ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第二十話 必殺の白と赤

「クソッ!?なんだってんだっ‼アレは!わけわかんねぇぞ‼」

 

 チョウシの町の十キロと少しほど離れた位置にある鬱蒼とした背の高い木々が太陽の光を遮り暗く影をもたらす山

その中で奏は一人悪態をついていた。

 

 〈エターナルアイスの古宮廷〉を飛び立ちチョウシの町まであと少しというところで奏の乗ったグリフォンは突如衝撃を受けて撃墜され真っ逆さまに落とされた。

 

 幸いにも下に広がる山の木々と更にその下にある草がクッションになることで落下死は免れることはできたが現状としては最悪としか言いようがなかった。

 グリフォンの召喚笛にわずかにではあるがヒビが入っている。

 それはグリフォンに明らかにそれなりのダメージが入っているということを示していた。呼び出そうと思えば呼び出すこともできるではあろうがはっきり言って愚策以外のなにものでもないだろう。

 

 衝撃が襲う直前、奏は大きな気配を、魂魄を視認していた。

 それはとてつもないほどに大きなもの。

 

 ゲームで言うところの〈大規模戦闘級〉(レイドランククラス)の存在。

 

 この世界に来て初めて出会った自分よりも遥か彼方の上位の存在だろう。あれは一人で相手にしちゃいけない。

 というよりもあんなの相手にしてる暇なんてない。

 一刻も早く奏はチョウシの町に向かわなければならないのだ。

 

 ビリビリと伝わってくる存在感(プレッシャー)に奏は苛つきを大にする。

 

「ヤバいヤバいヤバい。あんなの相手にしてたら命が何個あっても足りねぇぞっ!」

 

「〈冒険者〉は不死身。命なんていくらでもあるだろうに」

 

 くぐもった男か女かも判別がつかない単調な声が奏の独白に言葉を返した。

 

「っ‼!?」

 

奏が背を預けていた大木が吹き飛ぶ、木っ端微塵にだ。

 

 大きすぎる存在感に接近を気づくことが出来なかった。

 奏は間一髪でその攻撃を前方に跳ぶことでかわす。否、木っ端微塵にされた大木の太い破片がかわしきれずに奏の太ももに突き刺さった。

 焼けるように熱くなる太ももを気にする余裕もなく奏は腰の黒刀を抜き身構えた。

 

 黒い漆黒の外套に長い長い太刀だった。その背丈はそう高くはなかった。男なら普通、女なら長身の部類には入るだろうが、あれの性別があるのかなんてそんなことを気にする余裕はまったくない。

 だが、その存在感だけは異常なほどに重かった。

 

(〈灯籠の外套〉…ステータスがまったく読み取れやしねぇ。最大まで強化済み(エンド品)か、ネタアイテムにここまでするかよ普通…)

 

「あなたには先に行ってもらうわけにはいかない」

 

 淡白に感情の起伏も感じさせない言葉

 

「そうかい、俺はここから先に待ってる奴らがいるっ!」

 

 奏の懐から四枚の札が飛ぶ。一枚は朱色の文字が、一枚は藍色の文字が、一枚は翠色の文字が、一枚は白色の文字が、それぞれが黒い外套の存在を包囲するように飛んだ。

そして四体の四聖獣が降臨する。

 

 南の皇、不死の鳥朱雀。

 東の皇、水蓮の龍青龍。

 北の皇、大地の亀玄武。

 西の皇、風雲の虎白虎。

 

 レベル90の陰陽師がそれぞれのクエストを受けることによって初めて使役、召喚するための札を作成出来るようになる最高クラスの使い魔である四体。

 そのランクは〈召喚術師〉(サモナー)の召喚する使い魔のランクの一段階上〈ノーマルランク〉。

 一体でレベル90の〈冒険者〉と同等の戦力を持つ使い魔である。召喚中は容赦なく使役者のMPを削るがその能力は折り紙つき。

 

「霊奏四重封印」

 

 その四体の最高位クラスの魔法が召喚と同時に黒の外套を羽織る化物へと殺到する。

 

