ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~ 作:となりのせとろ
ここはアキバ一の戦闘系ギルド〈D.D.D〉のギルドキャッスル。
きらびやかな装飾が施されてはいるがいやらしさは感じられない。アキバ一のギルドとしての風格と品位を兼ね備えた実理性に富んだ造りになっている。
そんな中で書類の束を抱えて広い廊下を歩く長い金髪の女性が一人
コン コン コン
「どうぞ」
「
「この大福とどら焼きに合いそうなお茶を入れてもらってもいいかな?」
「わかりました。少し待っていてください四十秒で準備します。そしたらすぐにいただきましょう」
「高山女史、私の分もお願いしていいですか?」
「わかりました
大きな執務机についていたクラスティが立ち上がり黒革の部屋の高級感になんらの引けもとらない大きなソファーへと向かいながら三佐さんへ自分にも同じものを用意してくれるように頼む。
「なんで奏さんがここにいるんですのっ!?」
「リーゼさんもお茶いりますか?」
「あっ、はい。いただきますわ」
「はっ、ではなくて!ここは〈D.D.D〉のメンバーしか入れないようゾーン設定がされてますのよ!?」
「あははっ、気にしない気にしない」
「笑い事じゃありませんよ!?」
「まあ、いいじゃないですか。彼はなかなかウチに来てくれませんからね。珍しいお客さんは私も嬉しいです」
「
「細かいことは気にするなよ女子こっヴぅえいっ‼」
白く長いリーゼの指が余計なことを言おうとする奏の口を押さえ込む。
「黙れ」
「はい……」
「仲が良くて羨ましい限りです」
─閑話休題─
「それで奏さんはなんでウチのギルドキャッスルに?いつもは全く来ませんよね」
奏の持ってきたどら焼きにパクつきながらリーゼが尋ねる。
「ん?もう用事は済んだよ。クラスティに話しておきたいことがあったから来ただけ」
「ええ、なかなか興味深い話を聞かせてもらいました」
クラスティは高山女史が注いできた湯飲みを片手にそう返す。
「お前、言っとくけどアレには関わろうとかするなよ。
奏がクラスティに向けて強く強く言い聞かせる。いつもとは違って真面目な顔つきで眉間に皺を寄せながらだ。
「わかっています」
それにクラスティがきっちりと奏の目を見て言葉を返す。煙に巻きながら話すことも多々あるクラスティとしてはなかなか珍しい行動であった。
「?」
それに首をかしげるリーゼ。
なにかしら真面目な話であるということは察しがつくのではあったがさすがに話の内容までは察することはできない。
「それじゃ、俺も次の予定があるんでおいとまさせてもらうわ、見送りはいいよ忙しいだろうし」
奏が湯飲みに入ったお茶を飲み干し湯飲みをテーブルにおいて立ち上がる。
「お茶菓子ありがとうございました。
奏さんもまたいらしてくださいね。
「気を付けるます、JKさん」
「貴方という人はっ!最後の最後までKYですのね! 」
「激おこぷんぷん丸?」
「そうですっ激おこぷんぷん丸です!」
(この娘は弄りがいがあるなー。見事に自滅してくる)
「また、面白い話を聞かせに来てくれることを楽しみにしています」
「こんなことがそう何度もあってたまるか」
「まあ、確かにそうでしょうね」
ガチャリとドアを開けてスタスタと帰っていく奏。思い立ったら即実行といった感じで行動している奏のフットワークの軽さは大したものであるとリーゼも感心していた。
「高山さん、美味しいのはわかるんですけど…お見送りくらいはしてあげた方がよかったんじゃないでしょうかね?」
「………気づきませんでした」
両手に大福とどら焼きを持って口の端にあんこをつけた高山三佐はいつもの鉄面皮でそう答えるのだった。
テーブルの上に置かれていた奏の持ってきたどら焼きと大福の入っていたおおきな袋がすっからかんになっていたことをクラスティはこっそりと確認した。
◆
鹿威しの軽やかな音と水の流れる僅かな音が届く。
〈D.D.D〉のような洋風建築とは異なる日本古来からの広い和室。
ウチの実家の母屋もこんな感じだ。やっぱり和風建築の方が俺は落ち着く。その中の一室で俺はソウジロウと向かい合って座っていた。
「どうしたんですか?奏さん急にこんな改まって人払いまでして」
ソウジロウがニコリと笑って問いかけてくる。イケメンフェロモンがびんびんだ。
千菜が姫モードじゃなきゃ会いたくないってのもよくわかるよ。男の俺でも惚れそうだもんこいつ。
それを聞きながら俺は立ち上がる。ソウジロウにジェスチャーで会話を続けるようにして襖へと近づいていく。
「実は話しておきたいことがあってだなっ!」
襖を勢いよくガラリッ!と開けるとそこからは三人ほどの少女がなだれ込んでくるようにして倒れてきた。
「やあ、こんにちは」
座り込んで少女たちと目線を合わせニッコリとやさしーく微笑みかける。
「こ、こんにちわ」
「盗み聞きはよくないよ?」
「はっはい、すみませんでしたー!」
どぴゅーんという効果音が聞こえそうなほどのスピードで少女たちは廊下を走っていった。
日本家屋の廊下は走るのは厳禁だぞー。
「すみません。ちゃんと言ったはずだったんですけど」
「気にすんな。お前のことが心配なんだろうよ」
そのままスタスタと壁に掛かった掛け軸の前に歩いていきペラリと掛け軸を捲ると…、
「ど、どうも」
「どうも」
バッチリと目があった。ガン見である。視線はまったく外さない。
「盗み聞き、よくない。do you understand?」
「イ、イエ~ス」
「よろしい。行っていいよ」
「しっ失礼しましたー」
「すみません奏さん…何度も」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。気にしてない気にしてない、からっ‼」
ドンッ!と天井を思いっきり奏は鞘から抜いていない刀で殴る。すると背の高い女性が天井から落ちてきた。
「仏の顔も三度まで、て言葉知ってるか?」
「すみませんでしたっ‼」
奏の土下座にも引きをとらない速度で土下座を決める緑髪の背の高い女性。
「行け」
「ありがとうございますっ」
ずぴゅーんという効果音が聞こえそうなスピードで緑髪の女性はその場から逃げていった。
「この調子じゃあとどのくらいいるかもわかんねーな」
うーむ、どうしたものか、〈聖域結界〉を張ってもいいんだけどな、さすがに人の家で無作法過ぎるよな。
「本当にスミマセン。もっと僕が強く言っておけば。なんとお詫びしたらいいか」
「だからそんな怒ってねーって。
ただ、示しはつけた方がいいかもな」
「ソウジロウ、これで
ガラツ!ガタッ!バタンッ!バシャアンッ!グルンッ!
