逃げ出してきたこの三人はば<冒険者>の立場を利用して大知人の子供相手に恐喝まがいのことをし、その場に駆けつけた奏と千菜にも脱走兵の分際で<D.D.D>の名の威を借りて脅して見せた。
それだけでは飽き足らず千菜に手を出そうなどという発言をしてしまったために奏をブチギレさせ危うく<冒険者>初の等身大
「わざわざ名乗り出てくるなんて感心じゃねーか、言っとくけど逃げ切れると思うなよ。
ここには<黒剣騎士団>の筋肉ダルマのボスがいる。もし逃げれば街中の筋肉ダルマに追い掛け回され挙句の果てには三佐さん及びリーゼちゃんの交代制十二時間耐久お説教コースプラスクラスティ同行訓練コースが待ち構えている。
地獄しか待ち構えてねえぞ」
「投降すれば助かるでしょうか?」
賢明な判断だった。
恐る恐る奏に震えた声で三人を代表して
「命だけは助けてやるよ。もちろん徹底的にOSIOKIはするけどな」
身の毛もよだち血の気も引くような爽やかな笑顔でただそう答えるだけの奏。
人の心情を魂魄から察することができる彼にとって人の嫌がることをさせれば天下一品なのだ。それに加えて元から結構な性格が悪い。優しいのは身内だけだ。
「R-18だからミノリさんは私とあちらに行っておきましょう」
そんなレザリックの無情な一言が三バカの耳にはかろうじて届いたときのその顔はハイライトが目から消えまるでレイドランクのボスへ単身で挑まざる負えなくなったような顔だった。
「いいいぃやややあああああぁぁ」
その日アキバの街では聞くことの珍しい悲鳴が三つもこだましたとか、そしてサディスティックな高笑いも負けず響いた。
結局、ミノリの思惑は儚く失敗に終わってしまったのかもしれない。