ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第二十九話 姫様の悩み事

 最近、兄さんの様子がおかしい。

 朝、起こしに来るのが遅かったり、いつもより狩りから帰ってくるのが遅かったり、むさ苦しい男臭い臭いで帰ってきたり〈D.D.D〉に遊びに行ったり、女の子の甘い匂いがついて帰ってきたり、なにかがおかしい。

 今日も朝ご飯の時にじーっと見つめていたら目を剃らされたし、食べ終わったと思ったらヘンリエッタさんと一緒にさっさと出掛けていってしまった。なにか隠してる、兄さんは隠し事がへたくそだからすぐわかる。

 クインに相談してみようかな。

 

 ◇◆◇◆

 

 

「クイン、兄さんがなにか私に隠し事してると思うの」

「うむ、話は聞いてやるからまずはその手に持ってるイヌミミをしまえ」

 

「それでさ、私としたらどうしたらいいのかなーと思ってさ」

 

「おい、やめろ。変なところを触るんじゃない…、んっ、ちょっ…」

 

「兄さんが隠してるとしたら完璧に私のためっていうのはわかるんだけどさー、ちょっと今回はいつもと毛色が違う気がするんだよね」

 

「やめて、くすぐったい…」

「なんていうか、危険な雰囲気がするの」

 

「今は私があぶな、んっ…」

 

「えっ、なにそのシッポ、どうするのそれっ?」

 

「ねえ?ちゃんと聞いてる?」

 

「ハァ…ハァ…、しらんわ、ばか」

 

「だらしないなぁ」

 

 ぐったりと汗だくになりながら私の方に倒れこむクインを支えてやる。まったく、なさけないな。

 探偵ならこのくらいで音をあげちゃダメじゃん。

 

 

 ─閑話休題─

 

 

「それでさ、次はこの服着て欲しいな

「それはもう服なんて呼べるものじゃないぞっ!?下着だ!それは下着というんだ!」

 

「水着と同じようなもんじゃん」

「水着でもそんな面積の少ないのは着たことはないわ!

 もうっ付き合ってられん!三十六計逃げるにしかずだ!」

 

「ふふっふ、()から逃げられると思っているのかしら」

 

 部屋から飛び出して逃げ出すクインを追いかける。

 片手には〈アダルティなエプロン〉をもう片方の手には〈アダルティな○○(見せられないよ)〉を持ってだ。

絶対に逃がさないわよ。

 きせかえ人形にしたあとはしこたま〈記録結晶〉で写真撮って、そのあと美味しくいただくんだから

 

「うふふふっ、クインちゃ~ん、まちなさあ~い」

 

「嫌だあぁ~~!」

 

 魔法攻撃職の〈付与術師〉(エンチャンター)であるアナタが戦士職の〈武士〉(サムライ)の姫から逃げ切れるわけがないでしょうに。

 いい加減あきらめて姫に❪ぴーー❫(自主規制)されて❪バキューン❫(閲覧禁止)して❪あっはーん❫(年齢制限)されればいいのに。

 

 少しずつ少しずつクインとの距離が縮まっていく、本気で走ってしまうと床を踏み抜いてしまいそうだから本気で走れなくて歯がゆいけれどもうクインを捕まえるのも時間の問題だろう。

 

 そんなところでクインは突き当たりの部屋へと飛び込んだ。もう袋のネズミね。

 ミニーちゃん……ふふふっ、楽しみが増えたわ。

 

 ドアを勢いよく開けると子猫ちゃん、いや、子犬ちゃんはいた。

 そしてマイクロフトさんも、なんと渦中の人である兄さんもいた。いつの間に来たのかしら

 

「かなでっ助けてっ!千菜がいじめるぅ」

 

 涙目になって若干言葉づかいが後退してしまっているクインが兄さんの背中へと隠れる。なにあの小動物めっちゃカワイイ。

 

「クイン……あのさぁ」

 