押し入れから、畳から、タンスの引き出しから、庭の池から、壁の回転ドアから、ありとあらゆるところから美少女、美女が大盤振る舞いに飛び出してくる。ここはからくり屋敷かなにかかな?
「はい、全員はっけーん
それにしても……ソウジロウ、さすがにこれはちゃんとした部屋作った方がいいと思うぞ?」
「あはは……皆さん、僕を心配してくれるのはとっても嬉しいですし感謝しています。
でも、ちょっとこれから本当に大事な話があるので大広間で待っていてもらっていいですか?
先輩とのお話が終わったら少し早いですけどみんなで夕食にしましょう」
正座をしている女の子たちにものすごく近づいて目線を合わせてニッコリと笑いかけ優しく語りかけるソウジロウ。
「「「「「はいっソウ様~」」」」」
おおー、これがハーレム構築の真髄か、いいもん見れたな。
女の子らはみんな顔を赤らめてスキップしながら部屋を出ていった。あとは…
「ナズナさん、貴女は普通に聞いててもいいよ」
「ちぇ、バレてたか」
床の間に置いてあった壺の中からナズナがひょこりと狐耳と頭を出す。なんかあざといな。
「というかなんでみんなあんなに俺のこと警戒してたの?俺〈西風〉の娘たちにちょっかいかけるようなことはした覚えはないんだけど、いくら初期にしかいなかったから知らない娘が多いとはいえあそこまで警戒されることはないでしょ」
緑の髪のあの人は知ってたけどな。
「あぁ~、そりゃあアンタ、ソウジがアンタのところによく行くからだよ。
あの娘らからしたらソウジを一時の間だとしても独り占めしてるやつみたいなもんだからね。
そんなやつがウチに来て、しかもソウジと二人で話がしたいなんて言い出したらそりゃあこうなるさね」
「なるほど」
女心はよくわからんな。今度ソウジロウにレクチャーしてもらいたいもんだ。
「ところでさあ、ソウジ、奏」
「どうかしましたか?ナズナ」「何ですか?」
「胸がつっかえて出れなくなっちゃったから出るの手伝ってくんない?」
このお姉さんは相変わらずエロいな。
─閑話休題─
「──というわけだ。相手取れとは言わないし寧ろ相手取るなと言いたくてしょうがないが、頭の片隅に程度でいいから留めておいてくれ」
「なるほど、了解しました。
確かにこれは倒すとかそういう類いの敵じゃないですね。奏さんの仇を打てないのは辛いですが、こればかりはしょうがない。心に留めておきましょう」
「よろしく頼む」
「私らの他にはこの話を知ってる奴らっていうのはいるのかい?」
「クラスティにはここに来る前に話してきました。あとはシロエとアイザックにも話してあります。それとマイクロフトさんとクインにも話をするつもりです」
「そうじゃなくてさあ~、千菜には話したのかい?」
「いえ、話してません。話すつもりもありません」
千菜に話をするつもりはない。
アイツに余計な心配をかけさせるわけにはいかないし、それにいまだって具体的な脅威があるわけじゃないんだ。ただ一応の保険をかけるために動いている。
「あんまり人の兄妹関係にまで突っ込むつもりはないけどさあ~」
ナズナさんが呆れたように長い黒髪をかきあげながら正座から胡座へと体勢を変えながら俺の言葉に反応する。ところをソウジロウが遮り言葉を差し込む。
「奏さん、千菜さんを泣かしちゃうようなことになったらダメですよ。あの人は誰よりも涙が似合わない人なんですから」
ナニヲイッテルダ?コイツ。
「何?ソウジロウ、お前千菜に惚れてんの?
ゆるさねえよ?お兄さんゆるさないからね?お前のはーれむにぜっっったいに千菜は加えさせねぇかんなっ!
もし加えたかったら俺を殺してからにしろ!そしたら千菜がお前を嫌いになって俺の勝ちだから!」
「アンタはなにをとちくるったことをいってんだい…シスコンも大概にしなよ」
ナズナさんのさっきの呆れ顔とは違うバカを見るような呆れ顔でため息を吐きながらそういうのだった。