ログ・ホライズン ~高笑いするおーるらうんだーな神祇官~   作:となりのせとろ

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第十八話 奏の宮廷日和

 太陽の光をキラキラと反射する氷。テラスから一望できるのは城下町とその先に広がる青い海。聞こえるのは訓練をする兵士たちの剣がぶつかる金属音とそれとは大きくかけ離れた小鳥のさえずり。なんかいつのまにか隣に座っている貴族。

 今日も今日とて絶賛宮廷監獄日和だなぁ

 

「帰りたいでござる」

 

「まだ言ってるのかい?いいじゃないか。ここに来て君の体質の秘密も知れたことだし。それに今日はここ宮廷の魔法学者も紹介すると言っているのだからもう少しありがたく思ってもらってもいいと思うのだがね?」

 

「落ち着かないんだよ。どこもかしこもだだっ広くてキラキラした装飾がされてて、〈冒険者〉の大半はこういうの苦手だと思うぜ?〈冒険者〉はある程度の狭さを保って機能美を追及するんだ」

 

 真っ白な大理石のテラスでは〈エターナルアイスの古宮廷〉の管理を行っているにも関わらず〈自由都市同盟イースタル〉の筆頭領主の養子という異色の経歴を持つ貴族エルノ=コーウェンと〈円卓会議〉十三ギルドの一席〈三日月同盟〉の平メンバーにして〈高笑い〉の二つ名を冠する〈冒険者〉奏がこれまた真っ白な大理石の椅子に腰掛けて遅めの昼食をとっていた。

 

「本当だったら砂浜でバーベキューしたり遅くまでみんなで焚き火を囲ったりして楽しく夏の思い出を作っているはずだったのに……

ハァ…なんでこんな腹が黒い連中だらけの貴族の巣窟に来て呑気に飯なんか食ってるんだろ俺」

 

「その貴族の親玉の息子を前にそんなことを言える君の胆力が僕はとっても羨ましいよ」

 

 テーブルの上に乗った皿のサンドイッチをパクつきながらそばに控えているメイドさんやエルノにお構い無しに愚痴をこぼす奏。

 エルノは大して気にする風もなく言葉を返す。メイドさんの方は奏とエルノのやり取りが可笑しかったのだろう若干ではあるが口元が緩んでいた。

 

「よし、それじゃあそろそろ向かうとしようか」

 

 エルノが奏の取ろうとしていた最後のサンドイッチを横から掠めとり口へ運びながら立ち上がった。

 奏はそれを見てエルノを睨みながらもメイドさんに「ごちそうさまでした」と告げ、先を行くエルノの背中を追いかけ宮廷の広い廊下を歩いていった。

 

 エルノと共に研究室に向かうために外の中庭を除ける渡り廊下を歩いている途中奏は一つの場所に目がいった。

 

「なあ、エルノあれはどこのお姫様?」

 

「ん?どこかな。ああ、あれはレイシアだ。僕の姪に当たる子だよ」

 

 奏の視線の先には銀色の絹のように美しい長い髪を持ったまるで氷細工でできているような、触れれば壊れてしまいそうな儚さを漂わせた少女が椅子に腰掛け中庭の騎士たちの訓練を眺めていた。

 

(クインと比べても遜色ないくらいの美少女だな。

いや、少し癪だがクインがあのお姫様と変わらないくらいの美少女なのか)

 

 クインとは違うタイプの美少女だと思う。

 あのお姫様がフランス人形ならクインは雛人形といった感じだ。

 まあ、同じ美少女でも片方は見た目だけの女子力皆無の探偵だ比べるのがおこがましいなと奏は心の中でほくそえんだ。

 

「やっぱり、お姫様ってのは騎士ってのに憧れるものなのかね~」

 

「うーむ、まあ騎士上がりの者と結婚する貴族の娘が少ないというわけではないしなくはないんじゃないかね。うちの義姉も文官上がりの人と結婚しているからね。恋すること事態は自由さ。結ばれるかどうかはおいておいて」

 

「そこは貴族の間柄だからね。政略結婚なんてのもあり得るし、必ずしも好きな人と結ばれるとは限らないものだよ」

 

 エルノは少し考えて最後にはなかなか世知辛いことを言って返答を返す。

 

「ははっ。お前としては可愛い可愛い姪が政略結婚なんてさせられるのは許せないんじゃねえの?」

 