 玄武の出した岩石の山が降り注ぎ、その上で岩石ごと青龍が凍りつかせる。朱雀の火炎が辺りの木々を燃やし山の中にできた小さな氷山を囲むように高い火の壁を作り、白虎の作ったかまいたちの風の壁がそれを更に囲み同時に火炎の壁へと空気を供給し更に炎の壁が高くなる。

 

 奏はすぐにそのまま四聖獣で最速の速さで翔べる白虎に跨がり空へと駆け出した。MPがフルの状態で四聖獣を四体出しっぱなしにして更に最高位魔法を維持できるのは〈龍玉の腕輪〉による自動回復、MPストックを用いても約五分、この五分でどこまで距離を離せるかで決まる。

 

 だがその五分ですら黒の化物は与えるつもりはなかった。

 岩石と氷の山は二太刀で砕き、炎の壁は一凪ぎの剣圧で木々ごと蹴散らしかまいたちの壁は両手で上段に構えた一太刀で相殺した。

 黒の化物を足止めできた時間はたったの四十秒程度だっただろう。

 

 化物はすぐさま空を逃げすでに視界ではぼやけつつある奏を見つける。

 その場でさっきよりも深く腰を落とし、両手でしっかりと柄を握りしめ、上段に構えたその長い長い太刀を、降り下ろしきった。

 

「神罰の太刀」

 

 冷淡にそう呟いた。

 

 次の瞬間には奏とグリフォンを山へと突き落とした白の剣がまた奏たちに迫っていた、そして徐々に距離を詰めることなく一気に奏たちを通過して力を失い消えた。

 

 

 

 

「あぶねぇ…肩ちょっと斬られたぞ

もう少し低いところ翔んでたら右肩からバッサリやられてた…」

 

 奏たちの虚像を斬って消えた。

 

 蜃気楼

 下方と上方の空気の激しい温度差によって光の屈折が起こり地上にあるものが浮いて見えたり上下逆さまに見えたりする現象。

 

 残りの少ないMPを使い青龍で冷やし朱雀で熱した奏の周囲は僅かではあるが蜃気楼が生まれていた。

 化物に早々に結界を突破されたのが逆に功をそうした結果になる。

 白虎に上下逆さまの体勢でふん地場ってしがみつく奏の姿は滑稽ではあったがこの醜態を晒すことでなんとか五体満足で奏は化物から逃げ切ることに成功した。

 

「まんまと逃げられてしまった。まぁ、修正はきく範囲。プラン変更といこうか」

 

 黒の化物は手応えのなさを感じ逃げられたことに気づきながらも大して気にする風もなくそう独白するのだった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

時は少しばかり遡り…

 

 新人合宿においても、新人たちのレベル差には大きく差が存在する。

 

 一番下は一桁の者もいれば、後少しで中堅と呼ばれるレベル帯に到達しそうな者もいる。

 下の方に描けカテゴリされている新人はマリエさんの監督する浜辺で巨大なだけのカニを相手に自分の職業の特性や特技についての理解を深める。

 真ん中にカテゴリされている新人は一歩進んでダンジョンを通したパーティー戦闘の連携を通して副次的に他の職業に対しても理解を深める。

 そして中堅一歩手前の者達はそれぞれ引率の上級者達からのアドバイスをうけてプレイヤースキルを上げる特訓。

 

 目の前の刀を持った〈剣の神呪〉を放とうと詠唱している男も中堅一歩手前の38レベルの神祇官〈カンナギ〉だ。

 

 〈神祇官〉(カンナギ)は回復職だ。その為、ソロで活動するのは難しい。これは〈神祇官〉(カンナギ)に限らず回復系三職全てにいえることだ。どうしても攻撃手段に乏しい。けれど、〈神祇官〉(カンナギ)は他の回復職に比べてソロとしては活動しやすい。

 勿論、武器攻撃職や戦士職には及ばないが。

 

 〈神祇官〉(カンナギ)の装備可能武器には刀がある。

〈神祇官〉(カンナギ)〈武士〉(サムライ)は日本サーバー限定の職業として和風の装備が多く用意されている。着物や和鎧、刀に薙刀、和弓。人気も高く和風装備目当てに〈神祇官〉(カンナギ)〈武士〉(サムライ)を選ぶ者も少なくない。

