ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第二十一話 まるで永遠の二番手

 突然現れた奏さんは地図を開き引率の一人一人からここらへんの地形や味方の戦力を聞き出しマリエールさんに傷の回復をしてもらいながら、直継さんたちと一緒に配置を決めていきました。

 大まかな戦況なんかはマイクロフトさんに聞いてここにくる途中で偵察もある程度は済ませておいたそうです。作戦も大した時間もかけずに完成させてしまいました。

 

「奏さん凄かったね。あっという間に私の考えた作戦の足りない部分も補足されちゃったし。

私なんかまだまだ全然駄目だね」

 

「そんなに悲観することはないぞミスミノリ、僕たちはまだまだ発展途上だ。これから追い付けば良いのだ。

それにしても奇策師と名乗った彼は一体何者なんだい?とってもクールな称号だ」

 

「俺たちの先生をやってる人だよルディ兄。何でも出来てメチャクチャ強いんだ!!」

 

「ほう、ミスミノリとミスタートウヤのteacherか!ではとてつもなく優秀なんだな」

 

「おいおい、お前らあんまり勘違いしてやんなよ?奏のヤツは万能に近くても全能ってわけでもねぇし全知ってわけでも全くないんだぜ祭り」

 

「直継さん」

 

 私たちが奏さんの働きっぷりを見て話していると直継さんが呆れたような顔をして話に入ってきました。

 

「どういうこと?直継師匠。奏兄ちゃんに出来ないことなんかあるのか?正直兄ちゃんなら出来ないことなんかないって感じがすんだけど」

 

「正直私もそう思います」

 

 正直奏さんに出来ないことなんかないんじゃないかと本気で思ってます。私たちでは考え付かないような作戦を考えて私たちよりずっと強い。レベルとかそういうステータス的なことを取り除いたとしても。

 

「はあー、お前ら勘違いしまくり祭りだな。奏のことを勘違いしまくりだぜ。奏に目の前で助けたヒーローってことであいつのことを美化し過ぎちまってんじゃねーか?

 あいつはお前らが思っているほど頭も良くねえし、強くもねぇ。バカみたいなことも考えてるし、アホみたいなこともするんだよ」

 

「そんな、勘違いだなんて!!」

「そうだぜ師匠!俺たち勘違いなんかしてねーよ」

 

 直継さんの言葉に少しだけカチンとします。声をほんの少し大きく私とトウヤは反論します。

 

「奏は奇策師なんてさっきふざけて名乗ったけど、全く真逆だぜ。あいつの提案した作戦は全部昔の軍師が考えた陣だったり対応なんだよ。いわば定石中の定石。勿論アレンジは加えてるけどな。

 あいつが昔の戦い、えーと、なんだったかな?兵法書?なんかをとことん調べて覚えたんだぜ。

 それに考えてもみろよ。奏が本当に奇策師なんてもんだったら、お前らを助けるための作戦を考えたシロが〈茶会〉の参謀なんてやってねーって。

 奏よりシロの方が参謀として上だからシロが参謀だったんだよ。

 オマケを言えば〈茶会〉ではあいつは、パーティーの第一〈回復役〉(ヒーラー)でもなければ、第一〈壁役〉(タンク)でも、第一アタッカーでもなかったよ。単体で言えば妹の千菜の方がずっと強いし。あいつはとびきりの天才だからな」

 

「そっそうなのか?とにかくミスター奏よりも凄腕の人が沢山いたということなのか?」

 

「そうなるな。一芸においてはだけど。

 だからわかってやってほしいんだよ。あいつの強さはそういう自分より秀でてるヤツに追い付こうとして身に付いた知識や実力なんだって。

 才能だけでスパッとやってることなんかじゃないんだよ。結構無茶やらかして自分だけ負担を沢山背負い込むなんてざらなんだって」

 

 直継さんはいつものおちゃらけた口調なんかじゃなくて真剣な口調で真っ直ぐに私たちに向けて告げました。

 お前らと根本はなんら変わりなんかないんだって、そう言い聞かせるように。

 

 確かに、奏さんに過剰な理想を押し付けていたかもしれない。

 いつも余裕そうに笑ってる奏さんは確かに強いし頭も良いんだけどでも私たちと同じなんだ。

 強がりも言うし誰かに頼りたい時もあるのかもしれない。

 私たちの期待に応えようと無茶もしてたりするのかも。私たちに甘い奏さんなら全然あり得る。

 

「じゃあ私たちは奏さんが少しでも無茶しないですむように頑張らないとですね」

 

「奏兄ちゃんが暇過ぎて居眠りできるくらいにな」

 

 私とトウヤの言葉を聞いた直継さんは「そりゃいい。たまには奏もカッコつけるのをやめさせてやれ」とカラカラと笑って満足気に頷きました。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