「まあ難しいところかね。ろくな奴じゃなければどんな手を使ってでも引き剥がすつもりではあるが、必要なこととして割りきらなければいけないこともあるよ」

 

 エルノの言葉を聞き流しながら奏はふと中庭へと視線を移す。あんなお姫様が惚れ込むような騎士様ってのは見てみたくもあるものだ。

 

「うゎ、なんでお前がいんの…クラスティ…」

 

「ん、あれは確か〈円卓会議〉の代表のクラスティ殿か。へぇ、やはりかなり強いね。流石というべきか。

自分の得物でもない騎士団の両手剣でウチの騎士たち相手に悟らせない程度に上手く加減している」

 

 エルノは感心したように言うが奏としてはあまりおもしろくない。あの鬼畜メガネことクラスティの本性を奏はよく知っているのだ。

 

 いつも柔らかい微笑を浮かべている癖に興味を持った対象にはしつこく飽きるまで弄って面白がるのだ。

 〈D.D.D〉に一時期席を置いていたことのある奏ではあるがクラスティに対する苦手意識はかなり大きい。

 何を考えているのか見当もつかない上にこちらの考えていることはお見通しなのだ。

 それはこの世界が現実となって奏の目が対人スキル仕様になってもその苦手意識は変わらない

 

 あのお姫様がクラスティに興味を持たれる前に何とか遠ざけてやらなければ、そう心に決めた奏は悠然とクラスティたちの模擬戦を見つめるレイネシア姫へと近づいた。

 

「クラスティのことが気になりますか?」

 

「えっ?貴方様は…クラスティ様と同じ〈冒険者〉の方ですか?」

 

「はい。はじめまして。〈冒険者〉の奏と申します」

 

 背後から声を掛けられても一瞬戸惑った表情を見せつつもさすがはお姫様といった感じの返答を返したレイネシア姫。

 

「クラスティのことを見ておいでだったので興味があるのかと思ったのですが、どうでしょう?」

 

「いえ、そんな私は。確かにクラスティ様は大変素敵な方ではありますが気になるということは…

(むしろ何とか)(私への興味を)(そらせない)(ものかと……)

 

「何かおっしゃいました?」

 

「いっいえ何も」

 

「あの男はなかなかにというかかなり、いえ物凄く癖の強い男でしてね。あまり近づきすぎると姫様にご迷惑をおかけしかねないので心配でご忠告をさせていただきに上がりましたのですが、杞憂でしたね」

 

(もう少し早く)(忠告を)(いただきたかった)(ですわ…)

 

「私も情けない話あの男に散々からかわれていた頃がありましてね。あのときから彼のことが少し苦手で、優秀な男ではあるんですがね。はははっ」

 

「奏様()そんな大変な目に」

 

「ん?……『も』?まさか、姫様…」

 

「あっ、いっいえ私は別にあの妖怪心覗きに付きまとわれてなど…‼」

 

 しまった…‼くっきりと姫様の顔にはその言葉が表れていた。どうやら腹芸はそこまでお得意ではないらしい。

 

「あちゃー、手遅れだったか…。

姫様、本当にごめんなさい。ウチの代表がご迷惑お掛けしてます」

 

「そんなっ頭をおあげになってください。迷惑だなんてそんなこと…は…ありませんわ」

 

「今、思いっきり言葉が詰まりましたね」

 

「なになに、奏。レイシアになんかしたの?場合によっては絶交しないといけないけど」

 

「エルノお兄様!」

 

「やあ、レイシア。今日も相変わらず可愛いね」

 

 ついさっきまで、食い入るようにクラスティと騎士の模擬戦を見ていたエルノが決着がついたのだろう、区切りをつけてこちらににこやかに笑いながら歩いてきた。

 

「エルノ、ごめん。俺はお前の姪っ子に大変な苦労をかけさせてしまうかもしれない」

 

「えぇっ!?なにっ!?なんでそんな悲痛そうな顔して謝ってくるんだい!?なにをやったんだい君は」

 

「厄介な妖怪がとりつくのを防げなかった。〈陰陽師〉失格だ…」

 

「よし、奏そこに座るんだ。僕が直々にその首を跳ねて上げよう。友人としてのよしみだ。痛いのは一瞬にしてあげよう」

 

「致し方ないか…初めての死がこんなところでとは……受け入れよう。一思いにやってくれ」

 

「お待ちくださいっ‼お待ちくださいっ‼私なら大丈夫ですからそんな深刻にならないでください!お兄様と奏様はご友人なのでしょう?」

 