 話はそれたが、日本刀は武器の中でも上位に位置する優秀な武器、らしい。

少し前に聞いた奏さんの話によると、

 

「刀の特徴として『折れず、曲がらず、よく切れる』っていうフレーズが有名だけどさ、これ本当は物凄いことなんだよね。

 相反する三つの特性を両立させている日本刀の凄いところだよ。『折れずによく切れる』なんて普通は真逆の発想なんだけども。

 そして極めつけはその軽さだ。日本刀ってのはさ、両手持ちの武器の中で最も軽い部類の武器なんだよ。

 今までみたいなゲームの世界だったら武器のステータスだけに左右されてたけど、これからは武器そのものの性質も重要になってくる。

 〈神祇官〉(カンナギ)が刀の使い方を覚えて接近戦闘が出来るようになるのはゲーム時代以上のメリットになると俺は思うよ」

 

 奏さんの言うように〈神祇官〉(カンナギ)が接近戦闘と遠距離からの魔法をこなすというのは大きなアドバンテージなのだろう。目の前の若手の男もそれを理解しているのだろう。

 

 少年の詠唱が完成する前に、〈盗剣士〉(スワッシュバックラー)の基本的な剣技〈レイザー・エッジ〉で距離を詰め追撃を行い詠唱を妨害する。

 

 咳き込んで倒れる若手に手を貸しながら、

 

「距離を空けたいってのは解るけどまだまだかな。もっと技と技の接続速度を上げた方が良いよ」

 

「やっぱり遅いすっかね?」

 

「いや、速さ自体は徐々に慣れれば上がっていくさ。それよりも、動きが素直過ぎるがな? もっと搦め手とはいわないまでも動きのパターンを増やした方が良いと思う。モンスター相手だったら良いかもしれないけど対人だったり格上の相手だったら単調過ぎると通用しないな」

 

「なるほど」

 

 男は立ち上がり一連の型を一つ一つ確認していく。

 

 筋は悪くない。

 オールレンジでなんでもかんでもこなしてしまう奏さんと比べてしまえば大したことはないと言うしかないが、それは根本的なところから間違っている。

 剣技無しで武器攻撃職の自分に模擬戦闘とはいえ勝ってしまうような達人と比べるのがおかしいのだ。

 

 嫌な予感というのは大概当たってしまう。突然鳴った念話を伝える鈴の音のような着信音。

 

『小竜か!?浜辺に早よ来てっ!!』

 

「どうしたんですかっ!?マリエさんっ!?」

 

『急に海からサファギンが現れて──くっ!!とにかく早よ来てっ!新人達がっ!!』

 

 マリエさんからの念話がブツリと切れたことで海岸で何かしらのトラブルがあったことを察する。

 

「くそっ!?

おい!今すぐ他のメンバーを集めて旧校舎に引き返すようにするんだっ!メンバーの点呼を忘れないようにっ!!」

 

 指示を飛ばす時間すらも惜しく駆け出し、召喚笛を吹きならす。そのまま走ってきた軍馬に並走し飛び乗る。海岸までトップスピードで飛ばした先、小竜の見た光景は異常そのものだった。

 

 辺り一面を多い尽くさんばかりの、サファギン、サファギン、サファギン。

 身長160センチ程の大きな魚の頭をくっつけた細い手足の醜い軍勢に本来は白く太陽に照らされキラキラと光る砂浜は多い尽くされていたのだった。

 

 躊躇したのはほんの数秒。

 サファギンから逃げまとう新人たちを逃がすため腰の二本の剣を引き抜き飛び出す。

 同じように新人たちを逃がすためにサファギンたちを相手にしている高レベルメンバーと一緒に戦闘を開始する。

 

 戦い始めてから何分経っただろうか。その数は一切減ったように感じられない。むしろ増えたようにすら感じる。

 撤退したくとも新人を逃がすために中心部まで斬り込んでしまっているためなかなか下がれない。

 

 

「全員、全力で横に跳びなさい!!」

 

 

  ゾクッ…

 