 兄さんが背中に隠れるクインをじーっと見て優しく言葉をかける。なんだかんだで仲がいいんだからあの二人。

 

 

「お前、いくら胸がコンプレックスだからってわざわざ〈外観再決定ポーション〉まで使うなよ、しかもほんの少しだけ盛る程度で」

 

 何を言ってるのよ、ウチのバカ兄は

 

「私だって寄せて上げればBくらいにはなるもんっ」

 

 そして何を口走ってるのよ、あの赤面探偵は。

 

 今のクインは普段より少しだけ胸が大きく見える。それは私のマッサージで胸を強調するようにしてあげたから。けっして〈外観再決定ポーション〉なんて代物は使ってないわよ

 

「おい、千菜クインで遊ぶのはいいけどな。やり過ぎるなよ、さすがに可哀想だろ」

 

 背中にしがみつくクインの頭を撫でてやりながら兄さんが言う。

 ソコ、遊ぶのが許されているのがなんともおかしいとか言わないの。踏みつけるわよ

 

「はあ、もういいわ。今回は見逃してあげるわよクイン」

 

「ん、なんだ?姫モードになってんのか。クイン、お前頑張ったな」

 

「うん、私がんばった」

 

 ちょっと幼児後退進みすぎじゃないかしら?

兄 さん、シロエと同じタグをつけないといけなくなるわよ。

 足フェチ、シスコン、髪フェチ、黒髪好き、年上好き、世話焼き、にロリコンまで加わったらおしまいよ。

 年上好きとロリコンとか相反するものを備えちゃったらダメでしょ。特に世話焼きとロリコンの組み合わせはあらぬ誤解を生むわね。

 

「それよりも兄さん、この際だからはっきりさせましょう。クインにも会わずにマイクロフトさんと会ったりして、何を隠してるの?何かあるんでしょう?」

 

「…………実の妹が、両手にアダルティでエロいアイテムを持って友達の美少女を追いかけ回してるんだけどさぁ

この悩みどうしたらいいと思う?」

 

悩みの種は私自身だった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 危なかった。あと少しで千菜にバレるところだった。

 

「かなでよかったねー。せんなちゃんにひみつがばれなくて」

 

「ああ、何でバレそうになったんだか?さっぱりだ」

 

 なんとか千菜を誤魔化して撒いた俺とくいんはてくてくとアキバの街を歩いていた。

 

「かなでくんがせんちゃんにはなせばよかったんだよ」

 

「そうは言ってもな、やっぱりアレは知らなくていいんだったら知らない方がいいんだよ」

 

「むぅー、そんなのわたしにおしえたの?」

 

 ぎゅううと握っている手を握り締めてくるクイン。頬をぷくーと膨らませて不満を露にする

 

「お前なら大丈夫だろ。いざとなったら俺がお前を守ってやるつーの」

 

「えへへー、うれしいな。かなでくんはわたしのおうじさまだね」

 

 にかーと笑って嬉しそうにするくいん。

 

「そうだなー、俺はお前の王子様だよー。

じゃあそろそろ〈ロデリック商会〉にお前を治してもらいに行こうかー」

 

 いい加減にしろよこのエセ幼女、恐怖でネジが飛びすぎだ!お前は美少女だろ!どんなことされたらそんな風になるんだ。逆に俺も体験してみたいわ!

 

「いやだ!あそここわいもん!ぶくぶくしてるちゅうしゃされるもん!けがいっぱいはえるおくすりのまされるもん!」

 

 うん、〈ロデリック商会〉に行くのは止めよう、あそこは駄目だ。くいんが実験台にされる。

 

「よし、くいんちゃん〈風水の館〉に行こう。ケーキを食べよう」

「ほんと?かなでくんだいすきっ!」

 