 慌ててレイネシアが止めに入る。なにせ本当に奏はタイルの上に正座で座り込み目を閉じているし、エルノは本気で腰の剣を抜いているのだ。

 

「「ああ/ええ、親友です」」

 

 肩を組んで二人でサムズアップをする二人。さっきの剣呑なふいんきはどこへやらだ。

 

「お兄様は親友を斬ろうとしていたのですか……?」

 

「レイシア、これは〈冒険者〉の文化でお約束というものなんだそうだ。

 ある一定のパターンにはまったときに臨機応変に対応していく高度なものらしい。

 極めれば『押すなよ!』の一言でその場に何百人いようとこれから何が起こるのか理解することができるらしいのだから驚きだ。

 いつかお約束の名人と呼ばれる出川殿と上島殿とやらには合ってみたいものだよ。さぞかし素晴らしい人格者なのだろう」

 

「なにやらよくわかりませんでしたがお兄様が言うことが凄いということはなんとなくは理解できました」

 

「うむ、さすが僕の自慢のレイシアだ」

 

 熱に浮かされたように爛々と話すエルノに押されがちになり話の半分もわからないけれど返答を返したレイネシア

レイネシアの返答にエルノも満足気に頷く。

 

「おや、奏君に…貴方は、たしかセルジアット公のご子息エルノ=コーウェン殿でしたかね」

 

「これは!なんとも私みたいなしたっぱ貴族のことを〈円卓会議〉総代表クラスティ殿に知っていただけているなんて、光栄です。改めましてエルノ=コーウェンです。以後お見知りおきを」

 

「セルジアット公のご子息がしたっぱなどとご謙遜をこちらこそよろしくお願いいたします」

 

((この人たちは悪い人だ……))

 

 下の中庭から上がってきたクラスティがこちらに気づきエルノへと丁寧に挨拶をする。それに応えてエルノも丁寧な挨拶を返す。お互いにこやかに握手までしているのにぜんぜん腹のそこを見せていないさぐりあいの瞬間であった。

 そして奏とレイネシアの心の声が重なる瞬間でもあった。

 

「いやぁ、やっぱりお強いのですね。クラスティ殿、ウチの騎士たちでは太刀打ちできなさそうだ」

 

「いえいえ、皆さんなかなかに手強い強者揃いこの中で勝ち上がり一番になるのは至難の技」

 

「そうですか」

 

「レイネシア姫」

「えっ!?あっはい」

 

「姫、この中でもっとも勇敢な戦士に褒美をお与えください」

 

「褒美?」

「今宵の晩餐会で姫にお供する権利を」

 

「おいっちょっと待てよクラス…「「「「おおおおおぉぉぉ‼‼」」」」「それはいい!」「よぉし!がんばるぞおぉ‼」

 

 奏の制止も騎士たちの声に無慈悲にかきけされる。

 レイネシアもここまで騎士たちに盛り上がられては無下に断れない様子だ。

 エルノにいたっては奏と出会った時と同様に面白そうな奴を見つけたと笑い出す始末。

 クラスティは事が予想通りに向かってほくそ笑む

 

「くそっ!こうなったら、おいっクラスティ!

その決闘俺も出るぞ。お前のその企み俺が愉快に快活に高らかに高笑ってやる‼」

 

「ほう、奏君、君も出ますか。これはなかなか楽しめそうですね」

 

 勢いよく啖呵を切る奏にさらに面白いことになったと笑みを強めるクラスティ。

 

 こういったとき大口を叩いた方は大概負ける。これも一つのお約束というものだ

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「チクショウ!いつもの刀で戦えてたらまだわからなかった‼」

 

「アハハッ、あれだけ大口を叩いといて無様に負けてたね。

 まあいいじゃないかクラスティ殿の人格も僕も結構理解できたし、あれなら僕もレイシアをある程度任せてもいいと思えたよ。嫁にはやらないけど」

 

 そういう問題じゃないんだよ、主にお姫様の精神的にヤバイんだよ。アイツ怖いんだよ!