 声のした方を見るまでもなくそこにいる全員 が本能的に跳んだ。

 直後自分達のいたところを身を焼くような極太の熱線が通過した。

 熱線はそこにいたサファギンに奥にいた数十体を巻き込み文字通り跡形もなく消し飛ばし地面を焼き海の水を蒸発させ割った。

 

「早く逃げ切れていない新人たちを連れて引っ込みなさい!ここは姫が引き受ける」

 

 そこにいるのはいつもの赤い大きな鳥が特徴的な碧色の着物を着た千菜さんが身の丈より大きい美しい薙刀を構えサファギンを消し飛ばしながら駆けてくる。

 

「そんなのいくらなんでも無理だ!俺たちも残ります!」

 

「いいから下がりなさい。あなたたちじゃ私についてこれない。邪魔なだけよ。

 あなたたちが必要ないわけじゃない、ただ適材適所なだけ。

 私の動きを理解しきっている人間がいないこの状況じゃ私と組める人はこの中にはいない。一朝一夕でついてこれるほど私の動きは、安くない」

 

「小竜クン、皆さーんここは千菜さんに従おうか。いずれにしてもここに留まり続けるのはジリ貧になるだけだよー」

 

 千菜さんと一緒に来たのかマイクロフトさんが俺たちに告げる。

 確かにこのままじゃジリ貧になる、この場で一番大切なことは新人たちを逃がすこと。

 

「千菜さん、お願いします」

 

「任せなさい。 ……小竜、あなたは十分に立派にやっているわ。もっと強くなれる」

 

 千菜さんの声を背中に受けながら俺たちは新人たちの殿を努めて海岸から脱出した。

 

 

           ◆

 

 

「やっと行ってくれたわね」

「もうちょい渋るかとボクは思ってだけどねー」

 

「小竜もバカじゃない。〈三日月同盟〉の戦闘班の班長ですもの」

「違いない」

 

「それじゃ、ボクも離脱しようかな。邪魔になるし」

「貴方だったらだったら姫には合わせられると思うのだけれど?」

 

「勘弁しておくれよ、ボクと姫ちゃんじゃあ相性最悪さあーボクの可愛い使い魔たちを焼き鳥に変えられちゃあたまらないよ」

 

「誰に言っているの?私の二つ名は〈覇姫〉よ?こんな槍を振り回すしか脳のない雑魚どもと味方の区別がつかないわけないじゃない」

 

「そこまで上手くないよ……

でも足手まといにはなるだろー?ボクは掌で踊る人形を観るのが好きなんだ。自分も一緒になって踊るのは苦手なのさー」

 

 マイクロフトも離脱した。

 全くあの子よくも悪くも頭が切れるし傍観主義者すぎる。

 私のスタイルを理解して攻撃範囲外のサファギンだけにバッドステータスを付加しながら離脱していったのがあの人なりの気遣いなのだろうけど。

 

「さてと、ふっ!」

 

 両手に持つ愛刀〈千紫万紅の大薙刀〉を背後に向けて一振り、花弁が舞うように炎が吹き荒れ斬撃と共にサファギンを消し飛ばす。サファギン程度の強度では肉片一つ残らないらしい。

 そのまま駆け薙刀を振るう、止まっている時間がもったいない。さっさと全部切り捨てよう。

 右に左に前に後ろと思うように全力で振るう。地面は抉れ炎が舞いサファギンたちは怯んだのか私から距離をあける。

 私を取り囲みサファギンが一斉に飛び掛かってきた。

 

「姫の御前よ、頭が高いわ。

跪きなさい。そしてひれ伏しなさい」

 

 〈後の先〉からの〈電光石火〉。

 体全体を使い隙など考えずに威力だけに重きを置いて凪ぎ払う。

 そのセリフは姫じゃなくて女王様ですよ~、なんて聞こえた気がしたが気にしない。

 

 その後、サファギンを全滅させるのに大した時間はかからなかった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 ザントリーフ半島の廃校舎、〈円卓会議〉の主催した夏期合宿に参加している総勢六十有余名がせかさかと片付けをして回っている。

 突如海岸に現れた異常な数のサファギンたちと山中に現れたゴブリンの略奪軍。

 