『奏さん!第二奇襲パーティー、ゴブリン小隊と接触しました。恐らく他の小隊がしばらくしたらそちらに行くと思います!』

 

「了解。相手側が退いたら深追いし過ぎずに次の小隊を探せ。手負いにするだけでも効果としては充分だ」

 

『わかりました』

 

 プツリと念話は切れミノリたち第二パーティーがゴブリン小隊と接触したのをそれぞれの隊の隊長に念話し警戒を上げるよう指示を飛ばす。

 

「とりあえずはこんなもんか。さてとこれからが大変だな。

千菜~そろそろゴブリンどもが来るぞ~準備しとけ~」

 

『あいよ~』

 

「なあ、カナ坊今さらなんやけど聞いてええか?なんでこんな陣形なん?いくら何でも無茶ちゃうかな?」

 

「なんでって、マリエちゃん説明聞いてなかったの?」

 

「いや、聞いてわおったよ。でも、ウチにはちょーっと難しくて途中からわからんようなってしまって……」

 

「なー……。どこら辺からわかんないの?」

 

「えーと……、チョウシの町を三つのポイントで守ってるってところから?」

 

「最初からじゃねぇーか!?」

 

「ひぃぃ。ゴメンな。謝るからそんな怖い顔せんといて~」

 

 アワアワと小さくなって上目遣いに謝るマリエちゃんを前にしてしまえばこちらとしてもなかなか攻めづらい。

 

 いつも笑ってる笑顔もいいけどこういうのもアリだと思います!!まったくカワイイは正義っすね

 

「はぁ…マリエちゃん、ミノリンの考えた作戦の足りない部分ってなんだと思う?」

 

「なんでミノリン呼び?」

「そこはスルーで。話が進まないから」

 

「えーと、相手さんとこっち側の数?」

「そう、わかってるじゃん」

 

「さっきカナ坊が説明してくれとったからな……」

 

「ゴブリンがチョウシの町に仕掛けようとしてるのは波状攻撃だ。こちらの倍以上の数での力押し。数の有利を生かしたごり押しだね。

 こういうシンプルに強い作戦てのはなかなか対抗しにくいものなんだけど。

 そこでミノリンが考えた作戦はこうだ。

 相手が好きなタイミングで攻撃出来ないように後手にまわらず先手を打ってしまおう。

 波状攻撃てのは絶え間なく攻撃が続くからこそ絶大な効果を発揮するけどその攻撃の間隔が開けば開くほど効果は薄れていくからね」

 

「なるほどミノリは頭ええなぁ。ウチじゃ絶対思い付かへんわ~カワイイし頭もええし自慢の教え子やね」

 

「それについては激しく同意なんだけど、話しが脱線するからこれ以上は乗らないよ?」

 

「あ、ゴメンな続けて続けて」

 

「主導権をあちらに握らせないってのが目的なんだけど、今回の場合それでも数が違いすぎる。こちらの数が少なすぎるんだ。

 本当だったら奇襲部隊は二パーティーじゃなくて三パーティーは欲しいんだよ」

 

「なんで三パーティーも必要なん?二パーティーぐらいであとは全部防衛に回した方が不測の事態とかに対応しやすいんちゃうかな?」

 

「不測の事態があるからこそだよマリエちゃん」

「ほえ?」

 

「考えてもみなよ。もし奇襲部隊の戦闘が思いの外長引いたり、戦闘が出来ないような状態になってみなよ。根本から作戦が総崩れしちまうぜ」

 

「なるほどな~。で、カナ坊はどんな風にしてそれを解決したん?」

 

「一つとしては遊撃隊をダンジョン攻略組の上位パーティーにやらせた。俺の指示の下必要なところに迎えるようにスリーマンセルで常に戦場を動き変え続けるように言っておいた。

 二つ目はこの陣形そのものだね」

 

「そう、そこなんよ。いくら何でもここだけ数少なすぎるで~」

 

 〈魔法の鞄〉(マジックバック)から地図を取りだしマリちゃんに見えるよう広げ碁石を三つのポイントに置く。

 

「いいかいマリエちゃん、チョウシの町を守る上で守るべき箇所はこの四ヶ所だ。

 一つは千菜がサファギンを撃退した浜辺。とりあえずここは今のところは考えなくていい。

 二つ目は山から直接通じる一本道。ここは道が狭いから多分そこまで沢山のゴブリンはやってこない。近接戦闘組が中心の布陣だな。

 比較的低レベルの連中でも戦いやすいフィールドだな。

 三つ目はチョウシの町に続く田舎道。ここはだだっ広く沢山のゴブリンが一気にやってくるだろうから高レベル組をさっきのところと比べて増やしてる。それとさっきのところとは対照的に遠距離からの攻撃が出来るやつらが中心だな。

 そして四つ目、俺らがいるチョウシの町の真横を流れる大河をわたるためのこの大きな橋。こちら側にわたるためには絶対に通らなければならないこの大きな橋だ。

奇門遁甲の陣形。細かい説明は省くけと今回使ってる陣形だよ」

 