 

 そんな会話をしながら歩いているといつのまにやら目的の部屋の扉の前にまで来ていた。

 ずいぶんと大きな扉だ。縦の幅だけで五メートルは優に越えているだろう。横幅も三メートル以上はある。

 

「それじゃあ入ろうか」

 

 エルノがその大きな扉を引く。

 その中に広がっていたのは壁一面に広がる扉よりも大きな本棚とその中にビッシリと詰め込まれた分厚い書物の数々と床だろうが机の上だろうがお構いなしにところせましに散乱されている紙の束や見たこともない魔法の品だった。

 図書館特有の本の香りとインクの香りが混じった匂いが鼻につく。

 

「すっげぇ広いなぁ。

あっちの世界の大英図書館レベルとはいわないけどここまでたくさんの本が壁一面に埋められてるのは実際に見ると圧巻されるな」

 

「僕も最初に見たときは同じような感想だったよ。大したものだよ、これ全部魔法関連のものらしい」

 

 凄いな。アキバの街の図書館にも何度か行ったことはあるけど、あそこはあくまで〈冒険者〉の街の図書館だからな。いかんせん所蔵数が少ないんだよなぁ、地図とか民間伝承とかメジャーなものはあるけど専門書となると少ない。

 

「リ=ガン!いないのかーい!」

 

「いないのか?」

 

「いつもなら居るんだけれどね、というか何処かに行くことなんてフィールドワーク以外ほとんどないんだけれど」

 

 生粋の学者肌って感じだな。そんな人がこんな貴族の巣窟にいて息苦しくないものなんだろうか。

 いや、ここもいつも貴族がいるわけじゃないのか、会議の会場として使われるだけで年がら年中ここで社交界やらなにやらやっているわけじゃないんだよな。

 たまに貴族たちがくるだけでこんな広い図書館も貰えて綺麗な城に住めるんだったら良物件ではあるんだよな

 

「お呼びになりましたか?」

 

「「うわぁっ!?」」

 

 俺とエルノの間に小柄なヨレヨレのローブを来た骸骨みたいなおっさんがにょきりと現れた。いきなりの登場に思わず飛び退いてしまった。

 

「急に現れるなよ、リ=ガン。驚いたじゃないか」

 

「これは失礼いたしましたエルノ様。メイドさんから三時のケーキを貰ってきたところだったのですが、ご一緒にいかがでしょう?

そちらの〈冒険者〉様も、ご一緒に、どうですか?

私ミラルレイクの賢者リ=ガンと申します。以後お見知りおきを」

 

「ああ、いただこうかな。君も食べるだろう?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな…じゃなくて、はい?ミラルレイクの賢者?

おいエルノなんでそのこといままで言わなかった!」

 

「え?なにこんなヨレヨレのローブ着た学者だし賢者なんて呼ばれてるのは凄いとは思うけど、別に大したことはないんじゃ……」

 

「ヤマト一の大賢者だよ‼バカ野郎!」

 

「いたあぁいっ‼〈冒険者〉の力で蹴られたりしたら腰が砕けるよぉ!奏ぇ‼」

 

「おや!?まさか〈冒険者〉様の名前は奏様というのですか!?」

 

「え、あっはい。そうですけどそれがなにか?」

 

「いやー‼これは光栄ですね‼こんなところでヤマトの陰陽師三天王である奏様にお会いできるなんてっ!?

 昨日は大魔導師シロエ様にもお会いできましたし、近頃の私は運がいいっ!光栄ですねぇ最高ですねぇ。

あのぉ、お話聞かせて貰ってよろしいですか?」

 

「ちょっと待った!待て待て待て。え~と、リ=ガンさん、シロエに昨日会ったんですか?あと陰陽師三天王てのは…?」

 

「はい、シロエ様がこちらに〈円卓会議〉の代表者として来られているのは知っておりましたので、昨夜お付きの方と一緒にこの部屋に招待させていただきました。

 

そして陰陽師三天王というのは、陰陽師の中でも特に優れた三人の陰陽師、『光陰』様、『百恵』様、そして『奏』様のお三方をさす敬称になりますね。はい。

 なにぶん陰陽師の使う魔法術式は我々が使う魔法術式とは大きく異なりますからね。

 それだけ研究してみたい題材ではあるのですがなにぶん陰陽師と呼ばれる方々は数が少ない。

 だというのに奏様のような陰陽師の中でも大陰陽師とまで呼ばれるような方にお会いできるなんてっ、感激ですね」

 

「君、そんなに凄いやつだったのか?失礼が過ぎたかな」

 

「いや、俺も今初めて聞いた」

 

 なんだ陰陽師三天王って…。もうちょいゴロのいい呼び方はなかったのか。

 

「奏様と言えば一時期は陰陽道を広めようと〈陰陽屋〉を開かれていたお方ですからね。私もぜひともお伺いしたかったのですが、あの頃はまだまだ半人前と呼ばれていた時期だったもので…。

 いざ、行ってみようと思った頃には既に奏様はちょうど〈天地の嵐宴〉を治めに行かれていたものですから、そのまま奏様も〈陰陽屋〉をお辞めになられたでしょう?