 この緊急事態を前にして、この場にいる唯一の〈円卓会議〉メンバー、〈三日月同盟〉のマリエールが下した判断は、消極的なものだった。

 チョウシの町方向への全員による移動であった。

 

 〈冒険者〉である自分達一行に大地人の町を守る義務はない。ましてや一行の大半は低レベルの新人たちだ。危険な目にはあわせられない。

 だからといって大地人の町を見捨てるのも目覚めが悪い。

 チョウシの町に少なくとも警告はするべきだ。──その判断に基づいた暫定的な移動だった。

 

 というのが建前で実際に判断を下したマリエールとしては少しの間とはいえお世話になりふれあったチョウシの町の住人たちを簡単に見捨てるという判断ができず、出来ればチョウシの町を守りたいというのが本音だった。

 けれど合宿の責任者としては新人たちを危険な目にあわせられないのもまた事実。

 それゆえのチョウシの町への移動といった問題の先伸ばしにしかならない消極的な判断をとることになった。

 

 彼女の判断は確かに責任者としては最適解ではないかもしれなかった。

 

 しかし、彼女の優しい思いは合宿に参加している全員が抱いているものであろう。

 少なくとも、単独行動をとり周辺の家や馬小屋に大地人の住人がいないか、もしいたとしたら町の中心部へと避難するように注意しようと回っているミノリたち五人のパーティーはマリエールと同じ思いだ。

 

 そしてミノリ、トウヤ、ルンデルハウス、五十鈴、セララはチョウシの町の防衛を考えた。

 その末、ミノリの考え出した答えは──守らない──だった。

 

「ミノリっちも随分と勘がよくなったにゃぁ」

 

「勝手に悪巧みを始める若い衆はいないかどうか、おにーさんたちが見回りにきたぜべいべっ!」

 

「我が輩は年寄りなのにゃ」

「私はおねーさんな」

 

 そこにいたのはにゃん太と直継、千菜。その後ろには距離を置いて小竜とレザリックの姿も見える。

 

「直継師匠っ」

 

 トウヤも反射的に背筋が伸びる。直継が礼儀作法について厳しい師匠だというわけではないのだが、トウヤの側の意識の問題なのだろう。この歴戦の〈守護戦士〉(ガーディアン)の前に出ると、自然と背筋が伸びてしまうのだ。

 

「にゃん太さん……許可してください。お願いします」

 

「おう。ここは黙って行かせてくれるのが男だぜ」

 

 強い意思を持った目でにゃん太を見上げ頭を下げるミノリにトウヤも並ぶ。

 

「だから、私は女だってば!全くどいつもこいつも何で私を女と認識してないかな~?」

 

「許可もなにも。〈冒険者〉は自由なのにゃ。もし、本当に決めたのなら、たとえ相手のレベルが上だろうとギルドで世話になっていようと、貫く自由が〈冒険者〉にはあるのにゃ。──だけどミノリっちそれはそれで大変なことなのにゃ」

 

 

「わかっています。でも、それでもやりたいんです。皆さんにたくさん迷惑をかけるかもしれません。

 けど、奏さんが前に言ってくれたように身内だからとことん甘えます。私たちの力だけじゃどうしようもないんです。だから力を貸してください」

 

「だそうですにゃー!奏ち」

 

「うん、いいとも、とことん貸してやるよ。ミノリンのお願いとあれば、おにーさん頑張っちゃうぜ」

 

「奏さんっ!?どうしてここに!?

いえっそんなことよりその怪我どうしたんですかっ!?」

 

 振り返ったその先にはにこにこと笑いながら民家の屋根に座り込んでいる奏がいた。

 髪もボサボサ、右肩と左の太ももからはじんわりと血がにじんでいる身体中が擦り傷だらけそんなすでにボロボロそうな風体にも関わらず言った

 

「そりゃあ、ミノリンたちに力を貸すために決まってる。

あとこれはそこでカッコよく登場しようとアクロバットの練習してたらグリフォンから落ちただけだ。

俺はもう二度とアクロバットなんてしない」

 

 奇策師かなでに任せなさい、いつものおちゃらけた風にそう言うのだった。


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