「奇門遁甲って……ナニ?」

 

「ざっくりと言っちゃったらまーるい円の中に閉じ込められちゃって一ヵ所だけそこから簡単に出られるようなところがあったら……マリエちゃんどうする?」

 

「そりゃあそこから出ようとするんちゃうかな?簡単に出られるんにこしたことはないやろし」

 

「そうだぜ。効率的に物事を解決しようとするのは普通だから。そこを利用する。ここを突破するのは簡単そうだなって思わせたら勝ちだ。主導権はこっちが握ったことになる」

 

「いやでも突破されちゃうやん!」

 

「だから思わせるだけだって。充分に敵戦力を叩けるだけの戦力は用意してある。少数精鋭だよ。殲滅力が高く機転も利くやつらがここにはいるんだって。橋の先頭では千菜が、真ん中ではマイクロフトさんと遠距離攻撃が得意な連中で固めてるし、その後ろでは俺が確実に仕留めれるように罠もはっておいた。

 最悪抜かれそうになったら橋ごと落とすし……」

 

「なっ!?

橋ごと落とすって、カナ坊!それ橋の上の皆はどないすんねん!?」

 

「一緒に落ちてもらうよ。全員が二つ返事でかまわないっていったし」

 

「いや、だからって、」

 

「大丈夫。〈冒険者〉の身体はマリエちゃんが思ってる以上に丈夫だから。

 俺とミノリンとトウヤだってこれくらいの高さから水の中に落ちたことがあったけどピンピンしてたし」

 

「そういう問題やないと思うんやけど」

 

「それは最後の手段だよ。俺だって仲間を水の中に突き落とすなんてしたくないし」

 

「突き落とすっちゅうか叩き落とすって感じやけどな……」

 

「気にしちゃ負けだせマリエちゃん。とにかく ここでゴブリンを一網打尽にすることそれがこの陣の目的其ノ一。」

 

「其の一ってまだあるん!?」

 

「あるよ。というかこっちが本命だ。

 目的其ノ二、人員削減。

 ここで少数精鋭にすることで他の戦場の味方の絶対値を底上げするってことかな。

 まあ、根本的な今回の問題点は圧倒的な数の差だから、そこさえ解決しちゃえばゴブリンなんて敵じゃねぇよ」

 

「はあ~よく考えとるんやね~お姉さん感心するわ~よし頑張ってるカナ坊にご褒美や。むぎゅ~してやるで。むぎゅ~」

 

「ちょっ!?マリエちゃんやめてっ!?恥ずかしいっ!!恥ずかしいからっ!!」

 

 

 なにするんじゃウチのギルマスはっ!?抱きつくな!!抱きつくな!!貴女はパンツ騎士にでも抱きついときゃいいんだから!!勘弁してくれ!

「カナ坊は変なところで根性ないな~いつもは余裕そうに笑っとるのに」と言ってなんとか解放してくれた。

 助かった、こんなんやってる場合じゃねぇつーの

 

 ドオオォォォンン!!

 

 橋の先頭から大きな爆音が聞こえてきた、空気が揺れる。

 

『兄さん、ゴブリン小隊と接触しました。数は三小隊どちらもゴブリンのみの編成です』

 

「オーケー。潰せるだけ無理せず潰してくれ。飛ばしすぎて戦えなくなったら困る」

 

『わかったわ』

 

「なぁ、カナ坊」

「うん?」

 

「カナ坊がなんで怪我の本当の理由を隠してるんかはわからんけど……無理したらあかんよ?

 なんか困ったときは頼ってな。ウチはカナ坊のギルマスなんやから」

 

 こんな時でも、いやこんなときだからこそ不安になるんだろう、マリエちゃんの言葉に俺は微笑を止める。

 

「マリエちゃん、やっぱり俺は〈三日月同盟〉に入って良かったよ。そういうところ大好きだぜ?ギルマス」

 

 満面の笑みで素直な感謝の気持ちを伝える。少しでもマリエちゃんの不安が和らぐように

 

「うん、ウチもカナ坊が大好きやで。ガンバろな?」

 

 アレの存在を今はマリエちゃんたちには教えられない。

 チョウシの町を守ると強い意思を見せているミノリたちの意思を挫かせるわけにはいかないし、その気持ちに応え責任を負ったマリエちゃんにさらなる不安を負わせるわけにはもっといかない。

 

 幸い、気配は追ってくる感じはしなかった。

 それにあんなの今度こそ近付けば即座に反応できる。少しでも力を感じるようだったらチョウシの町を棄てさせてでも俺はミノリたちを逃がす。

 生きていればやり直すことはなんとかできるのだから

 

 一抹の不安を奏は胸の中に残しながらもチョウシの町防衛戦が本番へと入っていく。

 

 


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