 あのときは、なぜもっと早く出向かなかったものかと枕を毎晩濡らしたものでした。

 というわけで、お話お聞かせ願えませんかね?」

 

「近いっ近いっ近いっ!わかりましたっ!わかりましたからちょっと離れてくださいって!」

 

「おっと、これは失礼いたしました。ついつい興奮してしまいまして」

 

 グイグイくるなこの人!でも俺アンタみたいな人、キライじゃないよ。全部答えられるとは限らないけど出来る限りの答えてあげよう。

 

「それでは、さっそくなのですがお願い聞いて貰ってもよろしいですかね?

 かの六傾姫(ルークインジェ)の一人が〈世界級魔法〉《ワールドフラクション》を行使するために百の術式を用いるために使った杖。

 今現在は奏様が所有していらっしゃる〈真光樹の儀式杖〉を、見せていただけないでしょうか。私の研究対象としてこれは是非ともお目にかかりたい、出来れば譲っていただきたい、そして実際に使ってみたいのですが」

 

〈真光樹の儀式杖〉?

 あぁ、〈偽光届かぬ佰式の儀式杖〉のことか、文献によって呼び名が違うなんてことはあることだし色んな呼び名があるのは当たり前なんだろうけどあの杖そんなに凄いものだったのかぁ。

 世界級魔法とか聞いただけでもスケールがでかい。後で詳しく聞いてみたいものだ。今は要望通り魔法の鞄(マジックバック)から〈佰式の儀式杖〉を取り出す。

 

「ひゃああ!それが本物ですか‼私更に興奮して参りましたよっ‼さあ奏様さっそく触らせてください観察させてください」

 

「リ=ガンさん、杖を貸す前に一つだけ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「絶対あげませんからね」

 

「それは…残念です……。では少しの期間お借りするということは…できないでしょうか?」

 

「どのくらいの間ですか?」

 

「そうですねぇ。ざっと軽く見積もって三十年ほど」

 

「借りパクっ!?やっぱりダメだなこれは」

 

「そんな殺生なぁっ!?

 むぅ……………………致し方ありませんか。

 実物をこうして見れただけでも大いに収穫はありました。大きなものに光に目を奪われて小さなことを見逃しては目も当てられません。それではさっそくぅ!」

 

 リ=ガンさんに杖を手渡す。本当に渡して良かったんだろうか?いや、まあ譲渡不可能アイテムではあるから大丈夫ではあるんだけど、なんか学者の執念てヤバそうだからな。

 

「奏、君は本来の目的を果たさなくていいのかい?多分放っておいたらこれ少なくともあと四、五時間はやってると思うが」

 

「えっマジ?ちょっとリ=ガンさん?先に俺の質問にさせて貰えません?」

 

「申し訳ありません。奏様、もう少しだけ待っていただけないでしょうか?

よっぽどのことでもない限り私の興味は今、この杖から移せそうにありません」

 

 こっちを向くことなく杖をガン見し目をギラギラさせたままそう申し訳なさそうに言うリ=ガンさん。なんだこの人。

 

「俺には魂魄がおそらく見えています。それに加えて〈陰陽師〉も外からの力、魂魄と密接な関係(・・・・・)があると俺は考えています」

 

「ほう、それは興味深い話ですね。今、私の興味は奏様の話にそそられてしまいた。流石の一言につきますねぇ、もうたまりません。

少し長くなりますが、魂魄理論の詳しい説明と私の専門分野について、お聞きになりますか?」

 

「是非とも」

 

 杖に向いていた視線が再びこちらに戻ってくる。とても幸せそうな表情だ。

 まるで目の前にご馳走をたんまりと用意されて待てを言い渡されている犬のように。  

 

貴族の世界から少し離れたこの場所で俺の見えている世界は更に鮮明に解像度を増していく

 

 これから俺が見ることになるのは明るい未来なのか、和やかないつもの日常なのか、それとも、暗く閉ざした過去なのか、叩き壊された現実(リアル)なのか


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