 満面の笑顔で抱きついてくるくいんちゃんを受け止める

が、クインは一応十九歳だ。歳よりは若く見られるクインではあるけれどこれはヤバい。精神年齢と肉体年齢が噛み合ってないんだ。

 なんかこの表現もすごく危険な香りがする、どうしよう。昼間からなにイチャイチャしてんだよぶっ殺すぞという視線が街中から突き刺さる。

 

 まずい、こんなところでこんなことしてたら絶対ろくな噂が立たないよ。

 

 くいんちゃんをお姫様抱っこして一気に飛び上がる。こんなところいてたまるか!早く逃げなきゃ

 

「わあー、かなでくんかっこいいー!」

「やめなさい!女の子がそんな簡単に男の子に頬擦りするもんじゃありません!」

 

 天秤祭を前にして道を行き交いする人が増えたアキバの街の大通りを人を避けながら走っていく。路地裏入るべきか?

 そうしよう!手遅れになる前に。とりあえず目についた小道に駆け込む。

 

「おい、見たか?今の。あれマリエールさんところの奏さんだよな。あんな可愛い娘路地裏に連れ込んだぞ」

「ああ、見た見た。しかもあの娘奏に頬擦りしてたぞ」

「しかもイヌミミとシッポがついてたぞ!なんて趣味してんだ天才かよ」

 

ちくしょうっ!恨むぞ、あのマッドサイエンティスト!しかも俺の趣味に余計なものが追加されちまった。

 

 街にとてつもない噂を流してしまったがなんとか風水の館へと到着して中に入れてもらうことに成功した。

 どうやら大地人である風水の館の人たちにはくいんちゃんの格好はいつもの〈冒険者〉の不思議な格好として受け入れてもらえたようだ。

 

「エリッサさあん、どうしよぉう…

街に俺が昼間から女の子にイヌミミとイヌシッポをつけてやりまくりの変態なんて噂がたっちゃっだよ~」

 

「火のないところに煙はたたないと申しますし…

クイン様と街中で恋人のようなことをなさってなければ大丈夫なのではないでしょうかね…?」

 

クインと恋人みたいなこと・・・

 

・直前まで仲良く手を繋いで歩いてた

・この前は一緒にケーキを食べに行った

・お互いのギルドによく遊びに行っている

・アカツキちゃん、ミノリンに恋人かと疑われた

 

「もうダメだ~おしまいだ~」

「お心当たりがあるんですかっ!?」

 

「心当たりしかありません!」

 

 視界の端には、出されたケーキをパアァァという擬音が聞こえてきそうな笑顔で食べるくいんちゃんとそれをニコニコと眺めるレイネシア姫がいる。

 妹でも見てるかのような表情をした姫様の方は楽しそうだ。よかったよかった

 

 でもだ、

 

「姫様、これからの俺の身の振り方についてじっくりと話しましょう」

 

「あれ?今回のお話は私の悩みを聞いてくださるお話じゃなかったのですか?」

 

「ええ、本来はそのつもりだったのですが残念ながら姫様の愚痴に文字数を費やす暇がなくなってしまいました。このままでは俺が戦場で興奮するクラスティを越える変態の謗りをうけてしまうから!」

 

「それはいけません!エリッサ、一緒に奏様があの妖怪のようになってしまわれないような打開策を考えましょう!」

 

 先のアキバの街への勝手な交渉によりアキバへの大使役という体のいい謹慎を祖父にもらったレイネシア姫。

 そんな彼女のの仕事はアキバの街の〈冒険者〉と大地人の橋渡し。〈冒険者〉のことをよく知るために学び、日々忙殺されるレイネシア姫は〈冒険者〉のお悩み相談まで受けている。

 果たしてこれはレイネシア姫の本当の仕事なのか。

 

 クラスティはその光景をこっそりと見ながら疑問を口に出したりはせずに隣に座るシッポをブンブンと振る名探偵と一緒に紅茶をすすっていた。

 

「ねえ、くらすてぃ、このケーキもらっていい?」

 

「どうぞ」

「ありがとー」


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